2006年2月の映画

Index

  1. 恋愛小説家
  2. 知りすぎていた男
  3. チャーリーとチョコレート工場
  4. 真実の瞬間(とき)
  5. ジングル・オール・ザ・ウェイ
  6. バットマン ビギンズ
  7. 夕陽のガンマン
  8. 続・夕陽のガンマン 地獄の決斗
  9. スコア
  10. アウトサイダー

恋愛小説家

ジェームズ・L・ブルックス/ジャック・ニコルソン、ヘレン・ハント/1997年/アメリカ/BS録画

恋愛小説家 [DVD]

 女性をリアルに描くコツはと問われて彼は答える。
「男から理性と責任感を取り除けくことだ」
 ジャック・ニコルソンが演じる小説家は、誰を相手にしてもそんな風な毒舌ばかりを巻き散らかしている、実に困った男だ。なおかつ変人──というか強迫神経症というのだろうか? すごい潔癖症で、外出後は常に新品の石鹸をいくつも使って手を洗う。線の上を歩くのが大嫌いで、歩道を歩く時はあっちへよけたり、こっちへよけたり。タイルの上なんてとても歩けない。恋愛小説を書いているくせに、本人は恋愛とはまるで無縁という設定。
 そんな彼がヘレン・ハント演じる、いきつけのレストランのウエイトレス、キャロルに恋をする。恋をするったって、本人はそれを恋とは認めない。というか認められない。おまけになりゆきがとても自己中心的で、あまり恋愛という感じがしない。
 メルビンの友人ひとりいない孤独な生活──でも本人は自己完結した静かなその生活に満足している──に変化を与えることになるのは、隣人が飼っていた一匹の犬バーデルだ(確かそんな名前だった)。なんていう種類の犬だか知らないけれど、『ハウルの動く城』に出てきた子供の魔法使いが化けたおじいさんに似た感じのこの小型犬が、むちゃくちゃ愛嬌があってかわいい。向かいに住むサイモン(グレッグ・キニア)はゲイの画家で、この人が強盗に襲われて重傷を負い、入院してしまったことで、メルビンはなりゆきからその犬を預かる羽目に{おちい}る。
 メルビンという人は、他人が使った食器がいやだというので、レストランにプラスチックのフォークとナイフを持ち込むほどの潔癖症だ。そんな彼が犬なんて不潔な生き物の面倒を見なくちゃならなくなる、その困惑ぶりがとてもおかしい。最初のうちは散歩に連れ歩く時に、ビニール手袋をしていたりする。けれど、この犬との生活で彼の潔癖症は緩和されてゆき、犬ともどんどん親しくなってゆく。そしてついにはバーデルが退院してきた御主人様にそっぽを向いてしまうほどの親しさに……。メルビンとバーデルとの関係がこの作品の前半の見どころだ。
 その後、物語の焦点はメルビンとキャロルとの関係に少しずつシフトしてゆき、それが入院費で破産に追い込まれたサイモンが社会復帰するまでのドラマを絡めて描かれる。嫌なやつだったメルビンが──最後までずれたところを残しながらも──次第に共感できるキャラに変身してゆき、最後にハッピーエンドを迎えることになる。
 主人公の感情の起伏がわかり難いのが若干の難点という気もしたけれど、でもそれはそれでこの作品の味わいのひとつだと見る人もいるかもしれない。いずれにせよ、なかなかおもしろい映画だった。
(Feb 04, 2006)

知りすぎていた男

アルフレッド・ヒッチコック監督/ジェームズ・スチュアート、ドリス・デイ/1956年/アメリカ/BS録画

知りすぎていた男 [DVD]

 旅先のマラケシュ──モロッコの有名な観光地らしい。翌日に見た『チャーリーとチョコレート工場』にも名前が出てきた──で、某国首相暗殺をくわだてるテロリストの夫婦と間違えられたマッケナ夫妻(スチュアート&デイ)。暗殺計画の鍵を握ってしまった彼らは、口封じのために誘拐された息子を取り戻すため、ロンドンを走り回ることに……。
 ヒッチコックお得意の巻き込まれ型スパイ・サスペンス(・コメディ?)。首相暗殺を狙うテロリストが、人質の子供をお荷物に思いながらも、連れまわしているという、その人の良さに時代性が表れている。悪人が悪役に徹し切れないという、その時代の空気には、ほっとさせられるものがある。確実にいまよりいい時代だったんじゃないかという気がする。
(Feb 12, 2006)

チャーリーとチョコレート工場

ティム・バートン監督/ジョニー・デップ/2005年/アメリカ/DVD

チャーリーとチョコレート工場 [DVD]

