2012年5月の音楽

Index

  1. 大地のシンフォニー/約束 / エレファントカシマシ
  2. Wrecking Ball / Bruce Springsteen

大地のシンフォニー/約束

エレファントカシマシ / CD / 2012

大地のシンフォニー/約束(初回限定盤)

 『大地のシンフォニー』というタイトルを聞いた瞬間に、あ、こりゃおそらく好きになれないなと、聴く前から引いてしまっていて――うちの娘(中二)からも「カッコつけた感じ」と一刀両断されていた――、いざ初めてラジオかなんかで聴いたときにも、やはりこういう路線か~、こりゃ関係ないなと思ってしまったんだったが。
 いざCDを入手して、じっくりと聴いてみたら、これが思ったほど悪くなかった。少なくてもその音作りの方向性には好感が持てた。
 楽曲自体はユニバーサル移籍後の大衆路線そのままだけれど、このシングルではそれをフォー・ピース・バンドとしての自然体で鳴らしている。蔦谷くんや亀田師匠の助けを借りて、ストリングスをフィーチャーしたりすれば、もっと感動的でドラマチックな曲になるだろうところを、あえてそうせず、四人だけで鳴らしてみせる。それも、けっこうクラシックっぽいテイストのあるバンド・アレンジで。
 いまのエレカシは四人だけでもこういう曲がこんな風に堂々と鳴らせるんだぜって。そのことが僕をけっこう感動させた。2曲とも歌詞という点ではいまひとつ心に引っかかり切らないものがあるんだけれど、それでもトータルでは、これはこれでありだと思った。
(May 20, 2012)

Wrecking Ball

Bruce Springsteen / CD 2012

Wrecking Ball

 ブルース・スプリングスティーンの3年ぶりの新作。
 前作もダニー・フィデリーシへの追悼アルバム的な位置づけだったけれど、今回も不幸なことにクラレンス・クレモンスへの追悼の言葉が捧げられている。つづけて大事なバンド仲間を失う悲しみは想像するに余りある。
 なにはともあれ、スプリングスティーンの作品でクラレンス・クレモンスのサックスが聴けるのも、おそらくこれが最後。このアルバムの目玉、『Land of Hope And Dreams』で聴けるビッグマンのサックスはスタジオで録音されたものではなく、ライブ音源から取り出したものとのことだけれど、それでもこうやって素晴らしい曲とともにボスとビッグマンの競演が聴けるんだから、それだけでもう感無量というもの。
 このアルバムでは、その『Land of Hope And Dreams』のほかにも、表題作の『Wrecking Ball』や『American Land』など、すでにボスのライブでは定番と化しているという名曲がスタジオ・レコーディング音源となって正式に収録されている(後者はデラックス・エディションのボーナス・トラックだけれど)。個人的にはそれらの曲がやっぱりいちばん好きだった。
 あと、意外だったのは、シーガー・セッションで聴かせたトラディショナルな音作りへのアプローチが、このアルバムではE・ストリート・バンドの演奏に自然な形で吸収されていること。ボスとトラッドってイメージ的にいまひとつ結びつかないので、シーガー・セッションは一回限りの企画ものだと思い込んでいたけれど、このアルバムを聴くとそうではないことがわかる。で、そうした生音志向が思いのほか、いいアクセントになっている。
 要するに、いまはなき盟友へ捧げた、この十年の活動の集大成のようなアルバムなのだろう。とてもいい作品だと思う。
(May 20, 2012)