2011年1月のサッカー
Index
- 01/01 ○ 鹿島2-1清水 (天皇杯・決勝)
- 01/09 △ 日本1-1ヨルダン (アジア杯・グループリーグB)
- 01/13 ○ シリア1-2日本 (アジア杯・グループリーグB)
- 01/17 ○ サウジアラビア0-5日本 (アジア杯・グループリーグB)
- 01/21 ○ 日本3-2カタール (アジア杯・準々決勝)
- 01/25 △ 日本2-2韓国(PK:3-0) (アジア杯・準決勝)
- 01/29 ○ オーストラリア0-1日本 (アジア杯・決勝)
鹿島アントラーズ2-1清水エスパルス
天皇杯・決勝/2011年1月1日(土)/国立競技場/NHK総合
正月早々風邪で寝込んでいたもんで、かれこれ一週間以上まえの話になってしまったけれど、鹿島アントラーズが天皇杯決勝で清水エスパルスを破り、3年ぶり4度目の優勝を果たした一戦。
元日決戦のピッチに立ったのは、曽ヶ端、新井場、伊野波、中田浩二、宮崎智彦、青木、小笠原、野沢、フェリペ・ガブリエル、大迫、興梠の11人。
要するに前の試合の後半と同じフォーメーションで、案の定、この試合が現役最後となる大岩の名前はなかった。大岩にはやや気の毒だけれど、でもそれでこそ勝負の世界とも思う。大岩本人もそう思っているからだろう。チームが有終の美を飾ってくれたこともあって、試合後の表情はとても明るかった。あぁ、なんていいやつ。
試合のほうは、前半は見事なまでの鹿島ペース。的確なプレスがビシバシ決まり、セカンド・ボールはほぼすべてこっちのもんじゃないかってくらいの出来。攻めても小笠原の左CKから(なんと!)フェリペ・ガブリエルのヘッドで先制点をもぎ取り、文句なしの内容で前半を終了した。
ただ、後半になるとエスパルスも盛り返す。こちらが大岩の引退を飾ろうと思うのと同じように、あちらも長谷川健太監督に加えて、テルと市川という、長いことチームを支えてきたベテランが今季限りで退団。ヨンセンも契約解除だとのことだし、岡崎は海外移籍が決まったし、本田拓也はわれらがアントラーズへの移籍が内定しているという話がある(なぜ?)。藤本にも移籍の噂がある。要するに来季は主力の多くがチームを離れてしまうということで、有終の美を飾りたいという思いは自然と強くなる。
はたして、この試合が最後となるヨンセンが、こちらのDFラインの裏へと抜け出し(いっちゃなんだか、かなりオフサイドっぽかった)、曽ヶ端が猛然と前へと出てきたのを見て、ちょこんとトゥーキック。ゆるい弧を描いてソガの頭上を越したボールは、バウンドしながら鹿島のゴールマウスに吸い込まれていった。中田浩二が追いすがるも一歩及ばず、これで同点。
ただ、それでも慌てるところが少しもなかったのは、こちらにはまだ後半戦の秘密兵器、本山が控えていたからだと思う。準決勝でチームを劇的勝利に導いた本山は、この試合でもやはり後半途中から出場すると、こちらの期待にたがわず、試合の流れを変えてみせた。
本山が入ってからは中盤の組み立てがスムーズになり、たまのカウンターでピンチを迎えることこそあれ、試合の流れはほぼこちらのもの。で、そんななかゴール真正面でもらったFKを野沢が決めて、勝ち越し。この1点を守りきって、アントラーズが3年ぶりの天皇杯を制した。
リーグ戦こそ4位に終わりはしたけれど、最後にはこうやってしっかりタイトルを取っちゃうんだから、たいしたもんだ。というか、よそから見たら嫌なチームだろうなぁと思う。まあ、この試合、岡崎やヨンセンにあと一歩で決定機というシーンを作られたりもしていたので、そのうちのひとつでも決められていたら、どうなっていたかわからなかったとも思う。
いや、じつは今年のエスパルスには、昔っからなぜだか鹿島との相性がやたらといい印象の小野伸二がいるため、ちょっと危険かもと思っていたんだった。でも、その伸二くんは前半はまったく見せ場なし。後半はそれなりにボールを散らすシーンも見受けられたけれど、残り10分を切ってお役御免となった。正直いって、伸二が引っ込んで、ちょっと安心した(やや淋しくもあったけれど)。とりあえず彼をきちんと押さえこんだのが勝因のひとつだろう。
そういえばここ3試合、ジウトンが抜けた左サイドバックでは、宮崎が溌剌としたプレーを見せていたので、来季(というかもう今年か)は彼が主力候補なのかと思っていたのに、先日、出し抜けにその宮崎の横浜FCへのレンタル移籍が発表されてしまった。代わりにアルビレックスから西大伍という選手を獲得したので、どうも今年は新井場と當間とこの選手の3人にサイドを争わせる腹づもりらしい。宮崎の移籍は、ちょっと残念。
あとFWにはポルトガルでプレーしていたカルロンという190センチのブラジル人を獲得(代わりに佐々木が湘南へレンタル)。これに加えて、山形へレンタル移籍していた田代と増田が帰ってくるので(二人とも主力として活躍していたので、帰還はちょっと意外)、FWは興梠、大迫、田代、新外国人の4人の争い。中盤は現状に加えて、注目の高卒ルーキー柴崎、本田拓也、増田が加わった構成。中田浩二はCBにコンバートするという噂もある。
こう見ると、CBのバックアップがやや手薄な印象はあるものの、今年も十分に戦える戦力が揃っていそうだ。初のアジア制覇へ向けて、ぜひともいい一年にして欲しい。
(Jan 09, 2011)
日本1-1ヨルダン
アジアカップ・グループB/2011年1月9日(日)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
