2023年7月の音楽
Index
- 秋の日に / 宮本浩次
- yes. I. do / エレファントカシマシ
秋の日に
宮本浩次 / 2022
先月ひさびさに音楽について文章を書いたら、もっと書けそうな気分になったので、いまさらだけれど、ここからは落穂拾い的に何枚か。
まずは去年の十一月に出た宮本浩次の女性歌謡曲カバー・アルバムの第二弾。タイトルは『秋の日に』(猛暑日がつづくさなかに取り上げるにはいまいちふさわしくない)。
これはいろんな意味で意外性のある一枚だった。
そもそもミニ・アルバムとはいえ、『ROMANCE』と同じコンセプトでもう一枚アルバムが出るなんて思ってもみなかった。よほど歌いたい曲が多かったんだろうか。
収録された全六曲のうちに、またもやユーミン(『まちぶせ』)と中島みゆき(『あばよ』)の曲が入っているのもささやかなサプライズ。このお二方に対する宮本のリスペクトがすごい。
さらには中森明菜が二曲入り(『飾りじゃないのよ涙は』と『DESIRE』)。松田聖子だけじゃなくて中森明菜も好きのかっ!――って思った(まぁ、僕も好きだったけど)。
以上を含め、宮本がこれまでにカバーしてきた曲は、僕らの同世代ならば、好き嫌いにかかわらず誰もが耳にしたことがあるようなヒット曲ばかりだったから、『ROMANCE』の収録曲はすべて知っていたし、このアルバムも同様――かと思ったら、今回は違った。平山みきの『愛の戯れ』、この曲だけは聴いたことがなかった。
調べたら1975年の曲だから、当時の僕らは九歳。音楽を聴かない家庭で育った僕なんかが知らなくて当然なこの曲を取り上げるあたりに、母親が音楽好きだったという宮本の家庭環境が垣間見える貴重な一曲だと思う。
アルバムの最後を飾る小林明子の『恋におちて -Fall In Love-』は音がいい。アルバム全体は小林武史氏プロデュースのいつもの整った音作りで、僕としてはいまひとつ引っかかるものがないのだけれど、これだけは宮本のギターの弾き語りをベースにしているせいで、音が妙にラフで生々しい。そこがすごくよかった。これぞ宮本って気がする。最後がこの曲ってのがよかった。終わりよければすべてよし。
振り返って聴き返してみたら、『ROMANCE』のラストの『FIRST LOVE』も同様のアレンジだった。あちらでは特になんとも思わなかったのに、この曲はミニ・アルバムで曲数が少ない中にあるせいか、なんか妙にぐっときてしまった。いまさら『恋におちて』を聴いて、そんな風に感動した自分に驚いた。
ということで、短いながらにいろいろとサプライズが多い一枚だった。
(Jul. 16, 2023)
yes. I. do
エレファントカシマシ / 2023
つづいてエレカシも。今年の三月にリリースされた通算五十一枚目のシングル。
これがなんと、エレカシのシングルとしては――配信シングルの『Easy Go』を除くと――2017年の『RESTART/今を歌え』以来、単純計算すれば六年ぶりとのこと。
エレカシのシングルって、そんなに長いこと出てなかったのかって驚いた。
まぁ、その間にも宮本のソロがガンガン出ていたので、それほど長くご無沙汰していた感はないんだけれど。
でも、聴き比べると音作りがまったく違う。ウェルメイドなポップスに仕上がっている宮本のソロに対して、エレカシの音はラフでオーソドックスで、これぞロックな仕上がり。やっぱ僕にはこちらの音のほうがしっくりくる。
ゲストで参加している鍵盤奏者が『yes. I. do』は細野魚さん、カップリングの『It's onely lonely crazy days』はソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉ってのも、このシングルの重要ポイント。
奥野氏はこれまでもテレビ出演時なんかにエレカシや宮本のバックを務めていたけれど、レコーディングに参加するのは初めて? だよね?
かつて中川敬から「セッションやろうや」って誘われても断っていた宮本が、同じソウル・フラワーの奥野氏とレコーディング・スタジオに入っているのって、個人的にはとても嬉しい事件だった。
曲自体もよいです――が、惜しむらくはタイトルを始めとして、歌詞にも紋切り型の中学英語が溢れかえっている点。
最近の宮本は――売れたことですっかり満たされてしまって歌いたいことがないのか――話せもしない英語の歌詞で隙間を埋めている感があって、そういうところがいささか残念。なまじ最近の若いアーティストたちが日本語の歌詞のまま堂々と世界に挑んでいる状況だからなおさらそう思う。
願わくばこれから迎える老境を日本語で――しっかりとした自分の言葉で――歌いきる宮本の歌が僕は聴きたい。
(Jul. 16, 2023)