2024年3月の映画
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女王陛下のお気に入り
ヨルゴス・ランティモス監督/オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ/2018年/イギリス、アイルランド、アメリカ/Netflix
ウィキペディアを見たら、この映画が「歴史コメディ映画」だと紹介されていた。
え、これってコメディ? いったいどこに笑える要素が。
――あ、もしかして冒頭でエマ・ストーンが馬車から転げ落ちて泥まみれになったり、途中で貴族の男たちが裸で悪ふざけたりしているシーンがあったけれど、あれは笑う場面?
いやいや、それはちょっと高度すぎなのでは。
まぁ、ウディ・アレンによくあるタイプの、苦笑を誘う系のブラック・コメディだとするならば、もしかしたらそうなのかもしれないけれど。
いずれにせよ、僕にはこの映画はまったく笑えませんでした。
内容は十八世紀のイングランドの宮廷を舞台に、オリヴィア・コールマンという女優さん演じるアン王女と、彼女の幼馴染としての寵愛をいいことに宮廷を牛耳るレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)、そのサラの従妹として宮廷での仕事をもらいながら、サラを裏切ってアン女王に取り入ろうとするアビゲイル(エマ・ストーン)、この三人のあいだで繰り広げられる愛憎劇を描いてゆく。
この三人以外にも登場人物は出てくるけれど、男はみんな変なかつらをかぶっていて見分けがつきにくく、いまいち印象に残らないせいで、まるで彼女たち三人だけで成り立っているような印象の作品だった。
物語は史実に基づいているようだけれど、彼女たち三人が同性愛の三角関係にあったという部分はおそらく創作なんでしょう。実際にそんな事実があったとしても、当時の文献にそんなことが書いてあるとも思えない。
まぁ、いずれにせよ、美女ふたりが小太り女王の寵愛を奪い合ったあげく、誰ひとり幸せになれずに終わってしまうので、いまいち後味はよくなかった。
(Mar. 2, 2024)
パレード
藤井道人・監督/長澤まさみ、坂口健太郎/2024年/日本/Netflix
野田洋次郎が、RADWIMPSではなく、初めて個人名義でサウンドトラックを手掛けた映画。『余命10年』の藤井道人監督とのコラボ第二弾。
『余命10年』では若くして余命宣告をされた女性の人生最後の日々を描いた藤井道人が、今回の作品で描くのは死後の世界だ。
震災で津波にのまれ、幼い息子と生き別れになった長澤まさみ演じる主人公が、行方不明になった息子の安否を案ずるあまり(霊魂となって?)この世に留まった、という設定のもと、同じようになんらかの心残りがあって成仏できないでいる人々――坂口健太郎、横浜流星、リリー・フランキー、寺島しのぶ、田中哲司、森七菜ら――と彼女が出逢って、ともに過ごし始めることになる。
彼らは自分をこの世につなぎとめている理由と向き合い、それぞれの形で未練を断ち切って、ひとりひとりと姿を消してゆく。
タイトルの『パレード』はこの世界の人々が、満月の夜に、探し人を見つけ出すため等の理由で、一斉に町へと繰り出して、行進を始めることにちなむ。
死者の大行列という意味では、ある種、百鬼夜行的。別に妖怪が混じっていたりするわけではないけれど、夜中に大勢の人たちが灯をともしながら同じ方向へ向かい、黙々と歩いている景色には黙示録的なインパクトがある。月並みだけれど『デスノート』を思い出した(どうせならばダンテの『神曲』とかに例えたい)。作品自体は終始おだかやで温かな感触なのに、その部分だけには独特な迫力があった。
あと、映画のキービジュアルにもある、観覧車のとなりにさびれた感じの野外バーカウンターがあって、仲間たちがそこでいつもつどっているという、現実ではありそうでないシチュエーションが映画ならではの味わいでよかった。
(Mar. 17, 2024)