1999年のコンサート
Index
- エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 4, 1999)
- ローリン・ヒル @ 日本武道館 (Jan 22, 1999)
- エルヴィス・コステロ @ 中野サンプラザ、渋谷公会堂 (Feb 7,8,10, 1999)
- ソウル・フラワー・ユニオン @ 赤坂ブリッツ (Mar 30, 1999)
- サザンオールスターズ @ 東京ドーム (May 26, 1999)
- エレファントカシマシ @ Zepp Tokyo (Jun 20, 1999)
- エレファントカシマシ @ 日比谷野外大音楽堂 (Jul 4, 1999)
- シェリル・クロウ @ 東京国際フォーラム・ホールA (Oct 17, 1999)
- エルヴィス・コステロ @ NHKホール (Dec 15, 1999)
エレファントカシマシ
コンサート1999日本武道館/1999年1月4日/日本武道館
去年に続いての正月武道館公演。客の入りは若干減少気味のようだった。二階席の上の方には空席が見られる。昨今の作品では無理もないと思う。
僕らの席はステージに向って左のさらに左、一階席の前から3列目。左側が通路だったため、前の席の人が立ってもステージが隠れない。おかげで今回も座ったまま観ることができた。今回のライブに関しては、これが失敗だった印象だけれど。
アルバム 『愛と夢』 の2曲目 『愛の夢をくれ』 がこの日のオープニング・ナンバーだった。これには意表を突かれた。去年の 『奴隷天国』 にも驚いたけれど、今回はそれに劣らずの意外さだった。
かつてのパターンだと、一発目の定番は 『優しい川』 だったり 『夢のちまた』 だったり、 『奴隷天国』 だった。最近なら 『明日に向って走れ』 だろうか。それぞれ、その時のアルバムの一曲目の曲だ。それがバンドにとってその時期の姿勢を一番良く表している曲だからだろう。だからアルバムのトップになるのだし、ライブでも最初に演奏される。姿勢として大変わかり易かった。
ところが今回は 『愛の夢をくれ』 だ。恥ずかしながら、僕はタイトルさえ覚えていなかった。アルバムの中でもそれほど重要な曲とは思えない。それが突然一発目だ。いったいどうしたのかと思った。
ただし、よく考えてみればこの曲は、曲名がそのまま今回のアルバム・タイトルにつながる曲だったりする。あとで知ったのだけれど、次のシングル・カットはこの曲なのだそうだ。どうやら僕の注目度の低さに反して、バンドにとっては意外と重要な曲だったらしい。そう考えるとこれが一曲目というのも、別に彼らにとっては不自然なことではないんだろう。逆にシングル 『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』 と同じ路線のこの曲をオープニング・ナンバーに選んだというのは、実はエレカシらしい選択だったのかもしれない。
さて、この一発目で意表をついたあと、いったんは、『明日に向って走れ』 『夢を見ようぜ』 と定番を続けて、ここから先はまたいつもの展開かと思わせる。そのあとで、ふたたびおやっと思わせたのが 『かけだす男』。ライブ用の変なイントロで始まるこのハイテンション・ナンバーが随分早いうちに登場する。僕はこの曲順にちょっとだけやる気を感じた。
これ以降もライブは少しずつこちらの予想を裏切りながら進行していく。個人的にはあまり好きでない 『孤独な旅人』 では、今までになくこちらの気分を盛り上げててくれたし、宮本自らがアコースティック・コーナーと紹介したパートでは、ほかのメンバーをステージから下げて、宮本が一人きりで 『涙』 『おまえとふたりきり』 『真夏の星空は少しブルー』 の三曲を弾き語ってみせてくれた。今までのライブでは、宮本の弾き語りの間、うしろでじっと堪え忍んでいるメンバーが気になって仕方なかったので、これは好印象だった。
あまり好きではない新曲群も、ライブで聴くと意外なほどすんなりと耳に馴染む。去年の野音の時にも思ったことだけれど、今回のアルバムの曲は、ノーマルなスタイルのロック・ナンバーが多いため、アルバム 『明日に向って走れ』 の作品より全然ライブ向きだ。 『good-bye-mama』 『Tonight』 の2曲は野音の時より断然よかったし、 『寝るだけさ』 もアルバムの印象よりもノリのいいロックナンバーに仕上がっていた (なにごとだって感じの、柄にもない実験的なイントロはともかくとして)。
演奏自体もクリアでよかった。前のような轟音ではないけれど、パキパキした印象で気持ちがいい。このところライブでは非常にいい音を出していると思う。演奏力にはいまだにクエスチョンマークがつくけれど、とりあえず以前のようなドタバタしたところがなくなった分だけ、安心してみていられる。僕個人の好き嫌いはともかくとして、これはこれで正しい方向性なのだろう。
ちなみに、この日のライブはスペースシャワーTVで完全生放送された (ああ、なんという無謀な企画)。それなのに宮本は、 『明日に向って走れ』 のギターソロをとちり、アンコール一曲目 『男餓鬼道空っ風』 では、臆面なくいつもの不恰好なコール・アンド・レスポンスを要求していた。長年のファンとしては、なかなか恥ずかしかった。勘弁して欲しい。
