2018年のコンサート

Index

  1. エレファントカシマシ @ さいたまスーパーアリーナ (Mar 17, 2018)
  2. エレファントカシマシ/Spitz/Mr.Children @ さいたまスーパーアリーナ (Mar 18, 2018)
  3. 佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド @ TOKYO DOME CITY HALL (Apr 1, 2018)
  4. エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Jun 23, 2018)
  5. エレファントカシマシ @ Zepp Tokyo (Jul 6, 2018)
  6. FUJI ROCK FESTIVAL '18 @ 苗場スキー場 (Jul 27, 2018)

エレファントカシマシ

30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" FINAL/2018年3月17日(土)/さいたまスーパーアリーナ

 一年前に大阪城ホールから始まったエレカシのデビュー30周年記念ツアーもこの日がファイナル。
 昨年末までに四十七都道府県をまわり終えて、その(ほぼ?)全公演が完売だったとのことで、当然この日のチケットも完売。そこまで売れるとさすがにファンクラブでもいい席は難しいらしく、僕らのチケットもアリーナではなく一階席だった。
 ただ、一階席とはいっても前から五列目だったし、なにより場所はステージ真正面。距離こそ遠かったけれど、この日はこれまでになく演出が凝っていたこともあり、なかなか悪くない席だった。あと、すぐ目の前がPAブースだったから、大きな会場にしては比較的音のバランスがよかったのも吉。
 さて、この日のステージは一年前の大阪城ホールのときと同じように、過去の写真をコラージュしたフラッシュバック映像とともにスタートした──って僕は一年前のその公演はテレビでしか観てないんだけど。
 大阪城ホールではその映像が終わったあとで一呼吸おいておもむろにメンバーが登場したけれど、今回は映像の終了とともにバックでかかっていたノイジーなインスト・ナンバーがそのまま『3210』の生演奏へと引き継がれてゆくという趣向。しかもライトアップされたステージには、すでに金原管弦楽団のみなさんと山本卓夫氏率いるホーンセクション四人組が控えていて、最初から総勢十八名のフルメンバーでの演奏とくる。お~、さすが三十周年ファイナル。エレカシ史上もっともスタイリッシュなオープニング!
 ということでインスト・ナンバー『3210』から始まった以上、実質的な一曲目はとうぜん『RAINBOW』ということになる。
 これまでの公演ではライヴのクライマックスを飾っていたこの曲がいきなりの一発目。こりゃもう盛りあがり必至──かと思ったらそうでもない。しょっぱなということもあって、この日の『RAINBOW』は出力60%という感じ。
 宮本が疲弊しきった喉から絞り出すように歌う過去の熱演の記憶が鮮明なだけに、一曲目でこの歌がさらりと歌われたことに僕は驚いた。え、この曲ってこんなにふつうに歌えちゃうんだ? いままであんなにきつそうだったのは、さんざん喉を酷使した終盤に持ってきていたからなの? いまさらながら宮本浩次という人のボーカリストとしての喉の強さに驚かされた。
 つづく2曲目は『奴隷天国』。そしてこの曲では25周年のときと同じようにどーっと風船が降ってくる。
 あのときはアリーナにいたのでわからなかったけれど──あと、あの日は普通の風船のほかに巨大ボールも登場したので、ちょっと趣向が違ったけれど──、遠目にみるこの風船奴隷天国がかなりすごかった。落ちてきた風船をアリーナのお客さんたちが拾ってぶんぶん振りまわすから、アリーナはカラフルな風船のお花畑状態。コミカルかつすんげーきれい。でもおかげでぜんぜん曲に集中できない。おかげさまで史上で一、二を争う印象の薄い『奴隷天国』となりました。今回のツアーの白眉たる一曲だと思っていただけに、ちともったいない。まぁ、おもしろかったけど。
 もったいないといえば、ツアーの序盤で聴かせてもらった『やさしさ』もとても出来がよかっただけに、それがその後のツアーのセットリストから外れ、この日も演奏されなかったのも残念な点のひとつだった。
 その次の『今はここが真ん中さ!』や第一部トリの『俺たちの明日』ではホーンの音の抜けのよさが印象的だった。僕らがいた席がステージの真正面だったからか、この日はホーンがとてもきれいに聴こえた。その点はストリングスも同じ。これまでのエレカシの豪華版ステージのなかでも、今回はときびりホーンとストリングスの存在感が際立っていたように思う。
 あとね、なんかこれまでと違うぞと思わせたのが、宮本浩次ご本人。
 やはり去年四十七都道府県をまわって日本中の人から祝福され、はたまた三十周年ということでメディアにも多数露出して、あちこちの有名人からリスペクトを受け、ついには紅白歌合戦への出場を果たしたことが、宮本にこれまでにない自信をつけたのだと思う。以前と同じようなことをしていても、なんかひとつひとつの動作に自信がみなぎっているように感じた。宮本浩次、なんだかこれまでよりひとまわり大きくなった気がしました。
 だってさ、『i am hungry』の前のMCでの「アイム・ハングリー! アングリー! お口あんぐり~! ぶわー!!」なんて、あんなのやったことあった? 宮本がだじゃれ言うの、初めて聞いた気がするんだけど。
 お尻を突き出しての「おならブー!」の連発といい、なんかもう自分はなにをやってもいいんだ、なにをやってもみんな喜んでくれるんだということに気がついてしまった子供のよう。五十を過ぎて童心がえりを見せるわれらが御大だった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 3210
  2. RAINBOW
  3. 奴隷天国
  4. 今はここが真ん中さ!
  5. 悲しみの果て
  6. 星の砂
  7. i am hungry
  8. 夢のかけら
  9. 風に吹かれて
  10. ベイベー明日は俺の夢
  11. 昔の侍
  12. さらば青春
  13. 笑顔の未来へ
  14. 桜の花、舞い上がる道を
  15. ズレてる方がいい
  16. 今を歌え
  17. 風と共に
  18. ガストロンジャー
  19. 俺たちの明日
    [第二部]
  20. 男餓鬼道空っ風
  21. この世は最高!
  22. RESTART
  23. 夢を追う旅人
  24. 今宵の月のように
  25. Easy Go
    [Encore 1]
  26. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
  27. so many people
  28. 友達がいるのさ

