2024年1月の音楽

Index

  1. Hackney Diamonds / The Rolling Stones
  2. すずめの戸締まり / RADWIMPS&陣内一真
  3. 幻燈 / ヨルシカ

Hackney Diamonds

The Rolling Stones / 2023

Hackney Diamonds

 すっかり開店休業状態になってしまっている音楽のコーナーを復活させるぞという新年の誓いとともにとりあげる2024年一発目――となれば、まずはこれでしょう。
 ローリング・ストーンズの十七年ぶりのスタジオ・オリジナル・アルバム。
 まずは一曲目の『Angry』にびっくりする。
 あまりにストーンズの王道中の王道。まったく新曲感なし。初めて聴いたときには「これって本当に新曲?」と疑ってしまったレベル。いまさらこういうのがさらっと出てくるのがすごい。ミックもキースももう八十なのに。
 アルバム全体の音響は九十年代以降のストーンズの典型って感じで、全盛期のそれと比べるとドライで深みを欠く印象はあるけれど、なまじ洋楽が打ち込みの音楽ばかりになってしまった昨今、まずギターありきってこのサウンドはそれだけで貴重だ。大音量でガンガン鳴らしたくなる。
 二曲だけとはいえ、最後にチャーリー・ワッツが残したレコーディング音源を使った新曲が収録されているのも重要なポイントだ。
 しかもそのうちの一曲『Live by the Sword』でベースを弾いているのはビル・ワイマンだよ? オリジナル・メンバーが再集結した最重要曲じゃん!
 さらにその曲にキーボードでクレジットされているのがエルトン・ジョンというのにもびっくり。なにそのシックス・ピース・バンド。スーパーレジェンドすぎん?
 エルトン・ジョンのほかに、ポール・マッカートニーとスティービー・ワンダーがゲスト参加しているのに、彼らの誰ひとりとして歌っていないのも地味にすごい(ゲスト・ボーカルはレディー・ガガだけ)。この三人を楽器の演奏だけでゲスト参加させられるアーティストなんて、ストーンズ以外にいないだろう。
 稀代のメロディメイカー、ポール・マッカートニーが参加している『Bite My Head Off』がまったくメロディアスじゃないのもいい。ディストーションの効いたベースソロを弾くポールの楽しそうな姿が目に浮かぶようだ。
 キースがボーカルを取っている『Tell Me Straight』はまるでキースのソロ・アルバムから引っぱってきたような曲だけれど、バック・コーラスにミックの声が聞こえてきて、あぁ、これはまぎれもなくストーンズ・ナンバーなんだなあって思う。
 いやしかし、レディー・ガガが参加した『Sweet Sounds of Heaven』で、八十才のおじいさんに「天国の音が聞こえてくる」って歌われると、それはちょっと洒落になってないんじゃないかという気が……。
 ラスト・ナンバーはバンド名の由来となったマディ・ウォーターズの『Rolling Stone Blues』のカバーだしねぇ。もうラスト・アルバム感がはんぱない。
 キースはインタビューでこれが最後ってわけじゃないぜって言っていたけれど、本人たちにもこれが最後になっても仕方ないという覚悟があるのはまちがいないだろう。
 史上最強のロックバンドによる史上最高齢のアルバム。歴史に残る一枚だと思う。
(Jan. 04, 2024)

すずめの戸締まり

RADWIMPS&陣内一真 / 2022年

すずめの戸締まり (限定盤)(2枚組)[Analog]