それはともかく、この日の一回目のアンコールはかなりの出来だったと思う。 『男餓鬼道』 は素晴らしいパフォーマンスだったし──あれでコール・アンド・レスポンスさえなければ……──、このあとの 『デーデ』 『おまえと突っ走る』 の二連発は、 『デーデ』 のあとであえて 『星の砂』 といかなかったところに、珍しく悪戯心を垣間見せていた。 『せいのでとびだせ』 は個人的に好きな曲ではないけれど、会場は十分に盛り上がっていたし、次の 『戦う男』 はひさしぶりに聴けてとても嬉しかった。この曲と 『ココロのままに』 ──本編の最後の方で演奏された──における宮本ならではのハードネスは、最近のエレカシに関しては唯一の救いだと思っている。
このあと 『極楽大将生活賛歌』 が、ああ、そういやこんな曲もあったねーと変な感慨を誘う。バンドが一番苦しかった時期に発表されたシングルだ。あまりにひさしぶりだったので、今聴くと当時の感覚が甦ってきて妙に懐かしい。今回の武道館で聴けて一番嬉しかった曲はこの曲だったかもしれない。こんな曲を掘り出してくるあたり、宮本はまだ過去をすっかり切り捨ててしまったわけではないのだと、わずかながら思わせてくれたから。
なんにしろこのアンコール第一部は、最近のエレカシは踊れないから駄目だという僕の意見をくつがえすに充分な乗りのよさだった。どうせ途中で立っているのが苦痛になるような曲をやるんだろうから、立たなくていいやと思ってずっと座っていた僕が馬鹿だった。素直に立って踊ればよかったと、ちょっとばかり後悔させるような内容だった。
ただし、そのあとのアンコール第2部は完全に蛇足。 『悲しみの果て』 『今宵の月のように』 『はじまりは今』 『ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ』 のシングル4連発は、お年玉がわりというつもりだったのかもしれないし、実際にそれが嬉しくてたまらない人だっていたのだろうけれど、個人的には、ない方がましなおまけという感じだった。
まあ、なにはともあれ、今年も新年早々2時間を越える、長丁場の、思っていたよりはいいライブだった。『愛と夢』を聴いて感じたもやもやが若干晴れた。
(Jan 23, 1999)
ローリン・ヒル
1999年1月22日/日本武道館
場内の照明が落ちて彼女の登場を待ち望む歓声が響く中、ボブ・マーリイの Redemption Song がフルコーラス流れる。いよいよ登場かと思えば、続いて 『天使にラブソングを2』 で彼女が歌っていたゴスペル・ナンバーが流れる。ステージはライトが消えたままなので、これが生の歌声なのか、レコーディングされたものなのかもわからない。ようやくローリン・ヒルその人が姿を現わしたのは、その曲が終わってステージが明るくなり、バンドのメンバーがぞろぞろと登場して各々の持ち場についてからだった。随分と焦らした割には、あまり盛り上らないオープニングだ。
一曲目はデビュー・アルバムの白眉ともいうべき傑作バラード Ex-factor 。いきなりやっちゃうのかともったいない気分にさせられる。
驚いたのはそのサウンド。アルバムでの押さえ気味のアレンジとはうって変わって、このライブの音作りは非常にラウドだった。ガツンガツンとした硬質のドラムとブンブンと響く太いベースの音が圧倒的。バンドのメンバーもやたらと多い。基本的なバンドセットに加えて、男性ラッパー、DJ、女性コーラス3人、ホーン3人、パーカッションほか。全部で14、5人はいただろうか。個人的には嫌いな音ではなかったのだけれど、正直言って声量の少ない彼女のボーカルでは、あの音量は合わないと思う。演奏に打ち消されてボーカルが届かない部分が多く、ストレスを感じた。もっとシンプルな音作りにして、彼女の歌を引き立てるような構成にして欲しかった。
途中でバンド対DJの歌合戦という余興があったりもする。 I Want You Back や Sir Duke が聴けたのは楽しかったのだけれど、逆にこうした演出のせいでコンサート全体がまとまりを欠いてしまったような印象があった。ローリンの衣装替えの間に延々とDJのスクラッチやドラムソロが続いたりするのも、彼女を見に来た僕には──多分ほかの多くの観客にとっても?──余計だった。
全部で1時間半ばかりのステージだったけれど、妻が随分と短いコンサートだったような気がすると言っていた。それはこうした演出的な部分の全体的な比率が高すぎるせいだろう。前半にフージーズの曲をメドレーで演奏していたりもしたので、ローリン自身のソロの曲が演奏された時間は、おそらく正味一時間にも満たない。デビュー・ソロを出したばかりのアーティストとはいえ、それはちょっと短い。
ということで、決して悪いライブだったとは思わないのだけれど、なにやら
(Jan 23, 1999)
エルヴィス・コステロ with スティーヴ・ナイーヴ
1999年2月7,8,10日/中野サンプラザ、渋谷公会堂
既にコンサートから2ヶ月半が過ぎてしまっている。エルヴィス・コステロの、僕にとっては5回目の来日公演。今回はスティーヴ・ナイーヴ一人を引き連れてのアコースティック・ライブというスタイルだった。
正直なところ今回の公演にはあまり期待していなかった。基本的にドカドカうるさいロックンロールの好きな僕には、前もってリリースされていたナイーヴとのライブ音源で聴ける今回のツアーの音作りはあまりに落ち着き過ぎていた。バカラックと共演した最新アルバムにあまり惹かれなかったせいもある。
