2008年5月の音楽
Index
- きらきら Live Tour 2007/2008 ~Final at 日本武道館 2 Days~ [DVD] / Cocco
- Momofuku / Elvis Costello & the Imposters
- きらきら / Cocco
- Keep It Simple / Van Morrison
きらきら Live Tour 2007/2008 ~Final at 日本武道館 2 Days~
Cocco / 2008 / 3DVD[初回限定盤]
なんてきれいなんだろう──。
僕はこのライブDVDの Cocco を観ながら、幾度となくそう思った。歌う Cocco に、思わずみとれてしまっていた。
なにを言ってんだと思う人もいるだろう。Cocco なんて、それほど美人じゃないじゃんと。
失礼ながら、僕もいままではずっとそう思っていた。椎名林檎の歌のセリフじゃないけれど、決して美人というタイプじゃないよねと。
ところがだ。このビデオで見られる Cocco の姿は、掛け値なしに美しかった──少なくても僕にとっては、まちがいなく。
いや、つねにというわけではない。MCのときなどはごく普通で、特別な感じはしない(たどたどしい口調で訴える誠実なメッセージは、それはそれで非常に感動的だけれど)。
ただ、いったん歌を歌いだした途端、世界が変わる。音楽のある世界、歌のある世界において、Cocco は神懸かり的に美しくなる。そんなのありってくらいにセクシーに見える。
もちろん彼女の美しさというのは、その破格の歌声や自然体のステージ・アクション、バックバンドの優れた演奏力などがあいまったところに生まれ出るものだろう。初めに音楽ありきで、その上にべつの形で美が生じている。
まさにミラクル──ここには音楽のもたらす奇跡がある。「きれいになりたいとずっと思っていた」という少女は、そのたぐい稀なる音楽の才能と愛情でもって、本当に地上でもっとも美しい女性のひとりになった。おそらく武道館のステージを生で観ていた人にとって。少なくてもそれをいま録画で観るこの僕にとって。
なんたって音楽だけでもじゅうぶん素晴らしいのに、主役がこれほど美しいとなると、どれだけ言葉を尽くしても誉めたりない。武道館の二日間のステージを丸々収録した4時間を越えるこのDVD──オフステージの3枚目まで加えれば優に5時間超──は、この先もきっと僕に至福のひと時を約束してくれることだろうと思う。わが家の家宝のひとつとします。
(May 06, 2008)
Momofuku
Elvis Costello & The Imposters / 2008 / CD
エルヴィス・コステロのなにが素晴らしいかって、どれだけほかのジャンルに浮気をしても、最後にはちゃんとロックに回帰して、これこそが本領という音を聞かせてくれる点。
この十年ほどはバート・バカラックやアラン・トゥーサンとコラボレートしたり、ピアノの弾き語りアルバムを出したり、クラシックのバレエ音楽の作曲を手がけたりと、ロック色が薄いどころか、ときにはまったくゼロの作品もぽちぽちと発表するようになったコステロ先生だけれども、今回の新譜では、そんなことをしてきたのが嘘のように、とっちらかったロックン・ロールを鳴らしてみせてくれている。こういうのって、なかなかできることじゃない。
だいたいにして、優れたメロディーメイカーと評される人たちのアルバムの多くは、そのポップ・センスに邪魔されてか、つまらない音作りになりがちだ。ポール・マッカートニーや桑田佳祐がいい例だと思う。やっている音楽のフォーマットはまちがいなくロックなのに、スタジオで作り上げる音は、妙にまとまりがよすぎておもしろみがない。オーソドックスで破綻がなく、ロックとしてのスリルが足りない。
ところがコステロ先生は、なぜかそういうことにならない。秀でたメロディーメイカーとしての才能に恵まれているにもかかわらず、この人の作るロック・サウンドはいつだって、きれいにまとまるのを拒否している。ロックの原動力(のひとつ)である怒りが結晶したような声でもって、その声にベストマッチのささくれだった音を、平然と聞かせてくれる。
本当にその姿勢はデビュー・アルバムのころから終始一貫して変わらない。パンクのようにスタイルに固執することで成り立っている音楽ならばともかく、こういうスタンダードなロックン・ロールをやりながら、こんな風にどことなくチープでまとまりのない音を鳴らし続けている人って、あまりいないと思う。それも30年以上のキャリアを誇るベテランともなれば、なおさらだ。僕がコステロを信頼してやまない理由のひとつは、まちがいなくこの音にある。
最近はほかのミュージシャンとのコラボレーションが多かったので、アルバムまるまる一枚、コステロだけの新作というのはとてもひさしぶりだし、これはもう文句なしに大好きです。
(May 18, 2008)
きらきら
Cocco / 2007 / CD
リリースされてからそろそろ1年近くになるCoccoの7枚目のアルバム。
グランジ系のサウンドにのせて、女性の情念を爆発させたような圧倒的パフォーマンスを見せていたかつてのCoccoにばかり魅力を感じていた僕にとって、このアルバムの、タイトルどおりのあかるくリラックスした音楽はまったくぴんとこなかった。わざわざケチをつけるのもなんだから、このままなにも書かずに済ましてしまおうと思っていたのだけれど(この一年はそういう作品が多かった)、せんだって 『きらきら Live Tour 2007/2008』 に感動しまくったあとで聞き直してみたらば、すっかり印象が変わってしまった。
なんだ、これはこれでとてもいいじゃないですか。まったく、おれはいままでなにを聴いていたんだろう。四半世紀ロックを聞き続けていて、過去に何度こういう経験をしたことか……。世の中で一番あてにならないのは、自分自身だと思う今日このごろ。
なにはともあれ、陽気な歌姫が気のあう仲間たちとともに、沖縄の民家風スタジオで和気あいあいと手作りした18曲。やっている側の楽しさがダイレクトに伝わってくるようで、聴いていてとても気持ちがよかった。
(May 31, 2008)
Keep It Simple
Van Morrison / 2008 / CD
気持ちのいい歌を聴かせてくれる人といえば、僕にとってはこのヴァン・モリソンもそのひとり。2年ぶりとなるこの新作には、アッパーな曲はほとんどないし、新しいところも皆無だけれど、ルーツ・ミュージックへの深い敬愛をベースにした、飾りのないロック・サウンドにのせて、あのボーカルを聴かせてもらっていると、別にそういうことはもうどうでもいいやと思えてきてしまう。
この人の場合、歌のうまさでは白人ボーカリスト随一というだけではなく、音楽活動に対して非常に積極的な点でも尊敬できる。2000年以降にかぎってみても、この作品がすでに7作目のリリースだ。ベスト盤やらライブ盤も入れれば、10枚をゆうに越えている。ストーンズがその間に出したオリジナル・アルバムがわずか1枚なのと比較すれば、その差は歴然だ。
ヴァンさんは45年生まれだそうだから、今年でもう63歳になる。還暦を越えてなお、こんなに活発に活動している人って、めったいにいないと思う。ほかにすぐに思いつくのはニール・ヤングくらいだけれど、調べてみたら二人は同い年だった。45年生まれ、おそるべし。
(May 31, 2008)