2009年10月の音楽

Index

  1. 桜の花舞い上がる武道館 / エレファントカシマシ
  2. Merriweather Post Pavilion / Animal Collective
  3. Lotusflow3r / MPLSoUND / Elixer / Prince
  4. こっこさんの台所 / Cocco
  5. Como Te Llama? / Albert Hammond, Jr.

桜の花舞い上がる武道館

エレファントカシマシ / 2009年 / DVD

桜の花舞い上がる武道館(初回限定盤) [DVD]

 再ブレイクを果たしたエレカシがこの春に満を持して行った武道館公演の模様を完全収録した二枚組ライヴDVD。
 この作品、「完全収録」といううたい文句に偽りはない。たんにあの日にやった曲を全部収録してあるというだけではなく、なんと曲間のMCはもとより、アンコールを待つ舞台裏の映像まで収録されている。これぞまさしく完全版。あの日の武道館公演をエレカシに密着した気分で疑似体験できる、ファンにとっては貴重な作品に仕上がっている。なんとなくエレカシ版の 『24』 みたいな感じがして、おもしろかった。
 いやあ、しかし2時間半を超えるライブをこうやってフルタイム、映像としてみると、宮本がいかにすさまじいエネルギーをそそいで歌を歌い、演奏しているかがよくわかる。四十を過ぎていい加減に体力的な衰えもあるだろうに、その渾身のパフォーマンスはやはりハンパじゃない。同い年の男として頭が下がる。なまじカメラが延々と彼ばかりを追いつづけるので、消耗してゆくのが非常にリアルに感じられて、観終わるころには、こちらまでぐったりと疲れてしまった。
 まあ、その反面、観ていて不満に思ったのが、宮本ばかりにスポットが当たっていて、ほかのメンバーがほとんど目立っていない点。バンドのメンバーである石くん、セイちゃん、トミはもとより、エレカシにとって重要な存在になりつつある蔦谷くんとヒラマくん、ゲストの金原千恵子オーケストラのみなさんがアップで映るシーンがとても少ない。まるで宮本のソロ・コンサートみたいな印象さえある。その点はとても残念。もっといま現在のエレカシというバンドの全体像がしっかりと見てとれるような演出にして欲しかった。
(Oct 03, 2009)

Merriweather Post Pavilion

Animal Collective / 2009 / CD

Merriweather Post Pavilion

 これもおそらく今年のアメリカを代表する一枚。アニマル・コレクティヴというニューヨークのバンドの最新作で、インディーズ時代から数えると、スタジオ盤としては、これがもう8枚目とかになるらしい。僕にとっては、そういえば名前を聞いたことがあるような、というレベルのバンドだったけれど、やたらと評判がよかったので聴いてみた。
 このアルバムをひとことで表すならば、ずばりエレクトリック・パレード版の 『ペット・サウンズ』。ピコピコとしたエレクトロ・サウンドを積み重ねて、ビーチ・ボーイズばりの至福のポップスを鳴らしてみせている。なるほど、これは見事。評判になるのがわかる。本来、この手の音はあまり僕の好みではないんだけれど、このアルバムはとても気持ちよく聴けた。シンセ中心の音作りなのに、きちんとバンド・サウンドになっているところがいい。
 このバンドにしろ、グリズリー・ベアやダーティー・プロジェクターズにしろ、いまのニューヨークのバンドに共通するのは、リズム認識が鋭く、コーラス・ワークに凝っていること。音の方向性はエレクトロニックだったり、フォーキーだったりと、いろいろだけれど、みんな緻密なアレンジでうねりのあるリズムを生み出しつつ、やさしいコーラス・ワークで美しいメロディを聴かせる点が似通っている。なんでいまのニューヨークからは、こうも素晴らしい作品が立てつづけに生まれてくるんだろう。不思議。
(Oct 05, 2009)

Lotusflow3r / MPLSoUND / Elixer

Prince / 2009 / CD

Lotusflow3r/Mplsound/Elixir

 プリンスの最新作は 『Lotusflow3r』 と 『MPLSoUND』 という2枚のアルバムに、自らプロデュースを手掛けたブリア・ヴァレンテという女性ボーカリストのデビュー・アルバムをいっしょにパッケージした怒涛の3枚組。なんでもこのアルバム、アメリカ本国ではターゲットという大手ディスカウント・チェーン店の独占販売だとかなんとか。そのせいか、いま現在アマゾンでは入手できない(僕はHMVのオンライン・サイトで手に入れた)。国内盤は未発売みたいで、なんだかちょっとさびしい。
 まあ、なんにしろディスカウント店が配給しているためか、3枚組というボリュームのくせして、むちゃくちゃ安い。通常のアルバム一枚分の値段で入手できてしまう。でも、それじゃこれが「安かろう悪かろう」かといえば、そこはプリンスの作品だけあって、そんなはずがない。まあ、ここ数作と同じで、以前のような革新性はないけれど、それでも楽曲は粒ぞろいだし、一聴してプリンスとわかる特徴的なサウンドは健在だから、ファンとしては十分に楽しめる。アルバムごとの色付けも、いくぶん違っている。『Lotusflow3r』 がギター・ロックよりで、『MPLSoUND』 がファンク路線。僕はどちらかというと、あとの方が好きだった。
 ブリア・ヴァレンテという人はジャネット・ジャクソンを平凡にした感じで、ボーカリストとしての個性はあまり感じらなかったけれど、それだって音だけ聞けば、まちがいなくプリンスの作品だし(まあ、かなりマイルド・テイストではあるけれど)。これだけの品質とボリュームの作品が、国内盤のCD一枚分にも満たない価格で手に入っちゃうというのは、あまりに安すぎやしないですかと……。
 殿下のあまりの大盤ぶるまいに、ちょっとばかり恐縮ものの作品。
(Oct 05, 2009)