  29. ファイティングマン
    [Encore 2]
  30. 四月の風

 さて、ヒット曲中心のこの日のセットリストにあって、レアだったのが『ベイビー明日は俺の夢』。『風と共に』のカップリングだったこの曲、生で聴くのは僕はこれが初めてだった(ちなみに夢のなかでなら、フェスのステージで宮本が変な服装で歌っているのを観たことあります)。おまけにこの日はそれに宮本自身が高速道路の車窓からスマホで撮ったという動画の演出つき。映像自体は平凡だけれど、かのデジタル音痴な宮本氏がみずから撮ったってのが貴重だった。
 そういやこの曲のために石くんがダブルネック・ギターを新調しましたとか紹介されていたけれど、あのギターってどんな使われ方をしていたんだろうか? ぜんぜんわからなかった。
 そうそう、『風と共に』でも、おっと思ったレア・シーンがあった。曲のエンディングの部分、いつもは宮本のアコギで静かに終わるこの曲で、この日は宮本がギターをぶらさげたまま花道に出て、その直前までハンドマイクで熱唱していた。おいおい大丈夫かと思ったら案の定。あわててマイクスタンドのところまで戻ってみたものの、アコギの弾き語りが思うようにいかない──とみるや、宮本がさっと合図を送ると、それを受けて最後のギターのストロークをミッキーがエレキで引き取ってみせたのだった。おー、なんて息があっているんだ。さすが新相棒。ミッキー、すっかりエレカシの一員だな。
 そういや書き忘れていましたが、この日のキーボードは村山☆潤でした。ツアーの後半はサニーさんだったし、ムラジュンは FLOWER FLOWER の新譜のリリース直後で忙しそうだから、この日もサニーさんかと思っていたら、そうじゃなかった(サニーさんは翌日のミスチルのステージに登場)。ムラジュンもすっかりエレカシ・ファミリーの一員の感あり。
 この日の演出でいちばんびっくりしたのが、第二部の『RESTART』でステージが火を噴いたこと。ストーンズやサザンのライブでは観たことあるけれど、よもやエレカシのステージで火柱があがるのを観る日がくるとは思わなかった。
 あれってきっと、消防局とかに届出が必要だよね? まさかライヴのためにお役所に届け出るようになるとは。いやぁ、大物になったなぁ……。
 そういや、いつのまにか二部構成(三部構成?)もすっかりあたりまえの光景になっていて、この日は第一部のあとにけっこうまとまったインターバルがあった。見ると僕らの前の女の子たちがおしゃべりしながらお菓子を食べている。なんとエレカシのライブでも噂のもぐもぐタイムが。もしやここが時代の最先端か。
 第二部のトリでは、新曲『Easy Go』が初披露された。なんかやたらと前評判が高いからどんな曲かと思っていたら、とても勢いのある明朗なパンク・ナンバーだった。
 ロートル・ファンとしては、『奴隷天国』のあとで『真冬のロマンチック』とか出しててきたときに、かわりにこういう方向に進んでもよかったんじゃない? そしたらまた人生変わってたんじゃ? と思ってしまうような感じの新曲。
 このところの曲のつねで、これまたキーがきつそうで、まだ十分に歌いこなせていない感があったけれど、いまや『RAINBOW』があんなにすんなり歌えるんだから、この曲もしばらくすればこなれるんでしょう。そういや「イージー、イージー」ってサビのフレーズを聴いて、なんかそういう歌詞のバラードが過去にあったよねぇ……とか思いました(こっちの曲のほうが断然好きだけどね)。とりあえず、「神様、俺はいま人生のどのあたり?」というフレーズが切実でよかった。
 最初のアンコール(それとも第三部?)の一曲目『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』はストリングス&ホーンがいるときのとびきりの定番曲ながら、この日は間奏でのメンバー紹介がふるっていた。宮本がメンバー紹介をしながら、ひとりひとりにソロを振ってゆくのだけれど(ストリングスのメンバー全員の名前が覚えられず、途中からカンペ使ってました。)、ソロ演奏のさなかでも宮本は遠慮なくスキャットしまくり。しかもソロが終わらないうちに次の人の紹介を始めちゃうし(ソロが終わったら拍手の間くらい取ろうよ)。要するにソロのあいだも宮本くん目立ちまくり。
 でもそんな宮本くんの失礼さをゲストのみなさんも個性とみなし、温かく見守って笑って受け入れてくれている。それだからこそ、宮本も安心してやんちゃをしてられるんだろうなって。こんなところも宮本変わったなぁと思わせたゆえん。
 なんかそのほかにもいろいろと盛りだくさんの充実したコンサートだったけれど、いいかげん記憶もあやしくなっているし、この日のライヴは生放送されたし、どうせ後日映像作品としてリリースされるのだろうから、最後にひとつだけ書いて、あとは割愛。
 この日の二度目のアンコールで一曲だけ演奏された最後の曲は『四月の風』だった。
 歌の途中で花道に出てきた宮本の歌声が一瞬途切れたから、あれどうしたと思ったら、左右の大型スクリーンに大写しになった宮本の顔は涙でぐしょぐしょだった。感ここに極まったらしい。そんな宮本を励ますように、エレカシのライヴにしては珍しく、サビで合唱がまき起こる。なんとも感動的なエンディングだった。もうこれ以上は望めまい。
 僕も一緒に歌おうとしたんだけれど、やめておいた。声を出そうとしたら、涙があふれ出しそうになったから。
 あぁ、あふれる熱い涙ってのはこういうことかと思った。
(Mar 31, 2018)

エレファントカシマシ/Spitz/Mr.Children

30th ANNIVERSARY TOUR "THE FIGHTING MAN" SPECIAL ド・ド・ドーンと集結!!~夢の競演~/2018年3月17日(土)/さいたまスーパーアリーナ

 まずは初めに謝っておきます。これから書くことは単なる自慢話でしかないかもしれない。
 エレカシが30周年記念ツアーの締めに、スピッツ、ミスチルを対バンに迎えてスペシャル・ライヴを行うと発表されたときには、そんなのレアすぎてチケット取れないんじゃないかと思ったんだけれど、エレカシのファンクラブ枠が多かったのか、いとも簡単に取れちゃいました。それも取れちゃったとか抜かすんじゃねぇって怒られそうな、とんでもなく素晴らしい席が。
 いや、馬鹿な話だけれど、僕は実際に当日会場で席につくまで、自分の手元にあるのがどれほどのプラチナ・チケットなのか、まったく認識してなかった。
 まぁ、手元にあるとはいっても、この日は全席、電子チケットだったから、いつものように紙のチケットが手元になかったってのも油断した要因だと思う(個人的には電子チケットは人生初)。うちの奥さんから一列目と聞いても、へー、でもきっと隅のほうなんでしょう? とか思っていた。
 でもさ。会場についたら、アリーナがやたら広いわけです(そりゃそうだ、スーパーアリーナなんだから)。いちばんうしろの入り口から入って、席に着くまで歩く歩く。で、いちばん前の列にたどり着いて、自分の席番号を確認して愕然とした。
 え、ここなの?
 ほとんど真ん中じゃん……。
 そう、僕らの席はアリーナの最前列、ステージに向かってやや左寄りのところだった。で、これって僕個人の意見では、この広い会場で最高の席だった。
 単純に考えれば、僕らよりもセンターに近い、ステージのど真ん中の席のほうがいいように思うでしょう?
 違うんだな。そういう席だとボーカリストに隠れて、ドラマーが見えない。
 宮本命でミヤジが見れればそれでいいって人はそういう席が最高かもしれないけれど、僕は違う。最後にギターを弾いてから何十年も過ぎているけれど、それでもやはり、いまでも気分はミュージシャン。だから単にフロントマンに近いよりは、バンド全体が見渡せる席がいい。
 でもって、さらにいえば、右よりは左側のほうがいい。なぜってこの日のボーカリストは三人とも右利きだから。
 右利きのボーカリストがギターを弾きながら歌を歌う場合、おのずと身体はやや右向きになる。つまりステージに向かって左側、僕らの席のほうを向くわけです。逆側だとギターの裏側を眺めることになる。
 要するに僕らの席は、バンドのメンバー全員を見晴らしながら、各フロントマンがギターを弾く姿をその指さばきまでをばっちりと拝める、この会場において最良の席だったわけです。僕らのすぐ斜め前にテレビカメラの撮影スタッフが陣取っていたのが、僕らの席がどれだけいいポジションだったかのを物語っている。
 いやぁ、ほんとすごかった。二万人入る会場での最前列ってはんぱないです。アリーナ規模を前提とした演奏をライブハウス並みの距離で観るのって、ライフハウスで同じ距離で観るのとはまた違う感触がある。なんかとても非現実的な。ほんと夢でも見ているようなってのはこういうことかなと思いました。
 だってないよ? スピッツとミスチルとエレカシを十メートルも離れてない距離から観るなんて、こんな贅沢な体験。しようと思ったって、そう簡単にはできない。おそらくコネがあったって、おいそれとはできない。というか、おそらく今後二度とない。
 かれこれ三十年以上ライヴ会場に足を運んでいるけれど、おそらく最前列のチケットってこれが初めてだと思う。それがこんなプレミアム・ライヴという……。
 俺はいったいどんな幸運な星の下に生まれてきたんだろうって思ってしまいました。

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 さて、あまりの神席に舞いあがってすっかり前ふりが長くなってしまったけれど、本編はここから。この日のスペシャル・ライヴのオープニングを飾ったのはスピッツだった。
 年齢的にもキャリア的にもミスチルのほうが下だから、トップバッターはミスチルかと思っていたのだけれど、やっぱセールスの順でしょうか? それともミスチルとエレカシは一昨年のミスチルのツアーで対バンしたそうだし、小林武史のつながりもあって、ミスチルのほうがいくらか距離が近いのか。いずれにせよこの日の先頭バッターはスピッツだった。
 で、僕らにとってはそれがラッキーだった。
 いやぁ、カッコよかったんだ、この日のスピッツが。もう登場シーンからして最高。バンド自身のオリジナル曲(『SUGINAMI MEMORIES』だったとか)のインスト・バージョンをBGMに、ぐるぐる回転する放射状のライトを背にうけて登場してきた四人の姿に、僕は思わず鳥肌がたった。まさかスピッツの登場にそれほどまでに感動するなんて、自分でもびっくりした。
 まぁ、感動の一因はさきほど熱弁した席のよさをそのときに改めて実感したからってのも大きい。人がステージに立つのを見て、改めて、うわっ、こんなに近いんだと思った。で、いざ演奏が始まってまた感動がひとしおとなった。
 だって、ドラムの人がスティックを打ち鳴らす、カッ、カッ、カッ、カッってカウントの音が直接聴こえてくるんだよ? どんだけ近いんだよって話で。

【SET LIST】
  1. 春の歌
  2. 恋する凡人
  3. 8823
  4. 初恋クレイジー
  5. チェリー
  6. 愛のことば
  7. スターゲイザー
  8. 浮雲男
  9. みなと
  10. 涙がキラリ☆
  11. さわって・変わって
  12. スパイダー
  13. トンガリ'95