けれど僕が愚かだった。たとえどのようなフォーマットであろうと、コステロのライブが悪いわけはないのだった。それはかつてのブロドスキー・カルテットとのライブでも証明されていた。
ファンになって以降の来日公演で唯一、一日しか足を運ばなかったそのライブを見たあと、僕はチケットを一日分しか取らなかったのは間違いだったかと思わされたものだった。そして今回の来日公演もまた同じ展開になった。ただし三日分のチケットを確保している今回はその逆。初日のあと、こんなライブがあと二日も見られるんだという事実をしみじみと幸福に思ったのだった。
アコースティックというスタイルのためなのだろう、今回のライブは選曲が振るっていた。
まずは "Talking In The Dark"、"Radio Sweethert"、"Stranger In The House"、"Girl's Talk" などという初期のシングルのカップリング曲が多く取り上げられていたこと。普段はあまりやりそうもないこれらの曲を聴けただけで、もう十分得した気分だ。特に "Radio Sweetheart" はヴァン・モリソンの "Jackie Wilson Said" に続くおまけつき。両方とも好きな僕としてはファン冥利に尽きる。
【2/7 中野サンプラザ】
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連日多くの曲が入れ替わるのがコステロのツアーの常で、今回も期待を裏切らない内容だった。3日間でのトータル曲数は50を超えた。それでもどの日にも必ず演奏される曲というのがあるわけだけれど、今回のツアーはその選曲がおもしろかった。先にあげた "Stranger In The House" がそうだったし、 "Pads, Paws And Claws" なんて曲も珍しい。この曲は珍しいだけじゃなくすごくよかった。
さらには "God's Comic" 。この曲は今回のツアーの目玉のひとつだろう。コーラス部分での客席とのコール・アンド・レスポンスに失敗する一幕もありはしたけれど──日本じゃ難しい──、個人的には今回のライブのベスト・アクトのうちの一曲だった。マイナーキーで入るヴァージョンの "Veronica" もよし。
アンコールではギターをセミアコ──フルアコ? 区別がつかないところが情けない──に持ち替えての "Inch By Inch" ──これまたなぜという選曲──、 "Shallow Grave" 、 "Watching The Detectives" の3曲がワンセット。このセットは変わらないのだろうと思っていたのに、よりによって "Watching The Detectives" が最終日には差し替えられた。それも代わりに演奏されたのが "Pump It Up" だから、嬉しくて笑いが止まらない。盛りあがらないはずがない。
アルバム "Painted From Memory" の曲で固定されていたのは "Toredo" 、 "I Still Have That Other Girl" 、 "God Give Me Strength" の3曲だけで、あとは日替わりで、あれだったりこれだったり。それでも最終的には三日間でほとんどの曲が演奏された。個人的には "I Still Have That Other Girl" の熱唱が一番印象的だった。
もとはそれほど好きではなかったこのアルバムも、このライブで印象ががらっと変わり、その後は結構聴いた。初日は曲名もわからなかったのに、三日目には歌詞まである程度覚えているほどになった。そうなってみると初日の勉強が足らなかったのが悔やまれた。
そのほかにも印象的だった曲は多い。まず初日の2曲目、 "Everyday I Write The Book" をアコースティックとはいえ、生で聴けたのは大きな喜びだった。 "Little Palaces" と "Indoor Firework" もアコースティックならではの選曲で嬉しかった。あと嬉しいといえばアルバム "Blood And Chocolate" からの "I Hope You're Happy Now" と "Blue Chair" 。
どの日も最後は、マイクなしで聴かせる "Couldn't Call It Unexpected No.4" の究極のアンプラグド・ヴァージョン。ものすごいとは思うけれど、好きな曲だけに普通に聴きたかったというのが素直な感想だったりする。
とにかくコステロを満喫した3日間だった。今回は中一日あいただけで、ほとんど連日という印象だっただけになおさらだ。これからは子供の学費とかもかかるようになって、経済的に苦しくなるから、コステロに連日足を運べるのも今回が最後かもしれない。そうならないよう、がんばらなくてはと思わせてくれる素晴らしいライブだった。ほんと、これからも一日でも多くコステロが見られるようにがんばろう。
(Apr 26, 1999)
【2/8 中野サンプラザ】
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【2/10 渋谷公会堂】
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ソウル・フラワー・ユニオン
Winds Fairground Tour Vol.2/1999年3月30日/赤坂ブリッツ