 RADWIMPSのオリジナル・サウンドトラック第四弾。気がつけばクレジットはもう二年前だった。
 新海誠とのコラボレーションということでは三作目となる本作は、これまでの二枚とは確実に性格が異なっている。
 単純な違いは映画のクライマックスを彩る歌もの楽曲がないこと。
 『君の名は。』における『スパークル』、『天気の子』における『グランドエスケープ』に該当する歌が今回はない。
 収録されている歌ものは、エンドクレジットでかかる『ハルカカナタ』と『すずめ』、そして映画では使われていない『TAMAKI』と『すずめの涙』の四曲。
 要するに映画では使われていない曲が収録されている時点で、純然たるサウンドトラックとは呼べないわけだ。
 陣内一真という作曲家(主にゲーム音楽を手がけてきた人らしい)との共作名義でもあるし、新海誠とRADWIMPSとの関係性がいままでとは違ってきているんだろうなぁってことを感じさせる一枚。
 『すずめの戸締まり』という映画が、序盤から派手なシーン連発の、これまでの新海作品ではもっとも起伏に富んだ展開の作品なので、サントラもそれに応じて、これまでよりも多様で賑やかな仕上がりになっている。
 『ルパン三世』のサントラにも使えそうなアッパーなジャズ・チューンがあるから、陣内氏の作品かと思ったら、RADWIMPS名義だったりして。そんなところにも野田洋次郎の作曲家・編曲家としての成長を感じた。
(Jan. 20, 2024)

幻燈

ヨルシカ / 2023年

幻燈 (画集アルバム)

 去年の春にリリースされたヨルシカ通算四枚目のフル・アルバムは、画集と連動してスマホで音楽を再生するという特殊な形態の作品。
 内容は二部構成で、『夏の肖像』と題された第一章が十五曲。これらはすべて歌もので、そのほとんど(すべて?)が古今東西の文学作品をモチーフにした作品となっている。
 第二章の『踊る動物』は『第一夜』から『第十夜』と題した全十曲。由来はおそらく夏目漱石の『夢十夜』なんでしょう。一曲目の『第一夜』のみ歌ものであとはインスト・ナンバーという構成になっている。
 画集は加藤隆氏という画家の手によるもので、各楽曲をモチーフにしたそれぞれの絵に、スマホで専用サイトにアクセスしてカメラをかざすと、ARが起動して音楽が再生できるという仕組み。いちいち画集を開いて一曲ずつ再生するのが面倒だって人のために――まぁ、初回以外はリスナー全員がそうだと思うけれど――WEBには全曲をつづけて再生できるページも用意されている。
 あと、画集を買わない人向けにはサブスクで全十曲のダイジェスト版が用意されている。そちらでは公開されていない曲は『夏の肖像』『雪国』『パドドゥ』『さよならモルテン』『いさな』の五曲とインスト九曲。
 画集版の第一章にはヨルシカのデビュー・ミニ・アルバム『夏草が邪魔をする』から『靴の花火』が再集録されているけれど、この曲がバージョン違いかどうか、僕にはわからなかった。
 画集が発売になった時点では、一冊について再生可能なのはスマホ一台のみという、なにそれって制限がついていたので、僕はヨルシカ・ファンのうちの子にシリアルナンバーを譲って、初日に彼女のスマホをBluetoothでアンプに接続して全曲聴いたものの、その後は配信バージョンのみ聴いてきた。
 さすがに一台しか再生できない仕様は批判が多かったようで、すぐに二台目以降も再生可能に仕様変更されたようだけれど、WEBブラウザでの音楽再生には個人的に魅力を感じなかったので、僕はその後も配信バージョンしか聴いてこなかった。
 音楽は聴く人が聴きたい形で自由に聴くのが理想だ。この作品のように「こうやって聴け!」って強制されるのにはいささか抵抗もあった。コンピュータで飯を食っている人間としては、中途半端なIT技術に頼った再生環境の提供方法も疑問だったし……。
 CD、アナログ盤、配信、サブスクと、音楽の再生環境が多様化している現代、提供する側もリスナーが自由に好きな再生環境を選択できるようにしてくれると嬉しい。
 いずれにせよサブスク版だけで聴いていると、そのほとんどが過去に配信でリリース済みの楽曲だったので、ヨルシカの過去の作品と比べると、いかんせんアルバムとしての新鮮味が乏しかった。特殊なリリース形態のせいで、個々の楽曲よりもそのフォーマットに意識がいってしまって、どうにも語るのが難しい作品になっている。
 画集と連動したサーバーは三年で運用が終了するらしいので、その後はサブスクなりなんなりで全曲聴けるようになるんでしょう。願わくばその日が前倒しになって、一日も早くフルバージョンが手軽に聴けるようになって欲しい。
(Jan. 29, 2024)