 いやぁ、もうとにかく臨場感がすごかった。アリーナなのに、ちゃんとバンドの音がじかに聴ける。目の前でプレーしている楽器の音がそのまま聴こえてくる。実際には左右のスピーカーからの音なのかもしれないけれど、観ている分には直接アンプやドラムから出ている音に聴こえる。それがもうたまらなく感動的だった。
 で、この距離で聴いてみて初めて、僕はスピッツにすごくロックを感じた。以前に同じ会場で彼らのワンマンを観たときには音作り的にはとくに感銘を受けなかったんだけれど、この日はそのバンド・サウンドをとても素敵だと思った。
 四人がそれぞれの音をしっかりと出して、そのアンサンブルがばちっとはまり、草野マサムネという人の歌の世界を引きたてている。そういうロック・バンドとして、非常に芯の通ったしっかりしたものを感じた。
 四人それぞれの佇まいもいい。草野くんはたんに歌が上手いだけではなく、ギターでも予想外に存在感のある音を出していた(あと、口笛もハーモニカもうまかった)。地味なルックスで派手に飛び回るベースの田村明浩、派手な見ための割にはプレーが地味なギターの三輪テツヤ、ちゃんとコーラスも務めるドラムの崎山龍男、そしてサポートのクジヒロコさん。このうちの誰ひとり欠けてもスピッツの音にはならないぞって。そんな感じの一体感のある、とてもいい演奏だった。
 演奏時間も一時間以上あったと思う。いかにもスピッツらしい軽やかなエレカシのカバー『浮雲男』や大好きな『8823』も聴かせてもらって大満足だった。
 この日の三バンドで個人的にもっともよかったのはスピッツだった(わりぃエレカシ)。でも、おそらくそう思ったのは僕がとても近くで観ることができたからだ。スピッツはやはりアリーナよりもライブハウスで観るべきバンドな気がした。

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 二番手のMr.Childrenについては、僕はアルバム一枚しか聴いたことがないし、そのアルバム『BOLERO』も『Everything (It's You)』が大好きでその曲が聴きたいからって理由で買って、その曲以外はほとんど聴き込んでない。テレビもあまり観ないから、CMソングやドラマのタイアップ曲にもなじみがない。
 要するにあまり知らない──とは思っていたけれど、本当に知らなくて自分でもびっくりした。知ってる曲が3曲しかなかったのはともかく、桜井和寿以外のメンバーをひとりも知らなかったのにびっくり。あとの人、今回はじめて見たよ。
 いやもとい。僕はかつてエレカシが出たAct Against AIDSでこのバンド観ているはずなんだった(宮本もMCでミスチルをはじめて観たのはそのときだといっていた)。なので初めては嘘。たんに覚えていなかっただけ。
 まぁ、とはいえそのときの会場は武道館だし、僕らは一階席か二階席にいて、あちらはまだ新人バンドのころだったから、個々のメンバーまで知らなくても当然ちゃあ当然なんだけれど。
 ということで、今回ほぼ初めてちゃんと観ました、ミスター・チルドレン(宮本はなぜか一度もミスチルという略称を使っていなかった)。
 この日の出演バンドはどこも構成が一緒で、ドラム、ベース、ギターの三点セットにギター・ボーカルのフロントマンがいるカルテット。で、どこもメンバーチェンジなく四半世紀一緒にプレーを続けているという。そういう同世代のバンドが三つも集まったってのもかなりレアでしょう。
 ミスチルはミスチルでかなり見ためのアクが強かった。ギターの田原健一という人はロック畑の内藤陳みたいだし、ベーシストの中川敬輔は成ちゃんに通じるナイスミドル。そして大口あいてニコニコとドラムをたたく個性豊かなドラマーの鈴木英哉(この人がとにかくめだってた)。あと、エレカシでもお馴染みのサニーさんがキーボーディストとして参加して、コーラスでも存分に存在感を発揮していた。ミスチルの音楽って、サニーさんいないと成り立たないんじゃないだろうか(でもサニーさん、僕らの席からだとギターの人の陰になってよく見えなかったのが残念なところ)。
 そしてなにより桜井和寿。この人がやっぱすごい。

【SET LIST】
  1. Everything (It's you)
  2. HANABI
  3. innocent world
  4. 太陽ギラギラ
  5. and I love you
  6. here comes my love
  7. himawari
  8. 名もなき詩

 まずファッションがすごい。ドレープたっぷりの胸元のあいた白いドレスシャツにコート風ジャケット、ボトムはぴっちりしたブラック・ジーンズにナイキのスニーカー。弾くギターもラメが入ってキラキラした緑のストラトキャスターだし。少なくてもエレカシ、スピッツとは確実に方向が違う。
 キャラも違う。とにかくハイテンション。宮本のずれっぷりとか、草野くんの自然体とかと違って、ロック・スターかくあるべしみたいなキャラを自然と演じちゃっているような感じがした。僕がふだん接しているミュージシャンにはあまりいないタイプ。なんとなく矢沢栄吉や藤井フミヤを観たときに近い感覚があった(それはもしかしてオーラがあるって話?)。
 バンドの音はさすがに売れてるだけあってアンサンブルがきれい。ただ逆にいうとまとまりすぎていて、おもしろみには欠けるかなぁと思わなくもない。ま、その点は最近のエレカシも同じだけど(だからこそこの日はスピッツがいちばんよかったわけで)。
 でもね、エレカシのカバーの『太陽ギラギラ』はよかった。掛け値なしによかった。エレカシのバージョンはオーソドックスだけれど、ミスチル・バージョンにはオルタナティヴな感触があって、そこにエレカシとはまた違った深い情感が宿っていて、非常にカッコよかった。スピッツとのカバー合戦ではミスチルの勝ちだと僕は思った。
 あとね、一曲目が『Everything』ってのが個人的にはもー。ミスチルだったらこの曲が聴きたいと思っていたその曲から始まるんだから──あと、二曲目はうちの奥さんが聴きたいといった曲だった──この日の僕らはもう本当にラッキーだった。
 ま、なんにしろ桜井くんはとてもいいやつでした。「今年はこの日をいちばんのモチベーションにしてきました」なんて嬉しいことを言ってくれてたし。あと、エレカシを初めて観たときの思い出話もおもしろかった。
 なんと彼が初めてエレカシを観たのは、明治大学の学祭だそうですよ。おー、知ってるよ、俺それ。なんたってそのころまさに在学中だったから。まだファンじゃなかったから観なかったけど、へー、エレカシがくるんだとは思っていた。その会場にのちのミスチル桜井までいたとは……。

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 ということで、ミスチルも終わってこの日の主役、エレカシが最後に登場。
──とはいっても。この日のエレカシは前日に三時間を超えるライヴをしたあとなわけです。さすがに燃えつき感がはんぱなかった。
 宮本も「この企画の意味がわからないんですが」というような、スピッツとミスチルに対して失礼千万な発言をしていたけれど──スタッフ主導で決まったイベントなのかもしれないけれど、それをいっちゃあオシマイよ──確かにこのブッキングはモチベーション的に無理があったと思う。イヤモニの調子が悪くて、宮本がいらいらする場面なんかもあったし、前の二つのバンドと比べるとスタッフの技量にも差を感じてしまった。なんか主催なのに準備が足りてない感ありあり。
 でも逆にいうと、前日にあれだけ充実したコンサートを見せてもらったから、まぁこれくらいでも十分かなと思わせるものもあった。前日の管弦楽付き豪華ワンマンに比べるのは難があるけれど、でも6ピース・バンド(この日も当然ミッキーと村ジュンが一緒だった)としてのエレカシには通常営業だからこそって安心して聴けるよさがあった。前日が豪華な食材をふんだんに使ったフレンチだったとしたら、この日は大好きな定食屋の定番メニューみたいな。
 セットリストも前日の超ダイジェスト版のような感じ。『RAINBOW』、『奴隷天国』で始まり、代表曲を並べて、新曲『Easy Go』のあと、『FLYER』で締めてみせた。

【SET LIST】
  1. RAINBOW
  2. 奴隷天国
  3. 悲しみの果て
  4. 星の砂
  5. 風に吹かれて
  6. 笑顔の未来へ
  7. 桜の花、舞い上がる道を
  8. 風と共に
  9. ガストロンジャー
  10. 今宵の月のように
  11. Easy Go
  12. FLYER
    [Encore]
  13. ファイティングマン (w/スピッツ・Mr.Children)

