2013年1月の音楽
Index
- Centipede Hz / Animal Collective
- I Bet on Sky / Dinosaur Jr.
- Sun / Cat Power
Centipede Hz
Animal Collective / 2012 / CD
今年こそちゃんと音楽についても語るぞと──この数年、毎年そう思いながら実現できずにいるけど──いう決意とともにとりあげる今年の1枚目は、アニマル・コレクティヴ、通算9枚目のスタジオ・アルバム。
世界中で絶賛された前作『Merriweather Post Pavilion』に比べると、そこまで評価の高くないアルバムだけれど、僕はこれ、とても好きだった。個人的には前作よりもしっくりきた。
前作が隅々まで気の行き届いた完璧なポップ・アルバムだとしたら、こちらはもうちょっとまとまりを欠いた感じがある。ボーカルは妙に元気だし、全体的にビートのアタック感が増して、ドコドコした音響になっている。基本的には前作と同じ素材を積み上げたのに、ちょっと大きさに不揃いがあったもので、前ほど高い山に積み上げられず、なにやら不安定になってしまいました、みたいな。
でも僕にはそこがよかった。きれいにまとまりきらない、でこぼこした感じがとても刺激的だと思う。ナイン・インチ・ネイルズっぽいハードなビート感を目指してみたものの、結局キャラがヤワ過ぎて、そうはなりきれませんでした、とでもいった感じがとてもいい。それでいて持ち前のあかるさを失っていないし。軟弱者ならではのリアルなダイナミズムが溢れている。
前作を僕はエレクトリック・パレード版の『ペット・サウンズ』と形容したけれど、今回のはそのパレードがところどころで暴走して、ちょっとばかり収集つかなくなってしまったみたいな感じ。そこがとてもツボだった。
僕にとっては去年の新譜のうちで、スピリチュアライズドと1、2を争う1枚。これを聴いて、このバンドのこと、すごく好きになった。旧譜もちゃんとフォローしなきゃなぁと思う。
(Jan 12, 2013)
I Bet on Sky
Dinosaur Jr. / 2012 / CD
ダイナソーJrの3年ぶりの新作。
オープニング・ナンバーのイントロを聴いて、おぉっと思う。なんと、オルガンが鳴っている!
……って、まぁ、別にそんなにびっくりするほどのことではないかもしれないけれど、ダイナソーJrは轟音ギター一本勝負のバンドってイメージがあったので、一曲目からキーボードがフィーチャーされていて、しかもギター音量やや控えめな音作りには、とても意外性があった。
とはいえ、キーボードが入っているのは、ほんのわずかで、そのほかの大半の曲はいつもの調子の、マスキス節ともいうべき泣きのメロディ全開の好作品。ほんと、07年に『Beyond』で復帰してからのこのバンドは絶好調だ。
J・マスキスって、とくべつ歌がうまいとか、いい声をしているとかって思わないんだけれど、それでいて彼の歌には妙な味がある。この人の歌って、なんだかいい。どういいんだか、よくわからないけれどいい。単にメロディがいいってだけかもしれないけれど、ちゃんと胸に残るものがある。ウェット過ぎず、ナチュラルに憂いがあるというか。
そんないい歌が、これぞロックってディストーション・サウンドに乗って届くんだから、こりゃもうたまらない。これも去年のお気に入りのアルバムのうちの一枚。小難しいこといわずに、純粋にロックらしいロックを楽しませてくれるという点では、アニマル・コレクティヴやスピリチュアライズドを上回る魅力を持ったアルバムだと思う。
(Jan 13, 2013)
Sun
Cat Power / 2012 / CD
僕が聴くようになって以来、初めてのリリースとなるキャット・パワーの新作。
いまだ彼女の音楽を半分もフォローできていないので、今回の作品が彼女のキャリア上、どのような位置付けになるのかよくわからないけれど、音の傾向としては、ひとつ前のオリジナル・アルバム『The Greatest』と比べると、心持ちシンセや打ち込みの音がめだっていて、ややチープ感のある仕上がり。
でもその分、ビートが前へ出ているところがいい。そしてなにより曲がいい。少なくても前作よりも全体的に、アッパーでキャッチーになっている感じがする。
まぁ、とはいえ、もとより力みのなさが持ち味の女性だと思うので、さすがにそうガッツンガッツンくるようなビートの過激さや、平均値を超えたスピード感があるわけではない──というか、どちらの点もおそらく平均を下回っていると思うのけれど、それでも彼女のけだるいボーカルには、これくらいがちょうどいい気がする。
例えてみれば、気分転換に髪をばっさりと切って、いままでよりちょっぴり派手めでチープなファッションで着飾ってみたら、なんとなく気分が高揚しちゃいました、みたいな感じがするアルバム。少なくても僕にとっては、とても気持ちよく聴ける、ご機嫌の一枚だった。
(Jan 20, 2013)