2022年10月の映画

Index

  1. ラストナイト・イン・ソーホー
  2. 雨を告げる漂流団地
  3. 竜とそばかすの姫

ラストナイト・イン・ソーホー

エドガー・ライト監督/トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ/2021年/イギリス/Amazon Prime

ラストナイト・イン・ソーホー [DVD]

 ここ二年くらいですっかりわが家のお気に入りになったエドガー・ライト監督の最新作。九月の初めに観たのに、なぜだか感想を書くのを忘れていた。一ヶ月以上たってしまったので、すでに印象が薄れていて、たいしたことは書けない。
 それにしても、この人の作品って、いつでも説明なしで唐突に変なことが起こる。一晩あけたら街中がゾンビだらけになっていたり、好きになった女の子の元カレにいきなりバトルを挑まれたり、パブのトイレで喧嘩になった相手の首がもげたり。
 この映画でもトーマシン・マッケンジーという主演の女の子が、ある日突然六十年代のロンドンで歌手としての成功を夢見るサンディーという女性――演じるのは『クイーンズ・ギャンビット』のアニャ・テイラー=ジョイ――と自分を同一視して重ねあわせたような幻想を見るようになる。そのあまりの唐突な展開がエドガー・ライトらしいなぁと思った。
 まぁ、最後まで観たら意外と話がちゃんとまとまっていて、かえって意外な気がしたりもしたけれど。勝手にゾンビが出てくるようなホラー映画かと思い込んでいたら、ファンタジー仕立てのサイコ・スリラーだった。
 時代設定が現代であるにもかかわらず、主人公が六十年代に憧れるファッション・デザイナーの卵という設定ゆえに、その当時のロックやポップスやファッションがたっぷりと盛り込まれているところもこの映画のいいところ。エドガー・ライトって本当に音楽の使い方が素晴らしい。
(Oct. 12, 2022)

雨を告げる漂流団地

石田祐康・監督/声・田村睦心、瀬戸麻沙美/2022年/日本/Netflix

 ずとまよが主題歌と挿入歌を提供した長編アニメ。
 これからは日本の映画も適度に観ようと思ってから、選んだ邦画のほとんどがずとまよ絡みになってしまっているのはいかがなものかと思うけれど、まぁ、それだけずとまよが映画業界から高く評価されているということなんだろうから致し方なし。
 この映画に関しては、予告編を観た時点で思った「団地が漂流するってどういうこと?」という疑問が、観たあともまったく解消しないところがポイントだった。
 そこのところの論理的な説明はいっさいなし。ある意味、子供たちが集団で観た白昼夢――くらいの理解でもいいんだろうなって内容になっている。
 そのせいで、僕にはこの映画の監督の石田祐康という人が、どうしてこういう映画を作ろうと思ったのか、さっぱりわからない。
 作り手の作為により大人たちから隔離されて、海を漂う団地の一棟で、ままごとみたいなサバイバル生活を送ることを余儀なくされた小学生の男女六人(+謎の少年ひとり)の話を見せられても、正直なところ、僕みたいな童心を失ってひさしい男にはどうリアクションしていいのかわからない。初恋をこじらせた幼馴染どうしの関係修復がメインテーマだけに、なおさらこそばゆい。
 ということで、動画としてはとても丁寧な仕事がされていて好感が持てるのだけれど、物語がまったく心に引っかからないせいで全体としての印象はいまいち。
 こういう小学生の白昼夢みたいな物語がそれなりの予算を必要とする二時間の長編アニメ映画として制作されちゃう日本ってある意味すごいかもしれない。
 とりあえず『消えてしまいそうです』と『夏枯れ』は愛聴してます。
(Oct. 15, 2022)

竜とそばかすの姫

細田守・監督/声・中村佳穂、成田凌/2021年/日本/Amazon Prime

竜とそばかすの姫

 『サマーウォーズ』の細田守監督の最新作。
 『サマーウォーズ』のあとに細田監督が作った三本の映画を観ていないのに、今回のこれを観ようと思ったのは、この映画が『サマーウォーズ』と同じく仮想世界をテーマにしているのと、音楽に常田大希のサイドプロジェクト millenniue parade の楽曲が使われていたから――なのですが。
 後者に関して僕は大いに勘違いしていた。常田大希が映画音楽全体を手がけているのだと思い込んでいたら、参加しているのは『U』というテーマ曲一曲だけだった。ちと拍子抜け。まぁ、その曲はカッコいいですけどね。前半でかかったきり終わりなので。クライマックスにもう一曲くらい欲しかった。
 物語は仮想世界でのアバターが歌姫として世界的な人気を博してしまった地味な女子高生が、その世界のお尋ね者になっている竜という人物と知り合い、彼を助けようと尽力するというような話。
 『サマーウォーズ』は大家族の大人たちに助けられて子供たちが活躍するところがよかったのに、こちらは高校生たちだけで事件を解決する展開なので――主人公の父親役の役所広司や、ママさんコーラスグループの森山良子ほか、大人の役でやたらと豪華な俳優陣が声優をつとめているけれど、そんな豪華さが本当に必要?と思ってしまうくらいモブな役どころばかりで、事件の解決にはほとんど関与しない――残念ながら物語にいささか説得力がないように感じてしまった。終盤になって児童虐待のような重いテーマをぶち込んできたりもするし、全体としてのバランスがよくないように思った。最近のアニメの常で、作画は本当にきれいなんですけどねぇ。
 あと、ジブリ作品でよくあることだけれど、この映画も主役の声優さんのしゃべりが素人っぽくていまいちしっくりこないなぁって思っていたら、それが主題歌を歌っている中村佳穂という人自身だと知ってびっくり。
 音楽をテーマにした作品で、歌を歌っているボーカリストがそのまま主演を務めているのだから、これ以上自然なことはないはずなのに、なんでこんなにしっくりこないんだろう? やっぱ歌の才能(こちらは紛れもない)と声優のそれは必ずしも両立しないのかなと思ったりした。
 いやでも、その一方で、主人公の親友役で声優デビューを果たしたYOASOBIの幾田りらは、まったく違和感なく自然な感じで声優をつとめているのがすごい。彼女の演技が僕にはこの映画でいちばんのインパクトだったかもしれない。
 どうせならイクラちゃんが主演で歌姫を演じる作品を観てみたい。
(Oct. 31, 2022)