2017年11月の映画
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シング・ストリート 未来へのうた
ジョン・カーニー監督/フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボイントン/2016年/アイルランド、イギリス、アメリカ/WOWOW録画
観たのは一ヶ月以上前なんだけれど、なぜだか感想を書くのを忘れていました。80年代の高校生が年上の女の子の気を惹きたくてロック・バンドを始めるという思春期フェロモンあふれまくりの青春映画。監督は『はじまりのうた』のジョン・カーニー。
これはそのまま観てもふつうに楽しめる青春映画だと思う。でもおそらくこの映画をもっとも笑って楽しめるのは、僕らと同世代のロック・ファンでしょう。特にUKのロックが好きな人。でもって80年代に青春期を過ごした人。
この映画の笑いどころは、主人公がその時々にヒットしている──もしくはちまたで評判となっている──アーティストに影響を受けて、次々とその音楽性とファッションを変えてゆくところ。最初はデュラン・デュランからスタートしたのに──違いましたっけ? 一ヶ月近くたってんで記憶があいまい──、途中でキュアーを知っていきなりロバート・スミスっぽくなったのに僕は大笑いした。そのあと、ホール&オーツへ行っちゃったりするし。主人公、節操なさすぎ。でも、それゆえに笑える。
僕らの恥ずかしき青春時代(二度と繰り返したくない)が臆面もなくノスタルジックにフィクション化されているのがこの映画のいいところ。ベタで赤面ものだけれど、それゆえに憎めない良作。
(Nov 12, 2017)
RADWIMPSのHESONOO Documentary Film
朝倉加葉子・監督/RADWIMPS/日本/2016年/BD
RADWIMPSが2015年の後半に行った海外ツアーと対バンツアーの模様を収めたドキュメンタリー・フィルム。
発売になったのが今年の1月だから、これも観たのはずいぶんと前なんだけれど、映画なんだか音楽ソフトなんだか、いまいちジャンルが曖昧だったもんで、つい感想を書きそこねていた。でもとても内容が濃い作品なので、いまさらながらなにか書いておきたい。
この映画はドラマーの山口智がバンドを抜けたところから始まる。かわりに新人ドラマーの森瑞希を仲間に加えて海外ツアーを追うのが前半。後半ではさらにもうひとりのドラマー刃田綴色(東京事変!)を迎えてツイン・ドラムに挑戦し、スピッツ、ミスチル、いきものがかりなどの大物をゲストに迎えた対バンツアーへとなだれ込んでゆく。要するにこれはオリジナル・メンバーの脱退というバンド史上最大の危機を、ラッドがいかに乗り越えていったかというドキュメンタリーなんだった。
それだけにその濃度は恐ろしく濃い。これがわずか三、四ヶ月ばかりのあいだの出来事だとはとうてい思えない。加えて野田くんはこの時期に並行して本まで書いているんだから、どれほどハイテンションな日々を過ごしていたことか知れない。
僕はふつう映画にしろ音楽ソフトにしろ、一度観しか観ないことがほとんどなのだけれど(さすがに観るべきものが多すぎて、一本のソフトをそう繰り返し観てはいられない)、でもこれは三回も観ている(まぁ、最近のはこの感想を書くためだったりするけど)。それでもまったく見飽きることがなく、毎回刺激を受けた。
いろいろと見どころの多い映画だけれど、もっとも印象に残っているのは、ドイツだかフランスだかのライブハウスでの機材のセッティングについて揉めた際に、洋次郎が現地のスタッフと英語で交渉しているシーン。少しでもライブをよくしたいからと、アーティスト本人が先頭に立って外人と交渉しているのを見ると、やっぱこの人ってモノが違うようなぁと思わされる。
最後に山口くんの活動停止に関する真相があきらかにされることもあって、単純に楽しい!っていって終われる内容ではないのだけれど、それでもこれは非常に見ごたえのある素晴らしいドキュメンタリーだと思う。
(Nov 19, 2017)
2001年宇宙の旅
スタンリー・キューブリック監督/キア・デュリア、ウィリアム・シルベスター/1968年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime Video
小説版を読んだので、せっかくだからつづけて映画も観てみました。スタンリー・キューブリック監督によるSF映画の金字塔──とかいいつつ、恥ずかしながら、僕はこの映画を観るの初めてだったりする。
でもこれ、映画史上に名を残すだけあって、とにかく絵がすげー。
ほんと映像は最初から最後まで見事のひとこと。類人猿が跋扈するアフリカの大地に、宇宙ステーションの浮かぶ月の世界、木星での惑星直列など、映像的な見どころが満載。
とにかくすべてが美しい。これをいまから五十年近く前、僕が生まれて間もないころ、まだCGも使えない時代に作った人たちの創意工夫と発想力の豊かさに感嘆の思いを抱かないではいられない。
で、この映画の場合、映像だけがすごいのではなく、クラシック音楽の使い方とか、宇宙空間での呼吸音だけのシーンの演出とか、音響面での仕事もすごい高度。キューブリックという人がいかに天才的な映画監督だったかというのがよくわかった。
ただし、そういう究極の職人芸に走った作品だけあって、ひとつひとつのシーケンスが長すぎるのが珠に疵。見せ方、聴かせ方に凝りすぎるあまり、ワンシーン、ワンシーンがやたらと長尺で、ただでさえSFとしてのプロットが先進的でわかりにくいものだから、ところどころで集中力が途切れそうになってしまった。
エンターテイメント性もあるにはあるけれど、その一方で芸術性にも妥協せずに重きを置いたがゆえに、とっつきづらい面があるのは否めない。映画というよりは絵画を観るときのような鑑賞を強いられる気がする。
こういう映画こそまさに「名画」という言葉がふさわしいのかもしれない。
(Nov 29, 2017)