2009年9月の音楽
Index
- Hospice / The Antlers
- War Child Presents Heroes / Various Artists
- FREEDAM / Dragon Ash
- 11 / スチャダラパー
Hospice
The Antlers / 2009 / CD
これまたニューヨークのインディー・ロック・バンド。その名もなんとジ・アントラーズ。でもってジャケットは赤。鹿島アントラーズのサポーターとしては、これはチェックしておかないといけないんじゃないかと思って、MySpace で視聴してみたところ、なんだかとてもよさそうだったので、思いきって買って聴いてみた。そしたらこれが本当に素晴らしかった。僕のこの2週間で一番のヘビー・ローテーションになっている。
音の傾向はグリズリー・ベアの従兄弟、とでもいった感じ。つまり基本的には静かで繊細だけれど、ときどき激しくもなるというパターン。でもあちらほどにはリズムは凝っていないし(なんたって、いまどき珍しく正式メンバーにベーシストがいない)、ほぼ全曲がスローな曲だ。だからほとんど踊れない。音の基調をなすのは電子ピアノとナチュラル・トーンのエレクトリック・ギター。そして囁くようなボーカル。
なんでもこのアルバムは、ガンで入院中の大事な人を見守っているという内容のコンセプト・アルバムなんだそうだ。だからタイトルは 『ホスピス』。なるほどと思うような、静かでやさしく、もの悲しい──それでいてときにこらえきれなくなったように激しくなる──、そんな楽曲ばかりがずらりと並んでいる。病院ぎらいの僕には不似合いな気もするけれど、それでもこれは本当にいい。僕の今年のベスト5に入る。
ほんと、ここにある音楽は、病室の窓からレースのカーテンごしにそっと差し込んでくる陽の光みたいにやわらかく温かい。あまり好きな言葉じゃないのだけれど、病院をテーマにしてることだし、これってまさに「癒し系」なのでは……とか思う。こういうのを気に入って、さんざん繰り返して聴いていると、俺ってもしかして最近、ものすごくまいっているのかもと思ってしまう。
(Sep 05, 2009)
War Child Presents Heroes
Various Artists / 2009 / CD
国際紛争地域の子供たちを支援するボランティア団体、ウォー・チャイルドによるチャリティー・アルバムの最新作。
このシリーズはいつも内容がふるっているけれど、今回のはとびっきり楽しい。すべてカバー・バージョンで、参加しているアーティストも豪華ながら、それ以上に取り上げられている楽曲がものすごく有名な曲ばかり。
ベックによるボブ・ディランの 『レオパード・スキン・ピルボックス・ハット』 のカバーから始まり、ダフィがポール・マッカートニーの『死ぬのは奴らだ』 をやっていたり、リリー・アレンがミック・ジョーンズと組んで、クラッシュをカバーしていたり。フランツ・フェルディナンドの 『コール・ミー』(ブロンディ)やクークスの 『ヴィクトリア』(キンクス)なんてのもある。TV・オン・ザ・レディオの 『ヒーローズ』 (デヴィッド・ボウイ)なんて、あまりにハマりすぎで笑ってしまうくらい。オリジナルかと思った。
そのほか、僕には馴染みのないアーティストでも、やっている曲が有名なので十分に楽しめる。たとえばザ・ライクという女の子バンドがコステロの 『ユー・ビロング・トゥ・ミー』 をカバーしたりしている(これがけっこういい)。
そのほかにもスプリングスティーン、ラモーンズ、スティーヴィー・ワンダー、ロキシー・ミュージック、イギー・ポップ、U2と、有名どころの楽曲が目白押し(まあ、やってるのはよく知らない人たちだけれど)。これくらい隅から隅まで楽しめるコンピレーションってのもなかなかないと思う。これでなおかつ不幸な子供たちへのチャリティーにもなるというんだから、ロック・ファンならば、ぜひとも買っとくべしって一枚。
(Sep 15, 2009)
FREEDOM
Dragon Ash / 2009 / CD+DVD
春先にリリースされたドラゴン・アッシュの最新作。
