2006 FIFAワールドカップ Germany (5)
Index of Round of 8
ドイツ1-1(PK:4-2)アルゼンチン
準々決勝/2006年6月30日(金)/ベルリン
うーん、残念な結果になってしまった……。そう思っている人が、ドイツをのぞいた全世界に何億人いることだろう。今大会のアルゼンチンのサッカーはとても魅力的だった。この試合を最後にもう続きが見られないのは本当に残念だ。
それにしてもスペインの敗退にしろ、このアルゼンチンの敗退にしろ、今回の大会を見ていてひとつ確実にわかったこと。それはどんなに強いチームがどれほどボールの支配したとしても、それが必ずしも勝利につながるというわけではないってことだ。スペインもアルゼンチンもボールの支配率では相手を圧倒していた。それでも試合には負けて、大会から姿を消してしまった。
逆に決勝トーナメント1回戦のブラジルは、ボール支配率では対戦相手のガーナを下回る内容だったにもかかわらず、3-0というスコアで快勝している。ちなみに僕はその試合を録画で早送りしながら見ていて、ブラジル陣地にボールがある時間が多いのにびっくりした。ガーナ、あなどれじ。
ただそうは言ってもブラジルはボール支配率で負けながら、ある一点で確実にガーナを圧倒していた。それは枠内へのシュート数だ。その試合でブラジルは11本のシュートを放ち、そのうち10本をゴールマウス内に収めている。恐ろしく精度が高くて、効率のいいサッカーをしていたらしい。
ボール・ポゼッションなんて少なくてもいいから、そのかわりボールを持った時にはできる限り精度の高いプレーをして、きちんとボールを枠へと蹴りいれること。それが現代のサッカーで勝つために必要なことだと、ブラジルは教えているような気がする。あまり楽しくないそんな現実を、破格の個人技を寄せ集めただけのリアリスティックなプレーによって。
ジーコが日本代表で目指したサッカーは、ボール・ポゼッションを基本としていた。自分たちがボールを持っている限りは、相手に得点を許すことはない。そうジーコは選手たちに指導したと言う。けれどもこの大会の内容を見る限り、その認識はあまりに間違っていたといわざるを得ない。いくらポゼッションをあげたところで、それが100%になり得ない以上、相手に得点を許す危険性は決して下がらない。わずかニ、三人でゴールまでボールを運んでフィニッシュに持っていけてしまうブラジルのような国が相手ならばなおさらだ。自分たちより相手のシュートの方が精度が高い状況では──そして守備力の高い相手に挑むにもかかわらず、ゴールを奪うための明確な戦術がない状況では──、いくらボール・ポゼッションを高めたところで勝利をつかむことは難しい。グループリーグの時点ではこの大会でもっとも魅力的なサッカーを見せてくれていたスペインとアルゼンチンの予想外の敗退は、ジーコがやろうとしたサッカーがまちがっていたことのあきらかな証拠に思えた。
とにかくこの試合のアルゼンチンの敗北はとても残念だった。けれども試合の流れのなかで、その結果はもう後半途中から予想できたものとも言える。最初におやっと思わされたのは、後半途中でGKが交替になった時だった。
この試合、序盤から圧倒的にボールを支配したのはアルゼンチンだった。序盤こそ、ドイツも二度三度、ゴールを狙えるチャンスを得はしたものの、前半の中頃から以降は一方的なアルゼンチン・ペースとなった。ドイツはなにもできないまま、ただしゴールも奪われることなく前半を終了する。
開幕戦では守備力に不安を残したままだったドイツだけれども、その後はどうしたことか、この前の試合まで3試合連続無失点と、見違えるような守備力の高さを見せていた。この試合でもその力が嘘じゃなかったことを証明する。圧倒的にアルゼンチンに攻めさせながらも、ほとんど決定的なチャンスは与えない。無失点のまま前半を終了したのも当然という内容だった。
けれどもそこはさすがアルゼンチン。いつまでもノーゴールに甘んじてはいない。後半に入って5分たらずで、セットプレーから2番アジャラのヘディングで先制点をゲットした。これで安泰、アルゼンチンの勝利は動かないと多くの人が思ったはずだ。僕や義妹もその一人で、彼女はそこまで見てアルゼンチンの勝利を信じて、睡魔に負けて寝てしまったと言っていた。
ところが。アルゼンチンにとっての悲劇はそのあとに待っていた。
まずはGKの交替。後半のなかばにゴール前での接触プレーで、わき腹にドイツの選手の膝蹴りをくった正ゴールキーパーのアボンダンシエリ(難しい名前で覚えられない)が、数分プレーを続行したあと、痛みに耐えかねて交替を申し出た。あばら骨にひびでも入ったんじゃないだろうか。ともかくこの交替がケチのつき初めだった。
