2019年8月の本
Index
手掘り日本史
司馬遼太郎/文春文庫/Kindle
Amazon Primeで無料で読めたから読みました第二弾。
司馬遼太郎が江藤文夫という人による質問に答えた「聞き書き」に自ら手直しを加えたというエッセイ風の対談集――または対談ベースのエッセイ集。
この本はとてもよかった。「自分のことを語るのがヘタなのです」といいながら、自らの祖父の出自を語ってみせた冒頭からしてすでにおもしろい。その部分だけでも十分に歴史小説的な旨みに満ちている。
読書力が落ちまくりで、一ヵ月半ちかくかけてだらだらと、とぎれとぎれに読んだ上に、読み終わってから半月がすぎてしまっているせいで、すでに記憶があいまいで、どんな風によかったかうまく言葉にできないのだけれど――なんでこのページ数でそんなにかかっちゃうかな?――でも読んでいてとても気持ちが豊かになる本だった。司馬先生すごい。
細かなところでやけに印象に残っているのが、司馬先生が天皇陛下のことを「天皇さん」と呼んでいること。その言葉に込められているのが親しみなのか、揶揄なのか、はたまた反感なのか、僕には読み取れなかったけれど、でも少なくても無条件の尊敬の念ではないんだろうなと思う。最近の公の場ではほとんど目にすることのない表記だったので、とても印象的だった。
なんにしろ、日韓関係がこじれているいまだからこそ、戦後の日本を代表する歴史小説家の残したつれづれの言葉にはとても身に浸みるものがあった。
この本はいずれまた読み返してちゃんと感想を書きたい。
(Aug. 26, 2019)
蜘蛛の巣
アガサ・クリスティー/加藤恭平・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle
クリスティーの戯曲・第四作目。地味なタイトルだから油断していたけれど、これがなかなか素晴らしい出来映えだったりする。
舞台となるのは外交官邸宅の一室。「もしもある朝、書斎に降りてきて死体を見つけたら、わたくしはどうするか?」みたいなことを空想をするのが好きだと語っていたその屋敷の奥さまが、実際に自宅で死体を見つけてしまい、わけあってそれを隠さなきゃってことになってどたばたするコメディ・タッチの犯罪劇。
死体をめぐって登場人物が右往左往するヒッチコックの『ハリーの災難』みたいな話なのかなと思って読んでいたら、途中で警察が出てきたところから物語が予想外の展開をみせる。しかも二転三転する。
まあ、個人的には殺人犯人の設定がいまいちな気がしたけれど、この作品にはそれ以外の部分で十分すぎるくらいの意外性がある。舞台には詳しくないけど、この脚本、素人目には見事な出来映えなのではと思います。
小説に限らず、こと脚本に関しても、これまでの四作品、どれもはずれなし。クリスティーって、じつは脚本家としてもすごいんじゃないだろうか。
(Aug. 31, 2019)