2015年8月の映画

Index

  1. 恋のロンドン狂想曲
  2. ヒューゴの不思議な発明
  3. オール・ユー・ニード・イズ・キル

恋のロンドン狂想曲

ウディ・アレン監督/ジョシュ・ブローリン、ナオミ・ワッツ/2010年/スペイン、アメリカ/WOWOW録画

恋のロンドン狂騒曲 [DVD]

 ひさしぶりにウディ・アレンを観よう──でも時間の都合でなるべく短めのやつ──ということでこの映画を選んだら、主演がひとつ前の『オールド・ボーイ』につづいて、またもやジョシュ・ブローリンでした。
 ウィキペディアでキャスティングを見ると、アントニオ・バンデラス、ジョシュ・ブローリン、アンソニー・ホプキンズ……という順で、ナオミ・ワッツが七番目のクレジットだったりするけれど、話自体はジョシュ・ブローリンとナオミ・ワッツが演じる夫婦の不和を中心にしたもの。で、もっとも印象的だったのは、やはりジョシュ・ブローリンの駄目男っぷりだった。
 なんでこの人は年がら年じゅう、こんな役ばっかり演じてるんでしょう? この映画の役どころ(医学部出身の売れない作家)も、とにかく困ったもんだった。
 というか、この映画に出てくるのは、ひたすら困った人たちばかりだ。主演カップルの両親も離婚していて、父親(アンソニー・ホプキンス)のほうは若いコールガールと再婚して身を持ち崩ちゃうし、母親は母親で占い師や降霊会に夢中(しかもアル中気味)。ナオミ・ワッツの恋愛劇も自分に置き換えて考えると赤面ものだし。
 この二世代・四人がそれぞれてんでバラバラに各自のかかえた問題に煮詰まってゆく過程を描いて、その救われなさで苦笑を誘うという。これはそういうコメディ。
 そうそう、ウディ・アレンで記憶に新しいところでは、三つ前の『ウディ・アレンの夢と犯罪』、あれに近い印象。あちらは犯罪に手を染めて失敗しちゃう話だけれど、こちらはその一歩手前でかろうじてとどまっている感じ。でも、あとちょっとバランスが崩れると──もしくは時間軸を進めると──いともたやすく悲劇に発展しちゃいそうな。
 そんな危なげなシチュエーションを描いておきながら、そこでさらっと幕を閉じてみせたことにより、この作品はなんとかコメディたり得ている。
 笑っていいやら、悪いやら。そんな、なんともいえない変な味わいのある作品。
(Aug 14, 2015)

ヒューゴの不思議な発明

マーティン・スコセッシ監督/ベン・キングズレー、エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ/2011年/アメリカ/WOWOW録画

ヒューゴの不思議な発明 (字幕版)

 この映画、邦題にやや偽りありだと思う。『ヒューゴの不思議な発明』なんてタイトルで、CGを多用した作品だから、SF映画なのだろうと思っていたら、まるでそうではなかった。ヒューゴ、なにも発明しないじゃん……。
 ぜんまい仕掛けの機械人形が発揮する、思わぬ画力の高さこそファンタジーかもしれないけれど、それ以外にはとくに不思議なことなど起こらない。1930年代のパリを舞台に描かれる、ディケンズ的世界観を持った作品。映画製作にまつわるオマージュという点では、『ニューシネマ・パラダイス』にも通じる味わいがあると思う。
 『ガンジー』の名優ベン・キングズレーの名前がキャスティングのトップにある通り、この人が重要な役割を果たしてはいるものの、物語全体を引っぱってゆくのは、ヒューゴ役のエイサ・バターフィールドと、彼のガールフレンド、イザベルを演じるクロエ・グレース・モレッツの子役ふたり。アカデミー賞では美術賞など、ビジュアル面だけが注目された作品ながら、僕にはこの若いカップルの演技がとても好印象だった。
 ちょっと前に観た『ムーンライト・キングダム』も同じように子役がメインの話だったけれど、あちらの子役ふたりがウェス・アンダーソンの作風的にヘタウマな演技を要求されたのに対して、こちらは正統的なドラマとして、しっかりとした演技力が試される。で、若いふたりはしっかりとその要求に答えていると思う。アメリカの映画界って、やっぱり裾野が広くて、老若男女を問わず、いい俳優がいっぱいいるんだよなぁって感心しました。
 そんな新旧俳優らの好演技のもと、映画界黎明期の偉人ジョルジュ・メリエスの実話に孤児{みなしご}の成長譚を絡めてみせた物語(着想がいい)を、映像・音響部門でアカデミー賞五部門を制した素晴らしい技術でもって、巨匠マーティン・スコセッシが映像化したのだから、その出来映えや推して知るべし。──ってまぁ、老人と少年の関係性の描き込みの部分が若干あまい気はするけれど、基本的にはとてもいい映画だと思う。
 まったくスコセッシらしからぬところもおもしろい。
(Aug 18, 2015)

