2009年11月の音楽

Index

  1. エレカシ自選作品集 EPIC 創世記 / エレファントカシマシ
  2. エレカシ自選作品集 PONY CANYON 浪漫記 / エレファントカシマシ
  3. エレカシ自選作品集 EMI 胎動記 / エレファントカシマシ
  4. A Brief History of Love / The Big Pink

エレカシ自選作品集 EPIC 創世記

エレファントカシマシ / 2009 / 2CD

エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記

 どかっとリリースされたエレカシのレーベル別ベスト・アルバム三部作、まずはほとんど売れていなかったというエピック編。
 いきなりどうでもいいようなつまらない話から入るけれど、今回のこのベスト盤はなんたってタイトルがすごい。だって 『エレカシ自選作品集』 ですもん。日本では長いバンド名をこんなふうに縮める風習がすっかり定着しているとはいえ、それはあくまで非公式の話。ふつうはバンド側がみずから率先して「エレカシ」なんて呼び名をアルバム・タイトルにつけたりしない。ミスチルだって、ドリカムだって、イエモンだって、おそらくやってない。それを恥ずかしげもなく堂々とやってみせ、なおかつ 「自選作品集」なんてかしこまった言葉と並べて、『創世記』 なんて壮大なサブタイトルをつけてしまう。そんな気取りと滑稽味が同居した宮本浩次という人のセンスが、僕はとても好きだ。
 このアルバムについては、二十代のなかばから後半にかけて、数かぎりなく聴き込んだ曲ばかりなので、当然、同時発売された三部作のなかではもっとも愛着がある。それこそ、これらの歌がなかったらば、いまの僕はないだろうってくらいの楽曲ばかり。リマスターの効果か、はたまたひさしぶりに聴いたためか、音もやたらと瑞々{みずみず}しく感じられて、問答無用に盛りあがってしまう。
 楽曲のよさはもとより、この時期は宮本の声がとても強烈。いまなおすごいけれど、若いころは粗削りでさらにすごい。聴いていると、心にこびりついた汚れをガリガリと削りとられるような気がしてくる。こんな感覚を味わわせてくれるボーカリストなんてめったいにいない。この声だけでも唯一無二の価値があると思う。
 まあ、思い入れが深い時期の作品だけに、なんであれが入っていないんだと思う曲もあるけれど、じゃあ代わりにどれをはずすんだと問われると、かなり悩ましいところだし──かつてはあまり好きではなかった 『太陽ギラギラ』 とかも、ひさしぶりに聴いたら、その後の文芸大作の布石となるような味わいがあって格好よかった──、なによりすべて宮本自身の選曲ということなので、基本的には文句はない。――いや、ないと言って終わりたいんだけれども。
 ただひとつ、アルバム 『奴隷天国』 の曲が2曲しか選ばれていないのだけは、どうにも不満。ほかのアルバムからはすべて4曲ずつ選ばれているし、残り二組のベスト盤も含めてみても、フル・アルバムで2曲しか選曲されていないのはこれだけだ。個人的には非常に思い入れのあるアルバムなので、せめてもう1曲だけでも都合して欲しかった。以前、宮本がライヴで 『奴隷天国』 が絶版になっていたことについて愚痴っていたけれど、本人がこんな調子じゃ、とやかく言えないじゃんと思ってしまった。
(Nov 01, 2009)

