2018年9月の映画
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IT/イット~“それ”が見えたら、終わり
アンディ・ムスキエティ監督/ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、ソフィア・リリス/2017年/アメリカ/Netflix
スティーヴン・キングの代表作のひとつ。劇場版としては二度目の映画化とのこと。
前々から原作を読もうと思いながら、文庫全四巻の大作なのでなかなか読めずにいたら、WOWOWでこれの予告編を観たうちの奥さんが「怖そー、観たい!」と言い出したので、まぁいいかと思って、つい映画を先に観てしまった。
内容は八十年代のアメリカの片田舎を舞台に、子供たちだけを限定で襲う謎の“それ”と少年・少女の戦いを描くホラー映画。同じくスティーヴン・キング原作の『スタンド・バイ・ミー』のホラー版みたいな印象で、全編が少年・少女の目線で描かれている。
さえない少年たちのグループが女の子をひとり加えて、謎の超常現象に立ち向かってゆくという展開はNetflixのドラマ『ストレンジャー・シングス』と似た感じだけれど、あちらが大人の世界も描いていたのに対して、こちらは終始子供たちだけに焦点があたっている。ここまで徹底して子供目線の映画ってのも最近では珍しい気がする。そういや、少年役のひとりで『ストレンジャー・シングス』のフィン役の子が出てます。仲間内ではいちばん損な役まわりって気がするけど。
それにしても、なんでアメリカの映画にはああいうたちの悪いいじめっ子が出てくるんですかね。あそこまでゆくと、もういじめのレベルを超えてて単なる犯罪なんだが。個人的にはあのいじめっ子少年の行動と末路が過剰すぎて、いまいちすっきりした気分になれないのが欠点という気がした。
エンドクレジットに「第一章・完」なんてあると思ったら、すでに来年公開の続編が決まっていて、そこでは主役の男の子が成長してジェイムズ・マカヴォイになるらしい。うーん、やはりその前に原作を読んどくべきか……。
(Sep 08. 2018)
遊星からの物体X
ジョン・カーペンター監督/カート・ラッセル/1982年/アメリカ/Amazon Prime Video
前の作品からホラーつながりってことで観たSF映画。
十代のころに観て、これは傑作と思った作品なので、観たことがないといううちの奥さんと一緒にひさしぶりに観てみたのですが……。
いやしかし。この映画ってこんなにグロかったのかと。いまなら趣味じゃないやって言いそうな内容なのに、こういうのが若いころに好きだったとは……。
とはいえ、エイリアンの姿こそグロいけれど、それを単なる悪趣味で終わらせないテンションの高さのある作品なのは間違いなし。とくに南極探検基地という閉じられた空間を舞台に、仲間が知らないうちにエイリアンに身体をのっとられて敵になっているという事態に直面した隊員たちの疑心暗鬼がビビッドに描かれているのがこの映画の優れた点。
犬を追っかけて始まる序盤の抑えの効いた演出から、いったんエイリアンがその姿を現してからあとの緊迫感あふれる展開をへて、徐々に仲間がやられてゆき、自滅覚悟の決死戦へといたる怒とうのクライマックスまで、見どころはたっぷり。やはりこれは『エイリアン』などと並ぶSFホラーの傑作の一本でしょう。
ただ、残念ながらそのぐちゃぐちゃとグロテスクなエイリアンの造形は、すっかり軟弱化したいまの僕の趣味にはあわなかった。
そういう意味では、ほぼ同時期の同系統の作品でありながら、見せ過ぎないことを徹底することで、けっしてそういう嫌悪感を抱かせない『エイリアン』はやっぱり傑作だよなぁと思う。
(Sep 09. 2018)
遊星からの物体X ファーストコンタクト
マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア監督/メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョエル・エドガートン/2011年/アメリカ、カナダ/Amazon Prime Video
夏のホラー特集・第三弾は、前作からおよそ三十年ぶりに製作された『遊星からの物体X』の前日譚。
前作よりも評価が低いので、最初は観るつもりがなかったんだけれど、キャストを調べたら主演がメアリー・エリザベス・ウィンステッドだという。
あ、それはあれだ、『デス・プルーフ』でカート・ラッセル演じるサイコ野郎に狙われるギャル四人組のうちのひとりだなと。つまりこの映画は『デス・プルーフ』の追う側から追われる側に主役をバトンタッチして作られた続編なわけだ。そう思ったら、ちょっと興味が湧いてきたので、とりあえず観ておくことにしました。
内容は前作では初めから全滅していたノルウェーの南極基地がいかにあの惨状にいたったかを描くというもの。まぁ、そういう意味では最初から結末が決まった話なので、いかにそこへとたどり着かせるかがポイントで、なおかつホラーの核となるエイリアンのキャラクターもあらかじめ決まっているので、いかんせん二番煎じの感は否めない。新作ながら、どっちかというと前作に対するオマージュ感の強い作品という気がした。
いやしかし、三十年の時を越えていながら、エイリアンのグロテスクな映像はほとんど一緒というところがすごい。この映画がすごいんじゃなくて、CGでなんでもできちゃう現在と同じことを、いまだコンピュータの普及しない三十年前にやっていた前作がすごいなと。そういう意味でも、旧作を称えるために作られた感の強い続編だった。
とりあえず、メアリー・エリザベス・ウィンステッドはかわいいです。南極なんかに行かせたくなかった。
(Sep 16. 2018)
ダンケルク
クリストファー・ノーラン監督/フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン/2017年/イギリス、アメリカ、フランス、オランダ/WOWOW録画
クリストファー・ノーランの最新作は史実をベースにした戦争映画だった。
内容は第二次大戦の初期に、ドイツに侵攻されて撤退を余儀なくされたイギリス軍がフランスのダンケルクという土地の海岸から、民間船までを動員して、四十万人近い兵士をイギリス本土へと脱出させた「ダイナモ作戦」の模様を、陸・海・空の三つのエピソードを交錯させながら描いてゆくというもの。
ひとつ前は『防波堤:一週間』と題された、生き延びるためになりふりかまわず脱出しようともがく一平卒のシーケンス。二つ目の『海:一日』では救援に向かう民間船でのドラマを描き、三つ目の『空:一時間』では、撤退戦を空から支援する戦闘機三機の活躍を描いてみせる。
この時間軸も立ち居地も異なる三組のドラマが、特別な説明もないまま平行して語られてゆく。
キャスティングで僕が知っているのは撤退の指揮をとる将校役のケネス・ブラナーだけと、最近の映画にしては珍しい地味さ加減。
以上の説明でもって、こりゃおもしろそうと思う人がどれだけいるかわからない。少なくても僕は監督がクリストファー・ノーランでなかったら観ようと思わなかった気がする。
でもこれがめっぽうおもしろいんだった。どこがどうおもしろいのか、上手く説明できないのだけれど、三つのシーケンスが結末へ向けて一つに終結してゆくという点では『メメント』なんかにも通じるところのある作品だと思う。
そういう意味ではテーマこそイレギュラーだけれど、これも確実にクリストファー・ノーラン印の作品。まったく、この人の才能には恐れ入る。
(Sep 24. 2018)