2017年11月の本
Index
- 『俺たちの明日』 エレファントカシマシ
- 『2001年宇宙の旅』 アーサー・C・クラーク
俺たちの明日
エレファントカシマシ/ロッキングオン(上下巻)
エレカシのデビュー三十周年を記念してロッキングオンから刊行されたエレカシのインタビュー集・第二弾。
第一弾の『風に吹かれて』がどんな内容だったかはすっかり忘れているけれど(なんたってもう二十年近く前の本だし)、今回の二冊は上巻が『愛と夢』から始まって『町を見下す丘』まで(つまりポニーキャニオン末期から東芝EMI期)、そして下巻が『Starting Over』から最新の三十周年ベスト盤まで(つまりユニヴァーサル期)という構成になっている。あと、おまけで上巻にはスピッツの草野マサムネ、下巻には銀杏BOYZの峯田和伸との対談が収録されている。
基本的にはインタビュー集なのだけれど、対談やメンバー四人が登場する回を除くと、あとはすべて宮本のひとり語りの文章に書きなおされている。要するにロッキングオンから出ている北野武のインタビュー集と同じ形式。
ロッキングオンのインタビューって、渋谷さんや山崎さんら、インタビュアーの意見をもとに誘導するような傾向が強いので、誰がインタビューしたのかわからないこの形式ってどうかと思うのだけれど、宮本自身はあとがきで(やはり当初はこの形を疑問に思ったものの)最終的に完成した本を読んで納得したというようなことを書いているので、まぁ本人がいいっていうのならばいいんだろう。
でも読んでいていちばん感動的だったのは、上巻の最後に収録されているトミが病気で入院して復活したあとのメンバー四人の──つまり普通のインタビュー形式の──もの。かなり深刻な病気だったらしく、そこから復帰して活動を再開できたメンバーたちの安堵と喜びがダイレクトに伝わってきて、思わず目頭が熱くなった。
あと、印象的だったのが、下巻になると宮本がやたらと「嬉しかったですねぇ」を連発するようになることまぁ(いや、もしかして上巻から?)。年を取ったせいもあるんだろうけれど、難聴を患ったり、外部のプロデューサーとのコラボが増えたり、世間的な知名度があがったりといった環境の変化にいろいろ感じ入ることが多いらしく、とにかくあらゆる局面で「嬉しかったですねぇ」という言葉を発している。実り多き日々を過ごせているようでなによりです。
(Nov 19, 2017)
2001年宇宙の旅〔決定版〕
アーサー・C・クラーク/伊藤典夫・訳/早川書店/Kindle
いわずと知れた傑作映画の原作──というか、映画の撮影と同時進行で執筆されたとのことなので、正しくは小説版。
宇宙の彼方から飛来した謎の長方形オブジェクト(この本ではモノリスという言葉はあまり使われていない)が人類へあたえた影響を、類人猿だった過去から宇宙船で木星へいたる未来までにわたり、壮大なスケールで描いてみせたSF小説。
アーサー・C・クラークの小説を読むのはこれが二冊目だけれど、この本は文体の理知的なところが僕にはとても好感触だった。いかにも理系!ってイメージの美文で素晴らしい(伊藤典夫氏による翻訳も見事なんだろうけど)。こういう文体で語られるからこそ、この話はよりいっそうの説得力を持っているのだと思う。
個人的にもっともインパクトがあったのは、本編の大半を占めるSFとしての各章よりもむしろ、第一章の──おそらく映画ではもっとも人気がないだろう──類人猿のパート。人類が道具の使い方をおぼえて進化してゆく過程をたんねんに描いたその部分が僕にはもっとも興味深かった。
道具を使えるようになったサルは、それで他の動物を殺して食糧不足を解消し、同族をなぎ倒して勢力を拡大してゆく。
人類の進歩の歴史は、じつは殺戮の歴史なんだぞと。
クールな文体でそんな事実をあからさまにするこの小説の冒頭部分に、僕はなんともいえない複雑な思いをかきたてられた。
(Nov 29, 2017)