スピーチとジョイントしたクワトロ以来だろうか。なんだかすごくひさしぶりに見るソウル・フラワーだった。妻は赤ん坊を抱えてソウル・フラワーでもないということで欠席。今後このバンドはずっと一人で見に行くことになりそうだ。
ソウル・フラワーのライブに足を運ぶようになってどのくらいになるのかいまひとつはっきりしないのだけれど、席のあるライブホールで座ったまま見たのは、これが初めてだった。発売後かなりたってからチケットを取ったいたにもかかわらず、指定の2階席のチケットが取れたのを不思議に思っていたら、2階席──ったってたいして席数があるではない──は五分の入りという印象だった。若者はやはり踊るべく下で見るのだろう。それが正しい姿勢だと思わないでもないけれど、会社帰りの僕にはそんな元気はないのだった。
しかしまあ。改めて僕にとってこのバンドは特殊なんだと実感させられたライブだった。
はっきり言って僕はソウル・フラワーの熱心なファンではない。CDは比較的よく聴いてはいるものの──他を聴かなさ過ぎるという話もある──、それほど身を入れて歌詞までなめるように聴いてはいないし、なによりニューエストの頃はともかく、ソウル・フラワーになってからの作品にはある程度距離を置かずにはいられないものを感じてしまっている。
それでもこうして生でその音を耳にすると、その演奏力と楽曲のダイナミズムにゾクゾクしてしまう。一曲目の 『リベラリストに踏絵を』 から、いきなり背筋に鳥肌が立つような感動を味わった。とにかく恰好いいんだ、これが。こんな風に感じさせてくれるバンドはめったにない。おそらく、かつてストーンズで一度経験した記憶があるだけだ。
ストーンズの場合、長い間ファンをやっているので、見られたことだけで感慨ひとしおなのも納得がゆく。ところがソウル・フラワーの場合は、関西系の乗りのせいもあって、僕としてはどちらかというと思い入れしにくいアーティストだ。そんなバンドのライブに、ほかのアーティストでは味わえないようなスリリングな興奮を覚えてしまう自分を僕は不思議に思う。
【セットリスト】
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ただしこのバンドの場合、以前のライブでの前座バンドの起用や、今回の途中に挿入された奥野&大隈ペアのジャズコーナー──そう言えばゲストのフィドラーが浮きまくっていた──など、ロックファンとしては歯がゆく思える演出が多いのも確かだ。その辺に僕がソウル・フラワーに完全には乗り切れない理由がある。このバンドがただひたすらストレートにロックンロールだけを聴かせてくれれば無敵なのにと思わずにいられない。
今回はアルバム発表直後のライブだけに、新作からの楽曲を多く取り上げながら、決してそれだけに偏ることのないバランスのよい選曲だった。 『宇宙フーテン・スウィング』 と 『もっともそうな二人の沸点』 をライブで聴くのは多分初めてだったし、中川のソロからの 『日食の街』 のキャッチーなメロディーは、それから半月あまりのあいだ、僕の頭を離れなかった。 『二人の沸点』 と 『日食の街』 は伊丹英子抜きの演奏だった。
英坊は内海陽子が抜けて紅一点となったことで以前より前に出ていた印象だった。 『マウンテンバイク・フロム・ヘブン』 ではボーカルまで取っていた。さらに今までのチャンゴに加え、チンドン太鼓もたたくようになり、そのマルチプレイヤーぶりを中川に冷やかされていた。僕としてはボーカルやチャンゴはともかくとして、ギターを持つ時間がこれまで長くなっていたのが嬉しかった。やはり彼女にはギターを弾いていて欲しい。
新曲群の中では一番好きだった 『ホライズン・マーチ』 が──アンコールのラス2に持ってきたあたり、やはり彼らとしても手応えを感じている曲なんだろうけれど──、思ったほど盛りあがらなかったのが意外だった。そのかわり 『海行かば山行かば踊るかばね』 や 『もののけと遊ぶ庭』 などの盛りあがりは相変わらず強烈。これらは最近のライブでは欠かせないナンバーとなっている。比較的新しめの 『踊るかばね』 がライブでこれほどアピールするという事実が、ソウル・フラワーが今のスタイルでも決してロックの本質からは離れていないことを証明している。
オーラスは 『雑種天国』 。多分この曲もライブで聴くのは初めてだと思う(あやしい記憶)。なんにしろニューエスト・モデルの頃を知らない僕としては、その時期の作品が聴けるのは文句なしに嬉しい。
ということで、若干蛇足気味のコーナーはあったものの、全体を通して、安定感のある、よいコンサートだった。当日(だか前日だか)が中川敬の33回目の誕生日だったそうだ。学年はひとつ上だけれど、僕と同じ年の生まれだったのか……。負け過ぎてるなあと思う。
(May 1, 1999)
サザンオールスターズ
セオーノルーハナキテス~素敵な春の逢瀬~/1999年5月26日/東京ドーム
直前まで、10年ぶり以上になるサザンのライブだ~と思って盛り上がっていたのだけれど、その後、妻に指摘されて、数年前にアクト・アゲインスト・エイズというイベントで一度見ていたことを思い出した。ちょっと拍子抜け。
それにしてもひさしぶりのサザンであることに間違いはない。すくなくとも前回フルライブを見たのは間違いなく10年以上前だろう。東京都内でサザンを見るとなると、高校生の時、生涯で初めてのライブ体験だった 『綺麗』 の時の武道館以来。だから相当楽しみにしていたのだけれど……。