 ツアーではやっていなかった『FLYER』が最後ってのがいい。「オレは右から、オマエは左から、そしていつの日にか落ち合おう」って歌詞はスピッツとミスチルへのメッセージでしょう。別々の道を歩んできた三つのバンドがこの夜、この場所で落ち合った。宮本はそのことへの感謝をこの歌に託してみせた。いやぁ、いい話だ。
 あと、『Easy Go』では「まだ息継ぎができないんですよね」と宮本が練習不足を嘆いていたのがおもしろかった。夏のツアーでもっと上手い『Easy Go』が聴けたらいいなと思う。でもその前にさっさとレコーディング音源が聴きたい。6月のアルバムが楽しみだ。
 この日のアンコールはたった一曲だけ。それもよもやのコラボ。フロントマン三人を前に、バックはエレカシとスピッツのメンバーで、ツイン・ドラム、ツイン・ベース、ツイン・ギター、そしてミスチルのメンバーはダンス(なんで~)での『ファイティングマン』だった。
 エレカシってかたくなに他のバンドとの共演を拒んできた感があったので、この日みずから率先してスピッツのメンバーと一緒に演奏してみせたのには本当に驚いた。それぞれのバンドのキーボードの人たちが村ジュンの狭いキーボードブースにぎゅうぎゅう詰めで総出演していたのもなにげに最高だった。
 まぁ、演奏自体はお祭り騒ぎで『ファイティングマン』本来の持ち味はなくなってしまっていたし、僕個人はこういう企画はそれほど好きではないんだけれど(桜井くんはともかく、草野くんはちょっと困った感じじゃなかったですか?)、でもやっている宮本は本当に楽しそうだった。ステージであんなに幸せそうな宮本を見たのは初めてな気がする。あんな顔を見せられちゃあ、この企画を悪く思えるはずがないじゃん。
 いやぁ、ということで、最後まで見どころだらけのすごい一夜だった。生涯に一度あるかないかって貴重な経験をさせていただきました。この日のチケットを僕に与えてくれたどこかの誰かさんに心からのお礼を申し上げる(ふつうにイープラスで取ったんだけどね)。どうもありがとう~。
(Mar 31, 2018)

佐野元春&ザ・コヨーテ・バンド

「MANIJU(マニジュ)」東京特別講演/2018年4月1日(日)/TOKYO DOME CITY HALL

MANIJU(初回限定ボックス盤)(DVD付)

 佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドのアルバム『マニジュ』のツアー最終公演を観た。
 TOKYO DOME CITY HALLってあまり馴染みがなくて、この日の僕らの席は第三バルコニーなんていうから、どんな上のほうかと思ったら、ぜんぜん上じゃなかった。このホールは地下へと掘り込むような構造になっているので、エントランスのフロアがそのままが最上階の第三バルコニー。で、僕らの席は2列目──といいながら、席番号の関係で実際には最前列(1列目は左右のみらしい)。しかもステージほぼ真正面。ということで、かなりいい席だった。なんかこのところチケットに恵まれている。
 去年サマソニで観たときには、その音の小ささでびっくりさせたコヨーテ・バンドだけれど、この日はライブハウスということで、大きすぎず小さすぎずなジャストな音量。このバンドにはきっとこのくらいのハコがちょうどいいんだろう。
 コヨーテ・バンドのメンバーは、公式サイトのツアーのページでは「佐野元春:Vo. & G. 小松シゲル:Dr. 深沼元昭:G. 藤田顕:G. 高桑圭:B. 渡辺シュンスケ:Key.」となっているけれど、この日はそこにパーカッションのスパム春日井という人が加わっていた(確かサマソニにはいかなった……よね?)。
 そういえばギタリストの藤田顕という人(プレクトラムの人だそうです)もいつからメンバーになったのか知らないけれど、この人のことはサマソニのときに初めて観た。へー、左利きのギタリストがいるんだと思いました。
 佐野さんがほとんどギターを弾かなくなったのは、この人の加入が大きいんだろう(この日も本編でギターを手にしたのは数曲だったと思う)。五人編成だったころのコヨーテ・バンドでは深沼くんの存在感が際立っていたけれど、いまはそれほどでもないし。そういう意味では、ツイン・ギターになって、バンドとしてバランスがよくなったように思う。
 いやしかし、途中のMCで佐野さんが「ハートランドで13年、ホーボー・キング・バンドで12年、そしてコヨーテ・バンドも今年で13年」というような紹介をしていて、え、もうそんなになるのかと驚いた。正直なところ、佐野元春という人が作るドラマチックな音楽には、ハートランドやホーボー・キング・バンドのように、ホーンやキーボードで飾り立てた彩り鮮やかな音のほうが似あっていると思うので、コヨーテ・バンドのようにギター・オリエンテッドでドライな音を響かせるバンドですでにそんなにキャリアを重ねていたとは思わなかった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 境界線
  2. 君が気高い孤独なら
  3. ポーラスタア
  4. 私の太陽
  5. 紅い月
  6. いつかの君
  7. 世界は慈悲を待っている
  8. La Vita E Bella
  9. 空港待合室
  10. 優しい闇
    [第二部]
  11. 白夜飛行
  12. 現実は見た目とは違う
  13. 天空バイク
  14. 悟りの涙
  15. 詩人を撃つな
  16. 朽ちたスズラン
  17. 新しい雨
  18. 夜間飛行
  19. 純恋(すみれ)
  20. 禅ビート
  21. マニジュ
    [Encore 1]
  22. 新しい航海
  23. レインガール
  24. 約束の橋
    [Encore 2]
  25. ヤァ!ソウルボーイ
  26. スウィート16
  27. アンジェリーナ

 この日のライブは佐野さんいわく「コヨーテ・バンドの曲をたっぷりと聴いてもらおうと思います」とのことで、本編はコヨーテ・バンド名義で出した最近の四枚のアルバムのみからの選曲だった。それも第一部で過去三作品の曲を聴かせたあと、休憩をはさんで第二部で新作『マニジュ』の曲をほぼ全曲、ほぼアルバム収録順通りに聴かせるという趣向(あとで確認したところ、『蒼い鳥』だけ演奏されず、『純恋(すみれ)』と『夜間飛行』の順番が入れ替わっていた)。そうとは知らなかったので、わずか45分で第一部が終わったのには思わず笑ってしまった。短いでしょ、それはさすがに。クラシックのコンサートじゃないんだから。
 でもそうやって新譜の曲だけを別枠で聴かせてくれたことで、今回のアルバムの音作りの違いが明確にわかる内容になっていた。
 第一部の演奏はギター二本のコードで隙間を埋め尽くすような典型的なギター・サウンドって印象だったけれど、『マニジュ』の曲ではギターが一歩うしろに下がって、キーボードやパーカッションがめだつ演奏が多かった。『悟りの涙』のアレンジには山下達郎あたりを思い出させる80年代テイストが濃厚だったし、ボブ・ディランへのオマージュ感たっぷりな『朽ちたスズラン』のようなフォーク・ソングもあったりする。第二部ではそんな演奏の幅の広さが印象的だった。ライブではこの日初めて演奏したという『夜間飛行』のダークでムーディーな演奏もよかった。
 そういう意味ではアルバム『マニジュ』の音作りの豊かさは佐野元春という人の昔からのイメージには近い。コヨーテ・バンドが長く続いてきたのは、ギター・バンドとしての明確なコンセプトを持ちつつ、そういうバリエーションをこなせる技量があったからなんだろうなと思いました。佐野さん本人にしても会心の出来だからこそ、今回のツアーでは新譜だけを二部構成で聴かせるほどの力の入れようなんだろう。
 音楽と関係ないところでおもしろかったのは、第一部と第二部で佐野さんの衣装が違ったこと。最初はカジュアルなジャケット姿だったのに、第二部ではグレーのスーツにネクタイでビシッと決めていた。で、アンコールではまた別のシャツ(Tシャツとかじゃない普通の黒いシャツ)に着替えて出てくるという。佐野さんってそういうとこもスタイリッシュだよねと感心しました。あと、旧譜を語るときにやたらと『Zooey』のタイトルを忘れてるのもおかしかった。
 僕はコヨーテ・バンドの曲のタイトルをほとんどおぼえていない似非ファンなので(恥ずかしながら、前述の曲名はすべて後付で調べたもので、聴いてたときにはわかってません)、やはり知っている初期の曲が並ぶアンコールにもっとも開放感を感じたのだけれど──『サムデイ』をやらずに、あえて『レインガール』や『スウィート16』を聴かせてくれる姿勢が嬉しかった──、そんな僕でもこの日のコンサートは本編を含めて申し分なく楽しめた。
 40年近いキャリアを誇るアーティストがそのキャリアに溺れず、新譜主体でこういう新鮮なコンサートをしてみせてくれるってのがとても素敵だと思った。
(Apr 22, 2018)

エレファントカシマシ

2018年6月23日(土)/日比谷野外大音楽堂

Wake Up(初回限定盤)(DVD付)

