2023年4月の本

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  1. 『夜の声』 スティーヴン・ミルハウザー

夜の声

スティーヴン・ミルハウザー/柴田元幸・訳/白水社

夜の声

 『ホーム・ラン』の姉妹編となるスティーヴン・ミルハウザーの最新短編集・其の二。
 内容は当然ながら、これまたしっかりミルハウザー印。これだけ癖があって完成度の高い短編を本国アメリカでは一冊にまとめてどかっと刊行したってのがすごい。まじで一冊で読んだらどれだけ読みごたえがっあたのか、試してみたかった気がする。分冊好きな日本の出版業界が残念。
 収録作品で個人的にもっとも印象深かったのは、とある浜辺に本物の人魚の死骸が打ち上げられたことで巻き起こったその町の熱狂を描いた、その名もずばりの『マーメイド・フィーバー』と、神の声を聞いた少年サムエルにまるわる聖書のエピソードを軸に、その少年に思いをはせる50年代のコネチカットの少年と、成長して作家となった彼の老後の回想をスパイラルに描いた表題作『夜の声』。
 後者はミルハウザー本人の自伝的内容では? と思わせる点で貴重な気がした。自身の少年時代をモデルにしたんだろうなって作品はたまにあるけれど、作家としての自分を直接作品に投影するイメージがあまりない人なので意外性があった。
 あと、この短編のタイトルは『A Voice in the Night』と単数だけれど、短編集自体は『Voices in the Night』と複数になっているのは、「夜の声」は単にこの表題作だけのテーマではないからだ、みたいな柴田先生の解説にも、おぉっと思った。あとがきではこの二冊の全短篇を、オリジナルの収録順で解説してくれているのも嬉しかった。
(Apr. 22, 2023)