結論から言ってしまうと、あまりに音が悪すぎた。こんなにひどい音のコンサートはいつ以来だろうと、思い返してみても記憶にないほどの音の悪さだった。長年のB級サザンファンとしては、見られただけでも満足という部分はあるけれど、冷静に音楽ファンとして考えると、日本でトップクラスのキャリアと人気を誇るロックバンドがこんな音を聞かせてしまうのではまずかろうと言わざるを得ない。非常に残念なコンサートだった。
【セットリスト】
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ただ、音の悪さを置くとなかなか興味深い内容ではあった。一曲目がなんと 『ジャパネゲエ』 。あまりに意表を突いている。いったいこのあと、どんな選曲が続いていくのかと思ったら、それからはほぼ全編、90年代版サザンオールスターズのみで勝負という選曲だった。新作 『さくら』 と前作くらいの曲が中心で、一番古いシングルヒットが 『ミス・ブランニュー・デイ』 と 『みんなのうた』 という調子。『KAMAKURA』以前の曲は 『ジャパネゲエ』 と 『開きっぱなしのマッシュルーム』 ──恥ずかしながらタイトルが出てこなかった──、あとはアンコールでの 『My Foreplay Music』 とくらいという徹底ぶりだ。それで3時間近くを聴かせてしまうのだから驚いた。
名曲ぞろいなんだから、いくらなんでも、もっとバランスのよい選曲もできるだろうに、それをわざと往年の泣きのバラードをいっさい排した選曲は大変攻撃的だ。そうした守りに入らない姿勢はとても頼もしいと思う。思うのだけれど……。
でも正直言ってしまえば、やはり本当に聴きたい曲は、ほかにもっとたくさんあった。別に 『エリー』 や 『シンドバット』 をやって欲しいとは言わないけれど、20年以上のキャリアを誇るのだから、もう少しその歳月を加味した選曲にして欲しかった。もしそうであれば音の悪さももう少し我慢できただろう。
さらに難を言えば、余計なコントも多過ぎた。MCさえ満足に聞き取れないのだから、つまらないギャグをかまされても笑いようがない。広いドームでなにをやってるんだかと思わされる演出がホントに多すぎ。桑田の芸人体質も困ったもんだ。そのへんは歳相応にどーんと構えてやって欲しい。
それにしてもサザンのファンというのは人がいい。あんな音でも回りは大喜びで手拍子の雨あられ。場内の一体感にはすごいものがあった。普段僕が見に行くライブにはないノリのよさで、少しばかり戸惑った。ずいぶんと世界が違うなぁ、というのが正直な印象だった。
ちょっと欲求不満気味なので、次はまた違う展開を期待して足を運ぼう。次というのが何年後なのか、ちょっとわからないけれど。
(Jun 20, 1999)
エレファントカシマシ
スタンディング・ツアー1999/1999年6月20日/Zepp Tokyo
お台場に新しくできたライブハウス、Zepp Tokyo でのエレカシのライブ。
僕にとってはお台場にゆくこと自体が初めてだった。噂に聞いたゆりかごめなるチンタラした電車に揺られて行ってきたのだけれど、荻窪にある妻の実家に赤ん坊を預けて、そこから直接行ったらば、同じ23区内での移動であるにもかかわらず、一時間半もかかってしまった。遠いぞ、お台場。ホール自体は赤坂ブリッツと同じような感じで悪くないのだけれど、いかんせん遠すぎる。できればあまり行きたくないホールだった。
そんな場所の上に、最新シングルの 『真夜中のヒーロー』 にも感心していなかったし、今回のライブは行く前から気が重かった。はっきり言って期待はまるでしていなかった。
ところがしかし。
驚いたことに今日のライブはここ数年で最高の内容だった。なにがどうしてしまったんだろう。明らかに宮本の姿勢がここしばらくのライブとは一線を画していた。あまりの変わりように顔が綻びっ放しの一時間半だった。いや、嬉しかった。
一曲目は 『good-bye-mama』 。アルバム 『愛と夢』 の一曲目を飾るこのナンバーは当然僕の好きな曲ではない。ところがこの曲からすでに今までとは違う。アルバムでもこのところのライブでも、淡々と歌われていたこのナンバーが、この日はかつての絶叫スタイルに近い荒々しさで吐き出されていた。なんだ、どうしたんだとあっけに取られた。
続いて 『デーデ』 と 『星の砂』 。いつでも盛り上がるこの2曲ではあるのだけれど、これがまたひさしぶりに見るハイテンション。 『星の砂』 には今までにはなかった──僕が気がついていなかっただけ?──石クンのコーラスまでついている。
続く 『真夜中のヒーロー』 もやはり 『good-bye-mama』 に劣らぬ迫力。
さらには性急なパンクビートの新曲を披露したあとで、突然の 『土手』 。そして 『さらりさらさらり』 。あまりに意表を突いた曲の連発にまたもや僕は破顔。妻は「なんだ、まだ歌えるんじゃないの」とわけのわからない発言を繰り返していた。
このあと弾き語りコーナーと称して 『月夜の散歩』 に 『おまえと二人きり』 。これもまたこれまでに聴いてきた時とはまるで印象が違う。現在のエレカシナンバーをかつてのエレカシがカバーしているみたいな感じがした。
それからの曲順はすでに記憶が曖昧なのだけれど、 『うれしけりゃ飛んでゆけ』 は当然として、 『Baby自転車』 さえもよい。