エレカシ自選作品集 PONY CANYON 浪漫記

エレファントカシマシ / 2009 / CD

エレカシ自選作品集 PONY CANYON 浪漫記

 エレカシの自選作品集その2、ポニー・キャニオン編。
 エレカシがもっとも大きなポピュラリティを獲得したこの時期は、同時に僕にとっては、もっともエレカシが縁遠かった時期でもあった。エピック時代のエレカシにあまりにどっぷりと浸かっていた僕には、いきなり大きくスタイルを変更した彼らを、そのまま素直に受け入れることができなかった。
 だってそりゃそうだろう。「豚に真珠だ貴様らには、聞かせる歌などなくなった」と喉も裂けんばかりの声で絶叫していた男が、いきなり大らかな声で「ああ、明日もがんばろう、愛する人に捧げよう」なんて歌いだしたんだから。あまりにギャップがありすぎて、目が点(つまり思いきり視野が狭くなったってこと)。これじゃ新機軸のよさが目に入らなくなったとしても仕方ない。
 なにもこの時期の曲がすべて悪いとは言わない。好きな曲だってそれなりにある。そもそも、『悲しみの果て』 でブレイクしてから、ゆうに十年以上が過ぎているわけだ。その間にこの時期の曲も数知れず生で聴いてきた。なかには素晴らしい演奏だってたくさんあった。この時期に軌道修正してブレイクしたからこそ、いまのエレカシがあるのもわかるし、ポニー・キャニオン時代は駄目といって一概に切り捨てるつもりはない。いや、ないつもりなんだけれども……。
 今回、僕はこのベスト盤を聴いて、やっぱり違うだろうと思ってしまったのだった。エピック編からつづけて聴いたせいで、違いが歴然すぎた。だって、もう宮本の声からしてぜんぜん違うじゃん。エピック時代の宮本が100%の力を振り絞っていたとしたら、この時期は60%でこなしている感じ。歌のメッセージが唐突に方向転換した上に、声にまで覇気がなくなったら、そのまま素直に受け入れろっていわれても難しい。
 でもまあ、冷静に考えると、エピック時代が異常だった気もする。あんなテンション、そうそう長くは続かない。腹八分目じゃないけれど、宮本くらいの才能があれば、ちょっとくらい力を抜いたほうが、風通りのいい作品ができるのかもしれない。その結果がこのベスト盤に収録された楽曲群だとするならば、なるほど、たしかにここでは、適度にエキセントリックで個性的なポップ・ミュージックが鳴っている。シングルの 『夢のかけら』 や 『はじまりは今』 が入っていないのにこれだけポップなんだから、それはそれですごい。
 とはいえ、どう考えてみても、僕がこの時期のエレカシを受け入れられるのは、これ以前にエピック時代があり、これ以降には 『ガストロンジャー』 から始まる第二の試行錯誤が控えているからこそだ。もしもエレカシがこの路線だけのバンドだったらば、僕はおそらくこんなに深く彼らの音楽とつきあうことはなかっただろう。
 たとえてみれば、ポニー・キャニオン時代の作品は、エレカシという稀有なる大樹に実った甘い果実のようなものだ。甘さに惹かれて集まっただけの人たちは、その果実がなくなったとたんに離れていってしまった。でもエレカシはその実を落としたあとも、大地に深く根を張り、新たな実りのときのために大きく枝を広げてきた。その成果が最近のエレカシの成功を支えているんだと思う。
 そりゃ甘いものは美味かろう。でも酒飲みの僕は、ときたま実る甘い果実なんかよりも、真っ青な空にむかって力強く広がる、その枝っぷりのよさをこそ愛する。
(Nov 04, 2009)

