2016年6月の音楽
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- A Moon Shaped Pool / Radiohead
A Moon Shaped Pool
Radiohead / CD / 2016
このレディオヘッドの新譜、正直なところ、ずいぶん地味な作品だと思う。
『Kid A』以来、押し進めてきたデジタル・ビート主体のダンス・ミュージック路線にいったん終止符を打ったことで、近年の暗い音楽性がなおさら際立ってしまったというか……。
暗いというか、やはり地味。そう形容するのがふさわしい気がする。マイナーなメロディーばかりのところへきて、ビートもこれまでになく控えめだから、アッパーに盛りあがれるところ、派手なところがほとんどない。
べつに全編スローな曲ばかりというわけではなくて、なかには速めの曲もあるのだけれど、なにせ前作までが非常にダンサブルだっただけに、それと比べると、やはり全体的におとなしめな印象は否めない。
でもそれだからつまらない──とは思わせないところがこのアルバムのすごいところ。
このアルバム、地味は地味ながらいい。間違いなくいい。とてもいい。それが決してファンの贔屓目ではないのは、世界中のメディアの高評価が証明している。
とにかく、ストリングスを多用した生音重視の繊細な音作りが素晴らしい。一音一音のすみずみまで抜かりなく気を配り、丁寧に作り込まれたこのアルバムの音には、なんともいえない味わいがある。
よく聴くと今回も機械はそれなりに使っているようなのだけれど、僕はそんな感じはまったく受けない。とにかくここには生身の人間だからこそ奏でられる音楽の感触がたっぷりとある。熟練した職人の仕事のような完成度の高さがある。考え抜かれた繊細な構造美がある。
まぁ、これまでレディオヘッドを聴いたことがない人がいきなりこれを聴いて気に入るかは保証の限りではないけれど、少なくてもある程度レディオヘッドの音楽性に親しんできた人間にとっては、このアルバムの良質さには決して否定できないものがある。一度でもレディオヘッドのライブを観たことがある人ならば、あぁ、なるほどと思うだろう仕上がりじゃないだろうか。とてもこの人たちらしい作品だと思う。
地味だなぁ、暗いなぁと思いながらも、何度も聴きかえしたくなる不思議な魅力を持ったアルバム。レディオヘッドはいまだ健在だ。
(Jun 28, 2016)