 二年ぶりのエレカシ野音はひさしぶりの雨だった。
 最近はエレカシ人気の高騰と転売屋対策でチケットの取り扱いがすっかり面倒になってしまっていて、ファンクラブでも購入できるのはひとり一枚までだし、入場の際にはファンクラブの会員証と身分証明書の提示が求められる。
 今年はめでたく夫婦そろってチケットを入手できたけれど、そんなわけで席は離ればなれ。また、入場の際に必要だというファンクラブの会員証を僕がなくしたので(なんでなくなるかな?)、入場時に捕まって時間を取られるとまずいからと、開演時刻の一時間も前に会場についた。
 そしたら雨だというのに野音のまわりはすでに外聞きの人たちでごった返している。入場待ちの行列も長蛇の列。結局ざあざあ降りの雨のなか、入場するまで四十五分近く待たされることになった。でもまぁ、雨のせいで入場が押していたせいか、IDチェックがなかったのは不幸中のさいわい。なんのおとがめもなく無事に入れました。
 前回のさいたまスーパーアリーナで史上最高の席をゲットした僕のチケット運はいまだに続いていて、この日も前から四列目という特等席だった。前はすべて背の低い女性陣だから、視野を遮るものはなにもない。でもって、宮本の白シャツの皺やら、ストーンズ風のお辞儀をしたトミのつむじが肉眼で確認できるくらい近い。当然かもしれないけれどスーパーアリーナの一列目より野音の四列目のほうが確実に近い。
 俺はそこまで熱心なファンじゃないので、観られさえすれば、なにもこんなに近くでなくてもいいんだけどな……なんて罰あたりなことを思っていたんだけれど、でもこの日は雨が降っていたので、いざ始まってみたらこの近さがとてもありがたかった。
 なんたって近いもんだから、視野に入るのは照明に照らされたステージばかりなわけです。おかげで途切れとぎれに降りつづけた雨がぜんぜん気にならない。閉演後に奥さんと合流して「それほど降ってなくてよかったね」っていったら、「なにいってんの、すごい降ってたよ」といわれて、違う会場にいたのかと思ったくらい。席が違うと印象もずいぶんと違うものらしい。
 さて、そんなわけで「ごめんなさいね、熱烈なエレカシ女子のみなさん」と謝りたくなるようないい席で観させてもらった二年ぶりの野音。この日のオープニングを飾ったのは新譜のタイトル・ナンバー『Wake Up』だった。さらに二曲目には『Easy Go』がつづく。
 野音のわずか二日後にはツアーが始まるから、新曲群はそこまで温存するかと思っていたので、これには意表を突かれた。そもそも、これまでの野音って懐古モードで始まるのが常だったから、まさか新譜のタイトル・トラックと代表曲を一発目に持ってくるとは思わなかった。
 最終的にこの日は『神様俺を』『いつもの顔で』『旅立ちの朝』『オレを生きる』も披露された。アルバム収録のシングル曲はひとつも演奏されなかったけど、それでもこれでたぶん新曲のうち『自由』をのぞく全曲がライヴで公開されたことになる。
 野音というと温故知新な「過去のお宝ナンバー発掘」ライヴという印象が強いし、実際にこの日も前半にはエピック時代の名曲をずらりと並べて、僕のようなロートル・ファンを大喜びさせてくれたわけだけれど、この日はそこに初めて聴かせてもらう新曲群が加わったことで、これまでとはひと味違うフレッシュさがあった。新たな十年に向けての第一歩をつよく印象づける、とてもいいコンサートだったと思う。
 新曲群については二週間後にZepp Tokyoでふたたび聴けると思うので、そのときにあらためて書くことにして、今回は省略。
 やっぱ野音といえば、普段のツアーでは聴けないオールド・ナンバーがたっぷりと演奏されるのが醍醐味でしょう。この日も三曲目の『おはよう こんにちは』からは古いナンバーのオンパレードで、そのワン・アンド・オンリーな世界をたっぷりと楽しませてくれた。
 あいかわらず初期の曲──特に宮本がハンドマイクで歌う曲──の迫力には圧巻の凄みがある。それが至近距離でみるとなおすごい。宮本がぎょろりと目をむき、喉も裂けろとばかりに絶叫する姿をわずか数メートルの距離で観られるというのは、これはもうほかにたとえようのない経験だった。
 宮本、なんであんなに細くて、あんなにパワフルなんだろう? 同い年としてもう圧倒されてしまう。僕もどちらかというと痩せている方だけれど、さすがにあそこまでじゃないし、そもそも体力がけた違い。第一部だけで疲れてしまって、第二部に入るころにはステップを踏むのが勢一杯なんて自分が情けなくなった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. Wake Up
  2. Easy Go
  3. おはよう こんにちは
  4. 浮き草
  5. 上野の山
  6. 人間って何だ
  7. おれのともだち
  8. 星の砂
  9. 珍奇男
  10. 武蔵野
  11. 神様俺を
  12. いつもの顔で
  13. さよならパーティー
  14. かけだす男
  15. Destiny
  16. なぜだか、俺は祷ってゐた。
  17. ズレてる方がいい
  18. オレを生きる
  19. RAINBOW
    [第二部]
  20. 今宵の月のように
  21. 笑顔の未来へ
  22. 友達がいるのさ
  23. シグナル
  24. 悲しみの果て
  25. 歩いてゆく
  26. 月の夜
  27. 旅立ちの朝
  28. 男は行く
    [Encore]
  29. 星の降るような夜に
  30. ファイティングマン

 野音のキーボードは今年も細海魚さん。やっぱりエピックの曲にスポットをあてるから、細海さんが適任ってことなんでしょうかね。優しいオルガンの音が心地よかった。
 去年のツアーではしゃべりまくりだった宮本くん。この日は一転してほとんどMCなしだったけれど、『おれのともだち』ではそんな細海さんとのレコーディング秘話を披露していた。最初に細海さんがアレンジしてくれたのに、宮本が途中から別のアレンジにしたくなり、最終的には細海さんの優しいアレンジと、宮本の乱暴なアレンジが相まって、いい感じに仕上がった……みたいな話(うろ覚え)。あまり鍵盤のイメージのある曲ではないので、へーと思いました。
 その曲もよかったけれど、個人的な前半の山場はそのあとの『珍奇男』から『武蔵野』への流れ。どちらもエレカシ史上もっともダンサブルな曲だと思っているので、ここでのグルーヴの気持ちよさは半端なかった。そのちょっとあとの『さよならパーティー』もあわせて、ここいら辺が僕にとっての前半のハイライト。
 あと、野音だと『なぜだか、俺は祷ってゐた。』とか、新曲『オレを生きる』などの侠気{おとこぎ}を感じさせる激レアなバラードが、すんげー沁みる。宮本、カッコよすぎる。
 第一部のとりの『RAINBOW』では、サビのコーラスに宮本のボーカルがエコー(リバーブ?)で繰り返される演出があったのにも、おおっと思った。いままであんなのやってなかったよね?(え、俺が気がつかなかっただけ?)
 残念だったのは、第二部に入って最初の『今宵の月のように』では歌いはじめに宮本の声がかすれてしまっていたこと。何曲かあとの『悲しみの果て』もそうで、不思議とこれらの歌い慣れているはずの曲で、喉の不調を感じさせた。なので二日後のツアー初日が喉の不調により延期になったと聞いたときには、あぁ、やっぱりと思ってしまった。さしもの宮本も五十の坂を超えて、さすがに喉の酷使に耐えられなくなってきているだなぁと思わせたんでしたが──。
 それらの曲よりもあとに演奏された第二部の締めの『男は行く』──。
 この曲のボーカルがとんでもなかった。なんでさっきまであんなしわがれ声を出していた人が、こんなに爆発的な歌が歌えるんだって、呆れてしまうほど圧巻の声量。演奏もラウドで素晴らしかった。
 この曲はこれまで宮本が坐って演奏するのが常だったけれど、この日は立ったままのパフォーマンスだった。それがよりいっそう能動的な印象を与えて、この曲の並々ならぬ破壊力を増幅させていた気がする。直前のどこかのフェスで最後にこの曲をやって大いに盛りあがったと聞いていたけれど、なるほど、こんなもの聴かされたら、そりゃ盛りあがるだろうよと納得だった。いやぁ、すごいもの見せてもらいました。
 第二部では、たぶん初めて聴く宮本弾き語りの『歩いてゆく』(アルバム『RAINBOW』の隠しトラック)が披露されたのも激渋で激レアでした。
 笑ったのは、なんの曲だったか忘れたけれど、宮本が石くんにステージの前に出て間奏のギターソロを弾くようにうながしておきながら、ソロのあいだじゅうスキャットしまくっていたせいで、石くんのギターがほとんど聴こえなかったこと。
 アンコールは『星の降るような夜に』と『ファイティングマン』の二曲。このところ、お祭りさわぎの『ファイティングマン』がつづいていたので、ごく普通にエレカシの『ファイティングマン』が聴けて、しかもその曲で今年の野音はおしまいってのが、なんかとてもすっきりといい気分だった。
 最後は宮本がメンバーひとりひとりと握手して、六人(当然ミッキーもいる)でストーンズ風の挨拶をして終演──。いやぁ、大満足でした。
 野音はすっかりチケットを取るのも大変になってしまったし、このごろはIDチェックがどうとか、うっとうしいことをいわれるので、そろそろ観なくてもいいんじゃないかと思っていたけれど、いざ観てしまうとなぁ……。やはり野音は格別でした。
 もしも来年チケットが取れたら会員証を再発行してもらわないといけない。
(Jul 01, 2018)

