2016年7月の音楽

Index

  1. The Getaway / Red Hot Chili Peppers
  2. Human Ceremony / Sunflower Bean
  3. BLOOD AND LOVE CIRCUS / The Birthday

The Getaway

Red Hot Chili Peppers / CD / 2016

GETAWAY

 ジャケットがおもしろ可愛くて、ついジャケ買いしてしまったレッド・ホット・チリ・ペッパーズの最新作。
 僕はイギー・ポップとか、レッチリとか、上半身裸になる男性ミュージシャンがなんとなく苦手で、これまでレッチリはまともに聴いてこなかった。
 いや、といいつつ旧譜は何枚か持っているのだけれど──そういや、前作の『I'm With You』も、薬用カプセルにハエが止まったまっしろいジャケットが気に入ってジャケ買いしたんだった──、結局、一、二度聴いておしまい、というパターンばかりだった。嫌いというわけではないんだけれど、なんとなく盛りあがりきれない。僕には関係のないバンドという印象が強かった。
 だから今回もジャケ買いはしたけれど、きっと聴かずにお蔵入りだろうと思っていた……のだけれど。意外や意外、これがとても気に入った。
 いや、このアルバムすげー、とかは思わないわけです。それどころか、どことなく熱量が足りない気さえする。この人たちが本当に全力を尽したなら、もっとすごいことになりそうな気がする。
 でもだからこそ、僕にはよかったのだと思う。この適度に力が抜けた感じがとても気持ちいい。音作り的には中庸で、とがった部分が足りない感じがするけれど、それでもそこに鳴っているのは徹頭徹尾ファンクなわけで。ダンサブルなファンク・ビートが適度のクールネスを保ったまま、だれることなく続いてゆく感じが、とても気持ちいい。
 まぁ、見開き紙ジャケのインナーやブックレットでペンキまみれになっているメンバーの写真を見ると、やっぱこの人たちとは趣味あわなさそう気がするなぁ……とか思ってしまうけれど、それでもこのアルバムはとてもいいと思う。
 いままで聴いてこなかったからこそ、いまさらこんなに気持ちよく聴けるのがとても新鮮。この夏のお気に入りの一枚。
(Jul 17, 2016)

Human Ceremony

Sunflower Bean / CD / 2016

Human Ceremony

 来月のサマソニで来日するブルックリン出身のスリー・ピース・バンド、サンフラワー・ビーン(ひまわりの種……ではなく実?)のデビュー・アルバム。
 このバンド、まずはルックスが目を引く。若いころのボブ・ディランを思わせるカーリー・ヘアの美青年に、モデル出身だというコケティッシュな美女。このふたりだけで、おっと思わせるに十分(ごめん、70年代風長髪ロッカーなドラマーの人)。
 では、肝心の音のほうは……というと、これがまたいい。
 透明感のあるギターのアルペジオをフィーチャーしたインディー・サウンドは、ウォーペイント、ヴェロニカ・フォールズ、ドーターなどの最近のバンドを思わせるもので、まさにここ数年の僕のつぼ。
 先に紹介した美男美女、ギターのニック・キヴレンとベースのジュリア・カミングのふたり(ドラマーはジェイコブ・フェイバー)がともにボーカルを取っていて──とはいえ比率はジュリアさんが8割という感じ──、まぁ、歌のほうはかなりあどけないというか、素人っぽくて、決して上手くはない。それでもこのサウンドには、そんなふたりの子供っぽいイノセントな歌声がマッチしている。
 ニック君のギター・プレーで印象的なのは、やはり澄んだ音色のアルペジオなのだけれど(そういう曲の感じはサンデーズっぽかったりもする。ボーカルはぜんぜん違うけど)、一方でディストーションのかかったコードをがんがん鳴らすような曲もあって、そのプレースタイルは意外と幅広い。この人はその優男ぶりに似合わず、けっこうギターが上手そうな気がする。
 なにはともあれ、このバンド、とても気に入りました。サマソニではどんなプレーを見せてくれるのか、いまから楽しみだ。
(Jul 17, 2016)

BLOOD AND LOVE CIRCUS

The Birthday / CD / 2015

BLOOD AND LOVE CIRCUS(初回限定盤)(DVD付)

 いまさらだけれど、去年の秋に出た The Birthday の最新アルバム。
 直前にベスト盤をリリースしておきながら、そのわずか一ヶ月後にリリースされた新譜だったので、ふつうそんなことするやついね~だろうよってことで、昨今の音楽ビジネス界における The Birthday というバンドの特異さを印象づけた作品でもあった。商売っ気があるんだかないんだか、よくわからない。
 でもまぁ、そんな話はどうでもよくて、作品そのものはあいかわらずのハイ・クオリティだ。というか、ここへきてロックンロール・バンドとしての純度がさらに上がった気さえする。
 The Birthday というバンドは非常にオーソドックスにロックをやっているバンドだと思う。だけれど、それでいてちっとも古っぽくない。そこがすごい。
 エレカシやスピッツ、奥田民生など、僕と同じ世代にはとても素晴らしいバンドやアーティストが数多くいるけれど、基本的に70年代以前のロックに親しんで音楽を始めた人たちだけに、スタイル的にはほとんどがロックの王道を踏襲していてオーソドックスだ。それゆえ、いまどきの洋楽と比べると、サウンド面での新鮮さが足りない。まぁ、みんなレディオヘッドよりも先輩なのだから、仕方のないところなのかもしれないけれど。
 でもThe Birthday は違う。僕と同世代のバンドでありながら──そして基本オーソドックスなことをやっているのもかかわらず──不思議とオルタナティヴな感触がある。ふだん僕が聴いている洋楽のなかに混ぜても違和感のない、現在進行形の響きがある。
 それはチバくんのベースとしているのが、パンクやパブ・ロックといった、オルタナティヴ(昔のいいかたをすればニューウェーブ)の前身となった音楽だからなのかもしれない。自身の愛する音楽に対する絶対的な信頼が──エイト・ビートとディストーション・サウンドに対する愛着が──揺るぎのない信念となってその音楽に「いま鳴らされるべき音」としてのリアリティを与えているような気がする。
 ほんと、ここではまったく迷いのない純度百パーセントのロックンロールが鳴っている。バラードなしの全11曲。鍵盤はゼロ。ホーンもストリングスもゼロ。聴こえるのはギターとベースとドラムだけ。あとはチバくんのだみ声だけ(いや、たまにメンバーのコーラスも)。それだけで文句なしにカッコいい。信念をもっていま自分たちが最高だと思う音楽をやっていることが音の端々から伝わってくる。
 そういう姿勢のバンドはほかにもあるかもしれないけれど、The Birthdayの強みは、そこにチバユウスケという人のまぎれもないオリジナリティをもった言語感覚が加わること。ぶれのない強靭なギター・サウンドを背景に描きだされるハードボイルドかつユーモラスなその歌詞の世界には、決して誰の真似でもない──そしておそらくほかの誰にも真似のできないものがある。
 そんな唯一無二の世界観をもった歌が疾走感のあるギター・サウンドにのって、アルバムまる一枚分、とどまることなく鳴り響くのだから、これが最高でなくてなんだろう?
 The Birthday はいまの日本で最強のロック・バンドではないかと思います。
(Jul 30, 2016)