2012年2月の本

Index

  1. 『競売ナンバー49の叫び』 トマス・ピンチョン
  2. 『豆腐小僧双六道中おやすみ 本朝妖怪盛衰録』 京極夏彦

競売ナンバー49の叫び

トマス・ピンチョン/佐藤良明・訳/新潮社

競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection)

 トマス・ピンチョンの長編第二作目にして、ピンチョンの長編のうちではもっとも短い作品。
 この小説の主人公はエディパ・マースという人妻。彼女のもとへ、かつての愛人だったカリフォルニアの大富豪が死んで、彼女がその遺言執行人に指名されたという知らせが届くところからこの小説は始まる……のだけれど。
 そもそも遺言執行人というのが、どんなことをすべき立場なのかが僕にはわからない。もしかしたら、たっぷりとした解説(80ページ以上ある)をきちんと読めば書いてあったのかもしれないけれど、あったとしても僕は読み落とした。そもそもこの解説、長いわりには問題提起してばかりなので、読むとかえってストレスが増える感あり(だからこの佐藤という人は……)。
 なんにしろ、主人公のエディパは、僕にとっては意味不明な役割を引き受けて、カリフォルニアへ出かけてゆき、あちらこちらで様々な人と出会ううちに、富豪の死に「トリステロ」なる秘密組織が関係しているらしいことを知る。で、彼女がその正体を探ろうとし始めたとたんに、それまで知り合った関係者らが次々と死んだり、行方不明になってゆく。
 彼女のまわりでいったいなにが起こっているのか。トリステロとはなんなのか(そもそも実存するのか、はたまた彼女の妄想の産物なのか)。大富豪は彼女になにを託そうとしたのか。──というようなミステリ風の展開が興味を引くものの、そこは純然たるミステリとは違って、答えはほとんどが藪の中。
 いや、このうち最後の問いに対しては、最後に驚くべき結論が下される──のだけれど。
 なんでそういう結論になるのか、僕にはさっぱりわからなかった。短くてもそこはピンチョン。やはり僕には手にあまる。今回も勘どころを読み損ないまくっている感ありすぎ。
 でもまあ、短い上に、この人の作品にしては珍しく物語が直線的だから、ピンチョン初心者がその作風を味わうにはぴったりの一作という気もする。そんな作品。
(Feb 29, 2012)

豆腐小僧双六道中おやすみ 本朝妖怪盛衰録

京極夏彦/角川書店

豆腐小僧双六道中おやすみ本朝妖怪盛衰録

 豆腐小僧双六道中シリーズの第二作目。
 前にも何度か書いたけれど、このシリーズは豆腐に見立てた真四角の特殊な装丁になっている。しかも京極作品のつねでぶ厚い。四角くてぶ厚い。モノとしては個性的でおもしろいのだけれど、読むとなると、物理的にかなり読みにくい。
 それでも前作は内容が新鮮だったためもあり、とても楽しく読めた。本としての読みにくさを補ってあまりある素晴らしさだと思った。知人すべてに読んでもらいたいと思うくらい気に入った。
 ところが今回の続編ではまったくそうは思わない。内容がいまいちなので、たんに読みにくいだけ。残念ながら僕はこの本、誰にもお薦めできない。
 やはり八年のインターバルがあだになっている気がする。このシリーズの魅力のひとつは落語風の語り口のおもしろさだと思うのだけれど、その点で前作に比べると滑らかさを欠く印象を受けた。前のほど乗りがよくない。「概念」にルビをふって「おばけ」と読ませるのも、延々と全編に渡るとかなりしつこく感じてしまう。
 豆腐小僧のバカっぷりもなんとなく以前より鼻につく。はんぱに知恵がついて、生意気になった感じ。もともとあまりかわいくないけれど、なおさらかわいくなくなった。『おやすみ』とタイトルにあるからもしやと思っていたら、ほんとにお休みしちゃうし(主役のくせして出番が少ない)。しかも戻ってきたときには、変なことになっているし。
 あと、もともとこのシリーズは、妖怪たちが自分たちは現実には存在しないんだということをきちんと認識しているというメタフィクショナルな小説ではあるけれど、前作では暗黙の了解であったその辺のメタフィクション性が、今作のクライマックスで前面に出てしまったのも興ざめだった。ある種、夢おちのがっかり感に近いものがある。
 ということで、残念ながらこの第二作は、あらゆる面で前作よりもグレードダウンしてしまっている。これくらいの出来ならば、いっそ一作目だけでやめておいて欲しかった。前作が大好きだっただけに、すごく残念。次回作以降での巻き返しに期待している。
(Feb 29, 2012)