2021年12月の映画
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ホークアイ
リス・トーマス、バート&バーティ監督/ジェレミー・レナー、ヘイリー・スタインフェルド/2021年/アメリカ/Disney+(全6話)
『シャン・チー テン・リングスの伝説』にがっかりしすぎて、今後はもうマーベルの作品は観るのをやめようかと思ったのだけれど、でもスパイダーマンの次のやつは絶対に観たいし、変に意地をはって観たい映画も観ないと決めつけてしまうと、単に損をするだけだというのは経験上よくわかっている。
だからもうマーベルは絶対観ないなんて極端なことはいわないけれど、だからといって無条件に受け入れつづけるのもしゃくなので、今後は新作をすべて観るのはやめて、観たいものだけ観ることにしようと思う。
ということで、いくぶんすっきりしない気分で観はじめたマーベルの連続ドラマ最新作は、ホークアイことクリント・バートン(ジェレミー・レナー)を主人公にしたスピンオフ。
これはどっちかというと「絶対観たい!」って作品ではなかったのだけれど――ホークアイが大好きって人ってあまりいない気がする――でも観て正解。ヒロインのヘイリー・スタインフェルドが可愛いすぎる。彼女のキャスティングがこのドラマの成功の要因のほぼすべてじゃないかとさえ思ってしまうくらい。彼女がいるがゆえに、アベンジャーズでは地味さナンバーワンのホークアイがちゃんと魅力的なスーパーヒーローに見える。
とかいいつつ、正直をいえば、僕はこのドラマのポスターなどでヘイリー・スタインフェルドを見ても、それほど可愛い子だとは思っていなかった。実際に椎名林檎的な言い方をすれば「美人ってタイプじゃない」と思う。
でもこのドラマの彼女はいきいきとしていて本当に魅力的だ。自然体の演技が役どころにぴったりで、もっと彼女の演技が観たいと思わせるものがある。
その不思議な魅力に、なにこの子?――と思って調べてみて、あぁ、『トゥルー・グリッド』の女の子かっ!――って即納得。そういや、あの映画の彼女も観ているうちにどんどん可愛く思えてくる役どころだった。『はじまりのうた』にも出てたというから、あぁ、マーク・ラファロの娘さんの役かと思ったけれど、あれはふつうだった気が……。まぁ、なんにしろこのドラマの彼女は最高によかった。すっかりファンになりました。
物語は幼いころにニューヨークの自宅で『アベンジャーズ』一本目のエイリアン襲来を経験したヒロインのケイト・ビショップ(ヘイリー・スタインフェルド)が、そのときに見たホークアイの活躍に感動して、自らも弓矢の使い手になり、ある年のクリスマス・シーズンに憧れのホークアイとぐうぜん出逢って、無理やり弟子入りし、双方に絡んだとある事件に巻き込まれるというもの。
内容的にはたわいのない話だけれど、なにかとオーバー・アクションのインフレ著しいマーベルのシリーズにあって、超能力が使えないホークアイ師弟が主人公ということもあって、アクションにある程度の節度が効いているのがいいところだと思う。終始ユーモラスだし、僕にはちょうどいい匙加減だった。
あと『ブラック・ウィドウ』からの流れでナターシャの妹エレーナ役のフローレンス・ピューが出てくるのもシリーズにとっては重要な伏線。最後に出てくる悪役は『デアデビル』の重要なヴィランらしいけれど、そちらを観ていない僕にとっては単なるタフなスキンヘッドのおっちゃんだった。マーベルと一線を引くと決めたので、当面『デアデビル』を観る気はないから、あの人について詳しく知ることはない予定。
今後MCUにおいてケイト・ビショップがどういう立ち位置になるのか知らないけれど、彼女が主演のシリーズが作られるようならば、そりゃとうぜん観たくなっちゃうよなぁと思わされる良作だった。
(Dec. 28, 2021)
アンブレラ・アカデミー シーズン1
スティーヴ・ブラックマン制作/エリオット・ペイジ/2019年/アメリカ/Netflix(全10話)
トランスジェンダーであることをカミングアウトして世界を驚かせたエレン・ペイジ改めエリオット・ペイジが主演を務めるネットフリックス・オリジナルのアメコミ原作SFドラマ。
名前こそエリオットだけれど、このドラマで彼女(ではなく彼なのか)が演じているのは女性の役。それもそのはず、ドラマが始まったのはカミングアウトの前だった。でもその後のカミングアウトを受けて変更されたらしく、クレジットはすでにこのファースト・シーズンからエリオット・ペイジになっている。