 ティム・バートンの最新作はロアルド・ダール原作のベストセラー児童文学の映画化。それとも同作品をジーン・ワイルダー主演で映画化した71年作品のリメイク、と見るべきなんだろうか。そちらは未見のため、なんともいえない。ボーナス・ディスクを見れば、その辺に関する言及があったりするのかもしれないけれど、残念ながら時間がなくて見られないでいる。
 幸運を手にしてチョコレート工場に招待された性格の悪い子供たちが次々とひどい目にあってゆき、最後に清貧ながら性格のいいチャーリー・バケット君が幸せを手にする、という原作のストーリーはほぼそのまま。ただ、ティム・バートンはそこに、ウィリー・ウォンカがファーザー・コンプレックスの持ち主だというオリジナルの演出を加えてみせている。ウォンカは絶縁中の父親──演じるのはドゥークー伯爵ことクリストファー・リーだ──との関係をトラウマとして抱えている。
 考えてみれば『チャーリーとチョコレート工場』という原作自体が、奇想天外なチョコレート工場のおもしろさと並列して、バケット家の家族の絆を描いた作品だと見ることもできる。バートンの前作『ビッグ・フィッシュ』も親子の和解の物語だったし、家族や親子の関係を見直すことが、最近のティム・バートンのメイン・テーマなのかもしれない。
 ただそうした演出を加えたことにより、この映画のウィリー・ウォンカは、原作の超然とした雰囲気を失ってしまって、得体の知れないおもしろい変人ではなく、ある種の神経症患者みたいになってしまっている。その点がちょっと残念だった。
(Feb 21, 2006)

真実の瞬間(とき)

アーウィン・ウィンクラー監督/ロバート・デ・ニーロ、アネット・ベニング/1991年/アメリカ/BS録画

真実の瞬間(とき) [DVD]

 赤狩りの嵐が吹き荒れる50年代のアメリカを舞台に、密告を拒んだことにより仕事を失う売れっ子映画監督の失意の日々を描いてみせた社会派作品。
 なんでアメリカという国はこうなのだろう……。ある種の魔女狩りが、二十世紀、戦後のアメリカ社会で堂々と行われていたことをこの映画は知らしめている。特別出来がいいとも思わないのだけれど、少なくても自らの国の過ちを赤裸々に告白している点で、十分価値のある映画だと僕は思う。ヒロイックな終わり方をしているにもかかわらず、その後の主人公の苦難を想像すると、やりきれない気分にさせられる作品でもある。
 そうそう、デ・ニーロとの友情からか、はたまた仕事を奪われる映画監督という役柄への共感からか、マーティン・スコセッシが共産党員の映画監督役で出演しているのには、ちょっとびっくりした。
(Feb 21, 2006)

ジングル・オール・ザ・ウェイ

ブライアン・レヴァント監督/アーノルド・シュワルツェネッガー/1996年/アメリカ/BS録画

ジングル・オール・ザ・ウェイ [DVD]

 息子に約束したクリスマス・プレゼントを買い忘れた父親(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、品切れのプレゼントを探し求めて繰りひろげるドタバタを描くコメディ。シュワルツェネッガーの息子役で、『スター・ウォーズ・エピソード1』でアナキン役を演じたロイド・ジェイクが出演している。
 この映画、いきなりゴレンジャーから派生した日本の特撮ヒーロー物テレビ番組のパロディ・シーンで始まる。そのチープな出来を見た時に、これは駄目かもしれないと思ったら、案の定。これはこれまでに僕が見た映画の中でも、下から数えて何番目かに入るような粗悪な作品だった。
 やっぱり、極めて日常的な舞台設定を用意しておきながら、そのくせ一方では爆弾が爆発しても人が死ななかったり、人のうちに泥棒に入っても罪に問われなかったり、そういういい加減な話の作り方をしてはいけない。爆弾が爆発しても人が死なないならば、あらかじめそういうルーニーチューンズ的なフィクションとしての非日常空間を作らなければいけない。それが基本的なコメディのルールだと僕は思う。この映画はそのルールに思いきり反している。僕がこれを最低だと思う理由はそこにある。
(Feb 21, 2006)

バットマン ビギンズ

クリストファー・ノーラン監督/クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソン/2005年/アメリカ/DVD

バットマン ビギンズ [DVD]

 これまでのバットマンのシリーズは、主役であるはずのバットマンよりも、ジョーカー、キャットウーマン、リドラーといった敵役の方が魅力的な作品ばかりだった。彼らの存在が放つブラックなコミカルさが、ゴッサム・シティという荒廃した、陰影のある都市を背景として、独特の味わいを{かも}し出していた。
 バットマンの誕生秘話を描いたというこの最新作には、そうした悪役が出てこない。いや、悪役は出てくるのだけれど、彼らは化粧もしていなければ、変なことも言わない。ユーモアのかけらもない単なる悪役だ。そして予告編に漂うのは、バットマンらしからぬシリアスな雰囲気。そんなこれまでのシリーズとは作る側のスタンスがあきらかに違うこの作品に対して、当初僕はあまり興味を持てなかった。やっぱりバットマンはへんてこりんな敵がいてこそだろうと思った。けれども。
 見てみれば、これが思わぬおもしろさだったりする。ぜんぜん笑いがなさそうだと思っていたら、そんなことはなかった。珍妙な悪役こそ登場しないけれど、この映画は意外と笑える。いや、珍妙な悪役が存在しないからこそ、だろうか。それによりバットマンという仮面の怪人の珍妙さが、逆にクローズアップされることになった。これまでの作品では悪役がつとめていたコミック・リリーフの役を、ここではバットマンその人がつとめることになっている。今までは個性的な悪役キャラの引き立て役だったバットマンが、ここでは初めてそのヒーローとしての本来の存在感を発揮し得ている。そういう意味で画期的な作品だと思った。そしてなによりも、とてもおもしろかった。いやはや感心した。
(Feb 21, 2006)

