2021年6月の本

Index

  1. 『ソラリス』 スタニスワフ・レム

ソラリス

スタニスワフ・レム/沼野充義・訳/ハヤカワSF文庫/Kindle

ソラリス (ハヤカワ文庫SF)

 未知の宇宙生命体とのコンタクトを描いたポーランド作家スタニスワフ・レム(間違えずに入力できない)によるSF小説の古典的名作。
 舞台となるのは惑星全体を海のような未知の生命体がおおった惑星ソラリス。その星で任務についている宇宙ステーションとの連絡が途絶えたかなにかで、主人公のケルヴィンがひとり調査のために派遣される。
 宇宙ステーションに到着した彼が見いだしたのは、三人の研究者のうちのひとり(彼の恩師)が死亡しており、あとのふたりが常軌を逸した精神状態にあるという事実だった。彼らはなにか隠しごとをしていた。そしてその「なにか」はほとなく彼のもとにも姿を現した。いまは亡き彼の妻そのままの姿をして……。
 この小説の読み応えには、ラヴクラフトの小説に近いものがある。序盤の展開はそれ自体がある種のホラー小説っぽいし、架空の惑星を生物学や史学的な視点から緻密に構築してみせる各章の筆圧高さには、SFという言葉がイメージさせる娯楽性を超越した学術的な遊び心が溢れている。しかも哲学的な深みも感じさせる。
 その分、エンタメ性はあまり高くないし、決して読みやすい作品ではないけれど、ひとりの作家の想像力がたどり着ける到達点の高さという意味では、かなりのものがある作品。なるほど、時代と国境を超えて読み継がれているだけのことはあると思った。
(Jun. 06, 2021)