2014年8月の映画

Index

  1. ジャンゴ 繋がれざる者
  2. 人生万歳!
  3. スター・トレック イントゥ・ダークネス
  4. Dolls

ジャンゴ 繋がれざる者

クエンティン・タランティーノ監督/ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ/2012年/アメリカ/WOWOW録画

ジャンゴ 繋がれざる者 [DVD]

 何度も書いているように、僕はあまり西部劇や時代劇が好きではないのだけれど、当代きっての名監督たちは、一度はこのジャンルに挑戦したくなるものらしい。
 コーエン兄弟の『トゥルー・グリッド』につづいて、クエンティン・タランティーノのこの最新作も西部劇だった。
 ただ、ジョン・ウェイン作品を(おそらく忠実に)リメイクしたコーエン兄弟とは違い、タランティーノは独自色をたっぷりと打ち出している。
 そもそも西部劇の黒人を主人公に据えた時点で異色もいいところなのだろうし、なにより終盤以降の展開がタランティーノ色全開。
 僕はこの映画、ディカプリオの屋敷での銃撃戦がクライマックスだと思って観ていた。そこまでの流れはイーストウッドの『許されざる者』を思い出させるものだったし、なによりそのシーンで存在感たっぷりの主演俳優ふたりがドロップアウトするのだから、まさかそのあとがあるとは思わない。
 ところがタランティーノはそこで映画を締めくくらずに、そのあとを描いてみせる。それもケレンミたっぷりに。そしてその後の展開によって、それまでは黒人差別主義を批判するメッセージが込められているのだろうと思っていた物語が、みごとに能天気なバイオレンス・アクションに化けてしまう。
 僕にはこの展開は、タランティーノがみずから作品の格を、意図的に落としてみせているようにしか思えない。で、そこがいかにも彼らしいなぁと思う。
 確かにレイシズムには反対だけれど、でも自分の映画で黒人を主人公にしたからといって、そうした政治的なメッセージをシリアスに訴えるのは自分らしくない。そもそも西部劇は痛快でないといけない。ならば最後は派手にぶちかましちまおう──。そんな作り手の意志が見て取れる。そこがすごくいいなと思った。
 そもそも、この映画の悪役であるディカプリオはそれほど悪いことをしていない。まぁ、黒人奴隷主という存在自体が悪という見方はできるけれど、それも時代的には正当な存在であって、なにも彼だけが悪いわけではないし。彼はサミュエル・L・ジャクソン──化けすぎで、そうと言われなかったら気がつかなかったと思う──演じる黒人の召使いからは大いに慕われている(やや胡散くささの残る関係性だけれど)。
 つまりここでの彼は冷酷な黒人差別主義の悪役としては描かれていない。その一方で、農園でのカタストロフを招くのは、クリストフ・ヴァルツの短気だし、黒人を犬に食い殺させた残酷行為だって、引鉄を引かせたのはジャンゴだ。
 要するに悪役は単純な悪役として描かれておらず、主人公の側の正義のあり方もなにやらあやしい。この映画では基本的な構造として勧善懲悪が成り立っていない。それって昔ながらの西部劇ではあり得ないことではないかと思ったりする。
 この映画のおもしろさは、西部劇の意匠を借りながら、そんな風に演出や脚本がちっとも西部劇らしからぬところにあると思う。タランティーノがその奇才ぶりを思う存分に発揮した快作。
 それにしても、前作『イングロリアス・バスターズ』につづき、ここでもクリストフ・ヴァルツの演技が素晴らしいのひとこと。
(Aug 24, 2014)

人生万歳!

ウディ・アレン監督/ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッド/2009年/アメリカ/WOWOW録画

人生万歳! [DVD]

 ニューヨークの薄汚れたアパートメントでひとり暮らしをする天才老物理学者のもとに、見ず知らずの南部出身の田舎娘が居候を決め込んだことから巻き起こるドタバタを描くウディ・アレンのコメディ。
 『それでも恋するバルセロナ』で大ヒットを飛ばしたあとの作品がこれってのがすごい。出演者は名前も聞いたことがないような人ばかりだし──ヒロインのメロディを演じるエヴァン・レイチェル・ウッドは『アクロス・ザ・ユニバース』の主演の女の子、と言われてもすでに覚えてない──、シナリオも派手なところはほとんどないし。
 でもこれが、めっぽうおもしろい。出演者全員がのべつ幕なししゃべりまくる、そのセリフの洪水のような奔放さが、僕にはもう掛け値なしに楽しい。こんな風にセリフだけで楽しませてくれる映画監督なんてそうそういないと思う。この頃はウディ・アレンの映画を観るたびに、この人って本当にすごいなぁと思う。
 この映画では年の差婚、一夫多妻ならぬ多夫一妻、同性婚と、イレギュラーな結婚の形をなにげに三つも並列してみせている。
 まぁ、そういうシリアスにも扱いうる題材を、こういうコメディでさらっと取り上げて笑いのネタにしておしまいってのはどうなのさ、という意見もあるだろうし、そのあまりに楽観的なハッピーエンドが甘すぎるという人もいるだろう。
 それでも人生の晩年にあって、こういう映画をさらっと撮ってみせる、その底なしのバイタリティとアイディアに、僕は敬意を抱かずにはいられない。
(Aug 24, 2014)