なんにしろ彼が演じるのはここでは普通の女性の役。それも普通ではない一家のなかの唯一の凡人という役どころ。スーパーナチュラルな兄弟らと一緒に過ごしながら、普通であるがゆえに幼いころから悩みつづけてきた女性の役。でもじつは彼女も普通じゃなかったことが途中からわかる(ネタばれ失礼)。長いこと本当の自分を知らずに生きてきたという、そういう意味ではまさにエリオット・ペイジにふさわしい役どころなのではと思う。
さて、物語のオープニングは80年代末。妊娠していなかった女性たちが一晩のうちに子供を産み落とすという怪奇現象が起こる。
奇跡とともに生まれた子供たちにはそれぞれに異なる超能力が宿っていた。わけありな奇人の大富豪レジナルド・ハーグリーヴス(コルム・フィオール)がそのうち七人を養子に迎えて英才教育を施し、アンブレラ・アカデミーという少年少女によるスーパーヒーローのチームを結成する。
けれど父親は子供たちに愛情を示すことなく、それどころか名前さえも与えず、ナンバー1から7という通しナンバーで呼びつづけた。冷酷な義父に反発した兄弟たちは成長とともに離反。大人になってからはそれぞれに別々の人生を歩んでいた――というところまでが前段となる回顧シーン。
そんな彼らが養父の訃報を受けてひさびさに再会を果たす。でもって兄弟たちのひとりで、時空を超える能力を持ったナンバー・ファイブがなぜだか少年時代に戻った姿で登場して、皆に告げる。このままだとあと八日で世界が破滅すると。
かくして凸凹七人兄弟(うちひとりは故人)は原因不明のアポカリプスを防ぐべく、不承不承事件の解決に乗り出すことになる。そんな彼らの命を狙って、謎の委員会から差し向けられた殺し屋二人組(女性の方はなんとメアリー・J・ブライジ)が暗躍する。さて、世界はなぜ滅亡するのか。彼らはいかにしてそれを阻止するのか――。
そして迎える衝撃の結末――って。おいおい。
いやぁ、観たのがシーズン2が公開されたあとで本当によかった。あの結末のつづきを一年も待たされたらたまったもんじゃない。
(Dec. 30, 2021)
アンブレラ・アカデミー シーズン2
スティーヴ・ブラックマン制作/エリオット・ペイジ/2019年/アメリカ/Netflix(全10話)
前シーズンの結末をうけて別次元へと退避した兄弟たちは1960年代初頭へとタイムリープ。それぞればらばらにその時代にたどり着いて、ベトナム戦争や公民権運動、ヒッピー文化、JFK暗殺事件に絡んだ陰謀劇などに巻き込まれてゆく。でもってこの時代でもまたもう一つの世界の終わりを防ぐために奔走することになる。
エリオット・ペイジのカミングアウトを受けてなんだろう。彼が演じる次女のヴァーニャには同性愛の恋人(女性・人妻・一児の母)ができる。
そのほか、長男のルーサー(トム・ホッパー)はのちにJFK暗殺犯のオズワルドを射殺することになるジャック・ルビーの下で働いているし、次男のディエゴ(デイビッド・カスタニェーダ)は精神病院に放り込まれて、インド系の訳あり美女ライラ(リトゥ・アルヤ)と出会う。長女のアリソン(エミー・レイヴァー・ランプマン)は公民権運動家の妻の座に収まっているし、三男のクラウス(ロバート・シーハン)にいたっては新興宗教の教祖に祀り上げられている。クラウス(死者と話ができる)に帯同している故人の五男ベン(ジャスティン・H・ミン)にもけっこう見せ場がある(ちなみに長男とか次男とか書いているけれど、彼らは全員同じ日に生まれているので、実際には同い年。その辺の表記は単なる言葉の綾)。
そんなてんでばらばらな兄弟のあいだを瞬間移動で飛び回って話を転がしてゆくのが、十三歳の姿のナンバー・ファイヴ。この役を演じるエイダン・ギャラガーという少年がこのドラマのMVPだと思う。大人たちと丁々発止でやりあっていて違和感なし。最年長なのに子供の姿という難しい役どころを見事に演じきっていて素晴らしい。
シーズン1ではギスギスしていた兄弟たちの関係が(それなりに)修復されて、いい感じになってきた。ハリウッド女優だったアリソンが時代に即した地味な身なりにイメチェンしていたり、一方ではジャンキーだったクラウスが(うさん臭さはそのままに)教祖様としてなにげにカリスマを感じさせたりするのもおもしろかった。
今回もラストは次のシーズンありきという形だけれど、シーズン1のときほどには罪深くないのがなによりだった。
(Dec. 30, 2021)