2013年2月の音楽

Index

  1. Love This Giant / David Byrne & St. Vincent
  2. Born To Sing: No Plan B / Van Morrison
  3. The Devil You Know / Rickie Lee Jones

Love This Giant

David Byrne & St. Vincent / 2012 / CD

Love This Giant

 去年の来日公演以来、僕にとってもっとも大事な歌姫のひとりとなったセイント・ヴィンセントと、トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンとの異色のコラボレーション・アルバム。
 ……とはいっても、このアルバム、サウンド・コンセプトで主導権を握っていたのは、やはり大御所のデヴィッド・バーンだと思われる。ボーカルは6:4でバーンのほうが多い印象だし、なにより、セイント・ヴィンセントのあの素晴らしきギターがうしろに引っ込んでしまっている。で、音作りの中心にあるのは金管楽器。
 とにかく、このアルバムを印象づけているのはホーンだ。それもソウルやR&B的なものではなくて、普通のロックならばギターやキーボードを使って鳴らすバッキングのフレーズをすべてホーンで鳴らしてみました、みたいな感じ。全編にわたってドラムとベースのリズム隊の上にホーンのリフがかぶさってくる。ギターはところどころで味つけ程度に入ってくるだけ。なにはなくとも、とにかくホーン。ホーン、ホーン、ホーン。
 ただ、ホーンが目立っているとはいっても、ジャズのそれのように中心にいるわけではなくて、あくまでバッキングの主役という位置づけ。それゆえ、ギター・オリエンテッドな通常のロックに比べると、若干、音の鋭さに欠ける印象がある。ギターが中心となった場合の切り裂くようなエッジーさはなくて、かわりにホーンが鳴らす厚みのあるリズムで引っぱってゆく感じ。
 これってある意味、白人による管楽器の新解釈?って思うようなアルバムだ(僕が音楽をよく知らないからかもしれないけれど)。でもまあ、個性的でおもしろい作品なのはたしか。少なくても僕は、とても楽しく聴かせてもらった。
(Feb 02, 2013)

Born to Sing: No Plan B

Van Morrison / 2012 / CD

Born to Sing: No Plan B

 ヴァン・モリソン、じつに4年ぶりとなるスタジオ・アルバム。
 90年に僕がファンになって以来──それどころか、おそらくソロ・デビュー以来?──、ヴァン・モリソンの新作が、こんなに長い間リリースされなかったのは初めてだ。
 その間にもライブ活動はそれなりに行っているようだし、その一環として、名盤『Astral Week』の再現ライブ・アルバムをリリースしたりはしたけれど、スタジオ盤としては、じつに4年ぶりになる。これまでにない長いインターバルに、ヴァン先生ももう若くないことだし、もしや体調でも悪いのかと心配してしまった。
 でもまぁ、いまや若手のアーティストだって、2年や3年のスパンはあたりまえだし、ストーンズとか新作が出ること自体が事件って感じなのを考えれば、還暦を超えてなお1~2年のスパンでコンスタンスにレコードを出しつづけほうが異常なのかもしれない。
 なんにしろ、とてもひさしぶりのヴァン・モリソンの新譜。それも「歌うために生まれてきたんだぜ、ほかの人生なんてあり得ない」(意訳)って、気合いの入ったタイトルゆえに、どんな力作を投入してくれるのかと思っていれば、だ。
 いやー、これがまったく、なーんにも変わっていない。これのどこが新譜だと思ってしまうくらい、オーソドックスな出来。白人ならではのブルースとソウルとR&Bを、いつものあの声で、あたりまえのように聴かせてくれている。なぜこの曲をこのタイミングで?って思ってしまうようなセルフ・カバーもあるし、なにげに7分を超える激渋のブルース・ナンバーも数曲ある。これ、ファンじゃない人にとっては、ふうん、で終わってしまうような、地味なアルバムのような気もする。
 でも、もちろんファンにとってはそんなことはないわけで。この人の歌声に、その音楽性に魅せられた人間にとっては、もうこれで十分。地味ながらも良質なその音楽は、派手さがないゆえに決して聴き飽きない普遍性を持っている。
 つねに変わりつづけるレディオヘッドのようなバンドも大事だけれど、こういう軸足のずれないスタンダードなロックを、飽きることなくコンスタントに発表しつづけるアーティストのすごさも、もっと称えられてしかるべきでしょう。そういう両方があるからこそ、ロックはおもしろいんだと思う。
(Feb 16, 2013)

The Devil You Know

Rickie Lee Jones / 2012 / CD

Devil You Know

 リッキー・リー・ジョーンズの新作は、またもやカバー・アルバムだった。
 オフィシャル・サイトで先行して『悪魔を憐れむ歌』が公開されていたので、アルバム・タイトルにも「悪魔」とあることだし、この曲も収録されているのかな……くらいには思っていたけれど、まさか全曲カバーとは思わなかった。はて、これが何枚目のカバー・アルバムだろう。カバー大好きだな、リッキー・リー姉さん。
 それにしても今回の作品は、これまでのカバー・アルバムの中でも、極めつけにメジャー感が高い。なんたってセレクトされている曲が、ストーンズとロッド・スチュアートが2曲ずつ、ヴァン・モリソン、ニール・ヤング、そしてザ・バンドの『ザ・ウェイト』とくる。僕の知らないナンバーはベン・ハーパーとドノヴァンの2曲のみ。
 このうち、ベン・ハーパーのナンバーについては、作者本人がいまだ公式音源としてはリリースしていないようなので、リッキー・リー自身の曲ではないものの、このアルバム唯一の新曲と考えてもいいのかもしれない。
 音響的には、ほとんどがギターかピアノの弾き語りで、そこにひとつふたつ楽器を加えて、軽くお化粧をしました、くらいの感じ。ほぼ全曲ドラムレスで、なおかつ原曲よりスローにリアレンジされているので、全体的に極めて静かな印象の作品に仕上がっている。
 ただ、静かとはいっても、おとなしくてつまらない、なんてことは決してない。どの曲にもぴんと張りつめた空気が漂っていて、非常に雰囲気がある。これだけ少ない音数で、これだけの空気を醸し出せるってあたり、やはりこの人はタダモノではない。
 というか、お年を召した分、その表現力はなおさら凄みを増している気さえする。こんな女性、そうそういない。
(Feb 20, 2013)