2011年4月の音楽

Index

  1. 絶対絶命 / RADWIMPS
  2. My Beautiful Dark Twisted Fantasy / Kanye West

絶対絶命

RADWIMPS / 2011 / CD

絶体絶命(初回生産限定仕様)

 ラッドウィンプス、待望の6枚目のアルバム。
 このアルバムに関してはリリース前から、いつにもまして期待値が高かった。
 なんたって先行シングルの 『DADA』 と 『狭心症』 がものすごくアグレッシブなナンバーだったし、そこへきてタイトルが 『絶対絶命』 だってんだから。で、先行シングルのうち、もっとも陽性の 『マニフェスト』 は未収録。さらにはラストナンバーのタイトルは 『救世主』 とくる。こりゃどんだけ真っ向勝負を挑んでくるんだと──きっとラッドウィンプス史上、もっともシリアスな作品に仕上がっているに違いないと──、勝手に決めつけて盛りあがってしまっていた。
 でも、いざ手元に届けられたこの作品は、僕が思っていたような極端なものではなかった。
 いや、シリアスな部分は多々あるけれど──というか 『狭心症』 一曲でも世の中の平均値を大きく上回ってしまう気がするけれど──、アルバム全体としてみた印象では、これまでの彼らの作風からそれほど大きく逸脱するようなものではなかった。
 音楽的な面でいえば、全編ラップのシニカルなヒップホップ・ナンバー 『G行為』 に意表をつかれたくらいで(この曲はスチャダラパーみたいだ)、あとはアッパーなのも、スローなのも、これまで通りのラッドウィンプス(だと僕は思った)。なもんで、少なからず拍子抜けしてしまった感があった。
 まあ、変わってないといっても、それは全体的な印象の話であって、ディテールに目を向ければ、確実に変化はある。『おかずのごはん』 でピークを極めた野田くんの恋愛至上主義は前作を経てさらに影を潜めているし──といいつつ、ラスト・ナンバーの 『救世主』 はそうした路線の完成形とでもいうべき曲だったりするんだけれど──、ジャケットが全曲の歌詞カードを重ねあわせたものであることからして、言葉に対する並々ならぬ思い入れの深さを感じさせる。それでいてサウンド・デザインはおそらくバンド史上もっともラウドだ。要するに言葉の面でも、サウンドの面でもきっちりと成長の跡がうかがえる。一個のロック・アルバムとしてみれば、これはどう考えたって平均値以上の出来。
 なもんで、これがほかのバンドだったらば確実に「あぁ、素晴らしい作品だ」って絶賛して済むところなのに。なまじ思い入れが深すぎるために──そして過去の作品があまりに好きすぎるために──、なんだか素直に称賛しきれないという。ちょっと申し訳ない。
 まあ、とはいえ、この一ヶ月間、僕はなんだかんだいいつつも、このアルバムを飽きずに聴きつづけているわけで。今日だって仕事をしている僕の頭の中では 『億万笑者』 や 『救世主』 が絶えず鳴り響いていた。震災の傷あとが癒えないいまだからこそ、ラスト・ナンバーでの「僕を救ってくれないか」というフレーズは、なおさら強く心を打つ。
 そう、そしてなによりこのアルバムには、 『狭心症』 という史上最強の一曲が収められている。この一曲だけでも、アルバム一枚分の価値があると僕は思う。
(Apr 17, 2011)

My Beautiful Dark Twisted Fantasy

Kanye West / CD+DVD / 2010

My Beautiful Dark Twisted Fantasy: +DVD

 去年、あまりにあらゆるメディアで絶賛されていたので、聴かずにはいられなかったカニエ・ウエストの5枚目のアルバム。
 正直いって、僕は最初に聴いたときには、このアルバムのどこかそんなにすごいのか、さっぱりわからなかった。そりゃラップにしてはキャッチーだけれども。生音志向のロック・ファンの僕からすると、そのシンセ主体のカラフルな音作りは、やや安直に思えた。Rolling Stone、NME、Pitchfork といった、普段は意見が分かれる辛口の海外音楽メディアが、珍しく揃いもそろって絶賛するそのわけがよくわからなかった。
 でも、何度か繰り返して聴くうちに、おや?っと思うようになる。なんだかだんだん気持ちよくなってきたからだ。で、そのうち聴き終わるや否や、必ずつづけてもう一度聴き返さないではいられなくなってしまった。そうこうするうちに、気がつけば、なにやらすごいヘビーローテーションに……。なんだ、はまってんじゃん、俺。
 みもふたもない話だけれど、このアルバムのよさは、ラップとはいいながら、どの曲にも必ず耳触りのいいキャッチーな歌もののフレーズがたっぷりとある点。昔ながらの美メロだけだとすぐに飽きてしまいそうなところが、基本的にとっつきにくいラップと絡むことで、絶妙のバランスになっている。
 まあ、歌詞カードなしで聴いていてもわかるくらい、「ファッキン」やら「マザーファッカー」やらの四文字ワードが連発されるので、歌詞のよしあしは保証のかぎりではないけれど(というかそうとう下世話そうな気がする)、それでも、そんなだからこそ言葉の響きに勢いがあって、歌詞がわからないで聴いていても、十分に気持ちいい。
 最初はやや安直かと思った音作りも、いざ慣れてみると、とてもわかりやすくていいと思うようになった。1曲目の 『Dark Fantasy』 のドラマチックなコーラスワーク、2曲目 『Gorgeous』 のバックで延々と鳴りつづける初心者でも弾けそうな単音ギターリフ、3曲目『Power』 でのアフリカン・ビートとヒップホップの見事な融合、などなど。これ以降もそれぞれに個性豊かな音作りと多彩なリズム、キャッチーなフレーズ満載の楽曲がずらりと並ぶ。おかげで、気がつけば最後まで、まったく飽きることなく聴き切れてしまう。
 ほんと楽曲のよさは特筆もので、ほとんどすべての曲がシングル・カット可能なレベル。あまりに捨て駒なしのアルバムなため、僕はこのアルバムの収録曲のタイトルを、ほぼ全曲覚えてしまった。少なくても僕個人にかぎって言えば、全曲のタイトルをおぼえているヒップホップのアルバムなんて、おそらくこれが初めてだ。
 大好きなロックのアルバムでさえ、曲名となるとうろ覚えの僕に──パブリック・エナミーやビースティー・ボーイズとなると、全タイトル持っているくせして、ほとんど曲名を知らない僕に──、このアルバムは、そのほぼ全タイトルを覚えさせたのだから、そりゃもう画期的という以外のなにものでもないでしょう。
 ということで、いまとなると僕もこのアルバムが10年に1枚の傑作という意見に異議なし。実際に、僕が去年の終盤から今年の前半にかけて、もっともたくさん聴いたアルバムのうちのひとつだった。
(Apr 17, 2011)