こっこさんの台所

Cocco / 2009 / CD

こっこさんの台所CD

 『ジュゴンの見える丘』 からおよそ2年ぶりとなる Cocco のミニ・アルバム。
 収録曲は4曲で──この分量だとミニ・アルバムというよりも、EPかマキシ・シングルが正しい?──、同じく 『こっこさんの台所』 のタイトルで刊行されたフォト&エッセイ集のコンセプトにあやかって、それぞれが春・夏・秋・冬の歌らしい……のだけれど。
 ずばり 『the end of summer』 というタイトルの2曲目以外は、いったいどこが季節の曲なんだか、よくわからなかった。
 1曲目の 『絹ずれ』 には「さくら色」という言葉が歌詞で使われているものの、別にそれって季語じゃない気がするし、3曲目は 『バイバイパンプキンパイ』 とタイトルにこそ季語が入っているけれど、それと歌詞がまるで無関係。最後の 『愛について』 も、ぜんぜん冬と結びつかない。まあ、要するに、それほどシビアな意味づけがあるわけではなく、ゆる~く四季にかけてあります、くらいの感じなのかもしれない。
 いずれにせよ、そんな揚げ足とりのようなことをしている自分が恥ずかしくなってしまうくらい、いい作品だったりする。英詞の小品といった感じの2曲目以外は、どれもシビアな現状認識にポジティヴなメッセージをぶつけた、それでいてなおかつキャッチーな曲ばかり。もとより歌のうまい人が、こういう前向きな歌を歌うと、説得力が違う。いまの Cocco には、そんじょそこらのアーティストでは到底、太刀打ちできない気がする。まいりました。
 とりあえず 『きらきら Live Tour』 のDVDのとりを飾った 『バイバイパンプキンパイ』 がようやくレコーディング作品として手軽に聴けるようになってたのが、なにより嬉しい。あとは同じようにライブとDVDでお披露目されたきりの 『藍に深し』 も、一日も早くリリースして欲しいところだ。ああ、待ち遠しい。
(Oct 21, 2009)

Como Te Llama?

Albert Hammond, Jr. / 2008 / CD

Como Te Llama

 ストロークスのギタリスト、アルバート・ハモンド・ジュニアが去年リリースしたセカンド・ソロ・アルバム。
 レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとか、ブラーのグレアム・コクソンとか、より重要だと思うバンドのギタリストのソロ・アルバムを軒並み無視している僕が、なにゆえそれほど愛着のないストロークスのギタリストの作品なんて聴いているかというと、それは単にHMVの在庫処分セールでとても安く売っていたからという、ただそれだけの理由による。こんなに安く手に入るなら──たしか千円もしかなった──聴いてもいいかなと思ってしまったのだった。
 ただ、そうはいってもまったく関心のないアーティストならば、いくら安くたって聴こうとは思わない。いちおう伏線があって、それはこの人が去年のサマソニに出演予定だったこと。結局キャンセルになってしまったけれど、それでも当初は初日のビーチ・ステージのとりを務めることになっていた。
 じつは僕はそのキャンセルの知らせでもって、初めてこの人の名前を知った(さすがに、よほど好きなバンドじゃないと、個々のメンバーの名前までおぼえていられない)。で、へぇっと思ったんだった。規模の小さいビーチ・ステージのこととはいえ、まがりなりにも、とりを務めちゃうんだと。いくらストロークスというネームバリューがあるにしても、それなりの音楽性がともなわなければ、そんないい扱いは受けないだろう。そう思ってちょっと気にかかっていたんだった。
 で、聴いてみれば、これが思いのほか僕のツボ。ペーヴメントあたりに通じるローファイで明るいギター・サウンドと、力みのないボーカルがとてもよかった。本家ストロークスのように時代に{くさび}を打ち込むような存在感はないけれど、その分、リラックスして聴けて、とても気持ちいい。下手したらストロークスよりもこっちのほうが好きかもしれないと思ってしまうあたり、俺って駄目かもと思う。
(Oct 22, 2009)