2007年10月の本

Index

  1. 『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』 ジョン・ル・カレ

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

ジョン・ル・カレ/菊地光・訳/ハヤカワ文庫NV

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV)

 この小説の主人公は「背が低く、太っていて、せいぜい若くみても中年であり」、脚も短いという、ジョージ・スマイリー氏。かつては英国諜報部チーフの右腕ともいうべき存在であったけれど、その後、ボスの失脚とともに引退に追い込まれ、現在は無為の毎日を送っている。
 そんな彼のもとに、英国政府筋からの協力要請がある。諜報部の上層部にソ連の二重スパイが潜入しているという有力情報があったため、真相をあきらかにして欲しいという。スマイリーは膨大な内部資料を読み解き、昔の仲間たちと面会をかさねつつ、裏切者の正体に迫ってゆく。
 これはゆっくりと時間をかけて味わうべき作品だった。時間に追われつつ、せかせかと読み進めるようなタイプの作品じゃない。いまの僕にはそんな読み方しかできないので、ちょっともったいなかった。
 登場人物の名前が似たようなものばかりなのも痛かった。英米文学科出身のくせにカタカナに弱い僕は、アレリン、ヘイドン、ブランド、レイコン、などなど、誰が誰やら、よくわからなくなってしまった。菊地さんの訳がちょっと古くて、いまならば「ファイル」と訳されるだろうところが、「綴り」となっていたりするのも、読みにくかった。
 まあ、それでもとりあえず、ジョン・ル・カレという人の力量のほどはよくわかったので、これに懲りずにその他の作品もいずれ読むことにしたい。なんでもこの作品の続編 『スクールボーイ閣下』 を村上春樹氏が絶賛しているそうだし──現時点では絶版になってしまっているけれど──、とりあえず本作からの三部作と 『寒い国から帰ってきたスパイ』 は、いずれ必ず。
(Oct 16, 2007)