2009年2月の音楽

Index

  1. Working On A Dream / Bruce Springsteen
  2. It's Not Me, It's Me / Lily Allen
  3. We'll Never Turn Back / Mavis Staples

Working On A Dream

Bruce Springsteen / 2009 / CD

Working on a Dream (Snys)

 前作 『Magic』 からわずか1年ちょっとでリリースされたブルース・スプリングスティーンの最新アルバム。
 スプリングスティーンのスタジオ盤もこれで第16作目。僕がこの人の作品を夢中で聴いていたのは第8作目の 『トンネル・オブ・ラヴ』 までだから、つまり単純にアルバムの数だけでみると、僕が好きだったのはキャリアの前半だけで、その後は20年以上にわたり、延々とつかず離れずの状態をつづけていることになる。いい加減ここいらあたりで聴くのをやめても後悔しない気がするけれど、やはりそこはそれ。十代の自分が、いかに多くの恩恵をこの人から受けてきたかを思うと、そう簡単には離れられない。それはサザンもしかり。きっと僕はなんだかんだいいつつ、一生この人たちの音楽を聞きつづけてゆくんだろう。
 ということで、これはボスの新譜。
 いつになくリリース・インターバルが短くなったのは、オバマ大統領誕生に対する祝賀気分のせいかと思っていたけれど、それよりも去年亡くなったEストリート・バンドのオルガン奏者、ダニー・フェデリシに対する追悼の意味のほうが大きいようだった。インナー・ジャケットにはフェデリシへの追悼の言葉が記されているし、参加ミュージシャンのクレジットにも彼の名前がある。いまは亡き旧友の最後の音を、きちんと作品として残しておきたいと思ったにちがいない。
 そんな作品にけちをつけるのは、野暮ってもの。あいかわらず音響的にはほとんど惹かれるところがないし、一曲一曲が映画でも観ているように鮮明なイメージを持っていた往年のような楽曲は少ないけれど――それでも一応、生後6ヶ月でおむつも取れないうちから銀行強盗を働いたという伝説のアウトローにまつわる西部劇ソングとか、スーパーマーケットの店員さんに片思いする男の歌とか、かつてのストーリーテラーぶりが垣間見える曲もある――、持ち前の生真面目さは十分に伝わってくるので、そういうところにはきちんと答えねばと思って、それなりに繰りかえし聴いている。
 いちばん気に入っているのは5曲目の 『What Love Can Do』。「この雨をやませたり、君の夜空を青く変えたりはできないけれど、愛にできることならば見せてあげよう」と歌うサビのフレーズがとても好きだ。
(Feb 27, 2009)

It's Not Me, It's You

Lily Allen / 2009 / CD

It's Not Me It's You

 ファーストの頃にテレビでフジロックでのパフォーマンスを観て、この子は関係ないかなと思ったにもかかわらず、あまりに安く売っていたせいもあって、ついついジャケット買いしてしまったUKのやんちゃな歌姫、リリー・アレンのセカンド・アルバム。
 この子の場合、どこぞでトップレスになっている姿をパパラッチされたり、夏フェスで泥酔してガードマンに運び出されたりと、その可愛げなルックスに似合わぬお騒がせっ子ぶりで話題になることが多いと思っていたら、このアルバムでも「ファック・ユー、ベリー・ベリー・マッチ」なんてあっけらかんと歌ってみせて、そのキャラの一端をのぞかせている。こんな歌を歌ってなお、全英チャート第一位だというんだから、なかなかすごい。
 個人的には、シンセの勝ったエレクトロな音作りはあまり好みではないけれど、その分、気負いを感じさせない自然体なボーカルが、思いのほか気持ちよかった。さらっとしていてあと腐れのない感じで、聴いているとなんとなく癖になる。あまり身を入れて聴き込もうという気にはならないけれど、どうにも軽い中毒性があるようで、ふと気がつくと結構な回数、聴き返していたりする。
 リリー・アレン、意外とあなどれない。ちゃんとファーストもフォローしておかないといけない気がしてきた。
(Feb 27, 2009)

We'll Never Turn Back

Mavis Staples / 2007 / CD

We'll Never Turn Back

 これもジャケ買いしたアルバムで、これまで僕にとってはザ・バンドの 『ラスト・ワルツ』 くらいでしか接点がなかったステイプル・シンガーズの一員、メイヴィス・ステイプルスの07年の作品。かれこれ2年前のアルバムだけれど、まるでジャズの名盤のようなジャケットが気に入って、ついつい買ってしまった。
 ひとつ前のリリー・アレンのアルバムとは正反対で、こちらはまず音ありき。僕は手に取るまで知らなかったのだけれど、このアルバムについては、プロデューサーがライ・クーダーである、というのが非常に大きかった。この名ギタリストを中心にして、ジム・ケルトナー、マイク・エリゾンド(ドクター・ドレと組んだりしているベーシストとのこと)という三点セットのミニマムなバンド編成によって鳴らされる、枯れまくりのギター・サウンドがもう最高~。黒人音楽を白人のバンド・サウンドにより実現している点で、ソロモン・バークの02年の名作 『Don't Give Up On Me』 と似たようなコンセプトの作品だと思う。ロック・ファンとしてはこういうのは大歓迎。
 ただし、ディランやコステロなど、豪華なロック・アーティスト陣による楽曲提供が話題だったあちらと比べると、こちらは楽曲はほとんどがトラディショナル・ソングばかりで、やや地味な印象かなと。なかに一曲だけ「お、これ知ってる」という曲があって、なんだろうと思ったらば、スプリングスティーンがシーガー・セッションでやっている 『Eyes On The Prize』 という曲だった。
 ちなみにメイヴィス・ステイプルという人は、ローリング・ストーン誌が選ぶ「100グレイテスト・シンガーズ・オブ・オール・タイム」のひとりに選ばれている。ライ・クーダーさんも同じ企画のギタリスト編に名を連ねている。つまりこれはローリング・ストーン誌お墨つきの名ボーカリストと名ギタリストの共演作なわけだ。それだけでもう聴いてみたくなりません?
(Feb 28, 2009)