2008年7月の音楽
Index
- Honey / Chara
- Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust Sigur Ros
- We Started Nothing / The Ting Tings
- Narrow Stairs / Death Cab For Cutie
- Pretty.Odd / Panic At The Disco
Honey
Chara / 2008 / CD+DVD
ラッドウィンプスの野田洋次郎が初めてプロデュースを手がけた曲が収録されているというので聴くことになったチャラの通算十作目のオリジナル・アルバム。
思い返せば、僕が前回彼女の作品を聴いたのは、かれこれ十年以上前の大ヒット作 『Junior Sweet』 で、そのときも折から話題になっていたところへきて、ストリート・スライダーズの蘭丸が参加した曲があるというので、それじゃあいっちょう聴いてみようと思ったのだった。なんだ、今回とおんなじだ。
チャラとの接し方がいつもそんな形になるのは、僕が彼女のボーカルを好きとも嫌いともいいきれないからだ。スタイル的にはとても個性的だから一目置いてはいるものの、僕の趣味からするとやや声量が足りない。もしも彼女が椎名林檎やCoccoのように、もっと声量があって、抜けのよい声を持っていたら、たぶんもっと積極的に聴いていたんじゃないかと思う。いかせんボーカルの好き嫌いってのは、かなり感覚的なものなので、どうしようもない。このアルバムでは年のせいか──彼女は僕より一学年下らしいので、現在四十ジャスト──、前よりさらに声が出なくなっていて、なおさら残念な感があった。
ただし、僕がそんな風に不満をおぼえてしまうのは、彼女のボーカル・スタイルに対してだけであって──それもごく個人的で感覚的な好き嫌いのレベルであって──、作品としての質に対してのものではないということは、はっきりいっておきたい。このアルバムはとても出来がいい。曲は粒ぞろいではずれなしだし、音づくりも丁寧で、非常に素晴らしい仕上がりだと思う。なまじすごくいいだけに、好きだといい切れないのが残念だよなぁと──そういう作品だった。
野田よーじろー(とチャラは自身のホームページで呼びつけにしている)初プロデュースの 『ラブラドール』 は、ベースがバンプ・オブ・チキンのチャマ、キーボードがいまやエレカシの第五のメンバーと化しつつある蔦谷好位置という、僕にとってはなじみのある人たちが顔をそろえていて、とてもおもしろかった。出来もいいです。さすがよーじろー。ラッドウィンプスの新作がなおさら楽しみになった。
そのほかにも蔦谷くんが自身でプロデュースした曲あり、椎名林檎の師匠、亀田誠治がプロデュースの曲あり(ドラムは古田たかし)、佐野元春の最新作にも参加しているグレート3の高桑圭がベースを弾いている曲ありと、なんだか知っているミュージシャンがたくさん参加していて、妙に親近感のわく作品だった。フェイバリット・ナンバーは当然 『ラブラドール』、そしてやたらとファンキーなラスト・ナンバーの 『call me』。この曲はチャラ自身のプロデュース。いやはや、素晴らしいです。
(Jul 13, 2008)
Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust
Sigur Ros / 2008 / CD
あまりにジャケットのデザインが強烈だったので、ついついジャケ買いしてしまったアイスランドのバンド、シガー・ロスの(おそらく)5枚目。僕は基本的にふだんは日本語と英語以外の音楽は聴かないのだけれど(言語コンプレックスが強いんです)、このジャケットのインパクトにはちょっとばかり太刀打ちできなかった。
不勉強ながらシガー・ロスというバンドについては、これまでまったく知らなかった。名前を聞いた時点では、ラップのアーティストだろうと思っていたくらいで、ジャケットを見てまず白人なのに意表をつかれ、さらにアルバム・タイトルが読めないことで、英語圏のバンドではないことを知って、さらにびっくりするということになった(アルバム名も収録曲名も、いまだになんと読むのかわからない)。
でもって、いざ聴いてみると、これが素晴らしい。アイスランドの陽光にさらされて優しくなった、生音志向のレディオヘッドとでもいったような音作りで、はじけたジャケットのイメージとはまったく違う、とても生真面目な音楽を聴かせてくれている。
