2018年7月の本

Index

  1. 『ねずみとり』 アガサ・クリスティー
  2. 『火星の人』 アンディ・ウィアー

ねずみとり

アガサ・クリスティー/鳴海四郎・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

ねずみとり (クリスティー文庫)

 短編集『愛の探偵たち』に収録されていた『三匹の盲目のねずみ』の戯曲版。
 もともとラジオ・ドラマのための脚本として書かれた話だということなので、形式的にはこちらのほうがオリジナルに近いものと思われる。
 小説版を読んでから日が浅いので、さすがに物語は記憶に新しくて、ミステリとしての謎解きを楽しむというわけにはいかない。なので興味は味つけの違いということになる。音楽でいえば、スタジオ版とライブ版の違いを楽しむ、みたいな感じ。
 とはいえ、スタジオ版の音がどんなだったかなんてすっかり忘れているので──さすがにメロディーは覚えているけれど、アレンジの相違を確認できるほど聴きこんでいない状況──印象的には、あれ、ちょっぴりキャラクターの設定が違っている? というくらいの印象でしかなかった。
 できればもっと間をおいて読んだほうがよかったとは思うけれど、そこは全作品を時系列で読むという企画の副作用だから、致し方なし。
 それにしても二度も同じ話をつづけて読むと、できたら舞台も観たいなって気分になる。
(Jul 29. 2018)

火星の人

アンディ・ウィアー/小野田和子・訳/早川書房/Kindle

火星の人

 マット・デイモン主演の映画『オデッセイ』の原作。
 事故で火星に取り残された宇宙飛行士がいかにして生き延びるかを、主人公の側と彼を助けようと尽力するNASAのスタッフ陣、両サイドから描いているのは映画と同じ──というか、おそらく映画がとても原作に忠実な作りになっているので、映画ではラストにちょっとつけたしがある点をのぞけば、ストーリー的にはほとんど同じだと思う。なので物語としての意外性はあまりない。
 ――といいつつ、こちらはひとつ前の『ねずみとり』とは違って、その映画を観てから一年半以上が過ぎている。映画版の記憶はすっかり薄れてしまっているので、とても楽しく読むことができた。
 映画でもそうだったけれど、この作品のよさは、火星のロビンソン・クルーソー的なメイン・テーマと平行して、主人公を救おうとする地球の側の出来事が群像劇として丹念に描かれている点。主人公の話だけだと(それだけでもじゅうぶんおもしろいけど)やや単調になりがちなところを、NASAの内幕を描くことで何倍もドラマチックかつ感動的にしている。ほんと、映画であらすじは知っているのにもかかわらず、やたらとおもしろくて読むのがやめられなくなった。
 理系の主人公の理詰めのサバイバルには、EVA(宇宙での船外活動のことらしいです)などの専門用語が説明もなく出てくるので、そういうのが苦手な人には読みにくいかもしれないけれど、まぁわからないことはわからないでもいいやって割り切って読めるならば、こんなに楽しい読み物もないと思う。
 Kindle版には解説がついてないのが唯一残念な点。
(Jul 29. 2018)