ザッケローニ代表監督のもと、初の公式戦となったアジアカップの緒戦、ヨルダン戦。
ザッケローニがこの試合のスタメンに選んだのは、川島、内田、吉田麻也、今野、長友、長谷部、遠藤、松井、本田、香川、前田の11人。Jリーガーは今野、遠藤、前田の3人だけで、あとはすべて海外組という布陣だった。
積極的にJリーグを視察しているザッケローニだけれど、やはりいざベストのメンバーを選ぶとなると、海外組中心となるのは当然のことらしい。選ばれているJリーガーだって、今野は闘莉王の代役という感が強いし、遠藤は年齢的にブラジル大会まで選ばれつづけるか怪しい。前田もこの試合では前半だけで交替させられてしまったりして、まだまだザッケローニの信頼が厚いとはいえない。日本人選手の海外移籍がさかんな昨今、この分だと、ブラジル大会ではスタメン全員が海外組という事態もありえそうな気がする。Jリーグ・ファンとしてはやや複雑な心境だけれど、まあ、海外組は力があるからこそ、海外のクラブに呼ばれているのだし、致し方ないのかなと思う。
ということで海外組中心となったこの日の代表だけれど、残念ながら出来はいまいち。遠藤、長谷部のダブル・ボランチに、本田と松井が攻撃的な位置という布陣は、先のW杯のまんまだし、そこにドイツでの活躍いちじるしい香川とJリーグ得点王の前田が加わっているのだから、攻撃的な面ではもうちょっと迫力があってもよさそうなものだけれど、なぜか連動性がまったく感じられず、得点の匂いがしてこない。
対するヨルダンが中盤からきびしいチェックをかけてくることもあり、ある程度ボールは回せるものの、なかなかいい形が作れない。そうこうするうちに、前半終了間際にカウンターから積極的にシュートを打たれ、それが吉田の足にあたって、オウン・ゴール気味にこちらのネットに突き刺さってしまう。ヨルダンにまさかの先制を許す苦しい展開。シュート自体は川島の真正面だっただけに、あれはなんとも残念だった。
後半に入るとザッケローニはワントップの前田を早々に見限り、李忠成と交替させる。とはいっても、もともとFWにボールが収まっていなかったので、李を入れたところで事態は好転せず。ようやく日本に流れがきたのは、松井にかえて岡崎を投入してからだった(岡崎、けっこう侮れない)。それでも得点には到らず。
あぁ、こりゃ黒星発進の大ピンチかという試合をかろうじて救ったのは、ロスタイムの長谷部のクロスにあわせた吉田のヘッド。麻也くん、序盤にも誰かのミドルシュートを相手GKが弾いたところに詰めていて、先制点かというシュートを決めてみせたし(判定はオフサイドでゴールならず)、闘莉王に負けない意外な得点力を見せつけてくれた。あれで相手の先制点をお膳立てしたりしてなきゃなぁ……。よくも悪くも彼のひとり舞台って感があった。
まあ、なんにしろ、本田と香川という次世代のエースふたりがそろい踏みしたというのに、いちばん得点機に絡んでいたのが吉田だってのが、この日の試合の不出来さを物語っている気がする。なんか、ザッケローニの采配も後手後手だったし──最後の本田→藤本の交替なんて後半ロスタイムだ。遅すぎるもいいところ ──、いまのままでは、この大会の優勝なんて、夢のまた夢って思ってしまうような第一戦だった。
次のシリアは、初戦でなんとサウジを破る大波乱を演じてみせている。また楽な試合にはなりそうもない。いやはや、困ったもんだ。
(Jan 11, 2011)
シリア1-2日本
アジアカップ・グループB/2011年1月13日(木)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
いやはや。まさかアジア杯のグループリーグ2戦目にして、これほどハラハラドキドキの試合を見せられようとは……。
ザッケローニが選んだスタメンはこの日もヨルダン戦といっしょ。さすがに公式戦となると、テストマッチとはちがい、いたずらには変えてこない。それでなくても前の試合では連係不足があきらかだったので、ここは同じ選手をつづけて起用して、連係を高めたいと思うのは当然のことだと思う。
とはいえ、ザッケローニが前田を引きつづきワントップで起用してきたのは、正直いってちょっと意外だった。前の試合では前半だけで交替させてしまったし、反対に岡崎の動きがよかったので、今回は岡崎のワントップもあるかなと思っていたので。でもザッケローニはふたたび前田にチャンスを与えた。かりにもJリーグ得点王ということで、期待するところが大きいのかもしれない。
で、その前田。結局、ノーゴールに終わってしまったから、その期待に答えたとはいい切れないけれど、それでもどこにいたのかわからなかった前の試合に比べると、今回は惜しいシュートを何本か打ってみせた分だけ、確実によくなっていたと思う。
まあ、フリーで打った最初のヘディング・シュートとか、後半始めにDFラインの裏へ抜け出した場面とかは、エースだったら決めてくれないとなぁ……とは思うし、それらのシュート・シーン以外では、あいかわらずボールに絡む回数が少なすぎる感はあるけれど、後者に関しては彼個人というよりも、彼を生かせないまわりとの連係の問題でもあるし、少なくても、ここぞというときには、しっかりシュートで終わっている点には好感が持てた。ホントあのうちのひとつでも決めてくれていたら、もっと楽な試合になったんだけれど……。