試合後の記者会見でアルゼンチン監督のペケルマン氏は「二人の交替を余儀なくされたのが痛かった」と言っている。うちの一人はこのGKであることがあきらかだけれど、もう一人はリケルメのことだろうか。彼が痛んでいたとしたらばそれはとても不運なことだったし、そうでないとすると、とんでもない失策だったと思う。
とにかくGKの交替と前後して、アルゼンチン監督はチームの中心であるリケルメをベンチへ下げた。この交替は見ていて納得がいかなかった。アルゼンチンの攻撃に小気味よいリズムをあたえていたリケルメの存在感は絶大だった。彼が下がった後もアルゼンチンはあいかわらずボールをキープし続けていたけれども、それまでようなバランスの良さが感じられなくなってしまう。
さらに残り10分を切ろうという頃になり、さらにアルゼンチン監督は今度はクレスポを下げる。その直前にGKの目の前までボールを追ってゆき、スライディングまでしてボールを奪おうとする執念を見せたクレスポだ。まだまだ余力が残っているように見えた。そんな彼を交替させる必要があるのか、正直疑問だった。しかもそれで投入した選手が、サビオラやメッシではなくクルスだ。インテルの選手だというので才能はあるんだろうけれど、それにしてもなぜすでに得点を決めて実績を残しているサビオラやメッシを温存しておいて、いまさら別の選手にチャンスを与える必要があるのだろう。これも首をかしげずにはいられない采配だった。そもそもなぜ先発でサビオラではなく、テベスを起用してきたのかもよくわからない(テベスの豊富な運動量は貢献度が高かったと思うけれど)。
とにかく不運なGKの交替のあとで、攻撃の中心選手を下げ、気持ちのこもったプレーを見せていたベテランFWを交替させた采配が意味するのは、まず間違いなく、あとは1点を守り切って、戦力を温存したままで終わりにしたいという監督の思惑だった。なんだよアルゼンチン、守りに入っちゃうのかと、もの足りなく思った途端に──。
ドイツの見事な同点ゴールが決まってしまうんだ、これが。バラックのクロスを、ボドルスキーとクローゼがヘディングでつないで押し込むという、今大会のヒーローたちの連携がどんぴしゃと決まった瞬間だった。スタジアム騒然。もうムードは一気にドイツだ。
アルゼンチンの安全策が失敗に終わって、ドイツが同点に追いついた時点で勝利の行方は決まったも同然だったと思う。あいかわらずドイツの守りの前にアルゼンチンはゲームを支配しつつも決定機を作れないままだったし、ドイツにもアルゼンチン相手に追加点を奪うほどの力量はなかった。
そのまま延長戦もスコアは動かずに終わる。勝敗の行方はPK勝負に託された。両軍のゴールを守って対決するのは、かたやオリバー・カーンからドイツの正ゴールキーパーの座を奪ったイェンス・レーマン、かたやアルゼンチンの第二キーパー……。勝負の行方はおのずからあきらかだった。4本のシュートに対してすべて正しい方向へと反応して、そのうちの2本を止めたこの日のレーマンに、誰が太刀打ちできるだろう?
GKが交替になってから同点になるまでの十数分間、そしてPK戦へと。その流れの中で、勝負のアヤがどのように折り重なってゆくのかが垣間見えるような、不思議な奥行きのある試合だったと思う。
(Jul 01, 2006)
イングランド0-0(PK:1-3)ポルトガル
準々決勝/2006年7月1日(土)/ゲルゼンキルヘン
決定力不足という病に冒されているのは、なにも日本代表だけではないなと──。この大会を見ていると、本当にそう思う。なかでもイングランドは重傷だった。中盤までのバランスの良さは大会屈指だったのに、最後の最後までFWが調子をあげられないままだったのが響き、ベスト8で大会を去ることになってしまった。
この試合はやはりルーニーの退場がすべてだ。誰もが8年前のベッカムのそれを思い出さずにはいられない、チームの期待の星の軽率なラフプレーからの退場劇。その後PK戦にまでもつれこんで負けるという展開もそのまま。やはり歴史はくりかえす? くりかえして欲しくなんてないと思った人が大多数だろうに。
まあベッカムの言い逃れのしようがない退場劇と比べると、ルーニーの退場はちょっとかわいそうだった。接触した相手の股間に足が入ってしまったのをとがめられたのか、それともそのあとで相手選手の胸を軽く突いたのをとがめられたのか、よくわからない。でも退場させられるほどひどいプレーがあったようには見えなかった。