エレファントカシマシ

TOUR 2018 "WAKE UP!!"/2017年7月6日(金)/Zepp Tokyo

Wake Up(初回限定盤)(DVD付)

 野音からわずか二週間たらずで観ることになったアルバム『Wake Up』のお披露目ツアー。
 ほんと、なんでワールドカップ中に二回もエレカシのライブがあるんだと、サッカー・ファンとしては悩ましかったこの時期だった。連日の睡眠不足で疲弊していたので、あれから二週間ちょいで、なんだかすっかり印象が薄くなってしまっている。なので今回はちょい短め。
 この日のライブでは、まずは宮本の服装が目を引いた。上下の黒(もしくは濃紺?)のスーツ姿で、ストライプのネクタイを緩めずきちんと締めて、ジャケットのボタンまで留めていた。シャツの裾もパンツにしまっていて、最後まではだけることがなかった。こんなフォーマルな宮本は初めてだ。──ってまぁ、三、四曲目ですでにジャケットを脱いで、いつもの白シャツ姿になっていたけど。
 でもそういえば、そのあとなにかの曲で歌いながらもういちどジャケットを着ようとしたところが、片手にマイクでなかなか着れず、歌い終わるころにようやく両袖を通し終わって、ああよかったねと思ったら、その次の曲くらいですぐに脱ぐという謎の行動をとっていた。あれはなんだったんだろう? 曲のイメージで正装して歌いたいと思ったとか? それともちょっと寒いと思って着てみたけれど、やっぱ暑かったとか? なんにしろちょっぴり笑える奇行でした。
 さて、肝心のライブはどうだったかというと──。

【SET LIST】
  1. Easy Go
  2. 風と共に
  3. RAINBOW
  4. 悲しみの果て
  5. 神様俺を
  6. 自由
  7. i am hungry
  8. ガストロンジャー
  9. RESTART
  10. 夢を追う旅人
  11. 今を歌え
  12. いつもの顔で
  13. 旅立ちの朝
  14. オレを生きる
  15. Wake Up
    [Encore]
  16. 今宵の月のように
  17. 笑顔の未来へ
  18. シャララ
  19. 俺たちの明日
  20. 歩いてゆく
  21. so many people
  22. ファイティングマン

 これはあとからセットリストを観て気がついたんだけれど、本編で新譜『Wake Up』の全曲を披露していて、そのアルバム以外の曲はわずか三曲しか演奏していなかった。だから本編は一時間半強と短く、長めのアンコール──宮本は出てきてから「第二部」といっていたけれど、今回はそのあとアンコールに出てこなかったから、こちらの気分としてはあれはアンコール──を含めても二時間ちょいという短さだった。
 しばらく前からエレカシのライブは二部構成で三時間近くやるのがあたりまえになっていたから、この短さが逆に新鮮だった。今回は二週間前に野音を堪能したあとだったし、前述のとおりW杯で疲れている時期だったので、新譜のお披露目というコンセプトがはっきりとしたコンパクトなライヴがちょうどよかった。まぁ、ものたりないという人もいるかもしれないけれど、僕個人はじゅうぶん満足だった。
 あ、でもそういえば、この日は腰痛持ちのうちの奥さんが「整理番号がいいから、Zepp Tokyoのフロアにあるバーにもたれられる場所を取りたい」というので、開演時間より一時間も前、開場前に着いたんだった。だから結局場内には三時間以上いたし、待ち時間も含めた疲労感もあって、もうじゅうぶんと思っている可能性もなきにしもあらず(体力なし)。
 それにしても本編のほとんどが新譜の曲だったってのは、いまさらながら意外。そうは思えないほど、バラエティに富んだ、バランスのとれたセットリストって印象だったから。まぁ、それはつまり新譜の内容がそれだけバラエティ豊かだってことの証拠なんだろう。
 あとそれに加えて、『風と共に』や『夢を追う旅人』、『RESTART』、『i am hungry』などの楽曲は、去年のツアーから何度も聴いて、すっかり耳になじんでしまっているってのもある。申し訳ないけれど、「え、それって新譜に入ってるんだっけ?」って感じだし(聴き込みのあまさを露呈している)。
 新曲で印象的だったのは、いまだに宮本が歌いこなせてない感ありありの名曲『Easy Go』、レゲエといいつつ、レゲエならではのグルーヴを欠いた(でもかわいい)『神様俺を』、サウンド・スケールの大きさではエレカシ史上最高ではないかと思われる『旅立ちの朝』、劇渋バラード『オレを生きる』、そして多重録音のコーラス・パートを宮本が生で再現するのがちょっぴりコミカルな味わいになっている本編ラスト・ナンバーの『Wake Up』など。
 アンコールでもっともインパクトがあったのは、もちろん『シャララ』。でもそれは昔懐かしいナンバーだったからではなく、かつてとは明らかに違うモードで演奏されていたからだ。以前はブレイクを多用した宮本ならではの無骨なビート感が印象的だったけれど、この日はリズムがもっとスムーズになって、以前より若干スマートな演奏になっていた。昔から大好きだった曲がいまのエレカシ流にブラッシュアップされているのが、なんとも新鮮でした。そもそも、この曲っては宮本が座ってギターを弾くのがあたりまえだったのに、今回は野音の『男は行く』と同様、立ったままだったし。そんなところにも懐古趣味に流されない前向きな姿勢を見る気がした。
 アンコールの最後はこの夜も『ファイティングマン』。三十年近く聴きつづけている曲だけれど、なんだかこの一年ばかりでまた新たに新鮮な気分でこの曲を聴けるようになった気がしている。
 最後はメンバー四人にヒラマミキオに村山☆潤というおなじみの六人でストーンズ風の挨拶をして、にこやかに帰っていった。そういや、野音では宮本から「つまらねえ髪型」と揶揄されていた石くんがこの日はリーゼントで決めていたのもおもしろかった。
 ツアー初日が宮本の喉の不調で延期になったりもしたけれど、とりあえず心配はいらないようでなによりだった。お互いもう若くないのだから、あまり無理はしないで、末永く活躍してください。
(Jul 22, 2018)

FUJI ROCK FESTIVAL '18

2018年7月27日(金)/苗場スキー場

 五年ぶり、三度目のフジロックへ行ってきた。
 前回と同じ二十四時間バスツアーでの一日だけの参加ながら、前回とのいちばんの違いは奥さんが一緒だったこと。バスで見知らぬ人と相席になるのも一興かもしれないけれど、やはり長年つれ添った相棒と一緒ってのは気が楽だった。
 あと、一日じゅう快晴だったのも前回との違い。フジロックには雨がつきものだというし、ひとりで行った前回は猫の目のように変わる天候に降りまわされたので、今回も雨を覚悟してレインコートを新調していったのに、まったく降らなかった。うちの奥さん、フジロックに二日参加して降水確率ゼロ。家族三人で出向いた初回はうちの子が晴れ女だからだと思っていたけれど、もしかしたら彼女も晴れ女だったか。ふたりそろうと最強のてるてる坊主かも。

 今回のフジロックはエレカシが初出演するのに加えて、観たいバンドがいくつかあったから行くことに決めたのだけれど、チューン・ヤーズ(Tune-Yards)をはじめとして、興味のあるバンドの過半数が後半に集中してしまい、時間帯がかぶってちゃんと観られなかった。
 よりによって、もっとも楽しみにしていたチューン・ヤーズがエレカシともろかぶりというのが痛恨の極み。なんでそんなことしてくれちゃうかなぁ……。まぁ、あのふたつのバンドを両方観たがる俺みたいなオーディエンスは少ないのかもしれないけれど。エレカシは年中観ているけれど、やっぱフジロック初出演はフルで観ないわけにはいかない。というわけでチューン・ヤーズをたった二曲しか全部観られなかったのは、ほんと残念だった。

 とにかくこのふたつのバンドを効率よくつづけて観なくちゃならないってんで、苗場に到着してすぐに、まずはチューン・ヤーズが出るレッドマーキーからエレカシの出るホワイト・ステージまでの移動時間を測っておこうということになった。でもその前にちょっと休憩……とレッドマーキー前の木陰のところで腰を下ろしたとたん、いきなり小指に熱湯がかかったような痛みが走る。「熱っ!」と手を振ると、なんか蜂みたいなやつが目の前の草むらにジジジと落ちてきた。ちくしょう、刺された。なにこの虫。黒と灰色のしましまで、よく見ると蜂じゃないっぽい(すぐに踏みつけて抹殺)。フジロック最初のイベントはアブだかブヨだか知らないけれど、謎の虫からの洗礼でした。ちくしょう、小指痛い。

 とにかくこのふたつのバンドを効率よくつづけて観なくちゃならないってんで、苗場に到着してすぐに、まずはチューン・ヤーズが出るレッドマーキーからエレカシの出るホワイト・ステージまでの移動時間を測っておこうということになった。でもその前にちょっと休憩……とレッドマーキー前の木陰のところで腰を下ろしたとたん、いきなり小指に熱湯がかかったような痛みが走る。「熱っ!」と手を振ると、なんか蜂みたいなやつが目の前の草むらにジジジと落ちてきた。ちくしょう、刺された。なにこの虫。黒と灰色のしましまで、よく見ると蜂じゃないっぽい(すぐに踏みつけて抹殺)。フジロック最初のイベントはアブだかブヨだか知らないけれど、謎の虫からの洗礼でした。ちくしょう、小指痛い。

Pretty good!!

