2008年3月の音楽

Index

  1. Hold On Now, Youngster... / Los Campesinos!
  2. 桑田さんのお仕事 07/08 ~魅惑のAVマリアージュ~ / 桑田佳祐

Hold on Now, Youngster...

Los Campesinos! / 2008 / CD

Hold on Now, Youngster

 ウェールズ出身の男女七人混合バンド、ロス・キャンペシーノス!のデビュー・アルバム。
 いやはや、このバンド、僕はとても好きです。キャッチーでスピード感のある楽曲。ギターを中心にバイオリンやヴィブラフォンで飾りたてた、にぎやかで適度にとっ散らかった音作り。浮かれ騒ぐような男女混声のコーラスワーク。それらの組み合わせがとにかく絶品。聴いていると、楽しくて思わず頬が緩んでしまう。
 雰囲気的には、女性が加わって舞い上がってしまったストロークスというか、女の子の力を借りてアル中から立ち直ったクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーというか、ピクシーズ・ミーツ・ストロベリー・スウィッチブレイドというか……。かなり見当違いで、いい加減なイメージかもしれないけれど、とにかくそんな感じで、終始アッパーでガチャガチャとしていて楽しげなところがいい。少なくても90年代以降の(軟弱系の?)オルタナティヴ・ロックが好きな人ならば、絶対に好きにならずにいられないバンドだと思う。個人的には早くも今年のベスト10入り間違いなしという一枚。
 お試し価格の先行ミニ・アルバム、 『Sticking Fingers into Sockets』 もおすすめです。
(Mar 16, 2008)

桑田さんのお仕事 07/08 ~魅惑のAVマリアージュ~

桑田佳祐 / 2008 / DVD+CD

桑田さんのお仕事 07/08 ~魅惑のAVマリアージュ~(初回限定盤)

 すげえなと──サザンにしろ、ソロしろ、最近は桑田佳祐という人のライブを観るたびに、つねにそう思う。
 年をとって、しんみりと歌を聴かせるというんだったらば、そんな人はいくらでもいる。いくら歌が上手くたって、そういう人には特に感心もしない。
 ところが桑田の場合、そうじゃない。泣かせるバラードを歌いつつも、過半数の曲で、しっかりとアッパーに盛りあげている。しかも、そのアッパーな曲というのが、最盛期のヒット曲だけじゃないところがすごい。
 たとえば、ストーンズのライブならば、クライマックスは 『サティスファクション』 や 『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』 と相場が決まっている。佐野元春だって、おそらく 『サムデイ』 や 『約束の橋』 だろう。彼らがその曲をやらなかったらば、多くのオーディエンスはたぶん不満に思う。
 でも、桑田佳祐は違う。彼が 『勝手にシンドバッド』 をやらなくても、 『いとしのエリー』 をやらなくても、 『TSUNAMI』 をやらなくても、大半のファンは満足する。なぜって、それに変わる名曲がいくらでもあるんだから。
 たとえば、このライブDVDのクライマックスを飾るのは、最新シングルの 『ダーリン』 だったり、6年前のアルバムのタイトル・ナンバー 『ROCK AND ROLL HERO』 だったりする。それでも観ていて、ものたりないなんてことはまったくない。まあ、いまとなるとソロ・ライブの最後は 『祭りのあと』 がお約束になっているから、それをやらないで終ったらば、え~ってことになるんだろうけれど、その曲にしたって、デビューからかれこれ15年以上過ぎた94年リリースの作品だ。これだけ長いスパンにわたって、これだけコンスタントにキャッチーな曲を書き続けているアーティストなんて、ほかにいないんじゃないだろうか。なによりソロとバンドでまったくメニューを変えて、これだけ濃い内容のステージができるというのは驚異的だ。
 まあ、このごろのシングルは、どれもこれもあまりに見事に桑田節なものだから、まるで昔の曲を焼きなおしているみたいで、ほとんど新鮮さが感じられなかったりするけれど、それは僕みたいな外側にいる浮気者のファンだからそう思うのであって、コアなファンの人にとっては、その紋切り型なところがまた、たまらない魅力なのかもしれないし。そもそも、いまだにこれだけの曲がぽーんと書けるというのは、それ自体である意味、驚異的なことで、決して批判できるようなことではないとも思う。
 いやほんと、僕はいままで桑田のソロにはあまり関心を持てずにいたのだけれど、今回このライブの非常に充実した内容を観て、認識をあらたにした。レコーディングされた作品は、あまりに音響がありきたりに過ぎる嫌いがあるけれど、ライブだと、どの曲も映えること、映えること。いやあ、カッコいい。あまり趣味がいいとも(似合うとも)思えないギンギラギンのパンツをはいていたり、なにかと下ネタギャグをかましたがったり、若いころから変わらずオヤジ臭いところがあるのはなんだけれど、それでも桑田佳祐という人はやはりすごかった。
 ということで、去年一年にリリースしたシングル3枚を、カップリング曲とともにすべて収録したCDと、大晦日の年越しライブの模様を収録したDVDをセットにした、僕のような彼のシングルをフォローしていない遠巻きなファンにとっては、とてもお得なこの作品、僕はとても楽しませてもらいました。今年はサザンのデビュー30周年なので、なにかイベントがあるみたいだし、チケットが取れるようならば、ひさしぶりにサザンも生で観てみたくなった。それとは別に桑田のソロも一度は生で観てみたいなと、今回のこの作品を観て、そう思うようになった。
 あ、ちなみにこの作品のブックレットに収録されているインタビューの中で(インタビュアーは鹿野淳)、桑田はこの作品をリリースすることになった理由として、去年一年、とても充実した活動ができたので、それをシングルのカップリングまで含めて、ひとりでも多くの人に届けたいからと語っていて、そこで「エレファントカシマシのファンにも聴いてもらいたいし」なんて言っている。桑田のシングルを無視しているエレカシ・ファンって……、つまりこの作品はまさに僕のようなリスナーをターゲットにしていたわけだ(見事に届いている)。なにはともあれ、桑田佳祐ほどの人がエレカシを意識してくれているのがわかって、ちょっと嬉しかった。
(Mar 23, 2008)