2020年4月の音楽

Index

  1. Song For Our Daughter / Laura Marling
  2. Three Chords & The Truth / Van Morrison
  3. Colorado / Neil Young & Crazy Horse

Song Fro Our Daughter

Laura Marling / 2020 / Apple Music

Song For Our Daughter

 新型コロナウィルスのパンでミックで発売延期になる作品が多い中、夏のリリース予定を前倒しして、配信先行で発表されたローラ・マーリングの七枚目のスタジオ・アルバム。
 『私たちの娘に捧げる歌』というタイトルと、恋人らしき男性のうえに覆いかぶさっているジャケットの写真をみて、もしかして結婚して子供でもできたのかと思ったのだけれど、とくにそういうことではないらしく(少なくても公式発表はなし)。タイトル・トラックはあくまで架空の娘にあてた歌とのこと。
 で、音作りはいつもどおりのオーソドックスなフォーク・サウンドだけれど、今作いちばんの特徴は過半数の曲で女性コーラス隊がフィーチャーされていること。
 密集を避けろといわれるこの昨今に、これまでと違うコーラス・グループを加えた大所帯的な音作りをしてくるとは珍しい……と思ったら、なんとこのコーラス、ローラさんひとりの多重録音らしい。
 クレジットが明記されたCDブックレットとかがないので、確かなことはわからないけれど、少なくてもウィキペディアにあがっているクレジットにボーカリストとしてクレジットされているのはローラさんだけだった。そういわれてみると、確かにすべて彼女の声らしく聴こえる。
 でもこれが見事な出来なんですよ。多重録音っていうとどうしても人工的な印象を受けてしまうけれど、このアルバムのそれにはとても自然な響きがある。ふつうに数人の女性が寄り集まって録音しました、とでもいった和気あいあいとした温かさがある。それがこの作品を確実に魅力的なものにしている。
 メロディ自体はあいかわらず地味で、全体的にこれは名曲ってほどのキャッチーさはないけれど(少なくても僕にとってはそう)、その点はいつもどおりというか、彼女の音楽はこれくらいでも十分に心地よいのでオッケー。
 マイク・リンゼイという人との競作だった前作の『LUMP』は、打ち込みを使ったロック寄りの音響のせいで、いまいちしっくりとこなかったので、今回のソロがいつもどおりの感触でほっとした。やっぱローラ・マーリングにはアコースティック・サウンドのほうが似合う。この春の僕のヘビロテ・ナンバーワン・アルバム。
 それにしても、僕が彼女の音楽を聴くようになって今年で、はや十年だって。当時は二十歳{はたち}だったローラさんももう三十歳。時間が過ぎるのって本当にはやいよねぇ……。
(Apr. 26, 2020)

Three Chords & The Truth

Van Morrison / 2019 / CD

Three Chords and the..

 ずとまよ沼に浸っているうちにリリースから半年が過ぎてしまったヴァン・モリソンの最新作。
 その前の年まで二年連続で二枚ずつの新譜をリリースしてきたモリソン先生。去年はこれ一枚だったけれど、直近の四枚がすべてカバー曲中心だったのに対して、今作は全曲オリジナル。
 正確にいうと十曲目の『If We Wait for Mountains』は作詞がドン・ブラックという作詞家との競作――勲章をもらっているらしいから有名人なんでしょう――で、ラストの『Days Gone By』がトラディショナルだとのことだけれど、でも基本的には全曲新曲。つまりオリジナル・フル・アルバムという意味では、『Keep Me Singing』以来、三年ぶりということになる。
 とはいっても、そこはヴァン・モリソン。内容はまったく意外性ゼロ。
 なんたってタイトルが『スリー・コードとその真実』ですから。その名の通り、メロディーの起伏の少ないオーソドックスなR&Bナンバーばっかりがずらりと並んでいる。全編オリジナルとはいっても、最近の四枚と感触はほとんど変わらない。
 でもだからこそいいのです。ひとつ前のローラ・マーリングもそうだけれど、きちんとした自身のコアの部分があって、それをしっかりと守っているミュージシャンの作品って、いつだって安心して気持ちよく聴ける。誰が聴いても楽しいってアルバムではないかもしれないけれど、ファンにとっては文句なしの一枚。
 こんなご時勢だからこそ、いつまでも絶えることなく元気なその歌声を届けつづけてくれていることに感謝の想いしかありません。
(Apr. 26, 2020)

Colorado

Neil Young & Crazy Horse / 2019 / CD

Colorado

 ひとつ前のヴァン・モリソンの新譜とほぼ同時期にリリースされたニール・ヤングの最新作。このふたりってどっちが多くの作品をリリースできるか競争しているじゃなかろうかって思う。
 さて、今回のニール・ヤング先生の新作はひさびさのクレイジー・ホースとの競演。前回は2012年の『Psychedelic Pill』だから、クレイジー・ホース名義の作品は七年ぶりとのこと。
 そう聞いて実は驚いた。――え、それしか経ってないのかと。
 だって、あれから何枚の新譜が出ていることか――。
 僕が感想を書いたものだけで四枚。そのほかに取り上げなかったアルバムがライブ盤を含めれば三枚あるし、アーカイヴ・シリーズとしてリリースされた過去の音源のライヴ・アルバムにいたっては六枚もある。
 つまり合計はゆうに二桁越え。わずか七年のうちにこんなに新譜をリリースしているアーティストなんて、ニール・ヤングのほかにはいないのではないかと思います。齢七十を超えてなお恐ろしい働き者っぷり。
 でもっておもしろいのは、そんなにあれこれ出しているにもかかわらず、このアルバムでクレイジー・ホースと競演したとたんに、これしかないって音になること。
 まぁ、一曲目とかはアコギ主体だからちょい違うけれど、長尺の二曲目『She Showed Me Love』で炸裂するギター・サウンド、これを聴いた瞬間に「そうそう、これこれ」となる。やっぱクレイジー・ホースといえばこのレスポールのギター・サウンドだ。その曲に限らず、アルバム全体の音の感触に昔ながらのニール・ヤングらしさが溢れている。
 さすが長年連れ添っているバンドは違うなぁ――と思って、クレジットを確認してびっくり。今回ギターで参加しているの、ニルス・ロフグレンじゃん! なんと。昔々のクレイジー・ホースのメンバーだったんだ。知らなかった。
 まあ、でもメンバーがいつもと入れ替わっていても、音の感触はまさにこれ。まごうことなくクレイシー・ホース。僕がニール・ヤングと聞いて頭に思い描くのがまさにこういう音。
 思えばニール・ヤング&クレイジー・ホースというバンド名がはじめてクレジットされた名盤『Everybody Knows This Is Nowhere』から去年でちょうど五十年目だ。
 それだけの年月が過ぎたいまもなお変わらない。
 このアルバムが嫌いなニール・ヤング・ファンなんて、おそらく世界中にひとりもいないに違いない。
(Apr. 26, 2020)