2010年8月の本

Index

  1. 『人生のちょっとした煩い』 グレイス・ペイリー

人生のちょっとした煩い

グレイス・ペイリー/村上春樹・訳/文春文庫

人生のちょっとした煩い (文春文庫)

 村上春樹の翻訳によるアメリカの女流作家、グレイス・ペイリーの短編集、本邦第二弾。
 先に翻訳された 『最後の瞬間のすごく大きな変化』 を読んだのはもう4年も前なので、内容はこれっぽっちも覚えてなかったりするけれど(このごろは四十を越えて以前よりさらに記憶力が頼りなくなっている)、そちらはかなりいい本だった──それもけっこう切れ味鋭い短編集だった──という印象が残っている。
 なので今回、この二冊目の短編集を読み始めてみて、おや、なんか感じが違わない?と思った。平凡な中年女性が有名舞台俳優との思い出を語る最初の短編からして、なんとなく味わいがマイルドで優しい。切れ味の鋭さのようなものはほとんど感じられない。あれ、こんな作風の人でしたっけ?
 ──という疑問の答えは最後に村上さんの解説に書いてあった(というか、よく見れば文庫の帯にも書いてあった)。日本での出版は順番が逆になっているけれど、これがペイリー女史の処女短編集なのだそうだ。だから収録されているのは、まだプロの作家としての地位を築く前に、子育ての合間を縫って書き上げた作品ばかり。そのせいか二作目のような冒険的な姿勢は見られず、インパクトもやや弱いかなという気がする。春樹氏がわざわざ 『最後の瞬間の~』 を先に持ってきたのも、それだからだろうと思う。
 ただ、斬新さという点では二作目ほどではないにしろ、こちらはこちらでいかにも女性らしいチャーミングな話が多くて、楽しく読めた。なかではエアコン工事人が女子高生とコトに及んで裁判沙汰になってしまう話が好きだった(それはちっとも女性的な話じゃないけれど)。
 いやしかし、この人の本を文庫で読んだのは失敗だった。エドワード・ホッパーの絵画をあしらった表紙も素敵だし、二冊とも単行本が手に入るうちに買っておけばよかった。後悔。
(Aug 27, 2010)