でも、その前田よりも、もっと気になるのは香川。ドルトムントでブンデス・リーガの前期MVPに選ばれたという話が疑わしくなるほど、ここ2試合の彼のプレーは生彩を欠いている。本田や松井にくらべて、あまりにボール・タッチが少なすぎるし、たまにボールを持っても、ほとんど前を向いてプレーできていない。
前から不思議と代表では結果を出せていない人だけれど、今回はドイツでブレイクした直後だけに、そこでつかんだ自信を胸に、目を見張るようなプレーを見せてくれるかと期待していただけに、その存在感のなさには正直がっかり。なんでドイツやセレッソではあれほど結果を残しているのに、代表だと駄目なんでしょうか。不思議でしょうがない。マンチェスター・ユナイテッドが獲得に向けて調査に乗り出しているという噂だけれど、今大会のプレーをみたら、それも白紙に戻っちゃうんじゃないだろうか。
……といいつつ、日本のこの日の貴重な先制点には、その香川が絡んでいる。本田が右サイド深くまでドリブルで持ち込み、マイナスに折り返したボールを香川が中央で受けて右に流れるようにドリブルで突っかけ、相手DFとGKを引きつけてシュート。これは弾かれてしまうものの、そのこぼれ球を松井がつないで、背中で相手をブロックしながら、フリーであがってきた長谷部のシュート・コースを確保。このボールを長谷部が落ち着いて相手ゴールに突き刺してみせた。最後は相手GKもDFも一歩も動けず。本田、香川、松井という攻撃の核となる選手たちの見事な連係から生まれた、とても鮮やかなゴール・シーンだった。
この1点で気分的にずいぶん楽になったので、この試合はこれでもらったと思ったのだけれど、ところが後半途中に思わぬ落とし穴が待っていた。
きっかけは長谷部のGK川島への不用意なバックパス。
これが短い。チャンスと見るや、シリア選手が2人ほどつめてきたので、川島があわてて横っ飛びでキックするも、クリア・ボールもまた短く、DFラインの裏のまずい位置へ。これにシリア選手が一歩先に追いつき、ゴール前の味方へラストパス。
GKの川島はひとつ前のプレーでゴールから離れてしまっていたので、このとき日本のゴール前にいたのはシリアの選手ひとりだった。ただし、その選手の位置はあきらかにオフサイド。線審の旗が上がる。それでもゴール前に蹴り込まれたボールの軌道は、そのまま放っておけば日本のゴールに吸い込まれてゆきそうなコースで……。
これに川島が戻りながら飛びつく。しかしながら、彼とボールとのあいだには、オフサイド・ポジションにいたシリアの選手が入り込んで、シュートを打とうとしていた。川島はその選手を避けきれず(あきらかに避けようとはしていた)、接触されたシリア人は大げさに倒れる。それを見た主審は、なんとPKの判定。そして川島には、よもやのレッドカード……。
倒された選手はオフサイド・ポジションにいたのだから、当然PKも退場も不当だと、日本の選手が詰めよるも、判定はくつがらない。なんでもレフェリーは最後のパスは、シリア人が蹴り込んだのではなく、それをクリアしようとした今野のバックパスだと判断したんだそうだ。だからオフサイドではないと(それを聞いてか、聞かずか、線審もオフサイドの旗を下ろす。なんだ、あいつは)。
もちろん今野は自分は触っていないと否定している(さすがにあの位置で無人の自軍ゴールに向かってバックパスをするほど、日本人選手は下手じゃないと思う)。それに川島だって、得点機会阻止のため、わざと相手を倒したわけじゃない。たまたまボールに向かって飛び込んだら、そこに相手が入ってきただけだ。仮に相手がオフサイドじゃなかったとしたら、ファールを取られても仕方ないけれど、それでもあれが非紳士的行為だとは、僕は思わない。なのでイエローならばともかく、レッドは絶対に不当。川島にはほんと不運だった。
なんにしろ、どれだけ文句をつけても判定は覆らず。川島は退場、日本はPKを取られる。川島に替わり入ったGKの西川(交替は前田)もそのPKを止められず、かくして日本は数的不利な状況で1-1という状況に追い込まれてしまった。
同じグループのひとつ前の試合では、サウジアラビアがヨルダンに負けて、よもやの2連敗でグループリーグ敗退が決定している。もしもこのまま引き分けに終わってしまえば、日本は3位で最終戦にサウジとあたることになり、決勝トーナメント進出に向けて、非常に苦しい立場に追い込まれてしまう。
あぁ、日本、アジアカップでまさかのグループリーグ敗退?……というこのピンチを救ってくれたのは、またもや不可解な判定を下したイラン人レフェリーの(鶴のひと声ならぬ)笛のひと吹きだった。同点劇のあと、香川と交替でピッチに立っていた岡崎が相手DFに倒された場面で、まさかのPKの笛。
いやぁ、日本がPKを取られた場面以上に、そこでPKはないだろうって判定だった。イラン人のレフェリーが日本に与えたPKの不当さを自分でも気にしていたために、思わずお返しをしてくれてしまったとしか思えない。
なんにしろ、このPKを本田が決めて、日本がふたたび勝ち越し。さすがにここから再度の同点劇などはなく──まあ、退場劇の中断のせいでロスタイムが7分ちかくあった上に、最後はどたばたしてやたらと危なげではあったけれど──、なんとかかんとか日本が逃げ切って、グループリーグ首位へと躍り出た。いやぁ、よかった。
さて、そんな風に荒れたこの試合で、もっとも印象に残ったのは、退場の場面をはじめ、幾度となくレフェリーと会話を交わしていたキャプテン長谷部の姿勢。あの退場劇のあとでも、不当な判定を下したレフェリー相手に落ちついて、ときには笑顔まで浮かべて抗議していた長谷部は、とてもえらかった。まさに大人の対応。あれがあったから、レフェリーの日本に対する印象がよくなり、引いては岡崎のPKにつながったのではないかとさえ思う。いつぞやのアジアカップで、宮本がPK戦でのサイドの変更を申し出て、チームを勝利に導いた出来事を思い出した。なんともナイスなキャプテンシー。
