2009年1月の音楽

Index

  1. It's Monk's Time / Thelonious Monk
  2. Monk's Dream / Thelonious Monk
  3. GET STONED / 土屋公平
  4. GATEWAY / HARRY

It's Monk's Time

Thelonious Monk / 1964 (2003) / CD

It's Monk Time

 今年は音楽についても、できるかぎり文章を書くぞという新年の誓いもどこへやら。なにひとつ書かずにいるうちに、気がつけば一月ももう終わりって時期になってしまった。なってない。
 こういうていたらくになった原因は、ひとえに年末年始に入手した新譜に、これだというのがなかったことにある(まあ、言い訳だけれど)。フリート・フォクシズ、TVオン・ザ・レディオ、リル・ウェインなど、去年のベスト・アルバムだという呼び声の高い作品にあれこれ手を伸ばしてみたにもかかわらず、どれもいまひとつぴんとこなくて、結局旧譜ばかり聴いている今日この頃だったりする。
 そんななか、僕の部屋で最近もっとも多くかかっているのが、このセロニアス・モンクの64年のアルバム。去年、WOWOWで放送されたライブ番組で、このアルバムの一曲目の 『ルルズ・バック・イン・タウン』 というスタンダード・ナンバーを演奏しているのを観て、その曲がすっかり気に入って買ったもの。その曲を始めとして、モンクのピアノ・ソロで始まって、途中からバンド演奏になる、というパターンの曲が多いのが特徴。ソロとカルテットの演奏が一枚で両方楽しめる、ある意味お得なアルバムだと思う。
 なんにせよ 『ルルズ・バック・イン・タウン』 がいいです。大のお気に入り。
(Jan 30, 2009)

Monk's Dream

Thelonious Monk Quartet / 1962 (2002) / CD

Monk's Dream

 もう一枚、セロニアス・モンクのアルバムを。これはこれまでに聴いた数少ないジャズ・アルバムのうちで、僕がもっとも気に入っているもののひとつ。
 表題作を始めとして、このアルバムの収録曲の半分は、52年のセロニアス・モンク・トリオのアルバム── 『Blue Monk』 が初収録されたやつ──にも入っている曲を、カルテットで再録音したものだったりする。ちょっと前まで僕は、ジャズはピアノ・トリオが一番だと思っていたので、そのアルバムもけっこう前に入手して、一時期は愛聴していたのだけれど、意外にもバージョンとしては、こちらのほうが断然好きだった。
 このアルバムはとにかく録音がいい。とくにベードラの音が最高。普段はそんなこと意識したことのない僕がそう思うくらい、リズム・セクションに存在感がある。おかげでモンク独特のくずれたリズム感覚がなおさら引き立っている。また、テナー・サックスが入ることで、トリオのときよりもパンチが効いて、いっそうドライブ感がきわだっている。そうしたことの相乗効果で、ロック・ファンである僕にとっては、非常にアピール度の高いアルバムに仕上がっているのだと思う。これまでの「ジャズはピアノ・トリオが一番」だという僕の思い込みを訂正させて、「おおっ、カルテットも悪くないぞ」と思わせた、(個人的には)とてもエポック・メイキングな一枚だった。お薦めです。
(Jan 30, 2009)

GET STONED

土屋公平 / 2009 / CD

GET STONED

 ストリート・スライダーズの蘭丸がデビュー二十五周年を記念して制作した、初のソロ・アルバム。
 スライダーズが解散してからの蘭丸の交友関係の広さを物語っているんだろう、このアルバムはゲストがとても豪華だ。フィーチャリングされているのは、紫鹿、武田真治、DJ HASEBE、P.J.、清春、伴都美子、大黒摩季、中島美嘉、浦嶋りんこ、島津ナディア、勝手にしやがれ、仲井戸麗市、Leyona といった方々。そのほかにも、甲斐よしひろが全面参加した曲があったり、吉田健がクレジットされていたりする。
 チャボとチャラと中島美嘉をのぞくと、僕には関心がない人たちばかりだけれど(知らない人もけっこういる)、女性を中心にこれだけのメンツを集められるんだから、蘭丸もすみに置けない。スライダーズ解散後もしっかりと活躍しているようで、なによりだと思った。というか、もしかして解散後のほうが活躍しているんじゃないかという気さえする。
 音楽的には蘭丸らしいファンキーなナンバーが多いかなと。逆にいえば、シンプルなロックン・ロールはほとんどない。あらためてスライダーズのファンキーな部分は、彼に負っていたところ大きかったんだということを知らしめるような内容になっている。また、ゲストが多いために、蘭丸自身がボーカルを取っているナンバーが少ないのも特徴。おかげで蘭丸のソロ・アルバムというよりは、彼がプロデュースしたコンピレーションみたいな印象がある。
 ただまあ、蘭丸自身は特に歌がうまいわけでもないので、これはこれでありかと。自らのソロ名義の作品で裏方に徹してみせる姿勢は、ある意味いさぎよい。そうした姿勢あってこそのこの人望なのだろうし、僕はそこに蘭丸のミュージシャンとしてのプロフェッショナリズムを感じた。二十五年のキャリアはだてじゃない。
 なんにせよ、これはスライダーズの蘭丸のソロではなく、その後の蘭丸が歩んできた歴史の集大成というべきアルバムなのだと思う。考えてみれば、今年でもうスライダーズが解散してから数えて十年だ。もしかしてソロ・アルバムを作ろうと思った契機は、デビュー二十五周年よりも、そちらのほうが大きかったりしないかなと、ちょっと思ったりした。
(Jan 31, 2009)

GATEWAY

HARRY / 2008 / CD

GATEWAY

 蘭丸のアルバムを紹介したからには、やはりハリーのこの作品も取り上げておかないわけにはいかないでしょう。去年リリースされた3枚目のソロ・アルバム。
 とはいっても、これは収録曲はすべてスライダーズ・ナンバーという、セルフ・カバー・アルバムだ。なんでいまさらスライダーズの曲かと思ったら、クレジットされているのはハリーだだひとり。もちろんハリーがプログラミングなんてするわけがなく、つまり全曲弾き語りなのだった。
 なるほど、そりゃそうだ。いまさらハリーがスライダーズのナンバーを、ほかのメンツでレコーディングし直すわけがない。そんなこと、ちょっと考えりゃわかりそうなものだと、CDをかけるまでそのことに気がつかなかった自分がちょっと情けなくなった。
 それにしてもこのアルバムは、たくさんの美女や仲間らに囲まれて作られた蘭丸のソロとはじつに対照的だ。まさに対極というか……。
 バンド・サウンドをそぎ落として、アコギ一本(一部はエレキ)で弾き語られるスライダーズ・ナンバーは、見事に枯れまくっている。でもって、その乾きぐあいがなんともハリーらしかったりする。というか、この乾き方に共感したからこそ、僕はかつてあれほど夢中になってスライダーズの音楽を聴いていたんだと思う。
 なんたってここに収められた名曲の数々── 『のら犬にさえなれない』 から始まって 『Easy Come, Easy Go』 で終わる全12曲──は、どれも僕の二十代を思い返すときにはなくてはならない歌ばかりだ。四十代になったいまでも、それらの曲がハリーのあの声で歌われるのを聴くと――それがどのような形であれ――、やはりぐっとくるものがあるのだった。
 ひさしぶりにハリーの歌とギターを生で聴きたくなってきた。
(Jan 31, 2009)