なんにしろこの日もルーニーの1トップでのぞんでいたイングランドにとって、この退場はめちゃくちゃ痛かった。あまり出来のよくなかったジョー・コールを下げてクラウチを投入することでチームとしてのバランスは保持したけれども、もとより露呈している得点力不足は解消しようがない。しかもジェラードとランパードの間に入ったハーグリーヴスの出来が非常に良かったため(まさにこの試合のマン・オブ・ザ・マッチにふさわしい縦横無尽の活躍ぶりだった)、選手交替のカードも切れない。いまのバランスを崩してまで、新しい選手を入れるのは……。僕もそれはどうかと思ったので、エリクソン監督が延長後半の終了間際まで最後の交替カードを切らなかったのも、まあ仕方ないかなという感じだった。
いずれにせよ、最後の最後までチームのバランスを重視して、スコアレスドローに甘んじた時点で、イングランドの敗退は決まってしまった。PK戦では、前日のアルゼンチンと同様、相手が悪かった。ポルトガルのGKリカルドは4本中3本を止めて、なおかつ残り1本も手に当てている。なんとも神がかり的なセーブ力だった。
結局、ランパードは大会を通じて無得点に終わった。PKも外していたし、クラブではFWを上回る得点力を誇っているという彼がノーゴールのまま終わったことも、イングランドの低迷を象徴している。彼のシュートが一本でも決まっていれば、また違った結果になっていたんじゃないだろうか。
ああ、それにしてもアルゼンチンに続いてイングランドまで姿を消してしまうなんて……。これでもう僕が気に入っていたチームは全滅だ。残りの試合への関心が薄れちゃうなと思っていたらば、ところが次の試合では王者ブラジルが──。
(Jul 02, 2006)
ブラジル0-1フランス
準々決勝/2006年7月1日(土)/フランクフルト(録画)
僕が期待していた準決勝の対戦カード、イングランド-ブラジルは実現しなかった。しないどころか、両チームともそこまで駒を進めることができずに敗退してしまった。最初からずっと決定力に問題を抱えたままだったイングランドはともかく、まさかあれほどのタレントを擁したブラジルまでが負けてしまうなんて……。あまりに意外な展開だった。やっぱりサッカーは難しい。
いや、ただ意外だと思うのは、それがこの大会が始まるまでのフランスの評価の低さが頭にあるからであって、ことこの日の試合内容だけを見たならば、フランスの勝利はきわめて真っ当なものだったと言っていいと思う。ジダン、ヴィエリ、マケレレが構成するフランスの中盤は、その円熟したプレーで王者に一歩も引けを取らなかったし、そこに加わった若いリベリも果敢に突っかけて、ブラジルのディフェンスを慌てさせていた。アンリはあいかわらずオフサイドにひっかかりながらも、一番大事なところで実に美しいボレーシュートを決めてみせた。いや、やはり中盤がきちんと機能するチームは見ていて気持ちがいい。本当にすごくいいチームだと思った。イングランドが負けてがっかりしていた僕の気持ちを引き立ててくれた。
それにしてもブラジル。個々の才能は疑いようがなく、戦力的には大会随一だったのに、結局そのタレントをうまくひとつにまとめることができず、不完全燃焼のまま大会を去ることになってしまった印象だ。その点、日本人選手の才能を過信しすぎて、いざという時に苦しい状況を打開するための
現時点で世界最高のプレーヤーと評されているロナウジーニョも、結局その真価を発揮することなく終わってしまった。そういえばこの試合の彼は、ロナウドとの2トップとして起用されていた。パレイラ監督がどういうつもりでアドリアーノをスタメンから外したのか、よくわからない。少なくても途中出場でアドリアーノを投入して、ロナウジーニョを中盤に下げてからの方が、ブラジルには迫力があった。その点ではこの試合の敗戦はパレイラの作戦ミスだったんじゃないかさえと思う。
ロナウジーニョとは反対に、この大会後に引退を表明しているジダンは、スピードこそないものの、その分「優雅」という言葉がぴったりとくる、美しいボールさばきを見せて、チームの勝利に大きく貢献していた。
「次がジダンの最後の試合になる」
レアル・マドリーの同僚であるラウル、そしてロベルト・カルロスは、自分たちの勝利を信じるがゆえに、試合前にそう語っていたという。しかしながらジダンの引退試合はまだまだ先だった。自らの失言の責任を取らされたかのように、彼らは大会を去る羽目になった。どうもジダンというサッカーに愛された男を侮辱すると、サッカーの言霊の呪いがかかるみたいだ。今後対戦するチームの選手は気をつけた方がいい。
この試合の結果によりベスト4が確定。残ったのはドイツ、イタリア、ポルトガル、そしてフランスだ。いずれが優勝するにせよ、ドイツ大会の覇者はやはりヨーロッパのチームとなることが決まった。
(Jul 02, 2006)