2010年12月の本
Index
- 『ファウスト(森鴎外全集11)』 ゲーテ
- 『騙す骨』 アーロン・エルキンズ
ファウスト (森鴎外全集11)
ゲーテ/森鴎外・訳/ちくま文庫
エレカシの新譜 『悪魔のささやき~そして、心に灯をともす旅~』 に触発されて読んだ森鴎外訳、ゲーテ作の古典戯曲 『ファウスト』。
しかし日々の仕事に追われながら、二十一世紀を生きる市井の民たる僕には、そのおもしろさなどわかろうはずもなく……。
いや、文体的には思いのほか、読みやすかった。森鴎外訳ということで身構えていたのだけれど、その口語訳は刊行当時には平俗だという非難されたこともあるそうで、なるほど、文体自体は決して難しくない。
読めない漢字はそこそこあったし、言葉づかいに不自然に感じる部分があったりはしたけれど、戯曲なので小説と違って言葉数は少ないこともあり、読み始めてみたら思いのほかスラスラと進んだ。あっという間に百ページを突破したので、あぁ、こりゃ楽勝で読み終わりそうだと思ったのだけれど。
いやぁ、どうにも盛りあがらない。ギリシャ神話や古典文学を咀嚼して、独自の世界観のなかで再構成したその力量のすごさはわかるけれど、じゃあそれを楽しめるかというと、いまいち楽しめない。これに夢中になるのは、いまんところは無理みたいだった。
ということで途中で読むスピードが鈍り、その後は読む意欲が失せてしまって遅々として進まなくなり、気がつけば結局、読み終えるまで1ヶ月以上かかってしまった。
でも、じゃあ読んだことを後悔しているかというと、そんなこともない。楽しみきれずに持てあまし気味だったとはいえ、その内容の意外性には、読んでおいてよかったと思わせるものがあった。
だって、ファウスト博士ときたら、第一部でメフィストフェレスの知りあいの魔女に若返りの薬をもらった途端、いきなり性欲あふれんばかりとなって、道で見かけた処女を見初め、ついにはその娘を妊娠させて、破滅に追いやってしまったりするんですよ? その後もギリシャ神話の絶世の美女ヘレネにひとめ惚れして結婚、一児をもうけたりするし。どんな因業おやじだ、ファウスト。いやはや、びっくりだ。
とはいえ、そんなふうに色恋に精を出す一方で、王様の参謀として国の財政再建に乗り出したり、戦争の指揮をとったりという、社会派な面もちゃんと持ちあわせている。
さらには、ちまたの居酒屋に顔を出したり、悪魔の宴に参加したり。悪魔メフィストを道連れに、社会の中枢から市井の暮らし、はたまた妖魔の国までもいったり来たり。それを豊饒な語彙で饒舌に語り聞かせるものだから、そりゃものすごい。なるほど、これが古典として名を残すわけはよくわかった。
いずれは読み返して楽しめる日がくるといいなと思う。
(Dec 29, 2010)
騙す骨
アーロン・エルキンズ/青木久恵・訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
スケルトン探偵ことギデオン・オリヴァー教授が骨を鑑定して事件の謎を解く人気シリーズ──帯の宣伝文句によると「累計90万部突破」だとか──の最新作。
今回この作品を読んで思ったのは、予定調和の楽しみとでもいうべきもの。
このシリーズはミステリとしての基本構造が固まりきっているために、他のシリーズに増してトリックがばれやすい傾向があるけれど、今回の作品に関してはそれがとくに顕著で、読みすすめる過程で、ほぼ完全にそのトリックがわかってしまった。
でも、それでいてとても楽しく読めたのもまた、ネタばれの原因となっている基本構造ゆえ。ギデオンがどのように事件の真相にたどり着くのか、その過程を読むのが楽しみで、ページをめくる手がとまらなくなった。
そう、いわばギデオンが白骨鑑定の結果を人々に知らしめるシーンは、あたかも水戸黄門で角さん助さんが印籠を取り出すシーンのよう。その予定調和的な展開こそがこのシリーズの最大の魅力ではないかと。そんなことを思った最新作だった。
そうそう、基本的には読みやすいこのシリーズだけれど、今回は舞台であるメキシコの固有名詞がどうにも読みにくくてまいった。オアハカとか、テオティトランとかいう地名には、最後まで引っかかりまくりだった。ま、外国の人からしてみれば、日本の固有名詞のほうがよほど覚えにくそうな気もするけれど。
(Dec 30, 2010)