考えてみれば(って、みるまでもなく)この日の先制ゴールは彼だし、前の試合での貴重な同点ゴールのアシストも彼だ(まあ、PKの原因となるバックパスもあったけれど)。ほんと、プレーの上でも攻守にわたって十分に貢献度が高いのに、加えてキャプテンとしてチームを引っぱり、レフェリーと友好的な関係まで築いてみせているのだから、あっぱれ。長谷部がここまで頼れるキャプテンになるとは、申し訳ないけれど思っていなかった。
いまさらながら、W杯のときに長谷部をキャプテンに抜擢したのが、岡田さんのいちばんのファイン・プレーだったかもしれない、などと思う。
(Jan 15, 2011)
サウジアラビア0-5日本
アジアカップ・グループリーグB/2011年1月17日(月)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
シリア戦での大苦戦も意外だったけれど、このサウジアラビア戦での大勝はもっと意外だった。すでに2連敗でグループリーグ敗退が決まっているとはいえ、まさか前大会、準決勝で日本が煮え湯を飲まされたサウジが、今回はここまで駄目だとは……。
この日の日本のスタメンは、GKが前の試合で退場を食らった川島にかわり西川。そして本田と松井がともに故障のため、かわりに岡崎と柏木(!)という顔ぶれだった(松井は肉離れのため、この試合後に帰国とのこと)。
要するに、前の2試合で攻撃の中心だった本田、松井のふたりがどちらも抜けて、いまだ結果を出せない前田と本調子にはほど遠い香川が残ったわけだ。おいおい、大丈夫かというこちらの不安をよそに、マイナー・チェンジしたこの日本代表が大爆発する。
なんたって前田の2ゴールに、岡崎のハットトリックとくる。しかもそれらすべてが流れの中からの得点だってんだから驚く。セットプレーなしで5点って、そんな試合いままでにありましたっけ? それもすべてが文句のつけようのないファイン・ゴール。アシストも遠藤、香川、長友、伊野波、前田とバラエティ豊かで、左右中央、どっからでもこいって感じだったし、いくらサウジが不出来だったからって、まさかここまで点が取れてしまうとは、正直びっくりだ。
キックオフからわずか20分たらずで3-0というスコアになってしまったため、前半はそのあと少し、だれた感もあったけれど、後半はまた持ち直して、さらに2得点。守っては無失点なんだから、こりゃもう文句なしでしょう。
あえて苦言を呈するならば、あいかわらず香川の出来がいまいちなこと(背番号10がこの展開でノーゴールはいただけない)。あと、内田篤人が前半に無駄なイエローカードをもらって、次の試合は出場停止となってしまったこと。あれはちょっともったいなかった。
でも篤人のイエローに関しては、そのおかげで後半の頭から伊野波に出番がまわってきたのだから、結果オーライって感もある。伊野波は慣れない右サイドバックをそつなくこなし、前田の2点目までアシストしてみせる、なかなかのプレーぶりだった。この分なら次の試合のスタメンはほぼ確実でしょう。いやよかった。
そのほか、イエローを1枚もらっている吉田にかわって岩政の出番もあったし、鹿島に移籍してくるという噂の本田拓也(本当にくるんでしょうか?)もわずかながらピッチに立って初キャップを刻んだしで、アントラーズ・ファンにとっては、後半は後半でいろいろ見どころの多い試合だった。
それにしてもサウジはどうしちゃったんだかなぁ……。いままでの相手と違い、キックオフからしばらくは相手ボールの時間がつづいたので、「いや、やっぱりサウジはヨルダンやシリアとは違って力があるや」と思ったんだけれど、そう思わせたのも、わずか3分間だけ。その後、いったんこちらがボールを持てるようになってからは、まったく相手にならなかった。攻撃ではたまに積極的なミドルなどにひやりとさせられる場面があったけれど、ことディフェンスに関してはゆるゆるで、まったくプレスがかからない。いくら敗退が決まっているからって、覇気なさすぎ。まるで練習試合の相手のようだった。
ま、なんにしろこの勝利で日本は無事グループBを一位抜け。次はベスト4入りを賭けて、ホスト国のカタールと対戦する。実力はこちらが上だろうけれど、完全アウェイでの戦いなわけで、これまた気が抜けない試合になりそうだ。でも、順当にゆけば、その先に待っているのは、韓国とオーストラリア。この両国と戦うところは是が非でも観たいので、ここはぜひともしっかり勝ってもらわないことには。
(Jan 18, 2011)
日本3-2カタール
アジアカップ・準々決勝/2011年1月21日(金)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
アジアカップの優勝まであと3つ。ブルーノ・メツ率いるホスト国・カタールとの準々決勝では、またもやひどく苦しい戦いを強いられることになった。
この日のスタメンは、出場停止の内田篤人にかわって、右サイドに伊野波が入り、故障明けの本田が戻ってきた形。前の試合でハットトリックを達成した岡崎のスタメンは当然だから、つまり外れたのは柏木。まあ、誰もが予想したどおりの顔ぶれだった。
