Coishikawa Scraps / Music

THE BOOK 3

YOASOBI / 2023

　いつの間にか妻子からYOASOBIのファン認定を受けていたので、この人たちについても一度なにか書いておくべきだろうという気がしてきた。
　ということで、いまや世界でもっとも有名なJ-POPアーティストといって過言ではなかろうYOASOBIのサード・アルバム。
　内訳は、女性小説家四人とのコラボＥＰ『はじめての』の四曲に、『葬送のフリーレン』、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、『押しの子』のオープニング・テーマ、ＵＳＪのキャンペーン・ソング『アドベンチャー』、それとインタールードのＳＥナンバー二曲を加えた全十曲。
　要するに、収録曲はすべて配信でリリース済みの音源だし、あまつさえそのうち半分は『はじめての』でコンパイル済み。曲としての鮮度はかぎりなく低いので、アルバムを聴く意味も、買う必要も感じていなかったんだけれども。
　いざ聴いてみたら、いやこれが盛り上がる。個々の楽曲の質の高さにはもともと舌を巻いていたので、それをこういう形でまとめて聴かせてもらうと、それはそれで悪かろうはずはないって話だった。
　あと、『祝福』と『アイドル』の前に挿入されているインタールードの二曲――ライヴ専用のＳＥかと思っていた――がドラマチックでとても効果的。その二曲を単体で聴いたときとはまた違う高揚感を与えてくれる。
　まぁ、とにかくAyaseのソングライトの才能がすごい。縦横無尽なメロディーに、物語に最適な距離で寄り添う歌詞。でもって技巧的なアレンジメントとフィジカルに訴えるダンスビート。現時点で史上最強のソングライターのひとりではと思う。
　世の中にアニメのコラボ曲は山のようにあるけれど、彼の曲のなにが特別かって、どの曲もきちんと作品の世界を表現し切っていること。楽曲単体でもいいのに、コラボの作品を知っているとなおさら感動的になる。そんな曲ばかり。『アイドル』を頂点として、『祝福』も『勇者』も、曲が好きならば、絶対にアニメを観たほうがいい。おそらく感動が倍増する。
　『アドベンチャー』の「回る地球儀を目印に」という歌詞にも感銘を受けた。ＵＳＪを歌うのに、こんなに的確な表現ある？　決して特別なことを歌っているわけではないのに、きっちりと風景が浮かび上がってくるのが素晴らしい。
　そんな史上最強レベルの楽曲を、ikuraという魅力的な女性ボーカルが歌う。僕は彼女の熱くなりすぎない、終始いい感じの軽みがあるボーカルが好きだ。上手いんだけれど、上手さをひけらかしていないというか。そのニュートラルな感触がとても心地いい。ライブではオラオラしているのもおもしろい。
　まぁ、音響に関しては、シンセが強すぎて正直好みとはいえないんだけれど、でも楽曲の質の高さとikuraのボーカルの組み合わせには確実な中毒性がある。結果として、レコーディング作品よりもバンド・サウンド感の強いライブに魅せられ、YouTubeで彼らのライヴ映像をがんがん観まくる日々を送っている。
　個人的な趣味で単純比較すれば、ずとまよとヨルシカのほうが好きだけれど、客観的にみれば、現時点で日本のポップスの最強ユニットはこの人たちではと思います。
(Apr. 28, 2024)