2012年6月の本
Index
- 『ジェイン・オースティンの読書会』 カレン・ジョイ・ファウラー
- 『マジック・フォー・ビギナーズ』 ケリー・リンク
ジェイン・オースティンの読書会
カレン・ジョイ・ファウラー/矢倉尚子・訳/白水社
この本のおかげで僕はジェイン・オースティンの長編がわずか六作品しかないと知って、それじゃすべて読んでみようかという気になった。そしてとても楽しい読書タイムを過ごさせてもらったんでしたが。
オースティンをすべて読み終えて、さて、それでは次はこちらをと読んでみたところ、これがそれほどおもしろくない。いや、映画化されたくらいだから、おもしろいと思う人はたくさんいるのだろうけれど、こと僕に関しては、あまり楽しめなかった。どこがいいのか、よくわからない。
物語は女性五人に男ひとりの六人グループが、一章ごとにオースティンを一作品ずつをとりあげて読書会を開くという趣向で、参加者それぞれの人となりを浮かび上がらせてゆくというもの。──なんだけれど。登場人物が女性ばかり(それも若者ゼロ)なせいか、その人たちの言動に僕はあまり共感できなかった。書き手が女性目線だからか、唯一の男性キャラもいまいち共感を呼ばないし。「私たち」と称する語り手の正体があきらかにされてない点も、全体の印象をあいまいにしている気がする。章によってはオースティンの作品について語る時間がまったくなかったりするのも残念だ。
とにかくこの本に関しては、僕が苦手とするタイプの女性作家の作品というイメージで、最初から最後までその世界に馴染めないで終わってしまった。作者がオースティンから吸収したものがあったとしても、僕にはそれがほとんど感じられなかった。楽しみにしていただけに、ほんと残念。
でもまあ、とりあえず僕の目をジェイン・オースティンに向けてくれたことには感謝したい。この小説をふたたび読み返すことがあるかどうかわからないけれど、オースティンはいずれまた読みたくなるだろうから(まぁ、長生きするようならば)。この本はそのタイトルになによりも価値があるじゃないかと思ったりする──なんていったら失礼か。
(Jun 17, 2012)
マジック・フォー・ビギナーズ
ケリー・リンク/柴田元幸・訳/ハヤカワepi文庫
前の本と同時進行で読んでいたこちらも女性作家の作品だった。柴田元幸氏の翻訳だというので読むことにした、アメリカの女性SF作家の短編集。
SF作家(なのかな?)とはいっても、柴田さんが手がけるくらいなので、文学寄りの作風の短編が並んでいる。なんの説明もなくゾンビや幽霊が出てきたり、ハンドバッグの中で暮らす住民たちがいたりするものの、テイストはかなり文学的。コンビニや裏庭のなにげない日常の風景の中に、平然と不思議なものが混じっている感覚には、村上春樹の作品に近いものがあると僕は思った。
ただ、そういうのって疲れているときに読むには向かないなと。春からの新しい職場での仕事に疲れ切っている昨今、この短編集の変わった作風はいまいちとっつきにくかった。おかげで読み切るのにけっこう努力がいった。それなりにいい本だったと思うので、ややもったいないことをした感あり。もっと心に余裕のあるときに読めばよかった。
この人はもう一冊、短編集が出ているようなので、それはいずれもっと心穏やかなときに読むことにしよう。
(Jun 17, 2012)