この大会での日本代表の試合も、これがもう4試合目になる。徐々に調子も上がってきているようだし、カタールがいくらホスト国だとはいっても、FIFAランキングでは105位の国だ(それに対して日本は29位)。ふつうにやれば負ける相手じゃないだろう──と思っていたのに。
どうにもこれが普通の試合にはならない。いきなり前半12分に先制を許す、苦しい展開に……。
失点の場面では、ウルグアイから帰化したというハンサムな23番のFW、セバスチャンに左サイドをオフサイドぎりぎりで突破された。テレビで観ているかぎりではオフサイドにしか見えなかったけれど、なんでも逆サイドに伊野波が残っていたらしい。まあ、この日の笛はかなりカタールよりだったし(主審はよく見かけるマレーシアの人)、急造DFラインゆえにオフサイドのかけそこない自体には仕方のない部分があった。
でも、問題はそのあとの吉田麻也の守備だ。いったんはゴール前で相手に追いついて、一対一になっておきながら、なにげなくかわされてシュートを打たれてしまう。で、川島もそれを止めきれずに失点って……。
相手のフェイントがうますぎたとかいうんならばともかく、それほど鋭い切り返しでもなかったから、吉田にはきちんと止めて欲しかった。麻也ちゃん、ヨーロッパでプレーしているわりには、不思議と対人プレーに強さを感じさせない。
ただ、日本はこのあと1点を返して、1-1で前半を折り返したので、この失点はまあよしとしよう。1失点は致し方ない。でも後半に2点目を取られた場面は、なにもかもがひどかった。
まず、後半開始から16分間のあいだで、2枚のイエローカードをもらった吉田の守備がなってない。前半の失点の場面をはじめ、この日はやたらと安定感がないから、後半早々に1枚目のカードをもらったときに、おいおいこのままで大丈夫かと思ったら、やっぱり。左サイドでスライディング・タックルにいったあと、勢いあまって相手を倒してイエローをもらってしまう。おいおい、そりゃ駄目だって。大事なところで経験不足を露呈してしまった感じだった。吉田にはこの失敗を糧に、より一層の成長を果たしてもらいたい。
なんにしろ吉田が退場になって、ああ困ったぞと思ったその場面。悪いことはこれだけでは済まない。そのファールで与えたフリーキックから、まさかの失点を許してしまう。壁を一枚しか立てなかったニアを突かれて、直接決められたもので、ポジショニングが悪かったのか、川島がボールをキャッチしにいった位置は、なんとゴールマウスの中だった。そんなとこでキャッチしたって仕方ないだろー。あぁ、退場でひとり減った直後に勝ち越しゴールを許してしまうという最悪の展開……。
でもでもでもでも~。もとよりあまり出来がよくなかったので、今回のアジア杯もここまでかと悲観的な気分になったそのあとに、まさかの逆転劇が待っていようとは!
吉田が抜けた穴をふさぐために、ザッケローニはすぐさま前田に替えて岩政を投入する。これ以上の失点は避けなくてはならないので、これはまあ当然の策。それに言っちゃなんだけれど、この日の前田はまったくいいところがなかったので、彼が抜けたところでほとんどダメージはない印象だった。それどころか。
前田が抜けたおかげで、ゴールへの視界が開けたとでもいうように、これまで不出来をかこってた香川が、このあとまさかの大仕事をしてみせるのだった。
いや、ちゃんと書かなかったけれど、前半の1ゴールだって香川の得点だった。彼の今大会初ゴールだった。でもあれは、その前に岡崎が(サウジ戦の1点目のリプレイみたいな)GKの頭上を越すループ・シュートを打った時点で、9割方、決まったようなものだった(まあ、よくあそこへ詰めていたという見方もできるけれど)。
それに対して、後半の貴重な同点ゴールと、終了まぎわの伊野波の決勝ゴール(なぜ伊野波があそこに?)を導いたドリブル突破は、これぞ香川というプレーだった。どちらも積極的にゴール前へと突っかけてゆく姿勢が実を結んだ、素晴らしいプレーだった。
まあ、ゴールに絡んだ場面以外では、あいかわらずいまいちな気がしたけれど──特にボールの奪われ方が悪いのが気にかかった──、それでも3得点すべてに絡んで、チームを勝利に導いてみせたんだから、この日はそれだけで十分でしょう。いやぁ、ようやく期待にこたえてくれた。
そういや、相手に勝ち越しを許したあと、ザッケローニは岩政を入れた他には、まったく攻撃のカードを切らなかったけれど、あの采配はオリヴェイラっぽかった。1点を追いかける状態で、なおかつひとり少ないのだから、下手に選手を替えてバランスを崩すよりも、本田、香川、岡崎の攻撃力にかけたほうがいいと、そういう姿勢。で、結果としてその三人のコンビネーションから得点が生まれているわけだから、あれは地味に好采配だったと思う。
あとよかったのが、今野の守備。僕はこの大会のはじめに、「今回の今野は闘莉王の代役だ」みたいなことを書いてしまったけれど、なんのなんの。この試合にかぎらず、的確な判断で相手の攻撃の芽を摘みとってゆく彼の守備力の高さは、見ていてとても小気味いい。吉田が不用意なプレーで退場を食らった分、今野のよさがなおさら引き立って見えた。高さがないのがやや難だけれど、それでも僕はこのままずっと今野がレギュラーでいい気がしてきた。少なくても現状ならば、僕は吉田や岩政よりも今野を推す(岩政ごめん)。
なんにしろ、これで日本代表はあと2試合、準決勝と決勝(または三位決定戦)を戦えることが確定した。それがなにより大事。しかも準決勝の相手は宿敵・韓国だ~。
ともにタイトルを目指して臨む、ガチンコ勝負での日韓戦。いやいや、こりゃたまりません。決勝戦を待たずして、次の試合がこの大会のクライマックスだ。