先行シングルの 『Velvet Touch』、『繋がりSUNSET』、『運命共同体』 などが、いままでになくポップでメローな仕上がりで、アルバム全体もそれらに準じた内容だったので、全体的におとなしすぎる気がして、第一印象はいまひとつだったのだけれど、その後、彼らのライブを初体験したことで、印象がガラっと変わった。いやぁ、生だと、そのパーカッシヴで硬質な音作りが映えること、映えること。あんなライブを見せられてしまったら、その中心となっていたアルバムにケチなんてつけられるわけがない。
生で観たイメージを持ったまま改めて聴き直してみて、僕はこのアルバムがただ単にポップなだけではなく、彼らにしか出せないようなサウンドを持った、非常にオリジナリティあふれる作品であることに気がついた。表面的にはポップで聴きやすいけれど、ちゃんとボリュームを上げてディテールに耳をすませば、そこにはこれまでに彼らが追求してきた、彼らならではの「ミクスチャー・ロック」がしっかりと脈打っている。ラテン・フレーバーの硬質な音作りがすっかりオリジナルのスタイルとして確立されていて、メローな曲でも十分に踊れる。
このダンス・ミュージックとしての機能性の高さに、生で体験するまで気がつかないでいたことに、僕は自分のロック・リスナーとしての到らなさを思い知ったのだった。でも、こうやって年じゅう到らねえなあとか思っているからこそ、僕はまわりの誰よりもロックに飽きないでいられるような気もしている。
いやしかし 『繋がりSUNSET』 って本当にいい曲だなあと、あらためて思う。なぜ最初に聴いたときにそう思わなかったのか、いまとなると、われながら不思議だ。
(Sep 30, 2009)
11
スチャダラパー / 2009 / CD+DVD
これも春先にリリースされたスチャダラパーの11枚目のフル・アルバム。
スチャダラパーを聴き始めたのは95年リリースの『5th Wheel 2 The Coach』 からだから、つまりこの人たちとのつきあいも、かれこれ15年近くになる。とはいっても、それなりに聴き込んだのは、最初に聴いたそのアルバムと、そのひとつ前の 『WILD FANCY ALLIANCE』 だけで、それ以降はつかず離れずという状態がつづいている。アルバムが出れば必ず買うけれど、いまいち盛りあがれずに、そのまま聴かずに終わってしまうというパターンばかり。それでも懲りずに買いつづけているのは、ラップという音楽形態の魅力を、初めて日本語でもって実感させてくれたのが彼らだったからだ。
いや、最初に聴いた二枚のアルバムのインパクトは、本当に大きかった。ながらで聴いていても、知らず知らずのうちにそのリリックの世界に引き込まれてしまう強力な吸引力があって、なるほどこれがラップというものかと思ったものだった。それまでだってパブリック・エナミーなどは聴いていたけれど、日本語で聴くラップはまったくインパクトが違った。言葉がわかるとこうまで違うものかと、まさに目からウロコだった。
でも、残念なことに、それ以降のスチャダラでは、そういうことがとんとない。まあ、聴いているこちらの集中力にも問題はあるんだろうけれど、それでは最初に聴いたときには特別に身を入れて聴いたのかというと、まずそんなことはないので、これはやはりこちらが悪いばかりではないと思う。寄る年波のせいか、彼ら独特の軽妙さが薄れたことで、言葉が以前ほどダイレクトに伝わってこなくなった気がする。
それでも今回のこのアルバムは、なかなかよかった。前半はややマイナー調で、さくっと入れなかったのものの──やっぱスチャダラパーなんて名乗るくらいだから、もっとあかるくあって欲しい──、先行シングルの 『ライツカメラアクション』 からあとで、ぐっと持ち直した。この曲はスチャダラ史上最強の歌ものじゃないかってくらいにキャッチーだ(ただしボーナスDVDに入っているビデオ・クリップはやたらと下世話)。木村カエラをゲスト・ボーカルに迎えた 『Hey! Hey! Alright』 も楽しいし、『ベカラズ』 には思わず吹き出した。なにより、その2曲から 『Good Old Future』 とつづく最後の部分のあかるさには、かなり「あのころ」のスチャダラっぽさが感じられて、とてもよかった。
(Sep 30, 2009)