そして本日のハイライト。それはなんと。
『待つ男』
この曲を再び聴ける日が来ようとは。しかもかつてと同じあの絶叫のそのままで。この一曲だけでも今日お台場まで足を運んだ甲斐は十分あったってものだ。
本編のラストは 『Oh Yeah!』 。再出発アルバム 『ココロに花を』 のタイトルナンバーにして、あのアルバムで 『うれしけりゃ飛んでゆけ』 と並んで宮本の宮本らしさを残した大事なナンバーだ。こうした曲の並びもいつになく出来すぎだった。
この曲を最後に本編はわずか一時間足らずで幕となった。
【セットリスト】
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さらにすごかったのはここから。アンコールをいつになく待たしたあとで演奏された 『ゴクロウサン』 。このアップテンポのロックンロールナンバーに興奮する場内を横目に、宮本はこの一曲だけでマイクを放り出してすぐに退場してしまう。ここ数年にない傍若無人ぶりだった。
そのあと二度目のアンコールに 『悲しみの果て』 と 『今宵の月のように』 の2曲を演奏して、またそっけなく退場。で、それが最後だった。今日のコンサートはわずか一時間半で終了してしまった。(追記:のちにネットで調べてみたら、僕らが帰ったあとで 『ファイティング・マン』 を演奏したらしい。なんてこった)
いったい宮本になにがあったのだろう。今日のステージにいた宮本は、ここ数年、僕らがじれったい思いをしながら見守りつづけていた彼とはまるで別人のようだった。なんだかわけがわからない。嬉しい一方で戸惑いも感じている。
今日のエレカシは新しい曲を演奏していても昔のエレカシの匂いを放っていた。宮本のMCは少なく、よけいな笑いもとらなかった。ここしばらく聞くことがなかった宮本独特の、メロディをくずした歌い回しもよみがえっていた。バンドのリズム感も昔のように狂いがちだった。そのたたずまいは、なんだかものすごく昔どおりだった。要するにここしばらくで築き上げたライブのスタイルをすっかり投げ出していたということなのだろう。今日のステージに上がっていたバンドは僕らの大好きだった頃のエレカシだったと思う。なんだかすごく自由に好き勝手をやってくれている印象で、演奏の質はともかくとして、とても爽快だった。
なぜ今になって宮本が本来の──あえてそう言う──スタイルに戻る気になったのか。これが単に今回一度限りの気まぐれなのか。それとも腹を据えてのシフトチェンジなのか。ぜひとも本人の話を聞きたいところだ。
とりあえず今日のライブは個人的には今まで見た中でもかなり特別なものだった。次の野音、そして次のアルバムがとても楽しみになった。
(Jun 20, 1999)
エレファントカシマシ
恒例!夏の野音'99/1999年7月4日/日比谷野外大音楽堂
前のライブからわずか二週間後に行われた今年の野音。なぜか例年より二ヵ月も早かったその野音からは既に三週間が過ぎ去っている。最近、記憶力の低下が甚だしいため、かなり印象が薄らいでしまっているけれど、それでもいまだ轟音の余韻が強く鼓膜の奥に残っているような気がする。
エレカシ恒例の野音も、これがもう十回目。このバンドと、はや十年もつきあっているのかと思うと感慨深いものがある。しかもそれが、ここ数年、うちに秘めていた力を解き放った感のある爆発的なパフォーマンスだったからなおさら感無量だった。
この日のライブはほぼ前回の Zepp Tokyo の時と同じ構成。あれからわずか2週間なんだから、それもまあ当然かなと思う。それでもそこは野音なので、曲目は増えていた。しかも強烈な選曲で。
Zepp でのオープニングは 『good-bye-mama』 だった。対する野音は 『奴隷天国』 だ。おまけに続けて 『おはようこんにちは』 だ。しかも宮本の絶叫に加えて、バンドの音も爆音とでも表現すべき大音量。鼓膜が破けそうな気がした。これだよ、これ。僕らは長いこと、この轟音を待ち望んでいたんだ。
以前、渋谷陽一が大きな音を出し過ぎるバンドを批判する文章を書いていて、それを読んだ時、僕はそれはちょっと違うと思った。日常的には聞けないような大音量を、耳だけではなく肌で感じる快感、それがロックコンサートの醍醐味のひとつだと考える僕のようなリスナーだっているのだから。この日のエレカシの音はそんな僕の轟音への欲求不満を吹き飛ばしてあまりあるほどだった。
冒頭の選曲で意表をついたあと、 『デーデ』 から 『サラリサラサラリ』 までは前回と同じ曲が並んだ。そしてそのあとにやってきたのが 『遁生』 ──。
『遁生』 だ、『遁生』 。まさか、またこの曲を生で聴く日がくるなんて、本当に思ってもみなかった。前回の 『待つ男』 よりこの曲の方がさらに僕には意外だった。なぜならこの曲こそ、エレカシの低迷期をもっとも象徴したナンバーだと思うからだ。宮本がこの曲を再び歌おうと思うなんて考えてもみなかった。
いや、将来的にはいつの日にか以前のスタイルへ回帰して、こうした曲を聞かせてくれる日がくるのを期待してはいた。でもそれはまだまだ何年も先の話だろうと思っていた。最新アルバム 『愛と夢』 も最新シングル 『真夜中のヒーロー』 も、かつてのエレカシとは確実に違ってきてしまっていたし、エレカシは僕の望むのとは違う方向へと向っているように見えた。そんなこの時期に突然。なんでよりによって 『遁生』 ?
