2024年1月の映画
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ゴジラ-1.0
山崎貴・監督/神木隆之介、浜辺美波/2023年/日本/グランドシネマサンシャイン池袋
東宝による劇場版『ゴジラ』最新作。海外でも大好評だと聞いて観たくなり、師走の慌ただしいさなか、ひさびさに劇場へと足を運んだ。
東宝の『ゴジラ』シリーズって、第一作は別として、あとはゴジラがほかの怪獣が戦うってパターンばかりなので、正直子供だましな気がして、まったく食指が動かないんだけれど、これは怪獣がゴジラしか出てこないみたいだったし、しかも舞台は第二次大戦の終戦直後だという。
つまりゴジラと戦うにもオキシジェン・デストロイヤーみたいな超科学的な秘密兵器は使えないってことでしょう?
この縛りの中でいかにゴジラを描いて見せるのかにとても興味を惹かれた。
でもって観てみたら、これが本当によかった。
これが俺の観たかったゴジラだ~!――って、まさしくそういう出来になっていた。
まぁ、シナリオはかなりご都合主義だ。銀座での浜辺美波の受難にまつわる流れは不自然すぎると思うし、光る可動式背ビレを持った今作のゴジラは、その超常的な再生能力も含め、突然変異した生物というにはいささか無理がある。
それでもまぁ、怪獣は理不尽であってこそ怪獣。そういう欠点があってなお、お釣りがくるくらいに、この作品はよくできているし、なによりとても感動的だった。初代ゴジラのシナリオを踏襲しつつ、それを過去の時代設定に移し替え、特攻隊崩れの主人公を軸とした(ベタではあるけれど、それゆえに感動的な)ヒューマン・ドラマに仕立てあげてみせたところが最高。恥ずかしながら、観ながら何度も泣いてしまいました。
予告編を見たときには「やっぱハリウッドと比べるといまいち?」と思ったCGも、物語の流れの中で観る分にはまったく違和感なし。とくにゴジラが銀座で放射能を吐いたあとに立ち上るキノコ雲の映像はインパクト特大だった。舞台が原爆投下から十年もたたない時代設定だからなおさらだ。わがことのように呆然としてしまった。
ハリウッドがゴジラをリメイクするたびに期待を裏切られて、「俺が観たいゴジラ映画はこんなんじゃない!」と思ってきた過去を、この映画はようやくぬぐい去ってくれた。まさか日本映画がいまさら特撮物でハリウッドを凌駕することがあろうとは……。
東宝が元祖怪獣映画の矜持を見せてくれた素晴らしき一作。
(Jan. 07, 2024)
フェイブルマンズ
スティーヴン・スピルバーグ監督/ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、ガブリエル・ラベル/2022年/アメリカ/Amazon Prime
スピルバーグが自らの少年時代をふりかえって描く、温かでほろ苦い半自伝的映画。
半自伝的とか書いておきながら、どこまで自伝的なのかはさっぱりわかっちゃいないのだけれど。
でも、幼少期に両親に連れていかれた無声映画で、列車と車の衝突シーンを見て衝撃を受け、それを模型で再現することに夢中になる少年の無邪気さは、まさしく若き日のスピルバーグ作品の原点なんだろうなって感じがする。
映像化された事故の衝撃性ばかりに熱中して、その裏で傷つく人たちの痛みを顧みない(または気がつかない)鈍感さというか。初期のスピルバーグの作品には、そういう表面化しない残酷さがつねに隠れている。
この映画はそんな楽しげな少年時代を描く一方で、その裏で密かに営まれていた家庭内の不幸を、しだいに成長してゆく青年の目を通して炙りだしてゆく。そこにはかつての作品でみせた楽観性とは違った、確実に成熟した視点がある。
そうだった。考えてみれば、スピルバーグって『プライベート・ライアン』や『シンドラーのリスト』も撮ってんだった。
若気のいたりな初期の作品から、円熟期の名作をへて、老境にたどり着いた名監督が、若き日の自らの家族をふりかえって描き出した、温かくも苦い物語。
傑作とまではいえないかもしれないけれど、これまでに観たスピルバーグ作品のなかでは、僕にとって三本指に入る秀作だった。
配役では『リトル・ミス・サンシャイン』で中学生くらいの息子役だったポール・ダノがいまやお父さん役を演じていたり、ジョン・フォード監督の役でデヴィッド・リンチが出ていたりするのに驚かされた。
いやしかし、こんないい映画をさしおいて『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にオスカーあげちゃうアカデミー賞って……。