 ということで、虫に刺されて小指ぱんぱんに腫れあがった状態でさいさき悪く始まった今回のフジロック(指が痛くて拍手がつらかった)。
 まずはグリーン・ステージのモンゴル800からスタート──とはいっても、僕はモンパチってまったく聴かないので、グリーン・ステージに向かった林の入り口あたりの木陰で遠巻きにモニターを観ていた。

SUMMER BREEZE / スタンドバイミー(完全限定生産盤)<CD(12)s+DVD>

 モンパチを三十分くらい観たあと、ホワイト・ステージに移動して、うちの奥さんが視聴したらけっこう好きだったという go!go!vanillas という若いバンドを観た。
 モンパチもゴーゴーバニラズも僕にとっては元気すぎというか、影がなさすぎる印象であまり盛りあがれない。やっぱ日本語のロック(とくに男性のもの)は人生の鬱屈がその言葉のはしばしに見え隠れしてくれないと夢中になれない。

 ホワイト・ステージでは三曲くらいで陽射しの暑さに音をあげて移動。ジプシー・アヴァロンとフィールド・オブ・ヘヴンの場所を確認してまわった。観たいステージがあったわけでもないのに、こんなところで無駄な体力を使ったのを後悔することになるのは夜になってからの話。

All Of Us(初回限定盤)(DVD付)

 ホワイト・ステージからボードウォークの迂回路をつたってグリーン・ステージへと戻ってみると、GLIM SPANKY が演奏中だった。
 このバンドも俺には関係ないと思いこんでいたのでスルーしちゃったけれど、通りすがりに生で聴いたボーカルの子のハスキーな歌声はけっこう気持ちよかった。あ、これならちゃんと観ておいてもよかったかなと思いました。いずれまた機会があれば、次はちゃんと聴こう。

I'm All Ears

 スタートから3時間目にして、この日はじめてフルに観たのが、その次のレッド・マーキーの LET'S EAT GRANDMA。
 「お婆ちゃん、食べよう」と訳すんだか、それともお婆ちゃんを食べちゃうんだか、いまいち意味のわからない名前の、十代の女の子二人組ユニット。
 ステージにはロングヘアをなびかせたスレンダーな女の子ふたり──遠目だと双子みたい──が並んで立ち、右手に男のドラマーがいるというスリー・ピースの編成で、女の子たちはシンセを弾きつつ、たまに左の子がギターを弾き、右の子がサキソフォンを吹いてみせたりする。若いくせに、意外と芸達者。
 印象的にはハイムと The xx のいいとこ取りをしたみたいなバンドだと思った。女の子のガーリーな外見やポップなメロディ・センスはハイムっぽいのに、音響的には打ち込みの重低音が効いていて The xx ぽいという。レコーディングされた音源はシンセ色が強くてあまり趣味じゃなかったので、途中で移動しようと思っていたんだけれど、予想外に聴き応えがあったので、結局最後まで見てしまった。そこんところも僕にとっては五年前に同じステージで観たハイムと一緒だった。初々しいわりには思いのほか技巧的で、とても楽しいステージでした。

 そのあとすぐにグリーン・ステージへと移動すると、間髪いれずに ROUTE 17 Rock'n'Roll ORCHESTRA の演奏が始まった。
 ドラムの池畑潤二という人がバンド・リーダーをつとめるフジロック御用達の大所帯セッション・バンドで、今年のゲストはトータス松本、奥田民生、甲本ヒロト、仲井戸麗市の四人。
 バンドの内訳はギター三本、キーボード二名、ホーン・セクション四人にベース、ドラムにパーカッションの総勢十二名。僕はよく知らない人ばかりだけれど、有名どころだとルースターズの花田裕之や、RCファンには懐かしいサックスの梅津和時氏、SOIL&"PIMP"SESSIONS のトランペットのタブゾンビなんかがいる。あと、エレカシの野音でお馴染みの細身魚さんもいる(終始ノリノリでした)。
 本当は同じ時間にホワイト・ステージでやっているパーケイ・コーツが観たかったんだけれど、このメンツを無視してほかへはいけないでしょう?
 ステージはトータス、民生、ヒロト、チャボが順番に入れ替わりで出てきて、それぞれカバーを中心に二、三曲ずつを歌うという構成。
 トータスは知らない曲(エルモア・ジェイムズとのこと)のあとでヤング・ファイン・カンニバルズの『Johnny Come Home』という意表をつくカバーを聴かせてくれた(三曲目はウルフルズの曲)。おぉ、やはり同世代だと思う。
 民生さんも最初の二曲は古いロックン・ロール・ナンバーのカバー。でもって三曲目がなんとRCサクセションの『スローバラード』。これがめちゃくちゃよかった。
 ホーンとオルガンが苗場の山に気持ちよく響き渡り、そこに民生さんの歌と梅津さんのサックスが鳴り響くんだから、もうこれがよくないわけがないでしょうよって話で。いやぁ、最高でした。
 前のふたりがオールディーズのカバーだったのに、その次のヒロトは日本語だったから、オリジナルかと思っていたら、これもカバーだったらしい。それどころか一曲目はディランの『くよくよするなよ』(えー、マジ?)、二曲目はニール・ヤングの『Don't Cry No Tears』(『Zuma』収録)だというからびっくりだ。まったく気がつかなかった俺の音楽偏差値っていったい……。
 とりを飾るチャボはディランの『Harricane』を日本語に意訳して歌ってみせた。実際にあった黒人ボクサーの冤罪事件を歌ったあの歌を換骨奪胎して、狭山事件なんかを歌詞に盛り込んで、完璧に日本語の歌にしていたのにすごいと思った。
 そのあと、もう一曲フジロックのテーマ曲みたいなのを歌い、最後はゲスト四人そろってエディ・コクランの『C'mon Everybody』をやって終了。フェスならではのお祭りバンドだけれど、だからこその楽しさがあってよかった。
 いや、それにしても民生氏の『スローバラード』が絶品でした。この一曲だけでも苗場に足を運んだ甲斐があるってレベル。

FRANCIS TROUBLE

 次はホワイト・ステージでのアルバート・ハモンド・ジュニア。
 この人のステージもおもしろかった。よもやストロークスという一時代を象徴するバンドのギタリストが、ソロではハンド・マイクで歌ばっか歌ってて、ほとんどギターを弾かないなんて誰が思うって話で。たまにギターを持っても、ソロとか弾かないし。本当にこの人はストロークスのギタリストなんだろうかと不思議に思ってしまった。
 バンドは主役の彼のほか、ギター二本に、ベース、ドラムの五人編成。ベースが女の子で、あとは男。で、見た目はみんな普通に地味。
 主役のアルバート・ハモンド・ジュニアは新譜のださださなジャケットのイメージそのままに、赤いシャツに白いパンツというファッションで、ハンドマイクをコードのところで持ってぐるんぐるんと振り回したり、長すぎるコードを束にまとめたりと、とにかくそのマイク扱いがいちいち気にかかる人だった。なんでギターじゃなくてマイクなのさってずっと思っていた気がする。
 でもまぁ、バンドの演奏はポップでタイトでとてもよかった。僕には無条件にしっくりきて、とても楽しかった。単純に楽しさということでいえば、この日いちばんだったかもしれない。このステージを観て、僕はこれまでに一度もストロークスを観たことがないのを、ちょっとだけ後悔した。できればジュリアン・カサブランカのステージも観たいなと思った。

I can feel you creep into my private life [輸入盤CD](4AD0052CD)

 その次がこの日の目玉──になるはずが、わずか二曲しか観ないで終わってしまった──チューン・ヤーズ@レッド・マーキー。
 バンドはステージ中央に主役のメリル・ガーバス、右手に新しく彼女のパートナーとなったネイト・ブレナー、左にドラマーという三人編成。
 CDで初めて聴いたときにはまったく性別不明な印象だったけれど、いざ生で聴くとちゃんと女性らしい声だったのがまずは印象的。シンセを操り、シーケンサーで自らのボーカルをリピートさせながら、個性的なダンス・ビートをつむいでゆくその演奏は予想通りに刺激的だった。オーディエンスも最初から大盛りあがり。
 うーむ。こんなおもしろいステージをわずか二曲であきらめなきゃなんないとは……。まじでもっと聴きたかった。再来日を期待するっきゃないな。ソロで来たら絶対に観にゆく。来てくれそうにないけど。

