2014年12月の音楽

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  1. / FLOWER FLOWER

FLOWER FLOWER / 2014 / CD

実(初回生産限定盤)(DVD付)

 およそ半年近く、音楽についてなにも書いてこなかった。
 べつにその間、音楽を聴いていなかったわけじゃない。日々なんらかの形で音楽とは接している。外出時の移動中には必ずヘッドフォンでなにか聴いているし、こうやって自宅でPCに向かっているときにも、PCにつないだミニコンポからは絶えず音楽が流れつづけている。
 ただ、それらについて、なにかを書こうとか、書きたいとか、書かなきゃいけないとかいう意欲がまったく湧いてこなかった。秋口に仕事の契約先が変わって、生活のリズムが微妙にずれたせいで必要以上に疲れ切っていて、すっかり文章を書くパワーをなくしていた。
 これがほかのジャンル──本や映画やサッカー──だと、読み終わったり、観終わったりってタイミングがあって、たとえ気分的に乗っていなくても、そこでなんとかしなきゃって思うのだけれど、音楽の場合、基本的にそういうタイミングがない。アルバム一枚聴き終わっても、それでおしまい、とはならない。
 一回聴いただけで語れる音楽なんて、少なくても僕にはない。何度か聞いて、その音が自分のなかに刷り込まれて初めて、その音楽がどんなだか語れるようになる。一聴したとたんにこりゃ最高!って思う音もあるけれど、それだって言葉にしてそのよさを語るには、繰り返しは欠かせない。
 ただ、では何回聴けばいいかというと、これがなかなか難しい。語るべき言葉が出てくるまで、としか言いようがない。
 で、年間百五十を超える作品と接していると、なかなかひとつの作品をそうそう繰り返し聴いてもいられない。これはいいなと思った作品でも、次に届いた新譜に押しやられて、あまり回数を重ねないうちに、いつのまにか過去の作品となってしまうというパターンの連続。これがなかなかどうにも悩ましい。
 まぁ、もとより文章を書くためではなく、好きで聴いてる音楽なので、それならそれでいいかと思って、ここのところはすっかり文章を書くことを放棄して暮らしてきたのですが──。
 年の瀬になって、これだけはどうしても年内に書いておかないといけないんじゃないかと思わされた作品と出逢った。それがこれ。
 YUI が去年ソロから転向して結成したバンド、FLOWER FLOWER がようやく発表したファースト・アルバム、『実』(そのまま「み」と読むらしい)。
 これがもう、めちゃくちゃ素晴らしい。日本の女性アーティストの作品としては、間違いなく今年の僕のナンバー・ワン。今年は椎名林檎や Cocco も新譜を出しているにもかかわらず、だ。まさか YUI の作品に、彼女たちのそれよりも強い感銘を受ける日がこようとは思ってもみなかった。
 このアルバムのなにがいいって、その音。
 この作品は洋楽オルタナティブ・ロックファンとしての僕の欲求をきっちりと満たしてくれる。リズムの多様性、ギターのラウドさ、鍵盤の音色の繊細さと、すべてが文句なし。これぞ現時点で鳴ってしかるべきロックだという音に仕上がっている。
 僕は YUI のソロ名義のアルバムは3枚しか聴いていないけれど、それらの作品はそうではなかった。フォーマットこそロックを踏襲しているけれど、そこにはロック・ミュージックとして不可欠のとんがった刺激が欠けていた。
 aiko もそうだけれど、日本の女性ソロ・アーティストの作品は「歌」のよさにだけを売りにしていて、音そのものはおざなりな印象が強い。いい歌があればよくて、音作りに対するこだわりは特にないので、現時点でもっとも標準的なフォーマットであるロックを鳴らしている──そんな印象。
 歌のよさ、大事さ、それ自体は否定しないけれど、まずは音像のオリジナリティありきな洋楽ファンとしては、サウンド面での刺激のなさはいかんせんもの足りない。
 僕が椎名林檎や Cocco を特別視するのは、彼女たちの音楽には、歌の素晴らしさに加え、そうした歌以外のプラス・アルファがちゃんとあるからだ。
 ただ、彼女たちにしても、プロデュースを名うてのプロに任せた初期のころはともかく、昨今の作品では音楽性が多様化したがゆえ、逆にその多様性があだになって、ロックそのものの持つ直接的な気持ちよさからは遠ざかる傾向が強くなっている。歌謡ジャズやEDMも悪くないけれど、でもちょっと違うんだよなぁ……という感じ。
 その点、このアルバムにはそういう不満がまったくない。ここでは最初から最後まで、僕が聴きたいと思うような現在進行形のロックがきちんと鳴っている。アッパーな曲もスローな曲も例外なく、その音響、楽器の一音一音の響きがやたらと気持ちいい。すんなりと抵抗なく僕の内側に入ってくる。
 日本のロックで僕がもっとも洋楽に近い感覚で聞いているのはたぶん RADWIMPS だけれど、このアルバムの気持ちよさはかなり彼らの作品に近いものがある。とくに2曲目の『神様』なんて、歌詞といい、音といい、まさに女性版の RADWIMPS みたいだ。
 で、このアルバムの場合、そんな極上のロック・サウンドの上に、YUI のあの透き通るようなハスキーボイスが乗っかってくるわけですよ。これが気持ちよくないはずがないでしょう?
 しかもソロではなぜか全曲英語タイトルだった彼女が、このバンドでは心機一転、すべての曲に日本語でタイトルをつけている。音のみではなく、言葉にも真正面から向かい合おうという姿勢の表れとして、そこにもすごく好感が持てる。
 いやぁいい。マジでいい。このアルバムを聴いていると、僕はどんどんボリュームを上げて、できる限りの大音量で鳴らしたくなる。その感覚がなによりこの作品のロック・ミュージックとしての正しさを証明していると思う。
 ブルースやジャズやヒップホップもいいけれど、やっぱ俺はふつうにロックがいちばん好きなんだよなぁって。このアルバムを聴いていて、ひさしぶりに僕はそう思った。
 まさか YUI を聴いてロックの魅力を再認識させられる日がくるとは思ってもみなかったですよ、ほんと。大絶賛。
(Dec 28, 2014)