2010年10月の本

Index

  1. 『狐と踊れ』 神林長平
  2. 『敵は海賊・海賊版』 神林長平

狐と踊れ

神林長平/ハヤカワ文庫JA

狐と踊れ (ハヤカワ文庫JA)

 僕はこの神林長平という人の 『敵は海賊・海賊版』 という小説のタイトルが昔からとても気に入っているのだけれど、あまり日本のSFと縁がないもんで、これまで読む機会が作れないでいた。
 それがここへきて新装版として再刊行された。いい機会だから読もうと思ったところ、なんでもその作品はシリーズものの長編第一作で、それより先行して書かれた短編が一本あるという。ならばそっちを先に読んでおこうと、その短編が収録されているというこのデビュー短編集(これまた新版)を読んでおくことにした。いや、したのだけれど……。
 目次を開いて、どこら辺にその短篇──タイトルはそのものずばり 『敵は海賊』なんでしょう、おそらく──が収録されているんだろうと見てみても、どこにもそのタイトルがない。おやー?と不思議に思って調べてみたら、なんと。
 「新版」と称されたこの改訂版からは、お目当てのその短編がカットされてました。がーん。なんでも 『敵は海賊・短篇版』 という、あとから出た短編集にお引っ越ししてしまったとのこと。ありですか、そういうの?
 たとえてみれば、ストーンズの 『サティスファクション』 が聴きたくて 『アウト・オブ・アワ・ヘッズ』 を買ったのに、間違ってUK盤を買っちゃったために、『サティスファクション』 が収録されていませんでした、みたいな? そりゃないだろーよーと思う。
 まあ、『アウト・オブ・アワ・ヘッズ』 に関しては、僕自身はUKバージョンを偏愛しているので、『サティスファクション』 が入ってなくてもぜんぜん問題ないんだけれど、この本に関しては、そういうわけにいかない。かわりに別の短篇を4本もボーナス・トラックとして収録しましたとかいわれても、まったく嬉しくない。俺が読みたかったのは、『敵は海賊』 だ~。
 ──というようなわけで。
 読み始める前から気分的につまずいてしまったせいもあって、この短編集はやたらと印象がよくなかった。文体的にもなじめないところへきて、そもそもSFだと思っていたのに、全体的にあまりにSF度が低いのにもがっかり。おそらく、もともとSFっぽくない短編集だったのが、スペース・オペラ(なんですよね?)の 『敵は海賊』 をカットして、かわりに非SFの短編ばかりを追加したために、なおさらSF度が下がってしまったんじゃないかと思う。俺はひさしぶりにSFが読みたかったんだよ~。
 なんにしろ、僕にとってこの短編集は、『敵は海賊』 がカットされてしまったことがすべて。だいたい、ベスト盤に収録したからっていって、オリジナル・アルバムからその曲を削除するなんて話、音楽の世界でならばあり得ないぞ。『ビートルズが好き』 なんて短編から始まるくせして、そういう音楽ファン的な感覚がないところも信用できない。
 神林長平という人がこのあと、どれほどすごい作品を書くようになったのかは知らないけれど、少なくてもこの短編集に関していえば、僕の興味をそぐのに十分だった。すでに買ってある 『敵は海賊・海賊版』 がよっぽどおもしろくないかぎり、この人の本は今後二度と読まない気がする。
 あ、でも最後の 『忙殺』 という話はなかなかよかった。これは地味なタイトルに反してちゃんとSFだったから。長編にふくらまして、もうちょっとダイナミックにしたら、いい映画の原作になりそうな気がする。
(Oct 25, 2010)

敵は海賊・海賊版

神林長平/ハヤカワ文庫JA

敵は海賊・海賊版―DEHUMANIZE (ハヤカワ文庫JA)

 ということで──という書き出しがこのところ多い気がする──、『狐と踊れ』 につづけて読んだ、期待の 『敵は海賊・海賊版』 がどうだったかというと。
 うん、これはけっこうおもしろかった。ところどころに挟み込まれたギャグ・マンガ的な会話や、体言止めを多用した、シナリオのト書きのような文体など、あまり感心しない部分もありはしたけれど、それでもなお、十分に楽しめた。
 内容は 『キャプテン・ハーロック』 と 『スター・ウォーズ』 の世界観をかけあわせ、そこに意味不明なキーワードをガンガンつっこんでハードSF化し、さらに食いしん坊のネコ型宇宙人を放り込んで、思いきりかき混ぜたような感じ。表紙がネコだから、ネコばっかしか出てこないのかと思っていたら、ぜんぜん違った。いい意味で裏切られた。
 あと、この小説、作者がかなりプログラミングに詳しいらしく、人工知能が書いたという設定になっている。でもってそこに、ウィンドウズ95の出る10年前に書かれたとは思えないくらいの本格感があるのにも、素直に感心した。
 なんにしろ、全体的にかなりオタクっぽい点を含めて、この小説はとても現代的だと思う。もしかして神林長平という人は、四半世紀、時代の先をいっていたのかも……なんて思ったりした。これだったら、いずれ続編を読んでもいいかなと思う。処女短篇の 『敵は海賊』 も含めて、いずれまた視野に入れることにしよう。
(Oct 31, 2010)