スター・トレック イントゥ・ダークネス

J・J・エイブラムス監督/クリス・パイン、ザカリー・クイント、ベネディクト・カンバーバッチ/2013年/アメリカ/WOWO録画

スター・トレック イントゥ・ダークネス [DVD]

 ヒットメイカー、J・J・エイブラムスによるスター・トレック劇場版、新シリーズの第二弾。
 エンタープライズ号の誕生を描いた一作目は、そのややイレギュラーな性格上も手伝って、カークとスポック以外のキャラクターがまったく記憶に残っていない――というか、恥ずかしながら、すでに話自体ほとんどおぼえていない――のだけれど、今回は二作目ということで、個々のクルーの個性が前面に押し出されて、より生き生きと描かれていた気がする。お医者さんとか、機関室長(?)とか、館長代理の人とか、みんないい味出してる(やはり名前はおぼえてないけれど)。
 物語としては、二作目ということで、旧劇場版の二作目『カーンの逆襲』を踏まえた内容になっているようだった──といいつつ、その旧作は観ていないんだけれど(そんなのばっか)。やんちゃが過ぎて艦長失格の烙印をおされたカークが、超人カーンとの対決を通じて立ち直り、新たなるキャプテンシーを獲得するといった話。まぁ、基本的に派手な展開満載だから、前作同様、シリーズのファンでなくても適度に楽しめる。この手のハリウッド的娯楽大作には、いい加減、食傷気味な感もあるけれど。
 それにしても、この作品にかぎらず、この頃の映画は簡単に人が死んだり、生き返ったりしすぎだと思う。エンターテイメントとはいえ、もうちょっと命を大事にしたほうがいい。
(Aug 26, 2014)

Dolls

北野武・監督/菅野美穂、西島秀俊/2002年/日本/WOWOW録画

Dolls [ドールズ] [DVD]

 北野武が自らの映画について語ったインタビュー集、『武がたけしを殺す理由』がロッキング・オンから刊行されたのがたしか『座頭市』の直後で、調べたら2003年のことだから、すでに十年以上前の話。
 その本を買ったあと、これを読むのは北野作品をすべて観てからにしよう――と思ったにもかかわらず、なんだか気分が向かなくて、ずっと観れないままでいた唯一の作品がこれ。ということで、十年来の重い腰をあげてようやく観ました、北野武の『Dolls』。
 菅野美穂と西島秀俊という人気俳優を主演に迎え、文楽をフィーチャーしたり、衣装を山本耀司が手掛けていたり――Yohji Yamamoto のどてらって、かなりのインパクトだと思う――、四季折々の日本の美しい風景をたっぷりと取り入れたりして、とても話題性たっぷりの作品なのだけれど。
 でも正直なところ、この映画の序盤の展開が、僕はあまり好きではなかった。
 政略結婚のために捨てた彼女が自殺未遂のすえ正気を失ってしまったことに責任を感じた主人公が、(贖罪のため?)彼女をつれて日本各地を放浪する、というストーリーにまったく説得力が感じられず、その世界に入り込めない。主演のふたりも、まだ若いせいか、演技がいまいちだと思った(いまならもっといい演技を見せてくれそう)。
 このまま最後までゆくとつらいなぁ……と思って観ていたんだったが、いやそこはさすが世界のキタノ。そのままでは終わらない。
 途中からヤクザ(ここでもまた)の親分とアイドルオタクにまつわる本編とは関係のないふたつのエピソードが加わってきて、作品の世界観がぐっと広がる。この三重構造がはっきりした時点からは、先の読めなさが加速して、非常におもしろくなった。そして迎える、それぞれの苦すぎる結末……。
 ということで、序盤はあまり乗り気ではなかったのだけれど、観終わってみれば、いやこれはこれですごいなと思わされた一本。
 いやぁ、それにしても、これでようやく『武がたけしを殺す理由』が読める。――といいつつ、もう初期の作品の内容を、まったくといっていいほど忘れてしまっている奴。駄目すぎる。
(Aug 26, 2014)