(Jan 23, 2011)
日本2-2韓国(PK:3-0)
アジアカップ・準決勝/2011年1月25日(火)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
なんだかこの大会はわけのわからない判定に振りまわされっぱなしだ。大会随一の好カードであるこの日韓戦も例外じゃなかった。なにげない接触プレーにすぐ笛が吹かれる。そして双方に「なぜ?」ってPKが与えられる。どこの国の人か知らないけれど、この日の主審もちょっとなぁって感じだった。せっかくの大一番なのに残念。
なにはともあれ、ともに決勝進出を目指してのガチンコ勝負となった待望の日韓戦。
今大会の韓国は序盤からガンガン攻めてくると聞いていたので、どんな激しい戦いになるのかと思っていたら、試合は思いのほか静かに始まる。
韓国は前の2試合連続で120分を戦っている。その疲れからか、はたまた日本が相手ということで慎重になったか。序盤は様子見という感じで、無理に攻めてこない。
その分、日本にはやりやすかったようで、得意のパスワークが冴えわたる。過剰に力みすぎることなく、小気味よくボールを受け渡しながら、相手ゴールに迫ってゆく。おぉ、きょうの試合はいい感じだと思った。
でもそんな好試合の予感にレフェリーが水をさす。前半23分、こちらのペナルティ・エリア内へと放り込まれたロングボールを追って、パク・チソンと競りあった今野が、相手に身体をぶつけて倒したということでPKの判定を受けてしまう。
確かにリプレイで見ると、今野はパク・チソンに体をぶつけにいっている。でも、あれくらいならばアドバンテージでしょう、ふつう。相手ボールでのプレーならばともかく、状況はイーブンに近かったし。もしもパクにボールが渡ったからといって、致命的なピンチになるって場面でもなかった。それなのにあの判定はないって。ほんと、この大会はこんなんばっかりだ。
なんにしろ、ここで得たPKを可愛い顔したキ・ヨンソン(この子の顔もすっかりおなじみだ)に決められて韓国が先制。
史上最強といわれる現在の韓国相手──しかも今回はパク・チソン(やはり上手い)がこの大会を最後に代表引退を表明しているということで、優勝に賭ける思いはとても強いらしい──にいきなり1点のビハインド。こりゃきついな~、と思ったのだけれど。
なんと。この日の日本代表は、この劣勢をみごとに跳ね返してみせる。序盤からのいいリズムはこの失点のあとも変わらず、その10分ちょっとあとには素晴らしい同点ゴールが生まれるのだった。
得点の場面では、本田がセンターで相手DFを引きつけておいて、右サイドを駆けあがった長友に絶妙のパス。フリーで相手の守備ラインの裏に入り込んだ長友がグラウンダーのクロスを入れると、それに前田が一瞬であわせる。みごとな連係から生まれた同点ゴール!
相手の先制点が不可解なPKだっただけに、ちゃんと流れから相手を崩して奪ったこの同点弾は最高に気持ちよかった。おおっ、韓国に負けてないぜっ。というか、内容ならばこっちが上だろう。やった~。
と。喜んでいられたのも前半のうち。
後半に入ると日本選手の動きに切れがなくなり、試合は一方的な韓国のペースとなる。とりあえずディフェンス陣は持ちこたえているけれど、攻撃面での主導権は奪えない。ささいなファールにも笛を吹くレフェリーのせいもあって、どうも試合のリズムが滞り気味になる。結局、そのままずるずると後半も終了して、延長戦へ。
本当ならば、後半の途中でフレッシュな選手を入れて、攻撃を梃入れして、90分で勝負をつけて欲しかったところだけれど、ザッケローニは動かない。
まあでも、いまのチームではそれが難しいのもわかる気はする。本田と香川のふたりに対する期待は当然大きいのだろうし、前田と岡崎には運動量がある。で、今回はFWが李忠成しかいない。攻撃的なMFでは柏木か藤本か(松井が離脱したのが痛い)。悪いけれど、今大会での出番を見たかぎり、彼らではドラスティックな変化は起こせそうにない。ならば現状維持で、スタメン選手たちのバランス感覚とコンビネーションに期待しようと。延長に入れば、中2日の韓国は、こちらより先に足が止まるだろう。そこまでフレッシュな選手を入れるのはそこまで待とうと。そういうことだったと推測する。
で、結局ザッケローニが最初の交替カードを切ったのは、後半42分のことだった。それも香川を下げて、細貝を入れるという采配。これで日本がどういうフォーメーションになったのか、僕にはよくわからない。なんにしろ、攻撃力の梃入れよりは中盤のバランスを重視した交替だったのは間違いない。
まあ、その結果として、フル出場することになった岡崎が延長前半に中央突破をこころみて倒され、PKを得たんだから、この交替自体は結果オーライだろう(これまた、どうしてそれがPKなのよって判定だったけれど)。なおかつ、そのPKを本田が止められたあと(おいおい!)、GKが弾いたこぼれ球に、誰よりも速く追いついたのがその細貝なのだから。リプレイを見たら、細貝は本田がPKを止められるのを予期していたかのように、猛烈なダッシュをしていた。まさにロケット・スタート。いや、萌、えらい。
このゴールが決まったのが、延長前半の7分のこと。これでよーし、あと20分ちょいしのぎ切れば決勝だっ。何年ぶりかの韓国からの勝利だっ。勝ちが見えたことで、選手たちも元気を取り戻したようで、前田や岡崎が最前列から猛然とプレッシャーをかけてゆく。よしっ、これならば勝てる!