【セットリスト】
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ただし、その 『遁生』 は、『遁生』 でありながらも、かつてのそれとは確実に違っていた。以前ではありえなかったほど、さらりと演奏されていた。
でも、今回は実はそれがとてもよかった。当時はライブごとに、こんな重くて長い曲をステージでやるなよなあと思わずにいられなかったものだけれど、この日の演奏には、懐かしさが手助けしていたのを差し引いても、とても好感が持てた。かつてのような深刻さがなくなっていた。それでいて当然ふざけていたりするわけではない。熱くなり過ぎることなく冷め過ぎることなく。僕はこれくらいの感触がこの曲にはちょうどよいように思う。この曲をこうして当時とは違ったスタンスで取り上げられるところに宮本の成長を見た気がする。
さてその次の曲、これがひさしぶりの 『珍奇男』 で場内大歓声。この2曲がこの日のハイライトだろう。
本編のクライマックスには 『ドビッシャー男』 なども聴かせてくれたのだけれど、これは出来がいまいちで残念だった。本人もあとの方のMCで 「珍しい曲を取り上げてみたんですが、全然演奏できませんでした」 みたいなことを言っていた。でも最近はあまり聴く機会のなかったこの曲を聴けたこと自体はとても嬉しかった。
本編ラストの 『待つ男』 はこの日も相変らずの素晴らしさ。 『おはようこんにちは』 にしろ、この曲にしろ、ブレイクを多用した昔の楽曲というのは、近頃の普通の顔をした楽曲に混じって聴かされると、妙に新鮮だ。座ったまま沈黙を守っていた昔の観客とは違って、今は音の途切れる瞬間をぬって合いの手が入ったりする。おかげですごくいい感じで盛りあがっていた。この感じを出せるのはエレカシだけだろう。この乗りを大事にしていって欲しいと思う。
アンコールでは新機軸が三つ。まずはこのところ恒例となっていたヒット曲メドレーを止めたこと。ヒットシングルは一度目のアンコールしょっぱなの 『悲しみの果て』 だけだった。てっきり続けて 『今宵の月のように』 が演奏されると思っていた僕は、違う曲が始まったことに意表を突かれ、その意外性に思わずニヤリ。まあ、代わりの曲が 『四月の風』 だったのは、なんだけれど。
その2はこの日一番の驚き、沢田研二の 『サムライ』 のカバー。今まで他人の曲を歌ったことのなかった宮本がこの曲をテレビのバラエティ番組で歌っているのを見た時も結構驚いたものだけれど、それが再びライブで披露されようとは思ってもみなかった。余程評判がよかったのだろうか。まあ僕としては小学生の頃、好きだった曲だから、これもこれでよしとする。妻はあまり気にいらなかったようだけれど。
最後のサプライズはささやかだけれど、宮本がアコースティックギターを立って弾いたこと。2度目のアンコールでの 『おまえとふたりきり』 でのことだった。前回もよかったこのナンバー、立ったままでアコギを激しくかき鳴らしながら歌う宮本の姿がなおさら情感を煽って感動的だった。
アンコールではこのほかにも 『やさしさ』 『星の降るような夜に』 ──ワンコーラス目に間違えてツーコーラス目を歌っていた── 『花男』 (!)などが披露された。
3度目のアンコールに出てきた時には、これで 『ファイティングマン』 で終りだろうと思っていた僕の予想をまたもや裏切り、 『愛の夢をくれ』 が演奏された。この曲自体は好きな曲とは言えないのだけれど、ここであえてこちらの予想をくつがえすような曲を、しかもほとんど演奏しなかった最新アルバムから持ってきた意気込みを高く評価したい。そのあとのオーラス、 『ファイティングマン』 まで、実に内容の濃い2時間だった。
すっかりおとなしくなってしまった宮本の歌とバンドの音に嘆き、毎回変わらぬ芸のない選曲に嘆き、 『男餓鬼道』 でのつまらないコール・アンド・レスポンスを嘆いていた僕には、前回今回と続けて、そうしたエレカシに対して抱いていた不満がすべて解消されていたことが、なによりの驚きだった。いったい本当にどうしてしまったのだろう。
その辺のことを少しははっきりさせてくれるかと期待していたロッキングオンJAPANの今月号だったけれど、今年は夏のロックフェスティバルが二つも予定されているらしく、そちらが大変でエレカシどころではないみたいだ。僕にとってはエレカシの復活以上に気になる事件なんてないのに……。
ともかくここへきて、突然エレファントカシマシは変わった。あまり突然のことである上に、前回のライブから日が短かったので、結局それがなぜか、かつ恒久的なものなのかは今回もわからないままだ。なんでもレコード会社がキャニオンから東芝EMIに移籍になったという話があるので、スタッフが変わったことでなんらかの影響を受けたのかもしれない。それともやはり宮本に新しい恋人でもできたとか。とりあえずその辺は今後明らかになるのを待つとして、今回は素晴らしいライブを見せてくれたことに素直に感謝したい。
わが家では子守りと金欠のため、ひとつも観にゆく予定はないのだけれど、ここしばらくはライブ・イベントへの出演が続くようだ。さて、次回の単独公演はいつだろう。
(Jul 24, 1999)
シェリル・クロウ
1999年10月17日/東京国際フォーラム・ホールA
前回の来日公演で受けた好印象のために、今回来日が決まった時には即座に見にゆくことを決めたシェリル・クロウだったのだけれど……。
正直なところ、最新アルバムやテレビで見たウッドストックでのパフォーマンスの印象は決してよくなかった。質的にどうこうではなく、今現在の僕の感覚にフィットしなかった。なにかが違うぞという感じ。
特にウッドストックではアラニス・モリセットと対比してかなりマイナスなイメージを持ってしまっていた。アラニスは思いがけない若さ、一途さや繊細さを感じさせてくれた。一方シェリル・クロウからはある種の──実にアメリカ的な──デリカシーのなさのようなものを感じた。僕は前者をとても切実に思うあまり、後者の感覚に軽い嫌悪感さえ感じた。おかげで、なぜあのアラニス・モリセットを見ずにシェリル・クロウを見ることにしてしまったのだろうと、ちょっとチケットを取ったことを後悔するくらいだった。
それでも実際に見るライブの内容でやっぱり来てよかったともらわせてもらえたなら、また話はちがったのだろう。けれどこの日のライブでは彼女の衣装までがほぼウッドストックでのステージの再現だった。まるで新鮮さを感じられなかった。