夕陽のガンマン

セルジオ・レオーネ監督/クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ/1965年/イタリア、スペイン/BS録画

夕陽のガンマン [Blu-ray]

 セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演で大ヒットしたイタリア生まれの西部劇、いわゆるマカロニ・ウエスタンの代名詞のような作品──なのだと思う。新旧二人の賞金稼ぎの二人が手を組んで、名うての賞金首エル・インディオ(ジャン・マリア・ヴォロンテ)の一味を討ち果たそうとする、という話。
 インディオが銀行を襲うのを待ち構えている二人の前で、悪党が予想外の方法で金を奪って逃げてしまうというシナリオが、意表をついている上にシニカルな味があっておもしろかった。そのシーンに限らず、悪党たちの二転三転の裏切りのドラマなどもあり、西部を舞台にしたクライム・ムービーという風情があって、なかなかいい。でもインディオの過去に女性絡みの悲劇を配した演出はちょっとウエットで余計かなと思う。
(Feb 21, 2006)

続・夕陽のガンマン 地獄の決斗

セルジオ・レオーネ監督/クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラック/1966年/イタリア/BS録画

続 夕陽のガンマン [Blu-ray]

 南北戦争下を舞台にした3時間もの大作西部劇。ブロンディ(クリント・イーストウッド)とトゥコ(イーライ・ウォラック)の二人は、いわば西部劇版の詐欺師コンビ。ブロンディが賞金首のトゥコを捕まえては、絞首刑になる寸前に助け出すという手段で懸賞金を掠め取っている。仲たがいしたこの二人に、エンジェル・アイ(リー・ヴァン・クリーフ)という賞金稼ぎを加えた三人が、隠された20万ドルの金貨を奪いあって銃撃戦を繰り広げることになる。
 マカロニ・ウエスタンといいつつ、やたらと南北戦争に関する描写が多い、意外な内容の映画だった。個人的な趣味としては、ちょっと長過ぎるかなと……。
(Feb 21, 2006)

スコア

フランク・オズ監督/ロバート・デ・ニーロ、エドワード・ノートン/2001年/アメリカ/BS録画

スコア [Blu-ray]

 マーロン・ブランドの仲介により、デ・ニーロ演じるベテランの金庫破りと、エドワード・ノートン演じる若手のチンピラがコンビを組んで、国宝級のお宝を盗み出すという話。最後にひとひねりあるけれど、基本的なストーリーは本当にただそれだけ。いまどき珍しいくらいシンプルな作品だ。
 でもシンプルでありながら──というか、それゆえか──、意外なくらいスリリングな作品だった。文字どおり、思わず手に汗を握ってしまった。これはやはり、新旧の名優たちの演技力に負うところが大きいだろう。ブランド、デ・ニーロ、ノートン、それぞれに弱点の垣間見られる悪党ぶりが魅力的だ。
 エドワード・ノートンという人は今まで名前しか知らなかったけれど、さすがに噂に名前を聞くだけあって、いい俳優だった。マーロン・ブランドはこれが遺作らしい。監督は『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』のフランク・オズ。あのふざけた映画の印象と、ヨーダ役のイメージが強いので、こういう映画も撮るというのはちょっと意外だった。
(Feb 24, 2006)

アウトサイダー

フランシス・フォード・コッポラ監督/C・トーマス・ハウエル、マット・ディロン/1983年/アメリカ/BS録画

アウトサイダー コレクターズ・エディション(初回生産限定) [Blu-ray]

 貧乏人の不良グループ「グリース」と金持ちの「ソッシュ」。両グループのいがみあいの果てに、袋叩きにあった主人公ポニーボーイ(C・トーマス・ハウエル)を助けようとした親友のジョニー(ラルフ・マッチオ)──『ベスト・キッド』の主演の子だそうだ──が相手のリーダーを刺殺してしまう。二人は廃屋に隠れてほとぼりが冷めるのを待っていたが、兄貴分のダラス(マット・ディロン)に誘われて遊びに出かけた先で火事に遭遇。屋内に取り残された子供たちを救出して、逃亡犯から一躍ヒーローとなる。けれどこの火事でジョニーが大やけどを負ってしまい……。
 途中まで見ていて、ふと「そういえばこんな風な青春映画で、主人公が仲間に『風と共に去りぬ』のペーパーバックを読んで聞かせる映画があったよね。あれってなんだっけ?」と妻に問いかけた直後に、スクリーン上にそのペーパーバックが登場。なんだ、おれはこの映画、昔見てるんじゃん。『風と共に去りぬ』のこと以外は、まったく覚えていなかった。なんて記憶力のなさだろう。いやになってしまう。
 主題歌はスティーヴィー・ワンダーの "Stay Gold"。ブレイク前のダイアン・レインやトム・クルーズ、トム・ウェイツも出演している。
(Feb 27, 2006)