2025年4月の本

Index

  1. 『マルドゥック・アノニマス5』 冲方丁

マルドゥック・アノニマス5

冲方丁/ハヤカワ文庫JA/Kindle

マルドゥック・アノニマス 5 (ハヤカワ文庫JA)

 最新時間軸はウフコック救出劇のつづき(まだまだ終わらない)。〈クインテット〉のナンバーツー、バジルと対峙したバロットは交渉して戦いを避け、次なる敵〈誓約の銃〉(ガンズ・オブ・オウス)と遭遇する。
 過去のパートではバロットとアビー(アビゲイル)やレイ・ヒューズとの信頼関係がいかにして築かれていったかと、彼女がウフコック救出へ向けた情報収集のため、ハンターの過去を探ってゆく過程が描かれる。
 ラストは二十歳の誕生日を迎えたバロットが、手術を受けて声を取り戻す感動の名場面のあと、ハンターから二度目の接触を受けたところで幕!
 ――そんな『マルドゥック・アノニマス』の激動の第五集。
 まずは最初のバジルとの対決がいい。法学生としての勉学とレイ・ヒューズをマイスターに迎えての修業をへて、戦わずして交渉術により敵を退けるすべを身につけたバロットの成長が感動を呼ぶ。『マルドゥック・スクランブル』のカジノでの対決シーンもそうだったけれど、単なるバトルだけではなく、説得力のある濃厚な頭脳戦を描けるのが冲方丁の強みだ。
 敵対するハンターも前作で不幸な過去が明かされ、今回はシザース絡みで権力者たちにわれ知らず操られていることがわかり、さらには現在進行形では失踪中だという事実があかされる。ヴィラン連合的なチームも一枚岩ではないようだし、〈クインテット〉もいろいろ大変そうだ。
 まぁ、なんにしろ今回はバロットがアビーを新たな家族として迎えるというのがいちばんの読みどころ。アビーからバロットが「ルーン姉さん」と呼ばれているのが、なんだかとてもこそばゆい。
(Apr. 06, 2025)