2016年11月の映画

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  1. 君の名は。

君の名は。

新海誠・監督/声・神木隆之介、上白石萌音/2016年/日本/ユナイテッド・シネマとしまえん

君の名は。

 音楽や本と違って、映画は待っていれば、いずれはテレビで観られるし、映画ファンを名乗るほどでもない身としては、一年や二年待ったってどうってことないので、倹約のためにすっかり映画館ともご無沙汰なのだけれど、この映画はあまりに売れすぎて、観ないでいるわけにはいかない気分になってしまった。そのサントラを繰り返し聴いているRADWIMPSファンとしては、なによりその楽曲群が映画のなかでどう使われているか、気になって仕方なくなった。
 ということで、ひさびさに映画館で観てまいりました、今年ナンバーワンヒット作。高校生の男女の意識が夢のなかで入れ替わるという、なぜだか日本では昔からお馴染みのテーマを、ポスト311的なエピソードに絡めて描く長編アニメーション。
 いやしかし。この映画は語るのが難しい。いいところはたくさんあるんだけれど、作品としては粗もめだつ。
(以下、この映画については内容に触れないと語れないので、ネタバレご注意ください)
 欠点としてとくに気になったのが、御神体のあるクレーターを巡るシーン。絵としては壮大で素晴らしいんだけれど、あれが日本であるといわれても、いまいち説得力がない。そもそも、あのスケールだと中心地からクレーターの縁にたどり着くまで、何時間もかかりそうなのに、一瞬で移動してたりするし。
 瀧がそのクレーターを訪れるシーンにしても、車で送ってもらっておきながら、帰りのことはちっとも考えてないふうだし。発電所の話にしても、働いている人のことを考えたら、あんな行動ぜったいに取れないだろう。そんなふうに、いまいち人の行動原理や物理的な法則をきっちり踏まえてない感が強くて、そこにアニメだからいいじゃん的なご都合主義を感じてしまった。そういう傾向がクライマックス近くでもっとも目立ってしまっているのが残念なところ。
 まぁ、それでもディテールには素晴らしいシーンがたくさんある。新海映画の特徴である風景描写の美しさはいうまでもなく、この映画ではとくに女性がとても魅力的に描けている。三葉{みつは}が巫女の姿で舞を舞うシーンでは、あまりの美しさに本気でどきっとしたし(アニメの女性を見て胸を打たれたのなんて初めてじゃないだろうか)。彼女の男性版・女性版のキャラのギャップもとても楽しい。奥寺先輩もセクシーすぎる。
 あと、月並だけれど、瀧が飛騨を訪れて事件の真相があきらかになる部分のインパクトがすごい。えーっ、そういう話なのかと。「時空を超える恋」ってそういうことですかと。あそこにはマジでやられた。
 ただ、そのインパクトが強すぎる副作用というか。最後に物語がリセットされることで中和されるべきその部分の悲劇性が──先に書いたようなご都合主義的な部分の違和感のせいもあってか──きっちりと中和されなかった──ハッピーエンドで終わっているのにハッピーな気分になりきれなかった──そんな感じが僕にはある。そこがなにより残念な点かもしれない。
 あと、僕にはラストのあの階段のシーンも不満。あんなに必死で追いかけてようやく出会えたんだから、あんなふうにすれ違っちゃいかんでしょう? もう高校生じゃないんだからさ。あそこは前を向いたまま、きちんとお互いに向きあって欲しかった。そのほうがもっとちゃんと感動できたと思う。
 ということで、基本的にはいい映画だと思うし、好きか嫌いかといえば好きなんだけれど、素直に褒めきれない。そこがもどかしくて仕方ない──そんなもやもやした気分にさせられた作品。
 RADWIMPSの音楽については、邪魔だという意見もあるようなので、どんなものかと思っていたけれど、ファンの僕にはなんの問題もなし──というか、物語に夢中になっていて、どんな風に使われていたか、しっかり把握しきれなかったので、それを確認する意味でもう一度観たくなってしまっている。
 いやしかし、これは運命の赤い糸で結びついたふたりの恋の奇跡が人々を救うという話なわけで。その点において、RADWIMPSはまさにどんぴしゃだなと思いました。
(Nov 05, 2016)