2014年1月の音楽
Index
- ×と〇と罪と / RADWIMPS
- Wise Up Ghosts / Elvis Costello and the Roots
- Hesitation Marks / Nine Inch Nails
- The Electric Lady / Janelle Monae
×と〇と罪と
RADWIMPS / CD / 2013
RADWIMPS、通算7枚目のスタジオ盤は、全15曲、トータルタイム77分という過去最大の力作となっている。
アルバムもこれくらい長くなると、なかなか繰り返し聴くのがつらかったりすることが多いのだけれど、この作品についてはそういうことがない。
iTunesの再生回数によると、リリースされてからの1ヶ月半ばかりのあいだに、僕はこのアルバムをすでに30回は聴いている。その間には正月休みで一週間ばかりぜんぜん音楽を聴かない時期もあったから、そう考えると一日一回は必ず聴いているってくらいの計算になる。
ここまで繰り返して聴ける作品って、最近ではそうそうない。この二、三年に限れば、まちがいなくこれ一枚だと思う。年間二百枚からの新しいCDを手にしていると、個々の作品はおのずと聴く回数が少なくなってしまって、いいなと思った作品でも気がつけば十回も聴いていない、というのが普通になっていたりする(面目ねぇ)。
そんな中でこれだけの回数、繰り返して聴いているのだから、それはもう、僕がどれだけこのアルバムが好きかの証拠以外のなにものでもないでしょう──と、言えればいいのだけれど。じつはそんなこともない。
正直にいえば、僕は今回の作品にも、そこまで夢中になっていない。野田くんの書く歌詞が以前よりもシニカルさを増して抽象的になり、なにを歌っているかがダイレクトに伝わってこなくなった分、過去の作品のように問答無用に惹きつけられるということがなくなった。同じように感じている人も多いんじゃないだろうか。
ただ、とはいっても、実際問題として僕は彼らの音楽を飽きずに聴きかえしつづけているわけで。好きでもない音楽だったら、こんなに繰り返し聴けない。いまもこの文章を書きながら聴きかえしているけれど、やはり飽きることがない。これくらい繰り返して聴けるってこと自体が、このアルバムがどれだけ優れているのかの──そしていまだに僕にとってRADWIMPSがもっとも重要なバンドであるという事実の──なによりの証拠だと思う。
今作でとくに気に入っているのは、アルバムの中ではもっともかわいい『アイアンバイブル』と『パーフェクトベイビー』の二曲。あと、先行シングルの『五月の蝿』と『ラストバージン』は、やはり別格かなという感じ。
(Jan 26, 2014)
Wise Up Ghost
Elvis Costello and the Roots / CD / 2013
エルヴィス・コステロの最新作が、ザ・ルーツとのコラボレーションになると聞いたときには、いったいどんな作品が出てくるのか、見当もつかなかったけれど、いざ手にしたこの新譜は、いたって正統的なコステロのアルバムという印象に仕上がっている。
考えてみれば、ザ・ルーツというのは、オーソドックスなバンド・サウンドに乗せてラップをやっているというのが特徴なわけだから、そこからラップを差し引いて、コステロの歌を乗せれば、普通のロック・アルバムに仕上がるのは当然なわけだ。気がつかないほうがどうかしている。
まぁ、とはいっても、黒人バンドをバックに従えていることの影響がまったくないとは言えない。具体的にいえば、このアルバムには初期の作品にあるような、明るい旋律のロック・ナンバーはひとつもない。どれもマイナー・コード主体の、抑制のきいたビートが印象的な、地味めの曲ばかりだ。
二十一世紀に入ってからのコステロの作品──『When I Was Cruel』以降──は比較的そういう傾向が強かったけれど、今回はいわばその極めつけという印象になっている。もしかしたら、これはコステロ流のブルース・アルバムなのかもしれない。
ということで、コステロ初期のテイストを期待して聴くと、ちょっとがっかりしてしまうような内容だけれど、この十年ほどの活動の延長線上にある作品としては、なるほどという一枚。なにげに『Pills and Soup』のフレーズや『Hurry Down Doomsday』のリフなど、過去の作品からの引用があるところにも、ぐっとくる。
(Jan 26, 2014)
Hesitation Marks
Nine Inch Nails / CD / 2013
去年、復活したナイン・インチ・ネイルズが5年ぶりにリリースした新作。
まぁ、働き者のトレント・レズナーのことだから、ナイン・インチ・ネイルズとしての活動を休止していた間も、奥様をボーカリストにフィーチャーしたハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズや、『ドラゴン・タトゥーの女』のサントラなど出していたので、この人の存在自体はあまりひさしぶりって気もしないけれど。
それでも女性ボーカルやインストものと、彼自身がボーカルをとる作品では、やはり感触は違う。ナイン・インチ・ネイルズにしても08年の『Ghosts I-IV』や『The Slip』は企画ものっぽさが否めなかったから、通常フォーマットのフル・アルバムとなると、その前年の『Wiht Teeth』以来。これくらいあいだが空くと、さすがに新鮮だ。
今回は冒頭を飾る二曲、『Copy of A』と『Came Back Haunted』が(NINの曲としては)とてもキャッチーなこともあり、これまでのアルバムの中では、比較的よく聴いた。
『Broken』のころと比べると、音作りの過激さが薄れて、聴きやすくなったのも、僕のようなへなちょこなリスナーにはちょうどいい。かつては鋭利にとがって危険だった重金属が、月日をへて、重さはそのままに角だけとれて、いい具合に丸くなった感じ。
いやでも、そんな僕でもアルバムの真ん中に収録された『Everything』のらしからぬ明るさには、やや違和感が。
(Jan 26, 2014)
The Electric Lady
Janelle Monae / CD / 2013
デビュー以来、近未来の女性アンドロイドに扮するという風変わりなアイディアで連作のコンセプト・アルバムをリリースしつづけている黒人女性アーティスト、ジャネル・モネイのセカンド・アルバム。
このアルバムはこれまでの2枚(最初はEP)につづく、同シリーズの組曲4番と5番とのこと。まぁ、英語がわからない僕には、そうした構成がどうなっているのかとか、女性アンドロイドがどうしたという部分はまったくわからないのだけれど、単にその音楽性だけでも、この人はとてもおもしろい。
いかにも色物モノっぽいその立ち振る舞いに反して、彼女の音楽はいまどき珍しいくらいにオーソドックスで本格的なソウル・ミュージックだ。
いや、その特異なコンセプトに沿った映画音楽的な装飾があちらこちらに施されているから、オーソドックスという表現は正しくないかもしれないけど、それでも彼女の音楽を支える個々のパーツは、基本どれもとても古典的なものだと思う。それも70年代以前の。
そんな古めかしい音楽を組み合わせて、レトロフューチャーな意匠を凝らした演劇仕立ての音楽世界を築き上げてみせる。そのアイディアがとても個性的でおもしろい。
言ってみれば、デヴィッド・ボウイが70年代初頭にバイセクシャルな退廃性をもってやっていたことを、彼女はいま現在、二十一世紀の黒人音楽の伝統にのっとって、性別不詳のアンドロイドとして健康的にやっている、なんて形容もできそうな気がする。
プリンス、エリカ・バドゥ、エスペランサ・スポルティングら、新旧の個性派黒人アーティストがゲスト参加して、そんな彼女を支えているところも要注目。
(Jan 26, 2014)