もちろん演奏時間が長い分、テレビでは見られなかった曲も多く演奏された。それでもそれらの曲があったからといって全体のイメージが変わるほどのことはなかった。
アンコールの最後に一番好きな "Can't Cry Any More" が演奏されたのは本当に嬉しかったけれど、それさえも「ため」の感じられない演奏のせいで、満足したといえないまま終わってしまった。
そもそもアルバムもファーストを頂点に以降は下降気味な印象だし、だいたいにして今のあのショートカットがよくない。白のタンクトップにベージュのレザーパンツという衣装も好きになれない。飾らなさは彼女の持ち味のひとつかもしれないけれど、音楽を除いた趣味的な部分では僕の趣味には合わない女性なのかなと思う。
決してけなすべき内容ではないと思うのだけれど、ただ今の僕には必要のないステージ。それが今回のシェリル・クロウの来日公演に関する僕の率直な感想だった。
あとひとつ。シェリル・クロウ自身もMCで笑っていたけれど、午後五時の開演はいくらなんでも早すぎる。午後七時前に終わってしまうコンサートなんて初めてだ。
(Oct 22, 1999)
エルヴィス・コステロ With スティーヴ・ナイーヴ
1999年12月15日/NHKホール
エルヴィス・コステロ&スティーヴ・ナイーヴの本年二度目にして年内最後の来日公演。
前回の来日からわずか10ヵ月ということで、基本的にはその時の来日公演とまったく同じフォーマットのライブだった。どうもクリスマスということで、いまのコステロは恋人同士でしっとりと聴くにはもってこいだからと、プロモーターが色気を出して招聘したっぽい。そのせいか知らないけれど、前後左右がみんなカップルで、ひとりきりの僕はちょっとばかり居心地の悪い思いをした。まあコステロを再び見られたこと自体は大きな喜びだったから、いいっちゃあ、いいんですけど。
今回は前回と同じくナイーヴと二人きりのステージでありながら、内容的にこの十ヶ月の間で、若干シフトチェンジしていたのが興味深かった。
まずはその選曲。いきなり一曲目が未発表曲だったと思ったら、それ以降も出てくる出てくる、知らない曲が。新曲だけでも七、八曲が披露された。大半はしっとりしたバラードで、アルバム 『All This Useless Beaty』 や 『Painted From Memory』 の流れをくむ楽曲だった。次のアルバムもこうした落ち着いた作品になりそうな印象だ。
それぞれがどんな曲だったかはほとんど記憶にない。 『アリバイ』 という言葉がさびに使われた冒頭の一曲目や、たぶん本人の年齢に関することだろうと思われる 『45』 という歌詞を連発する比較的明るい旋律の楽曲、教師や弁護士がなんだとかいって来年公開の映画の挿入歌だと紹介された曲などがよかった印象が残っている。
その他、演奏するのは今日が初めてだといって紹介された曲が "You Lie Sweet" とかいうタイトルだった。ワンコーラスくらいしかないような短い曲だ。ほかには "Brown Sugar, Some Bitter"というフレーズの曲があった。ただ僕のヒアリング能力は全然なので、どれも言葉の信憑性はかなり低い。いずれレコードとして作品がリリースされた時に、自分の間違いを知って、ひゃあとか思うのだろう(追記:本当に思った。正しいタイトルはセットリスト参照)。
【セットリスト】
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新曲群が惜しみなく披露された一方で、 『Painted By Memory』 の楽曲はすっかり影を潜めていた。このアルバムからの曲は "What's Her Name Today?" と、アンコールでの "I Shill Have That Other Girl" 、 "God Give Me Strength" の三曲のみだった。
前回のセットにはなかった曲ではまず目を引いたのがアンコールの "Clubland" と "Green Shirts" 。ともにナイーヴによるファットボーイ・スリム気味のチープなドラムループがフィーチャーされていて、
あと覚えている限りでは "Man Called Uncle" 、 "Big Boy" 、 "I'll Wear It Proudly" が初めてだったはずだ。最後の "I'll Wear~" は個人的に大好きな曲で、前回の来日の時にもやってくれないかなと思ったくらいなので、とても嬉しかった。
この他は一応前回の時にも披露された曲だったと思う。最近の眠気を引きずったままだったので、結構記憶が怪しいけれど。中で特に印象深かったのは "Alison"。いまさらながらこの曲に感動してしまった。極めてシンプルに、オリジナルと同じ長さですっきりと歌い上げて終わったところがなんともよかった。
この日のライブはとにかくアンコールが長かった。 "I Want You" を最後に本編が一時間半もせずに終了してしまった時には、今日は思いのほか短いかも知れないと思ったのだけれど、そんなことを思った僕が馬鹿だった。惜しみなくアンコールに応えてくれること、くれること。全部で4回か5回のアンコールがあった。
で、新曲が多かった上に僕が聴きたいと思うような曲はそこまであまりセットリストに上がっていなかったため、今日はいまいちかと思っていたのだけれど、アンコールでは先に述べたような意表を突いたドラムボックスの導入があったりで、結局すごく楽しませてもらえた。大好きな "I Still Have That Other Girl" や "Everyday I Write The Book" が演奏された。前者はいまひとつだったけれど、後者は最高だった。
最後のアンコールでは "Red Shoes" や "Oliver's Army" などの初期のヒット曲を数曲連発して聴かせてくれた。このあたりでは眠気も手伝ってぼんやりとした幸福感に包まれて、つい、にやけてしまっていた。
最後の最後は今回もやっぱりマイクなしで "Couldn't Call It Unexpected No.4" を聴かせて大団円。終わったのは9時半近くという、十分なボリュームのライブだった。残念なのは聴きたかった "Veronica" が演奏されなかったことくらいだ。
そうそう、前回どんな席で見たか記憶が定かでないのだけれど、今回はプロモーターの先行予約でチケットを取ったために、前回よりは全然ステージに近い席だったようで、アコースティックギターの音などを、よりヴィヴィッドに聴き取ることができた。やはり生演奏はなるべく近くで見るに限る。
(Dec 16, 1999)