2014年5月の音楽
Index
- Indie Cindy / Pixies
- Everyday Robots / Damon Albarn
Indie Cindy
Pixies / 2014 / CD
2003年の再結成からツアーだけの活動をつづけて、はや10年オーバー。前作からはじつに23年ぶりという尋常ならざるインターバルを経て、いまさらなぜ?って感たっぷりにリリースされたピクシーズの5枚目のスタジオ・アルバム。
去年、キム・ディールの脱退という一大事件を経たあとでレコーディングされたものらしいので、出来栄えにはかなり不安があったのだけれど、聴いてみてびっくり。こりゃ
単独で無料配信された『Bagboy』や、先行配信された4曲入りの『EP1』を聴いたときには、不覚にも「ふぅん」くらいにしか思っていなかったのだけれど、こうしてアルバムとして聴いてみると、それらの5曲を含めて、隅から隅までこれぞピクシーズというテイストで一杯。その思わぬ完成度の高さに驚かされた。――というか、なぜに自分が先行シングルのときに盛りあがっていないのか、不思議になった。どんだけいい加減に聴いてんだ、俺。
いやぁ、これは素晴らしい出来ではないでしょうか。あきらかにキム・ディールとしか思えないコーラスをフィーチャーした『Bagboy』――最後の置き土産?――がもっとも昔ながらのピクシーズを強く感じさせるのは否定できないけれど、それ以外の曲にもちゃんとピクシーズならではって味わいがある。
僕はピクシーズの独自の音楽性は、ブラック・フランシスの優れたソング・ライティングにグランジ・サウンドをあわせ、そこにキム・ディールのローファイなベースとコーラスが隠し味として加わるところに生まれるのだと思っていたから、キム・ディールの存在抜きでもピクシーズがピクシーズたりえる、というのはすごく意外だった。キース・リチャーズ抜きでストーンズが成り立たないように、ピクシーズもキム・ディール抜きでは成り立たないと思っていたのに、まさかそうでなかったとは……。
ということで、僕はこのアルバム、とてもいいと思う。マスメディアの評価はいまひとつのようだけれど、それはこのアルバムがリリース以前に3枚のEPにわけて小出しに全曲が発表されてしまっていたせいで、アルバムとしての新鮮さが薄かったのが原因であって(なんでそんなことするかな)、最初からこの形でばーんと出てきていれば、また話が違ったんじゃないかと思わずにいられない。少なくてもピクシーズが大好きって言っていながら、これが嫌いって人がいたら、それはおかしいだろうと僕は思う。
それにしても、僕はブラック・フランシスのソロもひと通り聴いてきているけれど、このアルバムの感触はあきらかにそれとは一線を画している。オリジナル・メンバーがひとり欠けてはいるものの、それでも同じ仲間が集まれば、昔ながらのバンド・サウンドが生まれいずるとは、これいかに。
ロック・バンドって不思議だなぁと、あらためて思わされた一枚。
(May 28, 2014)
Everyday Robots
Damon Alburn / 2014 / CD
ブラーのデーモン・アルバーン、初のソロ・アルバム。
2012年に出た『Dr Dee』もソロ名義だったけれど、あれはオペラかなにかのサントラだったので、普通のスタジオ・レコーディング・アルバムはこれが初めてだと言われている。
一聴して思ったのは、やたらとおとなしいアルバムだなぁということ。
ジャケットでは真っ白を背景にストールに腰かけたデーモンがうなだれているけれど、ここにある音楽はまさにこのジャケットのイメージそのままという気もする。
とにかくデーモンが声を張り上げたり、シャウトしたりしているところが、まったくといっていいほどない。
音数も少なくて、ロックらしいディストーション・ギターは皆無。あるかないかってドラムの上に、こもった感じのベースラインが乗って、その上でピアノが装飾的にぽろんぽろん鳴っている、そんな感じの曲ばかりだ。
音数の少なさ、無駄のなさには昨今流行りのダブステップの影響なのかもしれない。ただし音の感触はもっと温かくて、全編に人肌のぬくもりが感じられる。デーモンもそんな音の上で淡々とした歌を聴かせる。
ここでの彼にはブリット・ポップの牽引者としての面影はほとんどない。だからブラーの『Song 2』のようなアッパーな要素を求めてしまうと肩透かしを食うこと確実。
でもそういうものがないことを受け入れてしまうと、意外とこれが悪くない。いい曲がたくさんあるし、温かみのある音作りがそれにぴったりとあっている。かつてのように熱くはなれないけれど、いまの時代にあったいい気分にはなれる。そんなアルバム。
いちばんのお気に入りはラスト・ナンバーの『Heavy Seas of Love』。コーラス隊ををフィーチャーしている分、わずかながらもほかの曲よりも高揚感があって、アルバムの締めくくりにはぴったりだ。
(May 28, 2014)