Wake Up(初回限定盤)(DVD付)

 後ろ髪を引かれながらレッド・マーキーをあとにして、開演の五分前くらいにホワイト・ステージへ移動してみると、ホワイト・ステージはすでにエレカシ待ちの人でぎっしりだった。
 というか、ホワイト・ステージって決して広くないのに、真ん中からうしろは椅子を並べた人だらけってのが問題だと思った。あれってどうなんだ? ライブ開場のモラルとしてNGな気がする。ホワイト・ステージってPAのテントの存在感もありすぎるし、フジロックの中ではもっとも残念なステージな感がある。
 そういや、いつもはコードつきのマイクを使っているエレカシ宮本がこの日はワイヤレスだったけど、あれはホワイト・ステージがもっと広いと思っていたからじゃないだろうか(アルバート・ハモンド・ジュニアもワイアレスにすればいいのに)。ほんと、できればグリーン・ステージで観たかったぜ。
 ……なんて愚痴はまぁいいとして。
 この日のエレカシについては、まずは石くんでしょう。白いタンクトップに黒の短パン、オールバックにサングラスって。なんだそれは。夕涼みしているヤクザにしか見えない。
 途中で宮本にいじられて片側の肩をはだけてからは、江戸時代の賭博師みたいになっていたし、宮本がうしろから頭をつかんで、ロボットのように右へ左へとゆっくりと首を動かすにいたっては、意味不明で大爆笑。世界中にYouTube配信されているステージで、そんなことおくびにも出さすにこれだけ笑いを誘うってのもある意味すげーと思った。
 演奏もアグレッシブでよかった。『Easy Go』『奴隷天国』『RAINBOW』とエレカシ史上もっともスピード感のあるナンバー三連発でのオープニングは文句なしだったし(まぁ、そのうち二曲はあいかわらず宮本の歌がかなり苦しかったけれど)、その後も攻めの姿勢がきわだつ内容だった。洋楽ファンに目にもの見せてやるって気概が伝わってきた。一時間足らずのステージとしては出色の出来だと思った。

【SET LIST】
  1. Easy Go
  2. 奴隷天国
  3. RAINBOW
  4. 悲しみの果て
  5. 旅たちの朝
  6. ガストロンジャー
  7. so many people
  8. ファイティングマン
  9. おはよう こんにちは
  10. 今宵の月のように

 ラス前は「俺たちの唯一のヒット曲です」と紹介して、『今宵の月のように』をやるのかと思ったら、一転して『おはよう こんにちは』をかましてきたのもよかった(苗場であの曲が聴けて嬉しかった)。でもって最後は『今宵』で締め。こういう晴れの場だから、最後はちゃんと知名度のある曲できれいに終えるという姿勢は正しかったと思う。演奏の途中で日が翳ってきて、最後はとても夕焼けがとてもきれいだった。
 宮本がこのところ変にエロに目覚めていて、乳首出してつまんでみたり、股間まさぐったり、前述のとおり石くんいじりで笑いと取ったりと、かっこ悪い姿をたくさん晒していたけれど、でもその一方でカッコいいところもちゃんとあって、やっぱその両極端を行き来するのがエレカシだよなぁと思う。世界じゅう広しといえ、こんなバンド、絶対にほかにない。そのことはちゃんと苗場と世界に知らしめることができたと思う。とても気持ちのいいステージだった。
 そういや、この日のキーボードはソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉でした。テレビ出演なんかで観たことはあるけれど、彼がエレカシと競演するのを生で見るのは、僕はこれが初めて。最近、ソウル・フラワーともすっかりごぶさたしてるしなぁ。エレカシ+奥野(あとミッキー)が観られたという意味でも、個人的に貴重なステージだった。わざわざエレカシのために苗場に来てよかった。

Y R U Still Here

 エレカシのあと、フィールド・オブ・ヘヴンに移動して、マーク・リボーのセラミック・ドッグをちょっとだけ観た。
 このころにはすっかり日が暮れて暗くなっていた。ここまでに四ステージをスタンディングで観てきたので、疲れきっていて、立ち見する気になれず。でもここのステージは砂利びきで埃っぽくて地べたに座っているのも気が進まず。演奏もちょっと小難しい感じだったので、二曲くらいで切り上げて戻ることにした。
 バンドはギター、ベース、ドラムの三点セットだったけれど、でもそうとは思えなくくらい硬質で音数の多い演奏を聴かせていた。三人とも椅子に座っての演奏で、当然かもしれないけれど、なんかむちゃくちゃ技術が高かった。
 リボーさん、孤高のギタリストなイメージの割にはラップっぽい饒舌なボーカルを聴かせいたりしていて、けっこう思っていたのと違った。少なくてもコステロやトム・ウェイツと競演していたころのホンキートンクな印象は皆無だった。なんか学究肌の向井秀徳みたいでした。

THIS OLD DOG

 そのあとはレッド・マーキーのマック・デマルコを観にゆくつもりだったんだけれど、そのころになるともうすっかり真っ暗になっていて──苗場は街灯がないので、夜になるととても暗い──グリーン・ステージにたどり着いたあたりでうちの奥さんが疲れたから休みたいというし、僕もさすがにグロッギーだったので、マック・デマルコは諦めて、朝と同じ林の入り口あたりで休みながら、ヘッドライナーのN.E.R.Dを待った。
 マック・デマルコのステージは変な意味でおもしろかったらしいので、ちょっと後悔。でもまぁ、体力的にはここらがまじで限界だった。

No One Ever Really Dies

 僕はN.E.R.Dをほんんど聴いていないので、漠然としたファレル・ウィリアムズのイメージから、陽気なパーティー・バンドかと思っていたら、ぜんぜん違った。そもそもファレルのイメージからして違う。ソロのときより扇情的でこわもて。俺たちには伝えるメッセージがあるんだという意気込みが伝わってくる。
 ステージ自体は映像を駆使したカラフルでダンサブルなものだったから、乗りのよさはじゅうぶん以上だし、途中にファレル・ウィリアムズのソロ・コーナーがあって、ファレルがプロデュースしたグウェン・スティファニの『Hollaback Girl』やダフト・パンクの『Get Lucky』を聴かせてくれたりもしたけれど、でもそういうお祭り騒ぎだけが売りじゃないんだってことが、はしばしに感じられるステージだった。いや、それともあれは単に、日本のオーディエンスの乗りの悪さに怒っていただけ?
 とにかくヒップホップのライヴの経験値が低いオーディエンスを相手に、ファレルがサークル・モッシュの仕方を懸命に指導していたり──輪になれって言ったり、左右に分かれろと指示してみたり(モーゼの十戒ごっこかと思った)──相棒の人が終始仏頂面だったりして(あの人はいつもあんななのか、それとも今回は本当に機嫌が悪かったのか、うちの奥さんがとても気にしていた)、やっている側にしてみるといまいち思うように盛りあがっていない感があったのかもしれないけれど、でも観客のなかに混ざっている身としてはじゅうぶんな盛りあがりようだった。
 僕らは疲れきっていたので、最初のうちは遠くに腰をおろして遠巻きにモニターの映像を眺めていたのだけれど、これはやっぱ近くで大音量と映像の極彩色を体感しないともったいないだろうと、途中からがんばって下りていって、オーディエンスの狂騒に混ざった。やっぱヒップホップは坐って聴くもんじゃない。いやぁ、まわりのみんながみんな、やたらと楽しそうに踊っていて、とても気持ちよかった。
 初日のヘッドライナーがN.E.R.Dだと聞いたときには、ボブ・ディランとケンドリック・ラマーが出るのに、なにゆえ唯一自分が聴いていないヘッドライナーの日にあたっちゃうんだと思ったものだけれど、いざ観てみたら、そこはヘッドライナーをつとめるほどのアーティストだけあって、とてもいいステージでした。自分からは絶対に観にゆこうと思わないアーティストだけに、かえって観られてよかったと思った。
 考えてみたら僕はこれまで夏フェスでヒップホップ系のアーティストがトリを飾るのを一度も観たことがなかったので、とてもいい体験をさせてもらいました。

 ということで、この日のフジロックはこのステージでおしまい。ホワイト・ステージなどではまだパフォーマンスが行われていたけれど、体力的にもう無理。わざわざ出口から遠いステージまで移動する気力がなかった。いやぁ、楽しかったけれど、やっぱフジロックは疲れる。一日でじゅうぶん。三日は無理。
(Aug 14. 2018)