(Jan. 09, 2024)
インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
ジェームズ・マンゴールド監督/ハリソン・フォード、マッツ・ミケルセン/2023年/アメリカ/Disney+
観終わってから半月ほど過ぎてしまっただけで、すでにどういう話だったか忘れかけているインディ・ジョーンズ・シリーズの第五作目。
まったく期待していなかった第四弾が(期待値ゼロだったからこそ?)思ったよりもおもしろかったので、これもそれなりに楽しみにしていたのだけれど、いや、今回は駄目だった。こんな続編なら作らないほうがマシでは。
ジョーンズ博士が今作のキーアイテムであるオーパーツ、アルキメデスの「アンティキティラ島の機械」をナチの列車から盗み出そうとする導入部の展開からしてもう茶番。
その部分は第二次大戦中のエピソードってことで、ハリソン・フォードとマッツ・ミケルセンのふたりが実年齢より圧倒的に若いのには感心したけれど(いまの特撮技術ってすごい)、でも話があまりにありきたりだ。相手がナチならばなにをしたってかまわないって感じも気持ちよくない。
その冒頭部分は回顧譚で、本編は六十年代を舞台に、定年退職を迎えたインディアナ・ジョーンズ教授が、旧友の娘ヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)のせいで、ふたたびアンティキティラなんとか(覚えられない)の争奪戦に巻き込まれるというもの。でもって、クライマックスでは過去最大のとんでも事象が発生する。
いやいや、旧作のように幽霊が出てくるくらいならばともかく、そのSF展開は個人的にはNG。あまりに説得力がない。なまじ数学者アルキメデス絡みの事件だからなおさら。ちゃんと科学的に証明して欲しいぞ。あぁ、やれやれ。
『フェイブルマンズ』みたいな素晴らしい映画を撮ったスピルバーグがなぜその翌年にこんな映画を?――と思ったら、今作の監督はスピルバーグじゃなかった。『ローガン』や『フォードvsフェラーリ』のジェームズ・マンゴールド。いや、彼だっていい映画監督なのに、なぜにこのレベル。
旧作よりもSFXやCGなどの映像技術は確実に進化しているにもかかわらず、この程度の出来ってのが残念だ。マーベルの昨今の作品もそうだけれど、映像的に表現不可能なことがほとんどなくなってきてしまったせいで、かえって映画自体の質が下がってきているような気がする。
(Jan. 22, 2024)
TAR/ター
トッド・フィールド監督/ケイト・ブランシェット/2022年/アメリカ/Amazon Prime
ケイト・ブランシェット演じるところの華々しい経歴をもつ同性愛者の女性指揮者が、セクハラとパワハラの事実を暴かれて窮地に陥るという話。
この映画はドキュメンタリータッチの序盤がすごい。トークショーのシーンとか、音楽大学での講義のシーンとか。長回しのワンカットで主人公リディア・ター(タイトルの『ター』は主人公の苗字)を演じ切るケイト・ブランシェットの演技力が圧巻だ。この人は俳優として本当にすげーって思わされた。
ただ、そんな彼女の卓越した演技力を見せるために若干テンポが悪くなってしまっているというか、必要以上に冗長な感じになってしまっている感もある。この内容で二時間半は、僕にはやや長すぎた。
前半は同性結婚をした進歩的な女性マエストロのドキュメンタリーって感じで、個人的にはその部分こそがこの映画の最大の見どころだったのだけれど、それでいてそのパートがけっこう長くて、話がどこへ向かっているのか、いまいちよくわからない。
途中から彼女がじつは浮気っぽい性格で、結婚相手を裏切って若い子に手を出しているらしきことが次第にほのめかされてはじめ、それにあわせて彼女の内面の揺らぎが強迫観念的なタッチで表現されるようになり、ようやくあぁ、そういう話なのかと思うようになったものの、いささかそこまでの展開が冗長すぎるように思えた。
まぁ、それでも結末の着地点には意外性があったし、独特の世界観を持った個性的な映画であることは間違いなし。
でもって、終始スーツ姿のケイト・ブランシェットがとにかく格好いい。かわいいとか、きれいとかじゃなくて、こんな風に格好いいと思わせる女性ってなかなかいないと思う。この人が出ている映画を初めて観てから、そろそろ二十年くらいたつはずだけれど、その間まったく印象が変わらないのもすごい。
二十一世紀を代表する女優のひとりであるケイト・ブランシェットの新たな代表作と呼べる一作なのではと思います。
(Jan. 24, 2024)