エレカシ自選作品集 EMI 胎動記

エレファントカシマシ / 2009 / 2CD

エレカシ自選作品集 EMI 胎動記

 エレカシの自選作品集その3は、『胎動記』と名付けられたEMI編。
 たしかにこの時期の試行錯誤があるからこそ、いまの成功があるんだろう。そういう意味で 『胎動記』 というタイトルはこの作品にじつにふさわしい。
 『ガストロンジャー』 でいきなりラブソング路線からドロップアウトして、『good morning』 というとんでもない怪作で世にその真価を問うてみせたかと思ったら、つづく次回作 『ライフ』 ではプロデューサーに超売れっ子、小林武を担ぎ出し、ポニー・キャニオン時代に逆行するかのような音楽性を模索してみせ、でもやっぱり向かうべきはそっちじゃないと悟ったかのように、次の 『俺の道』 から 『扉』 『風』 とつづく三部作では、無骨にフォー・ピース・バンドとしてのロック・サウンドを追及してゆき、『町を見下ろす丘』 では、ふたたび 『ココロに花を』 のプロデューサー佐久間正英と組んで、かつてとはまったく違った、渋みのある作品を作り上げてみせた。
 この時期にエレカシが繰り広げた、そんなアルバム一枚ごとの軌跡が、僕にはたまらなく切実だった。作品的には今回の自選作品集三部作のなかでもっとも地味かもしれないけれど、収録されている曲の多くは、僕にとってとても大切な曲ばかりだ。
 時はまさに三十代なかばから四十になろうという時期。もう若くもないけれど、まるで成熟するには到らない。いい加減、大人になっていいころなのに、いつまでたっても青さが抜けきらない。そのくせ、その間に積み重ねてきた経験や知識のおかげで、なんとなく若いころより充実しているような気もする。失ってきたものもあるかわりに、得たものも少なくない。かといって現状維持でいいと思うほど、満たされてもいない。
 僕自身が感じていた──というか、いまなお感じている──そんな日常感覚に、この時期のエレカシはどんぴしゃだった。僕が宮本と同い年だというのは大きい。でも、そんなことは関係なく、もしも年が十才ちがっていたとしても、僕は結局エレカシに夢中になっていたんじゃないかという気もする。いずれにせよ、二十代のころの僕にとってエピック時代のエレカシが欠かせない存在だったのと同じように、三十代の後半の僕にとってもまた、その時代のエレカシはなくてはならない存在だった。そしてその状態はいま現在もつづいている。
 最近、僕がエレカシを聴きたくなって取り出すのは、この時期のアルバムがもっとも多い。時期的に新しいからというのもあるけれど、やはりいまの僕にとっては、この時期の音がもっともリアルに感じられるからだからだ。若さにものをいわせて轟音を炸裂させていたころとは違う、年相応にじっくりと練り込まれ、ていねいに紡ぎだされたその音は、とても素直に心に響く。これこそ、リアルな僕らの世代のロックだと思う。
 僕がロックを聴きはじめたときには、すでにビートルズもツェッペリンもピストルズもなかった。でも、かわりに僕らにはエレカシがあった。海の向こうではなく、この国のなかに、二十年以上の長きにわたって、リアルタイムでともに歩んでゆける日本のロック・バンドがあった。そのことを僕はなによりも幸福だと思っている。
(Nov 06, 2009)

A Brief History of Love

The Big Pink / 2009 / CD

Brief History of Love

 今年のサマソニで来日していたというロンドンからのニューカマー、ザ・ビッグ・ピンクのデビュー・アルバム。先週からこればっかり聴いている。
 サマソニに出演したのが僕が唯一観に行かなかった初日だったのでニアミスしてしまったけれど、このバンドはできれば生で観ておきたかった。なんとなく気になったので、いまさらながら聴いてみたら、これがものすごい好きだった。
 このバンド、新人のくせして80年代末から90年代初頭にかけてのUKロックの香りがぷんぷんする。ジーザス・アンド・メリー・チェイン、プライマル・スクリーム、ストーン・ローゼズ、シャーラタンズ、ザ・ヴァーヴ、ブラーなどを思い出させるテイストがあって、二十代のころにその辺の音楽にどっぷりと浸かっていた僕にはまさにど真ん中(レーベルが4ADってところも懐かしい)。ドコドコとしたビートに乗ったぶ厚いノイズと適度にポップなメロディの組み合わせがたまらなく気持ちいい。まあ、正確にはバンドではなく、男性二人組のユニットというあたりはちょっと胡散くさいけれど、音楽がカッコいいから許す。
 ちなみにバンド名のビッグ・ピンクはザ・バンドのファースト・アルバム 『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』 から取ったらしいけれど、音楽的にはまるでザ・バンドと似たところがないので、なんとなくおかしな感じ。ま、いずれにせよ僕の今年のベスト10に入る一枚。
(Nov 30, 2009)