2009年8月の音楽

Index

  1. Christmas On Mars / The Flaming Lips
  2. Wilco (The Album) / Wilco
  3. 三文ゴシップ / 椎名林檎
  4. Secret, Profane & Sugarcane / Elvis Costello

Christmas On Mars

The Flaming Lips / 2008 / DVD+CD [国内盤]

クリスマス・オン・マーズ

 フレーミング・リップスの中心人物、ウェイン・コインが長年温めていたという企画を自ら監督して撮った超B級SF映画 『クリスマス・オン・マーズ』 とそのサントラのセット。
 とりあえずこれがこのバンドの最新作のようなので、サマソニの前に観ておくことにした。で、いちおうメインは映画なので、映画として感想を書くつもりでいたのだけれど、いざ観てみれば、これが普通の映画と呼ぶにはあまりに珍妙で、フレーミング・リップスのファン以外が喜んで観るとも思えない内容だったので、音楽作品として紹介しておくことに変更。もともとリリースはワーナーミュージックで、商品上の扱いは音楽ソフトのようだし、アマゾンでも音楽コーナーで売っているので。
 ただ、これを音楽ソフトだと思って買うと、かなり騙された気がすると思う。だって基本的にメインは映画で、ついてくるCDはそのサントラだし、しかもそれがまた、これぞまさしく映画のサントラという抽象的なインスト・ナンバー・オンリーなのだから。普通のロック・サウンドを期待していると、かなりの確立でがっかりすること請けあい。少なくても僕は、そうとう肩透かしをくった。映画ならば字幕がないとと思って、珍しく国内盤を買ったのに、まったくなんだこりゃって感じで、ちょっとがっかりだった。
 まあ、そんな風に感じるのは僕がフレーミング・リップスというバンドをよく知らないからであって、このバンドのコアなファンにとっては、さもありなんな作品なのかもしれない。その辺はよくわからない。とりあえずウェイン・コイン自身がDVDに収録されているインタビューで語っている通り、『2001年宇宙の旅』 と 『オズの魔法使』 を低予算でリミックスしたみたいな作品だから、エド・ウッド系の、すごくコアなB級映画ファンにはそれなりに受けるかもしれない。でも、とりあえず睡眠不足のときには観ちゃいけないタイプの映画だった。失礼ながら途中でついうとうとと……。
(Aug 03, 2009)

Wilco (The Album)

Wilco / 2009 / CD

Wilco (The Album)

 この夏はアメリカのロックばかり聴いていた。サマソニに出演したソニック・ユースとフレーミング・リップス、新譜が好評だったダイナソーJrに、フランク・ブラックの夫婦ユニット=グランド・ダッチー、そしていっせいに乱れ咲いたかのようなブルックリン勢のグリズリー・ベアやダーティ・プロジェクターズ、その他もろもろ。長いことロックを聴きつづけているけれど、こんなにアメリカのロックばかり集中して聴いていた時期はおそらくないだろうってくらい、アメリカ一色の夏だった。
 このウィルコの最新作も、そんなマイ・ブームを盛りあげるのにひと役買った一枚。名前こそずいぶん前から知っていたけれど、これまでは聴こうと思ったことがなかったこのバンドをいまさら聴く気になったのは、ちょうどそんな風にアメリカン・ロックで盛りあがっているさなかにリリースされたのに加えて、ラクダのジャケットがとても気に入ったから。要するにジャケ買いした一枚だった。
 そしたらこれがいい。音作りはとても地味というか、オーソドックスのきわみという感じで、とんがったところや新しいところはまったくないのだけれど──どうりでいままで気にかけてなかったわけだと思った──、その分、初めて聴くバンドとは思えないくらい、親しみやすかった。親しみやすいというか、妙に懐かしいというか。
 なんだろう、この懐かしさは……と、しばし考えてみて、ああと納得。そう、これはビートルズだ。リード・ボーカルの人の声質がちょっとジョン・レノンに似ていることもあって、メロディのセンスにビートルズの香りを感じたのだった。とくにアルバム最後の3曲の流れが、『ヤア・ヤア・ヤア』 のころのビートルズを思わせる。すっかりオルタナ気分に浸っていた僕には、この感触はとても懐かしく、甘酸っぱかった。
(Aug 19, 2009)