オール・ユー・ニード・イズ・キル

ダグ・リーマン監督/トム・クルーズ、エミリー・ブラント/2014年/アメリカ/WOWOW録画

オール・ユー・ニード・イズ・キル(字幕版)

 日本のラノベをトム・クルーズ主演でハリウッドが映画化──と聞いても、原作を知らない身としては、ふうん、てな感じだったのだけれど、監督が『ボーン・アイデンティティー』や『Mr.&Mrs.スミス』のダグ・リーマンだというならば、話はべつ。そりゃよろこんで観ます。
 で、観てみれば、そこはさすがのダグ・リーマンで、今回もとてもおもしろい映画に仕上がっていた。
 映画は地球が謎の生命体の襲撃を受けて絶滅の危機に瀕しているという設定のもとで始まる。
 トム・クルーズ演じる主人公のケイジは見栄えのよさが売りの報道担当将校で、自らは戦争なんてまっぴらって男なのだけれど、最前線での撮影を命じられて尻込みしたせいで上官の怒りを買い、最前線の戦闘部隊へと降格させられてしまう。
 で、へなちょこな彼が、いざ実戦となって役に立つはずもなく、部隊は敵の罠にかかって全滅、彼自身も当然のごとく命を落とすことなる──のだけれど。たまたま戦った敵の化け物がスペシャルなやつで、そいつの返り血を浴びたせいで、時間を遡って人生をリセットする能力を身につける、と。
 とはいっても、戻れるのは降格処分を受けて部隊に配属された日の朝限定。そのまま戦場に出れば、ふたたび自分は死に、部隊は全滅することになる。でもそのことを知っているのは彼ひとり──ってことで、彼はなんとか悲劇の再現を食い止めようと、あれこれ手を尽くして、事態を改善しようとし始める。
 やがて、かつて彼と同じ能力を身につけていた(でもいまは失ってしまった)女性兵士リタ──演じるのは『プラダを着た悪魔』でアン・ハサウェイの同僚を演じていたエミリー・ブラントという女優さん(出世したねぇ)──と出逢ったことから、状況は大きく変わってゆく。とはいえ、それでもなかなか最終的な解決には到らず。結局、彼は毎日毎日、戦場で死につづけるのだった。
 テレビゲームのように、状況が手詰まりになったら、リセットボタンを押して、もう一度最後のセーブ・ポイントからやり直し。──この映画はまさにそんな「ゲーム感覚」をそのまま映画にしてみせたアイディアの勝ち。
 ゲーム感覚とはいっても、リアルな人間が主人公の世界には、物理的なリセット・ボタンなんて存在しない。ここでリセット・ボタンの役割を果たすのは、主人公の死だ。
 なので状況が手詰まりになったら、彼はとにかく死ななきゃならない。死にしそうにない状況なら、自殺しななくちゃならない。相棒となったリタも、彼が怪我をしたりして、作戦の実行が不可能になったと見るや、遠慮なくトリガーを弾く。
 そんな風にして、この映画はそれぞれのリセットのあとに無数の悲劇的なパラレル・ワールドの存在をちらつかせながら、パワフルに回転してゆく。この残酷かつ滑稽なシチュエーションの醸し出すブラック・ユーモアは、なかなかすごいと思う。
 残念ながらラストの落ちのつけ方はよくわからなかったけれど、その部分以外はとてもおもしろい映画でした。やはりダグ・リーマンは裏切らない。
(Aug 30, 2015)