と思ったのに。このあと、ザッケローニが選手交替をミスる。前田を下げて伊野波って、おいおい。そりゃDF多すぎでしょう。前田はいまだ元気にチェイスかけてるじゃん。いいよぉ、替えなくて。替えるならば、せめて李に替えるとか、遠藤を柏木に替えるとか、フォーメーションはそのままで、中盤から前に元気な選手を入れてくれ~。
……って思ってたら、やはりこの交替がアダとなる。FWがいなくなった日本のラインはずるずると押し下げられ、後半15分間は、日本のゴール前でのプレーばかりがつづく羽目に……。
さらに悪いことは重なるもので、このあと長谷部が足をつってしまい、急きょ本田拓也を投入することに。で、残りあと1分ってところで、その本田拓也が自陣の右サイドの真ん中くらいで相手を倒しFKを取られる。そしてそのFKがゴール前でのピンボールみたいな混戦となり、韓国に同点ゴールを叩き込まれてしまう。あ”~っ。
延長後半のロスタイムに、5年ぶりの韓国戦の白星が逃げていった。あぁ、さすがドーハ。またもや後半ロスタイムの同点ゴールとは……。
でもまあよし。この同点ゴールのおかげで、とびきりのPK戦が見られたんだから。
日本の先制で始まったPK戦の一番目のキッカーは本田だった。延長戦でのPKを止められている本田だっ。その本田がこの大事な局面で、先陣を切ってキッカーを務める。「俺こそが日本のオフェンスのリーダーだ」と明確に意思表する、その矜持にしびれた。
当然、本田はこのPKをきっちりと決める。そりゃ決めるだろう。外したらこの日のPK阻止され率100%だもん。日本のこれから担う選手がこの場面で外すわけがない。
このPKのあとを受けて、守っては、川島が韓国の一番手のPKを止める。川島~。さらには二番手も止める。うお~。PKの神が降りたかっ。
日本は二番手の岡崎もきっちり決めて、2-0。これで次も決めればほぼ勝利確定ってところで、長友が思いきり外す。おいおい。でもそのあと、韓国の三番手は枠を外してしまう。これで日本の四番手、今野が決めれば、PKの名手・遠藤の出番を待たずして、日本の勝利~。
で、今ちゃんはしっかりと決めると。やたーっ。韓国に勝って決勝進出! 次回予選免除確定! 思わず立ち上がってガッツポーズしてしまった。
今大会はどの試合も決して内容はよくないけれど、それでも勝負強く勝ちを拾ってここまで駒を進めてきたところが素晴らしい。さあ、あと優勝まで一試合。決勝戦の相手はオーストラリア。2006年ワールドカップの雪辱を晴らすにはもってこいの舞台だ。ジーコがかけられた呪いを晴らして、優勝カップを持ち帰って欲しい。ぜひ。
(Jan 27, 2011)
オーストラリア0-1日本(延長0-1)
アジアカップ・決勝/2011年1月29日(土)/ドーハ(カタール)/テレビ朝日
アジアカップもいよいよこれが最後。韓国と並ぶ最強のライバル、オーストラリアとの決勝戦──だというのに。なんと。
韓国戦で香川が右足の指を骨折していたことが発覚。この試合に出られなくなってしまった。
ここまでの香川は出来がいまいちだったけれど、決勝戦の対戦相手のオーストラリアは、長身選手がずらりとそろっている点で、ブンデスリーガに近いものがあるので、最後に大活躍を見せてくれるかと思っていたのに、まさか出られなくなってしまうとは……。それどころかブンデスリーガでも今季絶望という噂がある。これからってときだけに痛すぎる。
そんなわけで、残念ながら香川を欠いて臨むことになったこの試合のスタメンは、川島、内田、吉田、今野、長友、遠藤、長谷部、藤本淳吾、本田、岡崎、前田というメンツだった。出場停止明けの吉田が戻ってきて、香川の代わりには藤本が入った。
それにしても、この大会は苦しい試合の連続だったけれど、この決勝戦も例外じゃなかった。長身を生かしてロング・ボールを蹴り込んでくる オーストラリアのシンプルな攻めの前に、終始劣勢に立たされる。いまにも失点しそうで、はらはらしっ放しだった。
それでも相手のシュート・ミスと川島の驚異的なファイン・セーブに助けられて、なんとか前半を無失点で終了する。攻めては、香川の代役として期待された藤本が、せっかくのチャンスを生かせずじまい。それなりにボールには触っていたけれど、攻撃に絡むことはまったくといっていいほどできていなかった。
後半に入ってからも、劣勢は変わらず。──と見るや、ザッケローニが意外なカードを切る。オーストラリアの高さに苦しめられている最終ラインに岩政を投入してきたのだった。
でもいくらオーストラリアの高さが脅威だからって、今野を下げるってのはないんじゃないかと思っていると、やはり交替は今野じゃない。いまいち調子の上がらない藤本をいさぎよく見限っての、DF投入とくる。