三文ゴシップ

椎名林檎 / 2009 / CD

三文ゴシップ

 椎名林檎、個人名義では6年ぶりとなるニュー・アルバム!
 この作品に関しては、東京事変の存在なくしては語れないと思う。「いまの自分は東京事変というバンドのメンバーとして活動しているのだから、ソロ・アルバムを作るからには、バンドでできないことをしよう」──そう考えたんであろうことがあきらかな点で、彼女の過去の作品とは、確実に立ち位置が変わっている。
 簡単にいってしまえば、ギター・オリエンテッドなロックが皆無なところが、決定的にこれまでとはちがうのだった。僕はクラシックからグランジにまで振れる音楽性の広さが椎名林檎という人の持ち味のひとつだと思っているので──でもって、そのうちもっともロックよりな部分を好んでもいるので──、正直なところ、このアルバムにおけるギターの鳴っていなさ(=ロック色の薄さ)には、ほんのちょっとだけさびしい思いをした。
 で、なぜギターが鳴っていないかというと、それはやはり東京事変があるからだろうと。
 このアルバムのクレジットを観て、僕が一番意外に思ったのは、そこに亀田誠治の名前がないことだった。過去十年のキャリアで築き上げてきた人脈の広さを知らしめる多彩なゲスト・ミュージシャンやプロデューサーの中に、なぜ師匠とまで呼ぶ亀ちゃんの名前がないのか。これくらいバラエティ豊かな楽曲を並べたのだから、一曲くらい師匠と組んで普通にロックを鳴らしてみせてもよそうなものなのに、なぜそうしなかったんだろうと思った。
 でも、そのあとでふと気づく。亀ちゃんと組んでロックを鳴らすって、そりゃ要するに東京事変でやっていることじゃないかと。東京事変はいまだ現在進行形で存在しているのだから、どのようなサウンドであれ、ロック・バンドとして鳴らせる音ならば、東京事変で鳴らせばいい。ソロでやるからには、ソロでしかできないことをすべきでしょう──彼女にそういう思いがあったんだろうと、そう僕は邪推する。それはいかにも真面目な彼女らしい。
 でもって、おもしろいのは、その結果として出来上がったこれが、けっこうブラック・ミュージック寄りの作品であること。椎名林檎からギターを取り除くと、ポップスや歌謡曲へ向かうのではなく、黒っぽくなるというのは意外な発見だった。
 そういえば十周年記念祭で初めて 『余興』 を聴いたときには、いつになくソウルフルな歌だなと思ったものだし、 『玉葱のハッピーソング』 を歌うときにも「いずれこんな素敵な曲が書けたらと思います」みたいなことを言っていたのを聞いて、へえっと意外に思ったりはしたんだった。でもまさか、アルバムがここまでそっちよりになるとは思わなかった。
 そうかぁ、椎名林檎の音楽性の中には、こんなにも黒人の血が流れていたんだと──そんな新たな発見をたっぷり楽しんだ一枚だった。
(Aug 20, 2009)

Secret, Profane & Sugarcane

Elvis Costello / 2009 / CD

Secret Profane & Sugarcane (Dig)

 エルヴィス・コステロの最新作はT・ボーン・バーネットをプロデューサーに迎えたカントリー系のアルバム。
 僕はなぜだかカントリーが苦手で(理由はよくわからない)、コステロの過去の作品でも、カントリーのカバー・アルバムだった 『Almost Blue』 が、聴いた回数はおそらくもっとも少ない。なもんで、新作がカントリーだと聞いたときには、あららと思った。
 でも、いざ聴いてみると、これが意外とわるくない。なんたって今回はカバー集ではなく、ほぼすべてがコステロ先生の書き下ろし(再録2曲とカバー1曲を含む)。どうやら一口でカントリーといっても、楽曲が好きな人の作品ならば、ぜんぜん大丈夫らしい。
 考えてみれば、ストーンズがやっているカントリー系のオリジナル曲── 『Dead Flowers』 とか 『Loving Cup』 とか──は嫌いどころか大好きだったりするし、僕が苦手なのは純然たるカントリーの世界であって、好きなアーティストが自作曲でそっちの方面の音を鳴らすというのは、まったく大丈夫なんだなと、今回これを聴いて思った。
 それにこの作品の場合、プロデューサーはロバート・プラントにグラミー賞をもたらした、いまや時の人ともいうべきT・ボーン・バーネットだ。さすがにいまが旬の人だけあって音がいい。アコースティック・ギターやアコーディオン、バイオリンなどの生音が、どれも生き生きとしている。オーガニックな滋養があるというかなんというか。
 あと、よく聴いたらドラムがまったく入っていないのだけれど、うろんな僕などは、気にしないとそのことに気がつかないくらいなところもすごい。曲によっては、ドラム抜きでもしっかりとビート・ミュージックとなり得ていることに感心した。
(Aug 29, 2009)