2013年3月の音楽
Index
- The Idler Wheel... / Fiona Apple
- ロックンロール イズ ノットデッド / サンボマスター
- VISION / The Birthday
The Idler Wheel Is Wiser Than the Driver of the Screw and Whipping Cords Will Serve You More Than Ropes Will Ever Do
Fiona Apple / 2012 / CD
去年リリースされたフィオナ・アップルの、じつに7年ぶりの新作。
これがまた、けっこう地味な印象の仕上がりになっている。
音数の少ない音楽って、このごろのトレンドのひとつだと思うのだけれど――というのは、ジェイムズ・ブレイクとか、フランク・オーシャンとか、ダンス系、ブラック系の人たちが人気を博していることからの印象だけれど――、このフィオナ・アップルも、音の傾向は違うものの、同じような流れの中の作品ではないかと思う。
なんたって、前半の曲にはほとんどドラムが入っていない(──と書いたあとで、あらためて聴き直してみたところ、まったく入っていないわけじゃなかった。でも通常のロックのフォーマットで8ビートをたたくドラムは皆無)。かといって弾き語りというほどシンプルでもない。鍵盤を中心に、オーガニックな感触の音を積み重ねて、必要最低限のビート感を持った、絵画的な歌を生み出している。
いやいや、絵画的、というか、どちらかというと演劇的、だろうか。全体の印象はかなり違うけれど、僕はトム・ウェイツっぽい演劇性を感じた。
で、基本的に全編を通じておとなしめな印象なのだけれど、それでも後半の曲になると、ドラム(というかパーカッション?)が目立つようになって、いくぶん音が厚くなり、迫力が増す。徐々にピークが上がってきて、ラストナンバーでどーんと終わる、その感じもまた演劇っぽい。そしてそうした構成ゆえに、短いながらもなかなか聴きごたえがある作品となっている。歌詞がわからないので、なんとも言えないけれど、これってもしかして、ある種のコンセプト・アルバムなのかもしれない。
まあ、7年ぶりのアルバムがわずか40分にも満たないってのは、若干もの足りない気もあるけれど、長いアルバムばかりのご時世だけに、その短さがかえって心地よかったりもするし、アルバム全体としての統一感と起承転結のイメージのある、いい作品だと思う。
ただし、タイトルはまたもや長すぎて、まったく覚えられない。
(Mar 07, 2013)
ロックンロール イズ ノットデッド
サンボマスター / 2012 / CD
サンボマスター、通算6枚目のスタジオ・アルバム。
前作の 『きみのためにつよくなりたい』 がその内容からジャケットのデザインに至るまで、すべてが素晴らしかったのに比べると、このアルバムはジャケットがいまいち趣味でない。おまけにいかにも彼ららしいタイトル・トラックもメッセージが直球すぎる気がして、最初は前のアルバムほど、盛りあがれないでいた。
でも、最近になってあらためてじっくり聴いてみたら、いやー、これはこれでいい曲ばっかだった。とくに『衝動バケモノ』とか、去年の僕の日本語ロック、ナンバー・ワン・ソングと言っていいくらいに素晴らしい。
全体的にメッセージもてらいがないし──ただし、初回盤のボーナス・トラックとして『I love you & I need you ふくしま』がアルバムの真ん中に入っているのは、その意味するところが明快な曲だけに、アルバムの流れを阻害している気がしてならない──、録音はもうちょいラウドでもいいと思うけれど、これはこれでとてもいいアルバムだなと思うようになった。
考えてみると、デビュー十年を超えてなお、彼らのようにあたりまえのラブソング──それも思春期的なそれ──をあたりまえのラブソングとして、照れることなく聴かせられるロック・バンドって、めったにいないんじゃないかと思う。
なんだかんだいって、サンボマスターの歌の多くはラブソングだ。見た目、お世辞にもハンサムとはいえない山口くんが、格好をつけずに等身大の自分自身の言葉で歌うそれらは、いまなお錆びつかずにしっかりと誠実なラブソングとして僕の耳に届く。そういうのって、なかなかできることじゃないと思う。
僕の好きなアーティストでいえば、エレカシやバンプはあまりラブソングってないし、あってもあまり熱い恋心が伝わってくるような歌じゃない。ラッドウィンプスは野田くんの恋愛観が特殊すぎて一般化できない。チバユウスケや草野マサムネの恋の歌も感覚的にあまり一般的じゃないし、桑田佳祐のラブソングはすっかり職人化している。
そう考えると、僕の好きなアーティストのうちでもっとも普遍的なラブソングを聴かせてくれるアーティストはサンボマスターかもしれない。そうは見えないのにそうであるという。そのらしからぬところが素敵だと思う。
(Mar 24, 2013)
VISION
The Birthday / 2012 / CD
The Birthday もこれが6枚目のオリジナル・アルバム。
ギタリストがフジイケンジに替わった前作は、チバユウスケ関連の過去の作品としてはもっとも軽快な印象だったし、今回は先行シングルの『ROKA』と『さよなら最終兵器』がどちらも非常にキャッチーなナンバーだったので、アルバムとしてもさぞやポップな仕上がりになっているのだろうと思ったら、まーったくそんなことがなかった。
シングル2曲以外はどれもシンプルなリフの3コードのロックンロールばかり。印象的にはそれ以前のドライな感じに戻っている。「いいじゃん、これで。カッコいいでしょう。やっぱ3コードがサイコーだし」といわんばかりの内容。そこがおもしろい。
チバユウスケって、キャラはともかく、やっていることが奥田民生に近い気がする。両者ともすごくメロディーメイカーとしての才能があるのに、その部分は必要最小限にしか使わず、あとはドライにシンプルなロックンロールを鳴らしている。その感じに近いものがあると思う。
甘いものもおいしいけれど、ひとくちふたくちでいいんだよね、飽きちゃうから──。そんな感じでこの先もチバユウスケという人は苦いロックンロールを鳴らしつづけるんだろう。それはそれでカッコいいと思う。
とはいっても、やはり僕は『さよなら最終兵器』がいちばん好きだ。「ヴィーナス タンゴ ステップをやみくもに踏み出せ」という意味不明なサビのフレーズに、なぜだかとても励まされる。
(Mar 31, 2013)