いや、生真面目なんて言葉じゃおそらく足りない。神聖な、と形容したくなるほどの荘厳さを持ちつつ、それでいて限りない優しさを感じさせる音楽。これほどの作品を作るバンドを、なんでいままで知らないでいたんだろうと、われながら不思議に思ってしまった。
(Jul 20, 2008)
We Started Nothing
The Ting Tings / 2008 / CD
サマーソニック08のための予習その1。UKの新人、ティン・ティンズのデビュー・アルバム。
ボーカルの女の子が、ちょっとクールなブロンドの持田香織とでもいったルックスで、おまけに編成が男女二人組だったりもするので、ある種UKインディーズ版エヴリ・リトル・シングとでも呼びたくなるようなグループなのだけれど、僕が聴こうと思うくらいなので、音のほうはかなり違っている。こちらはいい感じにだらしのないところがある、ダンサブルなインディー・ポップ。ややシンセの音がチープなのがなんだけれど、それでも冒頭のシングル2曲──片方はUKシングル・チャートの1位になったとか──のフックの効いたサビは、即効で頭に残る。ラジオで聴かされているうちに、頭を離れなくなってしまって、こういうのを聴くのはどうなんだろうと思いつつも、ついついCDを買うことになった。深みはないけれど、あくまでポップなところがいい。
(Jul 29, 2008)
Narrow Stairs
Death Cab For Cutie / 2008 / CD
サマソニ08のための予習その2。デビュー10年目にして初のビルボード・チャート・ナンバーワンを獲得したというアメリカのバンド、デス・キャブ・フォー・キューティーの6枚目。
このバンドも、僕はこれまで知らなかった。去年のファウンテイン・オブ・ウェインにしてもそうだけれど、世の中には僕が知らないにもかかわらず売れているグループってのが、まだまだたくさんあるもんだなあと、あらためて思う。それがメタルやパンクならばともかく、このバンドなど、なぜこれまで聴かずにいたのかと、われながら不思議に思うくらい、普通に僕の守備範囲内だったりする。やはり年をとって、アンテナが鈍感になっているのかもしれない。
それにしてもこのバンド、その不気味なバンド名──「美女のための死のタクシー」とか言われると、タランティーノの 『デス・プルーフ』 を思い出してしまう──にもかかわらず、印象はいたっておとなしめで地味だ。こんなに普通にポップで真っ当なロック・バンドが、いまさら全米ナンバーワンになれちゃうというのには、ちょっとばかり驚いた。この音で全米制覇できるってのは、流行に囚われず地道にバンドをやっている人にとっては、とても励みになるんじゃないだろうか。
ちなみにバンド名は、ビートルズの映画 『マジカル・ミステリー・ツアー』 に出てくるボンゾ・ドッグ・ドー・ダー・バンドなるグループの楽曲のタイトルからとったとか。そういえば 『マジカル・ミステリー・ツアー』 って、まともに観た記憶がない。
(Jul 29, 2008)
Pretty.Odd
Panic At The Disco / 2008 / CD
サマソニ08のための予習その3。こちらもデビュー2作目にして全米・全英チャートの両方で2位という好成績を収めたラスヴェガスのバンド、パニック・アット・ザ・ディスコの新作。
このバンドについては、デビューしたときにそれなりに話題になっていたので、聴こうかどうしようかと迷ったものの、ラスヴェガスという出身地の享楽的なイメージと奇抜なバンド名への先入観から、ちょっと色ものっぽいんだろうと思い込んで見送ってしまっていた。ところが、あらためてこのセカンドで初めて聴いてみたら、そんな思い込みは大まちがい。ビートルズやビーチ・ボーイズの直系の子孫って感じの、思いのほか真っ当なバンドだった。60年代風のコーラスワークやストリングスなどを大々的に取り入れたその音は、デス・キャブ・フォー・キューティーよりも断然カラフルで、こっちのほうは売れるのがよくわかる。しかもこのバンド、メンバーは全員まだ二十代前半、つまり日本でいえばラッドウィンプスと同世代だ。おそれいった。
ステージでどれけの演奏をみせてくれるのかにも興味があるけれど、困ったことに今回のサマソニでは、出演時刻がデス・キャブと重なっている。両方とも観たいと思うロック・ファンは多いと思うんだけれど、なんでこういうタイムテーブルにするかな、サマソニ事務局……。うーん、どちらを観るべきか、悩ましい。
(Jul 29, 2008)