2008年9月の音楽
Index
- Forth / The Verve
- Viva La Vida or Death And All His Friends / Coldplay
- Modern Guilt / Beck
- Beautiful Future / Primal Scream
- Let It Down / Al Green
- This Is Ryan Shaw / Ryan Shaw
Forth
The Verve / 2008 / CD
サマーソニック08で強烈な印象を残したザ・ヴァーヴが、その来日直後にリリースした四枚目のフル・アルバム。
これを聴けば、まちがいなくあの夜の興奮がよみがえる──とか云えるといいのだけれど、残念ながらそんなことはない。少なくても僕の脳裡には、そんなものはまるで甦らなかった。ライブでのあのとんでもなさは、いったいなんだったんだろうと、かえって不思議になってしまった。
それはこのアルバムがよくないという意味ではない。これはこれでいい作品だと思うし、僕は好きだ。でも先にこれを聴いていれば、あの夜にマリン・スタジアムで見たヴァーヴのスケールの破格さが想像できていたかと云うと、答えはノー。いっくらボリュームを上げてみたところで、あの晩にヴァーヴが奏でた音楽の雄大さはおそらく伝わらないだろうと思う。
なぜライブでのヴァーヴがあんなにすごいのか、僕には説明できないけれど、それでも本当にあの夜に彼らが見せてくれたステージは衝撃的だった。一生忘れることがないんじゃないかという、この夏の不思議のひとつ。
(Sep 14, 2008)
Viva La Vida or Death And All His Friends
Coldplay / 2008 / CD
ザ・ヴァーヴと並んで、サマソニ08の二日目のヘッドライナーをつとめたコールドプレイの──いまさら僕がつべこべ云うこともない気もする──四枚目のアルバム。
コールドプレイは、デビュー当時から気になっていたにもかかわらず、なぜだか一枚も聴かずにきてしまったバンドだった。このアルバムはリリース前から各メディアで大騒ぎされていたのに加え、リリース後も全世界で瞬く間に500万枚を売り上げたというので、なんだかいまさら聴くのも格好わるいなあと思っていたのだけれど、それでもまあ、サマソニで来日することだし、その気になれば生で観ることもできるのだから、とりあえず聴くだけ聴いておこうと購入に踏み切った。
結果として僕はサマソニでコールドプレイを観なかったけれど、それでもこのアルバムはけっこう好きだった。とにかく真面目で人のよさそうなバンドだと思う。誠実に音楽に向き合い、いい曲をいい音で鳴らそうという姿勢が、音の
とにかくこのバンドのいいところは万事に控えめなところ。このアルバムのタイトル・ナンバーのような壮大な曲をやっていても、どことなく節制が効いていて、謙虚な感じがある。そこがいい。大言壮語なロック界にあって、きちんとセールスをともないつつ、中庸の魅力とでもいったものを感じさせる、珍しいタイプのバンドだと思う。
(Sep 14, 2008)
Modern Guilt
Beck / 2008 / CD
どこがどういいんだかわからないものの、それでいて確実に惹きつけられるところのあるベックの新作。
いや、本当に今回の作品は不思議な感じ。音作りが特にすごいとは思わないのだけれど、それでいて、ややチープな印象の、隙のあるその音には、確実に心に引っかかってくるものがある。メロディだけみると、それほどキャッチーな曲があるわけでもないし(と思う)、歌詞はもとよりわからない。それでいて、聴いていると、なぜだかこれは絶対にいい作品だと思える。
僕にはこの音楽の求心力のわけが説明できない。できないんだけれども、それでいてこのアルバムは確実にいいと思う。うーん、こりゃなんだろう。言葉にできなくて、もどかしい。
そう、たとえば特別美人だとは思わないのに、なぜだか気になって仕方ない女の子がたまにいるけれど、このアルバムもそんな感じだったりする。
なにげなく今年のマイ・フェイバリットのベストテンに入りそうな一枚。
(Sep 28, 2008)
Beautiful Future
Primal Scream / 2008 / CD
毎回、アルバムを出すごとに方向性が変わるプライマル・スクリームの最新作は、今回もやはり思わぬ展開をみせている。
一時期の過激なダンス・ビートとも、前回のオールド・ファッションなロックン・ロール・サウンドとも違う。ドコドコした単調なエイトビートに一本調子なギターのカッティング。なんとなく安直な感じのキーボードの音色。そして 『美しい未来』 だとか 『愛の栄光』 だなんてタイトルの、妙に明るいメロディーを持った楽曲群。なんだか全体的なイメージが80年代的に弛緩していて、やたらといまの時代にそぐわないように思える。最初に聴いたときには、本当にこんなんでいいんだろうかと思ってしまった。
ただ、プライマル・スクリームがこれまでにドロップしてきた作品のことを考えれば、こうしたずれは絶対に意識的なものなのだろうし、簡単にだめだと退ける気にはなれない。楽曲はけっこうポップだったりするので、なんでこんな音なんだろうと不思議に思いつつも、一時期はそれなりに愛聴していた。少なくても 『Over And Over』 のような、とろけそうなバラードがいまだにさらっと書けるだけでも、ボビー・ギレスピーの才能、おそるべしだと思う。
(Sep 28, 2008)
Let It Down
Al Green / 2008 / CD
アル・グリーンのブルーノート・レーベル移籍第三弾。
この人独特の粘っこいボーカル全開の、まったりとしたソウル・ナンバーがずらりと並んでいる。入手したのは夏の初めで、サマソニの少し前だったこともあり、僕の頭のなかはロック一色だったから、まるで馴染めなかったのだけれど(あまり暑い時期に聴きたい感じの音楽でもなかったし)、その後、夏フェス・フィーバーと暑さがひと段落したころに聴きなおしてみたところ、印象が一新した。こりゃいいです。最初は敬遠していた、こってり、まったりしたところが、かえって気持ちいい。
まあ、速いナンバーは皆無だし、アルバム一枚、どこから聴いても金太郎アメ状態でまったく同じって気もするけれど、だからこそ逆に好きな人とっては、こたえられない45分を提供してくれる作品だと思う。気分的にハマれば、トロトロになりそうな好盤。
(Sep 28, 2008)
This Is Ryan Shaw
Ryan Shaw / 2007 / CD
つづけてもう一枚、ソウルを。こちらは80年生まれのソウル・シンガー、ライアン・ショウのデビュー・アルバム。FMでかかっているのを聴いて、おっと思ったので、とりあえずフォローしてみた。
しかしながら、ヒップホップやラップが主流のいまのご時世に、こういうオールド・ファッションなソウル・ミュージックで一旗あげるのは、そうとう難しいらしい。この人は今年のグラミー賞の最優秀トラディショナルR&B歌唱賞だかなんだかにノミネートされたらしいのだけれど、アーティスト名どころか、そんな賞の存在自体、知名度はいまひとつだろう。アメリカのアマゾンを見ても、レビューはそんなに多くないから、売り上げもいまひとつなんじゃないかと思う。
それでもこの人、ウィルソン・ピケットやボビー・ウーマックあたりの伝統的なソウル・シンガーのフォロアーとして、若々しい歌声を聞かせてくれていて、僕はなかなか好きだ。このアルバムではボビー・ウーマックのカバー(Looking For A Love)などやっていて、これを聴くと、やはりご本家には及ばないかなあという感もあるけれど、それでも時代遅れになったソウル・ミュージックをめげずにやっている姿には、なんとなく応援したくなるものがあるのだった。
(Sep 28, 2008)