なんでもイタリアでは3-4-3を得意としたというザッケローニなので、まさかの3バックかとも思ったけれど、さすがにこの局面でフォーメーションは変えてこない。そのまま今野を左サイドバックへずらし、長友を一枚前に上げてきた。
これが効いた~。みごとに効いた。なんたって守備力に定評のある今野と長友が縦に並ぶわけだから、左サイドの守りはバッチリ。ここから先はこちらのサイドから危険なクロスを上げられることがほとんどなくなる。さらに中央でも、岩政が持ち味の高さを生かして、オージーのロングボールをはね返しつづける。もとよりウッチーのサイドを深くえぐられることはなかったので、これでようやく試合が落ち着いた。
まあ、それですっかりピンチがなくなったというわけではなく、岩政のミスなどからキューウェルがGKと一対一になる場面が二度ほどあったりしたけれど(まったく危ないったりゃありゃしない)、そこは守護神・川島が前回のPK戦につづいて、鬼のセーヴを見せる。いやぁ、川島、すごかった。試合のMVPに選ばれたのも当然の大活躍。
なんにしろ、試合は結局90分間では決着がつかずに延長戦へ。ここまで交替のカードを1枚しか切っていないザッケローニは、その延長前半の途中でようやくFWを前田から李忠成にチェンジする。そしてこの李がこの日のヒーローになる。
延長後半4分、それまで再三、左サイドを崩してクロスを上げていた長友にあわせ、どフリーになっていた李が左足を一閃。みごとなダイレクト・ボレーをオージー・ゴールに突き刺して見せたのだった。李、えらいっ! これで残り10分守り切れば優勝だ~。
──って。でも日韓戦ではここから守り切れずに同点に追いつかれていたので、これがなんとも気が気じゃない。相手もいい加減に疲労の色ありありとはいえ、なんせパワープレーが持ち味のチームだけに、最後まで気が抜けなかった。おかげで試合終了の笛が吹かれたときの嬉しさときたら、もう爆発的。テレビ中継ではあのセルジオ越後氏をして、「やったーやったー」と絶叫せしめたくらいだった。
ということで、日本は苦しい試合をみごと勝ち切って、大会史上最多となる4回目の優勝を決めた。ザッケローニの監督就任から、わずか3ヶ月での快挙。わずか三か月では使える選手を見極めるのは難しいだろうし(そのせいか交替カードを切るのが遅いのが気になった)、その中でしっかり優勝という結果を残したザッケローニの手腕は称賛に値する。
優勝が決まった直後、本田をはじめとした選手たちが次々と監督とハグを交わしにいっていたのを見ても、この人が短い期間でみごとに選手たちの信頼を得ているのがよくわかる。ほんと、はたから見ていても、今回のチームはサブの選手まで含めて一丸となっていたのが伝わってきた。それが一番の勝因だろう。この先、このいいムードがW杯ブラジル大会まで続いていってくれるといいのだけれど。さすがに先は長いからなぁ。どうなることやら。
そういや、大会MVPに選ばれたのは本田圭佑だった。彼について僕はほとんどなにも書いてこなかったけれど、それでも全体を通じての彼のパフォーマンスにはけっこう感銘を受けた。
とにかくキープ力がものすごい。いったん彼がボールを持ったら、ファール以外では奪えないんじゃないかってくらい。あれを見て、香川はまだまだだなと思ってしまった。直接のゴールやアシストこそなかったけれど、日本のゴールの半分くらいは本田が起点だったような気がするし。これからしばらくは日本代表が彼中心にまわってゆくのは間違いなさそうだ。
まあ、なんにしろ優勝はめでたい。そしてとてもすごい。なんたってあの韓国がこの大会では、かれこれ50年以上優勝できていないってんだから。それを日本がこの20年間で4度も成し得ているってのは、快挙以外のなにものでもないだろう。
アジアカップごとき、優勝してあたり前とか云う人は、おそらくサッカーがわかっていない。W杯では、時としてアルゼンチンやイングランドのような並みいる強豪でさえグループリーグで敗退してゆく。それこそがサッカーなのだから。いくらアジア限定の大会だからといって、そこで優勝するには実力だけでどうこうなるもんじゃないだろう。それもホスト国のカタールに韓国、オーストラリアという強豪を連破しての優勝だ。ここまで結果がついてくるってのは、ちょっと神がかり的ですらある。もしかしたら日本代表にはサッカーの神様が味方してくれてんじゃないだろうか、なんて思ったり。そんな歓喜の夜だった。
なにはともあれ優勝おめでとう。そして2006年からかかっていたオーストラリアの呪いを解いてくれてありがとう。
(Jan 30, 2011)